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約束した事
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晴を抱き締めていたら、いつの間にか花火は終わっていた。
「終わっちゃったな。」
何となく名残惜しくて晴を離せないでいると晴が外を見て呟いた。俺は殆ど花火じゃなくて晴を見ていた気がする。希望を込めて言う。
「また来年見よう。」
「うん」
晴が頷いてくれた。
未来の約束が出来た事が嬉しい。来年も一緒にいてくれるって事でいいんだよな。俺は腕を解いて晴の手を取った。しっかり目を合わせて晴を見つめる。
「晴、来年だけじゃなくてずっと一緒にいたい。好きなんだ。こんなに誰かを好きになった事がないくらい好きだ。晴、俺を受け入れて一生隣にいるって約束して欲しい。一緒に住んで結婚したい。」
「慶喜。多分俺も好き。……でもさ、ずっと一人だったから受け入れるのが怖いんだ。」
潤んだ晴の瞳に不安の影がさす。
「何で怖いの?」
「何で怖いんだろう。色々ありすぎて自分でもわからないんだ。」
だから、少しだけ待ってて。
そう小さく言葉を足した晴の瞳は何処か遠くを見ているようで。俺が知らない晴の中にある晴の不安。取り除くのは俺でありたい。
「じゃあ、わかったら俺に教えて?怖くなくなる様に俺がしてやる。」
「俺が自分でもわからないことを?」
「ああ。晴の特別な人になるための試練ってやつだ。」
「ははっ。慶喜って、時々すごいバカだよね。」
俺の言葉で晴が笑った。今はそれでいいか。追い詰め過ぎないように少しずつ解していければいい。
「晴の抱えてるものを一緒に抱えたい。だから、不安になったら俺に教えて、怖かったら、怖いって、今みたいに言って。」
「…じゃあさ。慶喜も考えてること俺に教えて、少しずつでいいから。俺も慶喜の事知りたい。」
「わかった。」
晴が俺の事を知りたいと思ってくれる事が嬉しくもあり、知った後に俺の事をどう思うんだろうという不安がよぎる。
この不安をきっと晴は怖いと言ったのかもしれない。追いかける事に必死で、晴の事を知りたいって気持ちばかりで自分が晴に何を要求しているのか気付いていなかった。
相手の事を知りたいって要求はなんて傲慢なものだろう。人を好きになって自分を好きになってもらうって事はとても勇気のいることなのだと初めて思った。俺は誰かとそんな関係になりたいと思った事がなかった。取り繕うって生きてきた俺は、晴の心が欲しいばかりに本当に試練ってやつに立ち向かわなくてはいけないんだろう。
「ゆっくりでいいんだ。」
晴が俺の不安に気付いたのか、俺と自分に言い聞かせるように言って微笑んだ。晴の優しさは包み込むような包容力があって、俺は肩の力が抜けて笑った。
「そうだな。ゆっくりいこう。」
やっぱり晴が好きだなと思った。
――――――――
挨拶と部屋を貸してくれたことのお礼を言いたいと言う晴を連れて屋上に行った。
屋上ではまだバーベキューをしていて、二人で行ったら歓迎してくれた。折り畳みのテーブルと椅子が出されていて、Ωの入居者と職員などで20人ほどが談笑しながら、バーベキューを楽しんでいた。
部屋を貸してくれたことのお礼を言って、母と菅井さんが座るテーブルに晴と着いて晴を紹介した。晴を見て眩しい物を見るように笑った母は、思いの外しっかり受け答えしているので安心した。
肉が焼けたと呼ばれて、俺が席を離れて取りに行くと母と晴が何か二人で親密そうに話しているのが見えた。何を話してるんだ?
大量の肉と焼きそばなどを持たされて戻った俺は気になって二人に聞いた。
「何、話してたの?」
「「内緒。」」
二人で楽しそうに笑っている。
「ふーん。別にいいけど。」
持ってきた料理をテーブルに置いて晴の食べれそうな物を聞いた。
「焼きそば食べたい!」
「焼きそばの臭い大丈夫?」
「平気そう。焼きそばって、出店の定番ぽくない?さっき食べれなかったから食べる。」
「無理するなよ。」
焼きそばを小皿に取って晴に渡す。一口食べて大丈夫そうという晴に追加で焼きそばを足す。晴の横に立ったまま肉はどうだ?野菜は食べれそうかと聞く俺に晴が、慶喜も座って食べなよ。と言って自分の隣を指す。今度は晴が皿に取り分けてくれて焼きそばを渡された。
「よしくんて尽くすタイプなのね。」
「本当ね。甲斐甲斐しいのね。」
母と菅井さんがこちらを見て笑いながらこそこそ話している声に我に返る。他のテーブルからも微笑ましいわね。なんて聞こえてくる。
つい人前でいつものやり取りをしていた。親の前でイチャイチャするとか恥ずかしい。固まった俺と周りに気が付いて真っ赤になって俯いてしまった晴。それが可愛いとか言われて、何となく祝福ムードが漂って、なぜか乾杯とかしてるし。
この空気が居たたまれない。しょうがなく、気にしてないふりをして手元の焼きそばを食べた。
――――――
「お母さん、儚げな外見なのに押しが強いんだな。慶喜とそっくりなぁ。」
帰り道晴が思い出したように言った。バーベキューを遅くなるからと途中で抜けて帰ってきた。彼らは夜中まで飲むのだそうだ。
「押しが強いところが似てるってこと?俺って押しが強いかな?」
「かなりな。」
自覚はある。特に晴には押せ押せで付け込んだ。でも、そんな風に言うほど母と何を話したんだろう。
「何言われたの?」
「慶喜の事よろしくって言われただけ。」
「後は?」
「謝られた。慶喜、お母さんにあの事言っちゃったのな。」
晴が睨んで来る。
「嫌だったよな。ごめん。」
「いいけど、別に言わなくても良かったのに。」
不機嫌を装っているけど、気遣わしげにこちらを伺ってるのがわかる。
「昼間行った時に子供が出来たって報告したら、菅井さんと二人係りで問い詰められて白状させられた。」
昼間のやり取りを思い出して遠い目になる。
「ああ、それは敵わないかも。」
晴も共感するのか遠い目をする。あの後も相当冷やかされたもんな。おばちゃんパワーで聞きにくい事とか平気で聞いてくる上に二人で連携取られるとたちが悪い。
「母には最低って罵られて腹パンされた。」
「あのお母さんが?」
「そう。顔だと跡が残るからって、腹パン。そんなキャラだって知らなかった。俺、初めて殴られた。」
「はははっ!何それそんなことしなさそうなのにな。」
晴が笑って、俺も連れて笑い出す。二人で一頻り笑っていたら晴が俺の手を握ってきて聞いた。
「ねえ。お母さんなんでホスピスにいるのか聞きいてもいい?」
それがただの好奇心とか興味本位とかで聞いているのではないことはわかった。俺の一番曝したくない、今の俺を作った出来事。言葉にする事さえ痛くて誰かに話して下手な慰めなんか言われたくなくて誰にも話したことはない。でも晴には知っていて欲しいと思った。
「上手く話せるかわかんないけど、俺の家族の話聞いてくれる?」
「うん。」
夜道をずっと手を繋いだまま晴は俺の話を聞いてくれた。帰り道で終わらなくて晴の家に着いても話続けて、晴は時々相槌を打つことはあっても黙って聞いてくれた。
父と母と暮らした平和だった子供の頃の事。父が帰って来なくて山を捜索してもらった事。見つかるまでどんなに心配したか、黙って山に登った父に対する疑い。遺体が発見されて、父が運命の番に出会っていたことがわかったこと。運命と亡くなった父に対する怒りと悲しみと母と二人で暮らす不安。母の発情期の事と抑制剤の過剰摂取と副作用の事。錯乱した時の母の事。
全部聞いた後、晴は「話してくれてありがとう。」と言って俺を抱き締めて、俺の頭を撫でた。
長い話し終わった時もう終電が終わった後だった。帰れない俺は初めて晴の家に泊めてもらうことになって、交代でシャワーを浴びた。シャワーを終えて着替えをどうしようと外に出ると洗濯機の上にバスタオルの他に短パンとTシャツと下着が置いてあった。
「洗濯機の上に着替え用意してあるから着て」
晴の声がしたので、遠慮なく着る。
真新しいそれは俺にぴったりのサイズで、明らかに晴には大きいサイズだ。別の誰かの物ではないだろう。俺の為に用意してあった?
「着れた?良かった。」
晴は俺が問題なく着れているのを見て安心した様子。
「晴、これ俺の為に用意してくれたの?」
「…俺のじゃ小さいだろ?俺もシャワー浴びてくる。」
俺の質問には答えずに、そそくさと入口に立つ俺をすり抜けてシャワーを浴びに行ってしまった。通り過ぎた時に晴の耳が赤くなっているのが見えた。
俺が泊まっても困らないように用意しておいてくれたんだよな?泊まらせてもいいって思ってたってことで、いつから用意してあったんだ?前から俺を受け入れるつもりでいてくれたんだと思ったら嬉しくなった。
―――――
布団が一組しかないので、一枚の布団に晴と並んで横になって一枚の肌掛けを一緒に掛ける。狭いので自然と晴の肌と触れてしまう。色々ありすぎて疲れているのに、隣にある晴の体温を意識して眠れる気がしない。ドキドキしている横で晴の声がした。
「慶喜にも運命の番っているんだよな。」
横を向くと晴は天井を見たままだ。突然何を言い出すんだ。父の話に思う所があったのだろうか。
「運命なんかいらない。俺は晴がいい。」
「会ったらわかんないだろ?」
「そうだけど、絶対晴を選ぶ。」
「うん。」
「もしさ、もし慶喜が運命の番に出会ったら、無理して俺の所に帰って来なくてもいいから死んだりしないで。俺を捨ててもいいから幸せになって。」
相変わらず、こちらを見ない。
ああ、これが言いたかったのかと思った。でも、そんなの俺は嫌だ。運命より晴がいい。だから、臆病なこいつにちゃんとそれを伝えなくてはならない。
「晴がいないのに幸せになんかなれない。俺は晴が運命の番に会っても諦められない。拐いに行く。」
晴は驚いた顔して、すぐに嬉しそうに笑ってこちらを向いた。
「俺が運命に捕らわれても捕まえて離さないで。」
晴の目を見てしっかり伝える。
「離さない。晴も俺が運命に惑わされても諦めたりしないで、絶対俺は晴を選ぶ。約束する。」
「うん。」
晴が笑った。
………嘘つき。
晴が信じてないのがわかってしまった。晴が諦めても絶対晴の所に帰るし、晴を離してやらない。俺は隣の晴を抱き締めてこの温もりを離さないと誓った。
「一生かけて証明してやるよ。」
絶対離してやらないから思い知れよ。
「終わっちゃったな。」
何となく名残惜しくて晴を離せないでいると晴が外を見て呟いた。俺は殆ど花火じゃなくて晴を見ていた気がする。希望を込めて言う。
「また来年見よう。」
「うん」
晴が頷いてくれた。
未来の約束が出来た事が嬉しい。来年も一緒にいてくれるって事でいいんだよな。俺は腕を解いて晴の手を取った。しっかり目を合わせて晴を見つめる。
「晴、来年だけじゃなくてずっと一緒にいたい。好きなんだ。こんなに誰かを好きになった事がないくらい好きだ。晴、俺を受け入れて一生隣にいるって約束して欲しい。一緒に住んで結婚したい。」
「慶喜。多分俺も好き。……でもさ、ずっと一人だったから受け入れるのが怖いんだ。」
潤んだ晴の瞳に不安の影がさす。
「何で怖いの?」
「何で怖いんだろう。色々ありすぎて自分でもわからないんだ。」
だから、少しだけ待ってて。
そう小さく言葉を足した晴の瞳は何処か遠くを見ているようで。俺が知らない晴の中にある晴の不安。取り除くのは俺でありたい。
「じゃあ、わかったら俺に教えて?怖くなくなる様に俺がしてやる。」
「俺が自分でもわからないことを?」
「ああ。晴の特別な人になるための試練ってやつだ。」
「ははっ。慶喜って、時々すごいバカだよね。」
俺の言葉で晴が笑った。今はそれでいいか。追い詰め過ぎないように少しずつ解していければいい。
「晴の抱えてるものを一緒に抱えたい。だから、不安になったら俺に教えて、怖かったら、怖いって、今みたいに言って。」
「…じゃあさ。慶喜も考えてること俺に教えて、少しずつでいいから。俺も慶喜の事知りたい。」
「わかった。」
晴が俺の事を知りたいと思ってくれる事が嬉しくもあり、知った後に俺の事をどう思うんだろうという不安がよぎる。
この不安をきっと晴は怖いと言ったのかもしれない。追いかける事に必死で、晴の事を知りたいって気持ちばかりで自分が晴に何を要求しているのか気付いていなかった。
相手の事を知りたいって要求はなんて傲慢なものだろう。人を好きになって自分を好きになってもらうって事はとても勇気のいることなのだと初めて思った。俺は誰かとそんな関係になりたいと思った事がなかった。取り繕うって生きてきた俺は、晴の心が欲しいばかりに本当に試練ってやつに立ち向かわなくてはいけないんだろう。
「ゆっくりでいいんだ。」
晴が俺の不安に気付いたのか、俺と自分に言い聞かせるように言って微笑んだ。晴の優しさは包み込むような包容力があって、俺は肩の力が抜けて笑った。
「そうだな。ゆっくりいこう。」
やっぱり晴が好きだなと思った。
――――――――
挨拶と部屋を貸してくれたことのお礼を言いたいと言う晴を連れて屋上に行った。
屋上ではまだバーベキューをしていて、二人で行ったら歓迎してくれた。折り畳みのテーブルと椅子が出されていて、Ωの入居者と職員などで20人ほどが談笑しながら、バーベキューを楽しんでいた。
部屋を貸してくれたことのお礼を言って、母と菅井さんが座るテーブルに晴と着いて晴を紹介した。晴を見て眩しい物を見るように笑った母は、思いの外しっかり受け答えしているので安心した。
肉が焼けたと呼ばれて、俺が席を離れて取りに行くと母と晴が何か二人で親密そうに話しているのが見えた。何を話してるんだ?
大量の肉と焼きそばなどを持たされて戻った俺は気になって二人に聞いた。
「何、話してたの?」
「「内緒。」」
二人で楽しそうに笑っている。
「ふーん。別にいいけど。」
持ってきた料理をテーブルに置いて晴の食べれそうな物を聞いた。
「焼きそば食べたい!」
「焼きそばの臭い大丈夫?」
「平気そう。焼きそばって、出店の定番ぽくない?さっき食べれなかったから食べる。」
「無理するなよ。」
焼きそばを小皿に取って晴に渡す。一口食べて大丈夫そうという晴に追加で焼きそばを足す。晴の横に立ったまま肉はどうだ?野菜は食べれそうかと聞く俺に晴が、慶喜も座って食べなよ。と言って自分の隣を指す。今度は晴が皿に取り分けてくれて焼きそばを渡された。
「よしくんて尽くすタイプなのね。」
「本当ね。甲斐甲斐しいのね。」
母と菅井さんがこちらを見て笑いながらこそこそ話している声に我に返る。他のテーブルからも微笑ましいわね。なんて聞こえてくる。
つい人前でいつものやり取りをしていた。親の前でイチャイチャするとか恥ずかしい。固まった俺と周りに気が付いて真っ赤になって俯いてしまった晴。それが可愛いとか言われて、何となく祝福ムードが漂って、なぜか乾杯とかしてるし。
この空気が居たたまれない。しょうがなく、気にしてないふりをして手元の焼きそばを食べた。
――――――
「お母さん、儚げな外見なのに押しが強いんだな。慶喜とそっくりなぁ。」
帰り道晴が思い出したように言った。バーベキューを遅くなるからと途中で抜けて帰ってきた。彼らは夜中まで飲むのだそうだ。
「押しが強いところが似てるってこと?俺って押しが強いかな?」
「かなりな。」
自覚はある。特に晴には押せ押せで付け込んだ。でも、そんな風に言うほど母と何を話したんだろう。
「何言われたの?」
「慶喜の事よろしくって言われただけ。」
「後は?」
「謝られた。慶喜、お母さんにあの事言っちゃったのな。」
晴が睨んで来る。
「嫌だったよな。ごめん。」
「いいけど、別に言わなくても良かったのに。」
不機嫌を装っているけど、気遣わしげにこちらを伺ってるのがわかる。
「昼間行った時に子供が出来たって報告したら、菅井さんと二人係りで問い詰められて白状させられた。」
昼間のやり取りを思い出して遠い目になる。
「ああ、それは敵わないかも。」
晴も共感するのか遠い目をする。あの後も相当冷やかされたもんな。おばちゃんパワーで聞きにくい事とか平気で聞いてくる上に二人で連携取られるとたちが悪い。
「母には最低って罵られて腹パンされた。」
「あのお母さんが?」
「そう。顔だと跡が残るからって、腹パン。そんなキャラだって知らなかった。俺、初めて殴られた。」
「はははっ!何それそんなことしなさそうなのにな。」
晴が笑って、俺も連れて笑い出す。二人で一頻り笑っていたら晴が俺の手を握ってきて聞いた。
「ねえ。お母さんなんでホスピスにいるのか聞きいてもいい?」
それがただの好奇心とか興味本位とかで聞いているのではないことはわかった。俺の一番曝したくない、今の俺を作った出来事。言葉にする事さえ痛くて誰かに話して下手な慰めなんか言われたくなくて誰にも話したことはない。でも晴には知っていて欲しいと思った。
「上手く話せるかわかんないけど、俺の家族の話聞いてくれる?」
「うん。」
夜道をずっと手を繋いだまま晴は俺の話を聞いてくれた。帰り道で終わらなくて晴の家に着いても話続けて、晴は時々相槌を打つことはあっても黙って聞いてくれた。
父と母と暮らした平和だった子供の頃の事。父が帰って来なくて山を捜索してもらった事。見つかるまでどんなに心配したか、黙って山に登った父に対する疑い。遺体が発見されて、父が運命の番に出会っていたことがわかったこと。運命と亡くなった父に対する怒りと悲しみと母と二人で暮らす不安。母の発情期の事と抑制剤の過剰摂取と副作用の事。錯乱した時の母の事。
全部聞いた後、晴は「話してくれてありがとう。」と言って俺を抱き締めて、俺の頭を撫でた。
長い話し終わった時もう終電が終わった後だった。帰れない俺は初めて晴の家に泊めてもらうことになって、交代でシャワーを浴びた。シャワーを終えて着替えをどうしようと外に出ると洗濯機の上にバスタオルの他に短パンとTシャツと下着が置いてあった。
「洗濯機の上に着替え用意してあるから着て」
晴の声がしたので、遠慮なく着る。
真新しいそれは俺にぴったりのサイズで、明らかに晴には大きいサイズだ。別の誰かの物ではないだろう。俺の為に用意してあった?
「着れた?良かった。」
晴は俺が問題なく着れているのを見て安心した様子。
「晴、これ俺の為に用意してくれたの?」
「…俺のじゃ小さいだろ?俺もシャワー浴びてくる。」
俺の質問には答えずに、そそくさと入口に立つ俺をすり抜けてシャワーを浴びに行ってしまった。通り過ぎた時に晴の耳が赤くなっているのが見えた。
俺が泊まっても困らないように用意しておいてくれたんだよな?泊まらせてもいいって思ってたってことで、いつから用意してあったんだ?前から俺を受け入れるつもりでいてくれたんだと思ったら嬉しくなった。
―――――
布団が一組しかないので、一枚の布団に晴と並んで横になって一枚の肌掛けを一緒に掛ける。狭いので自然と晴の肌と触れてしまう。色々ありすぎて疲れているのに、隣にある晴の体温を意識して眠れる気がしない。ドキドキしている横で晴の声がした。
「慶喜にも運命の番っているんだよな。」
横を向くと晴は天井を見たままだ。突然何を言い出すんだ。父の話に思う所があったのだろうか。
「運命なんかいらない。俺は晴がいい。」
「会ったらわかんないだろ?」
「そうだけど、絶対晴を選ぶ。」
「うん。」
「もしさ、もし慶喜が運命の番に出会ったら、無理して俺の所に帰って来なくてもいいから死んだりしないで。俺を捨ててもいいから幸せになって。」
相変わらず、こちらを見ない。
ああ、これが言いたかったのかと思った。でも、そんなの俺は嫌だ。運命より晴がいい。だから、臆病なこいつにちゃんとそれを伝えなくてはならない。
「晴がいないのに幸せになんかなれない。俺は晴が運命の番に会っても諦められない。拐いに行く。」
晴は驚いた顔して、すぐに嬉しそうに笑ってこちらを向いた。
「俺が運命に捕らわれても捕まえて離さないで。」
晴の目を見てしっかり伝える。
「離さない。晴も俺が運命に惑わされても諦めたりしないで、絶対俺は晴を選ぶ。約束する。」
「うん。」
晴が笑った。
………嘘つき。
晴が信じてないのがわかってしまった。晴が諦めても絶対晴の所に帰るし、晴を離してやらない。俺は隣の晴を抱き締めてこの温もりを離さないと誓った。
「一生かけて証明してやるよ。」
絶対離してやらないから思い知れよ。
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