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王都
秘めごと
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ジルさんの手を満喫しているうちに日付が変わってしまった。
寝る時間を削ってしまったことに反省しつつ、抑えきれなかったあくびを漏らす。
「アキオ、疲れただろう。そろそろ休もう」
「はい。すみません夜中に。明日にすれば良かったんですが…早く渡したいと思っちゃって、つい」
「謝る必要は無い。アキオのお陰で疲れが取れた」
「なら、良かったです」
マッサージを終えると自分の手もしっとり滑らかになっていて、なんだか気分が良い。
背中に手を添えられながらベッドまでたどり着くと、自分のカバンが開いたままになっていた。
そういえば、荷物を整理している途中だったんだ。
部屋は隣を準備してくれるらしいから、荷解きはそれからにしよう。
そう思って脇に寄せようとカバンを持ち上げると、練り油によってツルツルになった手からスルッと滑り落ち、勢いよく荷物が床にぶちまけられた。
幸いにもおばちゃんのところで買った袋は別にしていたから、貰った瓶は割れていない。
その代わり、一生懸命隠し通して今までバレることなく守り抜いてきたジルさんの似顔絵がひらりと舞い、よりによって2枚とも本人の足元に着地した。
「あっ…」
「大丈夫かアキオ。ん…これは…」
そしてジルさんにより拾い上げられ、隅々まで見られてしまった。
「ごめんなさい!勝手に…」
「アキオが描いたのか?」
何も言えずもじもじしていると、あたりに散らばった他の紙、つまり声が出なかった時の筆談もあっという間に全て拾い上げられてしまう。
「これも…まだ持っていたのか」
うわああ恥ずかしい。
もう立ち直れないかもしれない。
でも僕は知っている。
こういう時は、包み隠さず開き直った方が楽になれる事を。
悩んだ末、全て馬鹿正直に話すことにした。
「それは……王都に着いたら、もうジルさんとお別れかもしれないって思っていたから。寂しくなったらこれを見て元気を出そうかな、って、思って…それで…ごめんなさい」
まあ、だからって隠し描き?とかそういうのしていい理由にはならないか。
苦し紛れの言い訳を、ジルさんはいつもの寛大な心で受け止める。…たぶん。そうだと信じたい。
「アキオ…」
いや、さすがに引かれた、かな…?
王都について一人になったとしても、きっと何とかなるって頭では思っていたけど、何か御守りが欲しかったんだ。
つまり魔が差したんだ。
「これからも一緒に居るのだから、その必要は無いな。これは私が貰っても良いか?」
「えっ…?」
やっぱり没収…?
捨てられちゃうのかな。
それはちょっと悲しいかも。
でもまあ、そりゃ気分良く無いよね。
勝手に自分の姿描かれるなんて、ストーカーみたいで気持ち悪いもの。
「私は明日から仕事に戻る。業務に忙殺される事もあるだろう。その時はこれを見て癒やされたい」
「へ?いや…でも」
「大切にする。駄目か?」
うっ、可愛い…。
これが惚れた弱みと言うやつか。
描いたものが本人の手に渡るって思ったより恥ずかしいんだぞ、と視線で訴える。でも捨てられてしまう訳では無いと分かって安心した。
「そんなもので良ければ………どうぞ」
「ありがとう」
拭いきれない羞恥心をほんのり心に秘めたまま、当たり前のように一緒にベッドに入る。
宿のベッドも大きくてふかふかだったけど、やっぱりお城のは別格だ。
そしてシーツや掛け布団から枕から、目の前の本人から危険なほどいい匂いが漂う。
「明日も、早いのですか?」
「そうだな。アキオが起きる頃にはもう出ているかもしれない」
「そっ、か…」
「一緒に居てやれずすまない。困ったことがあれば、いや、そのような事になる前にすぐ駆けつける」
「駄目ですよ?お仕事なんだから…頼りになる、ジルさんが抜けて、しまっては…皆さん……困ってしま…ぃ」
「…アキオは優しいのだな」
「優しい、のは………」
布団に入った瞬間に睡魔に負けてしまったのは、きっとこの匂いのせいだ。
遠のく意識の中で、より深い心地よさを求めてジルさんの首元に鼻を寄せる。
「んぅ、ジルさんの……匂、い…」
心の声がダダ漏れしているとも知らず。
寝る時間を削ってしまったことに反省しつつ、抑えきれなかったあくびを漏らす。
「アキオ、疲れただろう。そろそろ休もう」
「はい。すみません夜中に。明日にすれば良かったんですが…早く渡したいと思っちゃって、つい」
「謝る必要は無い。アキオのお陰で疲れが取れた」
「なら、良かったです」
マッサージを終えると自分の手もしっとり滑らかになっていて、なんだか気分が良い。
背中に手を添えられながらベッドまでたどり着くと、自分のカバンが開いたままになっていた。
そういえば、荷物を整理している途中だったんだ。
部屋は隣を準備してくれるらしいから、荷解きはそれからにしよう。
そう思って脇に寄せようとカバンを持ち上げると、練り油によってツルツルになった手からスルッと滑り落ち、勢いよく荷物が床にぶちまけられた。
幸いにもおばちゃんのところで買った袋は別にしていたから、貰った瓶は割れていない。
その代わり、一生懸命隠し通して今までバレることなく守り抜いてきたジルさんの似顔絵がひらりと舞い、よりによって2枚とも本人の足元に着地した。
「あっ…」
「大丈夫かアキオ。ん…これは…」
そしてジルさんにより拾い上げられ、隅々まで見られてしまった。
「ごめんなさい!勝手に…」
「アキオが描いたのか?」
何も言えずもじもじしていると、あたりに散らばった他の紙、つまり声が出なかった時の筆談もあっという間に全て拾い上げられてしまう。
「これも…まだ持っていたのか」
うわああ恥ずかしい。
もう立ち直れないかもしれない。
でも僕は知っている。
こういう時は、包み隠さず開き直った方が楽になれる事を。
悩んだ末、全て馬鹿正直に話すことにした。
「それは……王都に着いたら、もうジルさんとお別れかもしれないって思っていたから。寂しくなったらこれを見て元気を出そうかな、って、思って…それで…ごめんなさい」
まあ、だからって隠し描き?とかそういうのしていい理由にはならないか。
苦し紛れの言い訳を、ジルさんはいつもの寛大な心で受け止める。…たぶん。そうだと信じたい。
「アキオ…」
いや、さすがに引かれた、かな…?
王都について一人になったとしても、きっと何とかなるって頭では思っていたけど、何か御守りが欲しかったんだ。
つまり魔が差したんだ。
「これからも一緒に居るのだから、その必要は無いな。これは私が貰っても良いか?」
「えっ…?」
やっぱり没収…?
捨てられちゃうのかな。
それはちょっと悲しいかも。
でもまあ、そりゃ気分良く無いよね。
勝手に自分の姿描かれるなんて、ストーカーみたいで気持ち悪いもの。
「私は明日から仕事に戻る。業務に忙殺される事もあるだろう。その時はこれを見て癒やされたい」
「へ?いや…でも」
「大切にする。駄目か?」
うっ、可愛い…。
これが惚れた弱みと言うやつか。
描いたものが本人の手に渡るって思ったより恥ずかしいんだぞ、と視線で訴える。でも捨てられてしまう訳では無いと分かって安心した。
「そんなもので良ければ………どうぞ」
「ありがとう」
拭いきれない羞恥心をほんのり心に秘めたまま、当たり前のように一緒にベッドに入る。
宿のベッドも大きくてふかふかだったけど、やっぱりお城のは別格だ。
そしてシーツや掛け布団から枕から、目の前の本人から危険なほどいい匂いが漂う。
「明日も、早いのですか?」
「そうだな。アキオが起きる頃にはもう出ているかもしれない」
「そっ、か…」
「一緒に居てやれずすまない。困ったことがあれば、いや、そのような事になる前にすぐ駆けつける」
「駄目ですよ?お仕事なんだから…頼りになる、ジルさんが抜けて、しまっては…皆さん……困ってしま…ぃ」
「…アキオは優しいのだな」
「優しい、のは………」
布団に入った瞬間に睡魔に負けてしまったのは、きっとこの匂いのせいだ。
遠のく意識の中で、より深い心地よさを求めてジルさんの首元に鼻を寄せる。
「んぅ、ジルさんの……匂、い…」
心の声がダダ漏れしているとも知らず。
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