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晴と花火を見た事

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晴と花火大会に来た。
会場周辺はまだ花火の開始まで時間があるというのにすごい人出だ。下調べして来た情報では、砂浜にレジャーシートを敷いて場所取りするらしいけれど、もう砂浜は場所が殆ど埋まっていてスペースを見つけられそうもない。
花火が始まる前に移動して、近くにある母の入所するホスピスの屋上で見せてもらうのもありかも。


―――――――

晴を迎えに行く前にホスピスに寄ったら、夕方から屋上でバーベキューをすると言っていて、俺も誘ってくれた。一緒に行きたい子がいると言うとその子も連れてきていいと言われた。二人で見たいからと断ったら、驚かれて「良かったね。」と言われた。なぜ驚かれるのか?
ホスピスの方は基本入居者が許可を出せば誰でも入れる。許可があっても普段は入居者としか面会出来ないのだけれど、今日のようなイベント事の時は人が入り乱れる。番を失ったΩの為の施設なので、入居者の楽しめる事を優先にしていてその辺は緩い。
屋上でバーベキューの準備を手伝ってから母の面会に行く。部屋には菅井さんがいて二人で何か楽しそうに話していた。今日の母は珍しく調子が良いようで俺の事を慶喜だとちゃんと認識している。

「よしくん大切な人が出来たんだって?」

菅井さんに、突然そんな事を言われた。
母も何だかキラキラした目でこちらを見てくる。どうやら、俺がバーベキューを断った時の話を聞いて母に伝えに来てたらしい。

「良かったわ。よしくんにちゃんとお付き合い出来る相手が出来てお母さん安心したわ。」

「高校生の時なんか酷かったもんね。」

「本当。黙って見てたけど心配してたんだから。」

隠れて付き合ってるつもりだったけど、俺の爛れた恋愛事情はバレていたらしい。二人で当時はよく相談していたのだという。

どんな子か根掘り葉掘り聞かれて、照れながらも晴がどんなに可愛いか惚気てしまった。
微笑ましそうに聞いている二人に、実はと子供が出来た事を報告した。驚かれて問い詰められて、晴との出会いとその後の事を白状させられて。
めちゃくちゃ怒られた。
母に最低を連呼されて鬼の形相でグーパンで腹を殴られた。
生まれて初めて母に殴られた。顔は跡が残ったら困るからとか、どこで身に付けたスキルなんだ。

一度連れて来なさいと言われたので、まだ、そんな関係になれてないんだと言ったら、絶対に口説き落とせと言われて、さっさと迎えに行けと追い出された。

そんな事があったので、行ったら喜んでバーベキューの仲間に入れてくれそうだ。

場所取りは諦めて公園にあるステージを見たり、出店で遊ぶ事にした。お祭りも初めてだという晴はもう最初からニコニコし通しだ。可愛い。

公園内のステージでフラダンスを見ても、大道芸を見てもはしゃいでいる。

射的で晴に似た猫のぬいぐるみをみつけた。自信があったのに全然倒れないので、ムキになって何回もチャレンジしていたら、晴に止められた。いや、倒れない様になってるのは知ってるんだけど、もうちょっとって思っちゃうんだよ。残念賞でもらった光る腕輪をお揃いでつけて照れてる晴が可愛い。
ヨーヨー釣りで名誉挽回出来て2つ採れたので、すぐ紙が切れて恨めしそうにしている晴にあげた。またお揃いだ。
りんご飴とかき氷を分けあって食べた。晴の悪阻も大分良くなっているし、食べても大丈夫そうで安心する。夕方に差し掛かって人出が増えて来たので、そろそろ、お腹に堪るものを買って花火を見ながら食べようかと話していたんだ。

「慶喜。」

隣を歩いていたはずの晴に手を取られて立ち止まった。その手が冷たくてびっくりしていつの間にか後ろにいた晴を振り返った。

「どうした?」

「ちょっと疲れた。」

青白い顔で具合が悪そうだ。ちょっと疲れただけには見えない。公園に救護所があったはずだ。そこに行くか?

「顔色悪いな。手も冷たいし。晴、具合悪いの?救護所で休ませてもらおう。」

「嫌だ。ちょっと休めば大丈夫だから。」

「……少し歩ける?」

救護所は嫌だと言う晴を、取り敢えず人混みから連れ出す。出店の裏手に回って人の少ない所を選んで歩道の縁石に座らせた。鞄から水を出して飲むように言ったが、一口含んでやめてしまった。

「いらない。飲んだら吐きそう。」

無理して平気そうにしてるけど、絶対相当辛いのだろう。ちゃんと休ませたい。

「……やっぱり、救護所に行こう。」

「嫌だ。花火見たい。それにあっちは人が多くて混んでそうだかり嫌だ。ここで少し休めば大丈夫だから。」

「でも、ここじゃ人が多くて暑いから。」

「ごめん慶喜。動けない、」

ほら、やっぱり辛いのだ。楽しくてつい妊婦さんなのに無理させてしまった。もっと休憩させれば良かった。冷たい飲み物なら飲めるかな?熱中症ではなさそうだけど、何か飲ませたい。

「じゃあ、冷たい飲み物買って来るからちょっと待ってて」

「いい。離れないで」

離れようとしたら、服を掴んで引き留められた。目が潤んでいてこんな場面なのに晴の可愛さにくらくらする。
深呼吸して呼吸を整える晴。いや、これは泣きそうなのだ。まあ、深呼吸は必要だからいいんだけど。素直に泣いていいのにと思ってしまう。
せめてと隣に座って晴の背中を撫でる。

「大丈夫だよ。」

「ごめん」

「いいから。無理しないでいいから。」

「情けない。迷惑かけてごめん。」

「少し良くなるまで座ってよう。」

「うん」

謝る晴に大丈夫、迷惑じゃないと繰り返す。晴に触るのは我慢してたけど、背中も撫でてるし、手も握ったしいいか。晴の肩を抱いて自分に寄っかからせる。素直に寄っている晴に頼られているようでこんな状態なのに嬉しい。

暫く、二人で座っていたら晴の顔色も戻ってきて大分落ち着て見える。花火を見たいという晴を連れて結局ホスピスにお世話になることにしよう。母も菅井さんも連れて行ったら喜んで迎えてくれるだろう。
歩けるという晴の手を引いて人混みを抜ける。
ホスピスでバーベキューに入れてもらおうと言ったら、母と一緒に花火を見ないで自分を優先して良かったのか聞かれたけど、そんな風に気にする晴は優しい人だと思う。マザコンとか絶対に言わないんだよ。連れて来てくれてありがとうって言われたけど、俺の方が来てくれてありがとうだ。

車両規制を抜け出て海岸沿いを歩く。頑張って歩いているけど晴は辛そうだ。嫌がる晴をおんぶして行くことにした。抱き上げたいけど、距離的に厳しいのが情けない。

恥ずかしがる晴を言いくるめて背中に乗せる。流石に成人男性なので痩せていてもそれなりに重い。でも、背中の温もりと仄かに甘い晴の香りがいい!
あんなに警戒してた晴が俺におんぶされてる。こんなのご褒美だ。

――――――――

ホスピスに着いた。インターホンを押すと菅井さんが出てきてくれて晴をおんぶして現れた俺にびっくりしつつも、事情を話したら空き部屋を貸してもらえることになった。ベッドしかない部屋に通されて、ベッドを整えるくれたので晴を寝かす。来る途中で晴はおぶさったまま寝てしまったのだ。無理させてしまったと申し訳なく思いつつも、俺の背中で寝るほど気を許されていると思うと嬉しい。
起きたらバーベキューも食べにおいでと言って菅井さんが出ていき二人きりになった。うっすら汗かく晴の汗を拭う。まだ、目覚めないかな。
自販機で冷たい飲み物を買って来ておく。
やることもないのでベッドの端に座って晴を見る。安らかに眠っている。冷房で汗も退いてきている様子に上掛けをかける。柔らかそうな髪だな。額に張り付いてるから直してあげるのに触っても許されるよな。と言い訳をしながら頭を撫でる。暫く、そんな事をしてたら晴が目を覚ました。

「目覚めた?良かった。花火始まる前に起こすか迷ってたんだ。」

体調も戻った様子で起き上がった晴に冷たい飲み物を渡す。飲んでほっと息をついている。良かった。

ホスピスの空き部屋を貸してもらった事を説明して、もうじき花火が始まる事を伝えた。
一緒に花火を見れると喜ぶ俺と対象に晴の様子がおかしい。

「どうした?やっぱり調子悪い?」

「何でもない。慶喜ごめん。」

晴が深呼吸をする。これは晴が泣きそうな時に我慢してるやつだ。なんで泣きそうなのかわからない、何て言葉をかけようか考えているうちに、何回も深呼吸しててとうとう過呼吸を起こした。
背中を擦ってるが息が出来なくて苦しそうだ。
あぷあぷしている晴の背中を撫でながら、

「もう吸わないでゆっくり吐き出して」

と伝える。

「もう一度吐き出して」

吐き出して、呼吸が少し出来る様になったようなので、

「少し吸っていいよ。ほら吸いすぎない。もう一度ゆっくり吐き出して」

暫くしたら治まった様子に安心したら、泣かないようにと過呼吸まで起こした晴に腹が立ってきた。普段は取り繕っているけど、俺は本当は喧嘩っぱやいのだ。

「バカ!なんで泣きたいのに我慢するんだよ。そんな無理して過呼吸起こして。泣きたかったら泣けよ!」

「泣いてるところなんか見られたくない!」

俺は無理して泣かないくらいなら泣いて欲しいんだ。

「俺の前でまで無理するなよ!」

「何なんだよ!あんたが甘やかすから俺は弱くなってるんだよ。一人で大丈夫だったのに何してくれてんだよ!」

「晴を甘やかしたいんだよ。甘えて欲しい!無理しないで欲しい!」

「慶喜だって俺のせいで無理してるだろ!」

そんなこと気にしてたのか?やっぱり晴は優しい。でも今はその優しさが悔しい。

「晴のせいじゃなくて晴のためになりたいんだよ。無理なんかしてない。俺が一緒にいたくて、晴の笑ってる顔見たくて俺の為にしてるんだよ。」

「俺ばっかりしてもらうの嫌なんだよ。何も返せないのに慶喜に尽くされて辛い。そんなに笑った顔が見たいならいつだって笑ってるだろ。」

そんなこと言って笑いやがった。
馬鹿にしてる!そんなの誰も望んでないっての!

「その嘘臭い無理した笑顔は嫌いなんだよ。なんで無理やり笑うんだよ。泣きたい時も怒りたい時も俺の前では無理して笑わないで泣けよ。怒れよ。」

「嘘臭い笑顔ってなんなんだよ!みんな誤魔化されてくれるよ。俺が泣かないで怒らないで笑ってる方が都合がいいから気付かないふりして笑ってるのに安心するんだよ。あんたも誤魔化されろよ。」

嘗めやがって!俺はお前の嘘臭い笑顔になんか騙されてやらないんだよ!

「俺を他の奴らと一緒にするな!俺はお前の特別になりたいんだよ!」

晴がびっくりした顔で言葉を途切れさせた。
そして、笑った。

「バカだな。俺なんかの特別になったっていいことないよ。」

涙目のまま笑ってる。俺の好きな本当の笑顔だ。俺の言葉で笑う晴が可愛い。
ずっと晴といたいんだ。

「いいことばっかりだ。晴の隣にいられて、嘘臭くない本当の笑顔に俺がしてやれる。可愛い子供まで付いてきて、最高じゃねぇ。」

「はははっ。本当、あんたバカだ。」

「お前の前だけだ。バカやってお前を笑わせられたら嬉しいんだ。」

晴の顔が赤い。照れてるのか顔を背けてるけど見えてるから。

その時、

どお~ん!!

大きな音が響いて、窓の外が光った。

「「あっ!花火!」」

花火が始まったのだ。羽目殺しの窓から花火が見えて、空気を震わす大音響が続く。

「窓から花火見えるから一緒に見よう。」

晴に手を貸してベッドから下ろして窓際で並んで花火を見る。

「綺麗」

「うん。見れて良かった。」

「連れて来てくれてありがとう。」

笑ってそんなことを言う晴に頑張ったかいがあったと誇らしくなる。

「どういたしまして。晴と一緒に見られて嬉しい。」

晴の顔越しに見る花火は今まで見た中で一番綺麗だった。

黙って晴越しの花火を見ていたら、晴が手を繋いできた。晴から手を握られたのが嬉しくてにニヤけてしまう。ギュッと手を握り返して、晴を見る。視線が合って見つめていたら、手を引かれて晴の顔が迫ってきて、晴の唇が俺の唇に触れた。


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