ある時計台の運命

丑三とき

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王都

アプローチ

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————————sideAKIO ————————


「どどどどどどうしたのどうしたの最近のアキオ君は!?
ついに!?ついに!!なの!?」

イガさんの部屋に遊びに行ったら、騒がしいメテさんが出迎えてくれた。

「びっ……くりした。
メテさん。こんにちは。」

「こんにちはじゃありません!!!」

「え……」

「もう、教えてくれてもよかったじゃん俺らの仲なんだからさ~。
で!?いつ?いつくっついたの?」

「なにが、ですか?」

うきうきと目を輝かせながら、早く早くと僕を部屋の中へ招く。
背後からイガさんが「もう、騒がないでくださいメテ。近所迷惑です」と注意する。


メテさんの言葉の意味がわからずソファに掛けてもなお首を傾げたままでいると、
「だから、司令官と思いが通じたんじゃないの?」
とおっしゃった。



なぜそんな事に………?

本当にそうなら、僕は絶対に嬉々として2人に報告しているだろう。
正直に「まだです」と伝えると、「へっ!?」っと素っ頓狂な声を出して驚くメテさん。

「……全然、全然まだです」

言っていて悲しくなるけれど、本当のことだから仕方ない。

「じゃ、じゃあなんで最近のアキオ君は司令官をところ構わずナデナデしたりヨシヨシしたりしちゃってんの!?!?」

なでなでとよしよしって別物なのかな。
今度詳しく聞こう。

「それは、オグルィ先生に相談したからです」

「……何をどう相談したらそんなことになっちゃう訳?」

メテさんは期待外れと言わんばかりの表情で問うてくる。

「ジルさんは何をしたら喜ぶと思いますかって相談したら、自分がされて嬉しかったことは相手も喜ぶはずって教えてくれたんです」


「あぁ……………へえ」


「盲点でした。難しく考えすぎてたんです。ジルさんにしてあげたことってマッサージとプレゼントくらいしかなかったんですが、それも今までのお礼としてだったし……
何気ないことでも、本当に些細なことでも、もしかしたらジルさんが喜んでくれるかもって思うとすごく嬉しいんです。今できることはこれくらいだから」

「……………そっか。はぁ……なるほどね」

「メテさん?」

「なんというか……ごめん。俺が悪かったよ。俺の心が荒すさんでた。
アキオくんがここまで純粋だなんて。いや、分かってたはずなんだけどね」

「……?」

メテさんが何かぶつぶつ呟くのをイガさんが呆れた表情で見ながら調理場へ向かう。
僕はまた何か変なことをしてしまったのだろうか。
今までの行動を思い起こして間違い探しをしていると、メテさんがパッと顔を上げて、僕の両肩に手を添えた。

「アキオ君。君はそのままでいてね」

「は、はい……ありがとう、ございます?」

何が起きたのかよくわからないけど、そのままで、ってことはこのままで良いのだろう。
自信を持つのは大切なことだとメテさんも言っていた。自分のしたことが間違っていなかったとしたら、それは自信につながる。


「ところでアキオ君」

「はい」


「俺にはナデナデしてくれないの?」

「……え?」

メテさんが意外なことを言うから驚いてしまった。

メテさんに、なでなで?ん~~~~~…………

「ちょっとメテ。アキオ君を困らせてはいけませんよ?」

調理場からイガさんが顔をひょいと覗かせて、助け舟を出してくれる。

「だってイガさん。アキオ君のナデナデですよ?
イガさんだってしてもらいたいでしょ?」

「それは……まぁ少し」


「ダメです」

「「えっ?」」

驚いた顔をして一斉にこちらを見るイガさんとメテさん。

「ごめんなさい」


「そう……それは残念だ。因みにダメな理由は?」

メテさんが不思議そうに、そして少し悲しそうに聞く。
そんな顔をしたってダメなのだ。


「だって……これは僕なりの、ジルさんへの精一杯の” アプローチ ”だから。メテさんにやってしまうと、メテさんもイガさんも、僕も、3人ともその……困ってしまうからダメです」

僕の答えに納得したのかしてないのか、微妙な苦笑いを浮かべる2人。
こ、今度は何の苦笑い?

「アキオ君って……いい男だよね」

「ええ。司令官も惚れるに違いありません」

「ほ、本当ですか?」

「本当だよ!アキオ君の素直でかっこいいところをもっと見せたら、司令官もアキオ君の良さに気づくと思うよ!その調子その調子!」

「良かった……ありがとうございますメテさん、イガさん!この調子で頑張ります」

「うんうん、むしろもっと積極的に行っていいと思うよ~」

「そうですか?」

「そうそう。俺がイガさんにアタックした時はもっと熱烈だったんだから!なのに気付かないから、きっと司令官も同じくらいかそれ以上に鈍感なんだね」

「鈍感……」

「鈍感な人にはアタックあるのみ!ファイト!アキオ君!」

「はい!」


「もう、全く……どうなっても知りませんよ……」

お茶を運びながらやれやれと呟くイガさんをよそに、メテさんは僕にパワーを送ってくれている。

3人でお茶を啜りながら恋バナに花を咲かせるこの時間は、旅をしている時みたいでとても楽しい。
いつかみんなでピクニックやお花見に行って、もっと楽しい時間を過ごすのが夢だ。その時が来るまでに、僕は自分の気持ちにけじめをつけなければいけない。
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