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王都
王の嘆願④
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「貴方が生活する部屋は軍城に用意する。
気の毒だが、しばらくは町を出歩くことも控えて欲しい。不自由させて本当に申し訳ない…」
「いえ、不自由だなんて思いません。僕はこの国に居させてもらえるだけで充分ですが…その、やっぱり町に出ないと働けないですよね…」
今まで寝食の面倒をみてもらって、服やお菓子まで買ってもらって、これから少しずつお返ししていかなきゃなって思ってたのに。
働かないのにここに置いてもらうなんてそんなのダメだ。
「皆さんのご迷惑にならないようにせめてちゃんと働きたくて。
ここで何か僕にできる仕事はあるでしょうか…」
いや、無いだろ。
王宮や軍城なんて厳かな場所で僕ができることなんてあるわけない。
自分が失礼な事を言ってしまったのに気がついて、どんどんと無意識に顔が下を向いてゆく。
「アキオ殿…自身が大変な状況でそのようなことを考えていたのか」
顔を上げてくれ、と王様は僕の頬に手を添える。
「時計台の調査に協力してくれるだけで、務めとしては充分だ」
「でも…」
「まずはこの国について勉強すること。それが貴方の仕事だ。先のことは追々考えよう。とにかく気負わず、肩の力を抜いて過ごしてほしい」
「本当に…良いのですか?」
「もちろんだ。私自身それを望んでいる」
「ありがとうございます…僕、本当に何でもしますから。よろしくお願いします…!」
そう伝えると、王様の帯びていた緊張感のようなものが一気に消えた気がした。
「それにしてもアキオ殿……本当に良かった…」
「え?」
「ジルルドオクタイ最高司令官から、巻き込まれた事件については精霊を介して報告を受けている。
よく生きていてくれた…!!」
ーーーガバッ!
「い、いえ皆さんのおかげ、です…っ」
信じられない…。
王様に抱きしめられてる。
なんだこれ、ホワホワする。良い匂いする。
少し、いやだいぶ、犯罪級に失礼だけど、王様のことちょっと可愛いと思ってしまった。
しかし癒やされていく心に反比例して、なんだか腑に落ちない気持ちが大きくなっていった。
「あの、王様。ひとつ伺ってもよろしいでしょうか」
「何でも」
腕の中から僕を解放して、腰を屈めて視線を合わせてくれる。
「どうして、その…そう言うことを言うのですか?
「そう言う、とは?」
王様はキョトンとした顔で首を傾げた。
「だってもしかしたら、僕が召喚に巻き込まれたのではなく、何か悪いことを…例えばこの世界を乗っ取ってやろうとか、略奪を働いてやろうとか、そういうことを考えている可能性だって無いとは言い切れないじゃないですか。
なのに巻き込んで申し訳ないとか、我が家のようにとか、そんなこと王様が言ってしまって大丈夫なのでしょうか。もっとこう、警戒されると思っていたので…」
こんなに親切にしてくれた王様に向かって何てことを言ってるんだっていう自覚はちゃんとある。
でも、邪険に扱われるでもなく、不信の目を向けられることもなく、あろうことか『あなたのこと守るからリラックスして』なんて。
自分で言うのもなんだけど、僕のこと信じすぎでは無いかと心配になる。
「…フ、ふふ……ハッハハハハハハ!」
突如、王様の大きな笑い声が部屋いっぱいに響き渡った。
「へ?」
「ハハハハハッひぃ…あぁ~、笑った笑った」
「えっと…あの…」
「すまないすまない、アキオ殿が面白いことを言うもんでッ、ついな」
「面白、かったですか?」
「貴方の顔を見れば悪人ではない事くらい分かる。どう見たってアキオ殿はそんな事…考えられる訳も無いだろう…ふふッ」
えぇー…そんなに笑う…?
あまりに楽しそうな王様に呆気に取られていると、ジルさんが解説を入れてくれた。
「アキオ、王は人を見る目・を持っておられる」
「目…?」
「言うほど大袈裟なもんじゃ無い。まあ、人よりも少し勘が働くだけだ」
王の、目…。
その綺麗な目を見ると、笑いすぎて涙が浮かんでいた。
「王宮に仕える者も軍に従事する者も、最終的には王がその者の人間性を見て許可をくだされない限り、職務に就くことは出来ない。
つまり王宮や軍の人間は信用に値するという事だ。安心して過ごしてくれ」
ジルさんは僕の頭を撫でる。
髪の毛の感触を楽しむように動く指が心地よくてうっとりしていると、王様の声が静かに響いた。
気の毒だが、しばらくは町を出歩くことも控えて欲しい。不自由させて本当に申し訳ない…」
「いえ、不自由だなんて思いません。僕はこの国に居させてもらえるだけで充分ですが…その、やっぱり町に出ないと働けないですよね…」
今まで寝食の面倒をみてもらって、服やお菓子まで買ってもらって、これから少しずつお返ししていかなきゃなって思ってたのに。
働かないのにここに置いてもらうなんてそんなのダメだ。
「皆さんのご迷惑にならないようにせめてちゃんと働きたくて。
ここで何か僕にできる仕事はあるでしょうか…」
いや、無いだろ。
王宮や軍城なんて厳かな場所で僕ができることなんてあるわけない。
自分が失礼な事を言ってしまったのに気がついて、どんどんと無意識に顔が下を向いてゆく。
「アキオ殿…自身が大変な状況でそのようなことを考えていたのか」
顔を上げてくれ、と王様は僕の頬に手を添える。
「時計台の調査に協力してくれるだけで、務めとしては充分だ」
「でも…」
「まずはこの国について勉強すること。それが貴方の仕事だ。先のことは追々考えよう。とにかく気負わず、肩の力を抜いて過ごしてほしい」
「本当に…良いのですか?」
「もちろんだ。私自身それを望んでいる」
「ありがとうございます…僕、本当に何でもしますから。よろしくお願いします…!」
そう伝えると、王様の帯びていた緊張感のようなものが一気に消えた気がした。
「それにしてもアキオ殿……本当に良かった…」
「え?」
「ジルルドオクタイ最高司令官から、巻き込まれた事件については精霊を介して報告を受けている。
よく生きていてくれた…!!」
ーーーガバッ!
「い、いえ皆さんのおかげ、です…っ」
信じられない…。
王様に抱きしめられてる。
なんだこれ、ホワホワする。良い匂いする。
少し、いやだいぶ、犯罪級に失礼だけど、王様のことちょっと可愛いと思ってしまった。
しかし癒やされていく心に反比例して、なんだか腑に落ちない気持ちが大きくなっていった。
「あの、王様。ひとつ伺ってもよろしいでしょうか」
「何でも」
腕の中から僕を解放して、腰を屈めて視線を合わせてくれる。
「どうして、その…そう言うことを言うのですか?
「そう言う、とは?」
王様はキョトンとした顔で首を傾げた。
「だってもしかしたら、僕が召喚に巻き込まれたのではなく、何か悪いことを…例えばこの世界を乗っ取ってやろうとか、略奪を働いてやろうとか、そういうことを考えている可能性だって無いとは言い切れないじゃないですか。
なのに巻き込んで申し訳ないとか、我が家のようにとか、そんなこと王様が言ってしまって大丈夫なのでしょうか。もっとこう、警戒されると思っていたので…」
こんなに親切にしてくれた王様に向かって何てことを言ってるんだっていう自覚はちゃんとある。
でも、邪険に扱われるでもなく、不信の目を向けられることもなく、あろうことか『あなたのこと守るからリラックスして』なんて。
自分で言うのもなんだけど、僕のこと信じすぎでは無いかと心配になる。
「…フ、ふふ……ハッハハハハハハ!」
突如、王様の大きな笑い声が部屋いっぱいに響き渡った。
「へ?」
「ハハハハハッひぃ…あぁ~、笑った笑った」
「えっと…あの…」
「すまないすまない、アキオ殿が面白いことを言うもんでッ、ついな」
「面白、かったですか?」
「貴方の顔を見れば悪人ではない事くらい分かる。どう見たってアキオ殿はそんな事…考えられる訳も無いだろう…ふふッ」
えぇー…そんなに笑う…?
あまりに楽しそうな王様に呆気に取られていると、ジルさんが解説を入れてくれた。
「アキオ、王は人を見る目・を持っておられる」
「目…?」
「言うほど大袈裟なもんじゃ無い。まあ、人よりも少し勘が働くだけだ」
王の、目…。
その綺麗な目を見ると、笑いすぎて涙が浮かんでいた。
「王宮に仕える者も軍に従事する者も、最終的には王がその者の人間性を見て許可をくだされない限り、職務に就くことは出来ない。
つまり王宮や軍の人間は信用に値するという事だ。安心して過ごしてくれ」
ジルさんは僕の頭を撫でる。
髪の毛の感触を楽しむように動く指が心地よくてうっとりしていると、王様の声が静かに響いた。
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