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王都
幸せの続き②
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ーーーーーーーーside Akioーーーーーーーーーー
心地よい馬車の揺れに、ついうとうとと居眠りをしていたようだ。
夢の中でも馬車で運ばれてた気がするなあ。
そして実った麦をみんなで収穫して、ツリーハウスに持ち帰り、ジルさんが美味しいパンに変身させた。
それからみんなで芝桜を見に行って、わいわいピクニックを満喫したんだ。
夢だと分かっていても、幸せなこの時間がずっと続けばいいのになんて考えてしまう。
でもいつまでも眠ったままではいられなくて、意識はどんどん現実に引き戻されていく。
「起きたか」
「ジルさん…
はっ!ここは…」
大きなベッドに、ふわふわのお布団。
目の前にはジルさん。
僕、もう人生の運を使い果たしてしまったんじゃないかってくらい幸せだ。
今までこれが当たり前の日常だったなんて、いくらなんでも恵まれすぎてるよな。
「ここは王宮内にある客間だ」
「王宮!?」
「日が落ちる前に無事到着することができた。今は夜の10時を回ったところだ。今日はもう休むか?」
僕は王宮でぐーすか寝こけていたというのか。
すごい。自分の神経がここまで図太いとは思わなかった。
「でも…王様とお話をしないと」
「疲れているなら無理せず休んだほうが良い。話は明日でも出来る」
「僕は本当に大丈夫です。なんだか馬車が心地よくて。眠ったらスッキリしました。
でも、もう遅いから王様も明日の方がいいかな…」
「では、王の意向を伺うことにしようか」
「はい…」
僕が返事をすると、外の方で小さく足音がした。誰かいたのかな。
そっか…。
ついに王都に着いてしまったのか。思い返してみると本当にあっという間だったな。
安心と同時に不安が生まれてしまいそうになる心に蓋をして起き上がる。
「僕たち、王都に着いたのですね。よかった」
背中を支えてくれる大きな手から元気を吸い取る。目が覚めた時にジルさんが居る、なんて瞬間はもしかしたらこれが最後かもしれないって考えるとなかなか堪える。
ああだめだ。
メテさんに怒られてしまう。ポジティブ、ポジティブ。
「よく頑張ったな」
「そんな、僕は全然…。
ジルさん。ありがとうございました。皆さんのおかげでここまで来ることができて…。
本当に、ありがとうございました」
頭を撫でてくれる手つきがあまりにも優しくて、思わず涙が出てしまいそうになる。
「そうだ、イガさんとメテさんは…」
周りを見渡すと、ツリーハウスよりも少し広めの部屋には僕が寝ているベッドと、あとベッド脇にある小さな台、クローゼットのような収納棚くらいしか無くて、シンプルな部屋に僕たち以外は誰も居ない。
「彼らは城に戻った」
「そうですか…ちゃんとお礼が言いたかったのですが」
「またいつでも会える。落ち着いたら軍城も案内しよう。始祖人に会わせると約束もしたしな」
「はい。楽しみです」
そうだ。またいつでも会える。きっと会える。
王様も良い人だってみんな言ってた。まずはその王様と話をしてから…
ーーーコンコンコンッ
「ゼルコバ・フィフス・ヴェインだ」
ーーーバッ!
外から誰かの声が聞こえた瞬間、ジルさんが扉の方に向かって勢いよく跪いた。
「お入りください」
初めて耳にしたジルさんの敬語に気を取られていると、開いた扉から声の主と思われる人物の姿が見えて思わず背筋が伸びる。
「スワ・アキオ殿。給仕伝いに貴方がお目覚めになったとの知らせを受けた。
いち早くお伝えしたいことがある。差し支えなければ話をしたいのだが」
その人は、長く伸ばした栗色の髪の毛をサイドでゆるく一つに結んで、上質そうなシャツに身を包んでいる。
この人が、王様……?
王様という立場の人間にしてはかなりラフな出立ちだ。もしかしたらもう寝るところだったのかな。だとしたらかなり申し訳ない。
僕が呑気に寝てるから…
「も、もちろんです、あの僕」
「そのままでいい。お疲れのところすまない」
僕もジルさんと同じように跪くためにベッドを降りようとすると、静止をかけられる。
とっても綺麗な顔で見つめられ、思わず見惚れてしまった。
「いえ…こちらこそ」
王様はゆっくりと僕の方に近づいて来る。
ダラっとした態度を取っているわけにもいかないので、ひとまずベッドの上で正座をした。
まじまじと見つめられ、僕の緊張バロメーターはぐんぐんと上昇してゆく。
それにしても、ちょっと見過ぎかと。
穴があいちゃう……
「なるほど。こちらの世界の気・を全く感じない。ジルルドオクタイ最高司令官の報告通り、やはり貴方は異世界から来たのだな」
初っ端から核心に迫られ、ぎくりと心臓が跳ねた。
「はい…僕は、ここではない世界から来ました」
「そうか…」
難しそうに眉を歪める王様から、ひしひしと緊張が伝わる。
「ウッデビア国の国王として、この世界に生きる一人の人間として、深くお詫び申し上げたい。
異界の貴方を巻き込んでしまい、大変申し訳無い。この通りだ」
一国の王様が、僕に頭を下げている。
目の前で起きている光景がとても信じられなくて、思わず彼に駆け寄ろうと慌ててベッドを下りた。
「やめてください。謝らないでください…!」
「アキオっ、危ない」
そばにいたジルさんに抱きとめられ、自分が歩けないことを改めて思い出す。
心地よい馬車の揺れに、ついうとうとと居眠りをしていたようだ。
夢の中でも馬車で運ばれてた気がするなあ。
そして実った麦をみんなで収穫して、ツリーハウスに持ち帰り、ジルさんが美味しいパンに変身させた。
それからみんなで芝桜を見に行って、わいわいピクニックを満喫したんだ。
夢だと分かっていても、幸せなこの時間がずっと続けばいいのになんて考えてしまう。
でもいつまでも眠ったままではいられなくて、意識はどんどん現実に引き戻されていく。
「起きたか」
「ジルさん…
はっ!ここは…」
大きなベッドに、ふわふわのお布団。
目の前にはジルさん。
僕、もう人生の運を使い果たしてしまったんじゃないかってくらい幸せだ。
今までこれが当たり前の日常だったなんて、いくらなんでも恵まれすぎてるよな。
「ここは王宮内にある客間だ」
「王宮!?」
「日が落ちる前に無事到着することができた。今は夜の10時を回ったところだ。今日はもう休むか?」
僕は王宮でぐーすか寝こけていたというのか。
すごい。自分の神経がここまで図太いとは思わなかった。
「でも…王様とお話をしないと」
「疲れているなら無理せず休んだほうが良い。話は明日でも出来る」
「僕は本当に大丈夫です。なんだか馬車が心地よくて。眠ったらスッキリしました。
でも、もう遅いから王様も明日の方がいいかな…」
「では、王の意向を伺うことにしようか」
「はい…」
僕が返事をすると、外の方で小さく足音がした。誰かいたのかな。
そっか…。
ついに王都に着いてしまったのか。思い返してみると本当にあっという間だったな。
安心と同時に不安が生まれてしまいそうになる心に蓋をして起き上がる。
「僕たち、王都に着いたのですね。よかった」
背中を支えてくれる大きな手から元気を吸い取る。目が覚めた時にジルさんが居る、なんて瞬間はもしかしたらこれが最後かもしれないって考えるとなかなか堪える。
ああだめだ。
メテさんに怒られてしまう。ポジティブ、ポジティブ。
「よく頑張ったな」
「そんな、僕は全然…。
ジルさん。ありがとうございました。皆さんのおかげでここまで来ることができて…。
本当に、ありがとうございました」
頭を撫でてくれる手つきがあまりにも優しくて、思わず涙が出てしまいそうになる。
「そうだ、イガさんとメテさんは…」
周りを見渡すと、ツリーハウスよりも少し広めの部屋には僕が寝ているベッドと、あとベッド脇にある小さな台、クローゼットのような収納棚くらいしか無くて、シンプルな部屋に僕たち以外は誰も居ない。
「彼らは城に戻った」
「そうですか…ちゃんとお礼が言いたかったのですが」
「またいつでも会える。落ち着いたら軍城も案内しよう。始祖人に会わせると約束もしたしな」
「はい。楽しみです」
そうだ。またいつでも会える。きっと会える。
王様も良い人だってみんな言ってた。まずはその王様と話をしてから…
ーーーコンコンコンッ
「ゼルコバ・フィフス・ヴェインだ」
ーーーバッ!
外から誰かの声が聞こえた瞬間、ジルさんが扉の方に向かって勢いよく跪いた。
「お入りください」
初めて耳にしたジルさんの敬語に気を取られていると、開いた扉から声の主と思われる人物の姿が見えて思わず背筋が伸びる。
「スワ・アキオ殿。給仕伝いに貴方がお目覚めになったとの知らせを受けた。
いち早くお伝えしたいことがある。差し支えなければ話をしたいのだが」
その人は、長く伸ばした栗色の髪の毛をサイドでゆるく一つに結んで、上質そうなシャツに身を包んでいる。
この人が、王様……?
王様という立場の人間にしてはかなりラフな出立ちだ。もしかしたらもう寝るところだったのかな。だとしたらかなり申し訳ない。
僕が呑気に寝てるから…
「も、もちろんです、あの僕」
「そのままでいい。お疲れのところすまない」
僕もジルさんと同じように跪くためにベッドを降りようとすると、静止をかけられる。
とっても綺麗な顔で見つめられ、思わず見惚れてしまった。
「いえ…こちらこそ」
王様はゆっくりと僕の方に近づいて来る。
ダラっとした態度を取っているわけにもいかないので、ひとまずベッドの上で正座をした。
まじまじと見つめられ、僕の緊張バロメーターはぐんぐんと上昇してゆく。
それにしても、ちょっと見過ぎかと。
穴があいちゃう……
「なるほど。こちらの世界の気・を全く感じない。ジルルドオクタイ最高司令官の報告通り、やはり貴方は異世界から来たのだな」
初っ端から核心に迫られ、ぎくりと心臓が跳ねた。
「はい…僕は、ここではない世界から来ました」
「そうか…」
難しそうに眉を歪める王様から、ひしひしと緊張が伝わる。
「ウッデビア国の国王として、この世界に生きる一人の人間として、深くお詫び申し上げたい。
異界の貴方を巻き込んでしまい、大変申し訳無い。この通りだ」
一国の王様が、僕に頭を下げている。
目の前で起きている光景がとても信じられなくて、思わず彼に駆け寄ろうと慌ててベッドを下りた。
「やめてください。謝らないでください…!」
「アキオっ、危ない」
そばにいたジルさんに抱きとめられ、自分が歩けないことを改めて思い出す。
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