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二人で花火を見た事 晴サイド

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16時に慶喜が迎えに来てくれて、二人で花火大会の会場に来た。会場は家から15分くらい歩いた海岸沿いにある海浜公園だ。公園の前の道が車輌通行止めになって出店が車道に並んで歩行者天国になっていた。会場周辺はもう人集まっていて公園のステージでは市民サークルの出し物がやっていたり、大道芸がいたりする。

花火が上がるのは19時半から30分。観覧席はもう売り切れてるから、砂浜にはレジャーシートがところ狭しと敷かれていてもう場所取りで埋まっている。

「来るの遅かったかな?凄い人だな。一応レジャーシート持ってたけど空いてるかな?」

「空いてなかったら少し離れて立って見たらいいよ。」

空いているスペースを見つけられず、場所取りは諦めてお祭りを楽しむことにした。
公園内のステージでフラダンスを見たり、大道芸を見たりしてから出店を覗いく。

慶喜が射的をして、狙ったぬいぐるみが当たってるのに全然倒れなくて悔しがって倒れるまでしようとするので、そんなにあれが欲しいのか聞いたら全然欲しくないと言うので止めさせた。慶喜は意外に負けず嫌いらしい。残念賞の光る腕輪をもらってお揃いでつけてこそばゆい。
子供の頃好きだったアニメのお面が売ってて、俺が好きだったキャラは今では人気がなくて売ってない事にショックをうけたり。出店のヨーヨー釣りの釣り針についている紙は水に濡れるとすぐ切れる事を知った。俺がやるとすぐ切れるのに慶喜はしっかり2つも釣り上げて得意気に1つくれた。
りんご飴を食べ切れずにいたら、慶喜が残りを食べてくれて、色んな味のシロップを全部かけて微妙な味になったかき氷は二人で一つを分け合って食べた。慶喜が俺の口にばかり入れるので頭がキーンとしたから、今度は俺が食べさせる事になって、慶喜の方が背が高いので屈まないと食べさせられないのにすぐ屈むのを止めるから、襟元を掴んで引き寄せたら襟ぐりが伸びるので止めろと言われてまた慶喜が食べさせる係りに戻った。唇がシロップの色に染まって、二人で笑って、口を開けたら舌も染まってて慶喜が俺の唇を拭いてくれたので、お返しに俺も拭いてあげる。

楽しくて、慶喜と笑い合ってもっとこの時間が続けたくてちょっと無理をした。少しぐらぐらするなとは思っていたんだ。でも、楽しくて気にしなければ大丈夫だったと思ったんだ。夏祭り最後までちゃんと楽しんで花火も見たかったんだ。
夏の終わりの夕暮れ時の色に空の色が変わって来て花火見物のために人が増えて来ていた。もう少ししたら花火が始まって二人で花火を見られるのに、もう限界で立っているのが辛い。

「慶喜。」

人混みの中で辛くて立ち止まって、隣に歩く慶喜の手を握って呼び止めた。少し前に踏み出していた慶喜が振り返った。

「どうした?」

「ちょっと疲れた。」

慶喜が俺に目の前に来て、手を握ったまま覗き込んで来る。

「顔色悪いな。手も冷たいし。晴、具合悪いの?救護所で休ませてもらおう。」

「嫌だ。ちょっと休めば大丈夫だから。」

「……少し歩ける?」

慶喜に導かれ出店の裏手に回って人の少ない所を選んで歩道の縁石に座らされた。鞄から水を出して飲むように促されるが、一口含んで吐きそうだったので止めた。

「いらない。飲んだら吐きそう。」

「……やっぱり、救護所に行こう。」

「嫌だ。花火見たい。それにあっちは人が多くて混んでそうだかり嫌だ。ここで少し休めば大丈夫だから。」

貧血になってるのが自分でもわかる。一度座ったら、もう立って歩ける気がしなかった。まして人混みを抜けて一番混んでそうな本部付近とかまで歩ける気がしない。

「でも、ここじゃ人が多くて暑いから。」

「ごめん慶喜。動けない、」

「じゃあ、冷たい飲み物買って来るからちょっと待ってて」

「いい。離れないで」

離れて欲しくなくて、服を掴んだ。
折角のお祭りで花火なのに、具合が悪くなって慶喜を困らせてる。妊婦なのに楽しむ事を優先してしまった罪悪感もある。自分が嫌になって泣きたくなってきた。でも、子供みたいでこんなところで泣きたくない。涙がこぼれないように深呼吸をする。吸って吐いてを繰り返す。慶喜が隣に座って背中を撫でてくれる。

「大丈夫だよ。」

「ごめん」

「いいから。無理しないでいいから。」

「情けない。迷惑かけてごめん。」

泣き言がこぼれた。それにまた、泣きたくなって来て深呼吸をする。涙引っ込めと深呼吸して気持ちを落ち着かせようとする。

「少し良くなるまで座ってよう。」

「うん」

どんどん増える人混みを二人道端に座り込んで眺める。さっきまであそこにいたのに何だか遠い気がする。別に人混みなんか好きじゃないけどさ。いつもこうやって楽しそうな人の群れを一人で外から眺めていたように思う。
背中を撫でていた慶喜の手が止まって肩を抱かれて慶喜の方に引き寄せられた。

「寄っかかってろよ。」

「うん。ありがとう。」

一人じゃなかった。
慶喜に寄りかかって肩に頭を預ける。汗と柑橘類の匂いがして、慶喜の匂いだなと思って安心する。

「落ち着いたら、もう帰るか?」

「花火もうちょっとしたら、始まるから見たい。」

少し考える様子の後慶喜が言った。

「少し遠くなっちゃうけどいい?ゆっくり見れる所に移動しよう。」

「うん。一緒に見れたらいいよ。落ち着いたから、もう大丈夫。」

そう言ったら、慶喜が嬉しそうに笑った。

「人が増えて来てるから、抜け出せなくなる前に移動しようか?立てる?」

先に立った慶喜が手を差し出す。掴まって立ち上がる。少し目眩がするけど大丈夫そう。手を繋いで人の波に逆らって歩き出す。

「大丈夫?」

「大丈夫。何処に行くの?」

「近くに母さんの入ってるホスピスがあるって前に話しただろ。そこで毎年花火大会の日は屋上でバーベキューしながら花火見るんだ。交ぜてもらおうと思うんだけどいい?」

「俺が行ってもいいの?」

「いいよ。一度施設の人に晴連れて
二人で来ないかって誘われたんだけど断ったんだ。」

「断らなくてもよかったのに、お母さんに寂しい思いさせてない?」

お母さんと花火見たかったんじゃないのかな?俺に気を使うことないのに。

「晴とお祭り二人で回りたかったんだ。」

慶喜の顔が赤くなった。俺もきっと赤くなってる。手汗が酷くて恥ずかしい。離そうとしたら、手を強く握り直された。

「ありがとう。すごく楽しかった。」

「俺もすげえ楽しかった。」

人混みを抜けて歩行者天国を出ても手を繋いだまま海沿いの道を歩く。

「まだ、終わってないけどな。」

「うん」


ふらつく足元を我慢して歩いていたら、慶喜が足を止めて手を離した。しゃがみ込んでこちらに背を向ける。

「乗って」

まさか、おんぶするつもり?

「恥ずかしいからいいよ。」

「嫌がるなら、抱き上げてくぞ。晴がお姫様抱っこの方がいいなら頑張るけど。」

振り向いて意地悪く笑う。お姫様抱っことかマジ無理です。

「ほら、大人しく乗りな。」

いつまでもおんぶを促す慶喜に早々に降参して首に手を回して背中に乗る。

「…お邪魔します。」

「ぷっ!お邪魔します。って何それ。」

俺のお尻を支えて立ち上がった慶喜の背中にしがみついて落ちない様にする。慶喜の背中は俺より広くて温かくて、少し汗で湿っていた。汗と柑橘類の匂いがする。顔を寄せて匂いを吸い込む。いつからか俺を安心させてくれる好きな匂い。

安心して来ると回りが見えてくる。人通りは減ったけど花火に向かうのかすれ違う人が大の大人がおんぶされているのを見てか、じろじろ見てくる。

「恥ずかしいから降りる。慶喜も重いだろ?」

「全然重くない。余裕。」

「いい大人が恥ずかしいよ。」

「恥ずかしいなら目瞑ってな。」

「うん」

言われるままに目を瞑る。
おんぶなんて本当の小さい時にされて以来だ。
目を閉じると慶喜の鼓動が強く意識される。すごいドキドキしてる。服越しに感じる慶喜の体温が
ひどく安心する。



―――――――

目が覚めたら、知らない天井が見えた。
状況がわからなくて見回すと、電気の付いた知らない部屋のベッドに寝かされていた。あまり物のない部屋だ。ベッドの端に慶喜が座っていて目が覚めたのに気が付いて笑った。

「目覚めた?良かった。花火始まる前に起こすか迷ってたんだ。」

おでこの熱を計られ、首筋に触られ体調チェックされて、体調を訪ねられ、大丈夫と答えると冷たい炭酸飲料を渡された。目眩も治まって吐き気もなくなっていた。

「ごめん。俺おんぶされたまま寝ちゃったんだな。ここどこ?」

「ホスピスの空き部屋貸してもらえたんだ。」

空き部屋だから物がないらしい。備え付けのベッドと折り畳みの椅子があるだけだ。

「迷惑かけちゃったな。本当ごめん。重かったよな?」

「余裕で平気。もうじき花火も始まるから一緒に見よう。」

俺が我が儘言って、迷惑かけたのに全然怒らないで笑ってる。なんでこんな優しくするんだろう?いつも俺の事気遣って自分は無理して。最初の事だって俺がヒート起こしてあんな所にいなかったら慶喜に責任なんか感じさせるような事にならなかったのに。慶喜に悪いことなんてなかったんだ。なのに一言もヒートを起こした俺の事責めたことない。

「どうした?やっぱり調子悪い?」

今も何も言わない俺の事を気遣ってる。
優しくされ過ぎて泣きそうになった。

「何でもない。慶喜ごめん。」

涙がこぼれそうで深呼吸をする。何回もするのに治まらなくて、何回も深呼吸してたら息が上手く出来なくなった。
慶喜が背中を擦ってくれる。
どうしよう!?苦しい!

「もう吸わないでゆっくり吐き出して」

言われた通りに吐き出して、

「もう一度吐き出して」

吐き出して、少し楽になってきた。

「少し吸っていいよ。ほら吸いすぎない。もう一度ゆっくり吐き出して」

少しずつ呼吸が出来るようになってきた。

「バカ!なんで泣きたいのに我慢するんだよ。そんな無理して過呼吸起こして。泣きたかったら泣けよ!」

慶喜に怒鳴られた。なんで泣きそうなの気が付くかな。

「泣いてるところなんか見られたくない!」

「俺の前でまで無理するなよ!」

「何なんだよ!あんたが甘やかすから俺は弱くなってるんだよ。一人で大丈夫だったのに何してくれてんだよ!」

「晴を甘やかしたいんだよ。甘えて欲しい!無理しないで欲しい!」

「慶喜だって俺のせいで無理してるだろ!」

疲れてるの知ってるんだ。忙しいのに無理して通って来てるの気付いてる。

「晴のせいじゃなくて晴のためになりたいんだよ。無理なんかしてない。俺が一緒にいたくて、晴の笑ってる顔見たくて俺の為にしてるんだよ。」

「俺ばっかりしてもらうの嫌なんだよ。何も返せないのに慶喜に尽くされて辛い。そんなに笑った顔が見たいならいつだって笑ってるだろ。」

そう言って笑ってやった。

「その嘘臭い無理した笑顔は嫌いなんだよ。なんで無理やり笑うんだよ。泣きたい時も怒りたい時も俺の前では無理して笑わないで泣けよ。怒れよ。」

「嘘臭い笑顔ってなんなんだよ!みんな誤魔化されてくれるよ。俺が泣かないで怒らないで笑ってる方が都合がいいから気付かないふりして笑ってるのに安心するんだよ。あんたも誤魔化されろよ。」

「俺を他の奴らと一緒にするな!俺はお前の特別になりたいんだよ!」

特別ってすごい事考えてたんだな。

「バカだな。俺なんかの特別になったっていいことないよ。」

何だかおかしくなって笑っていた。

「いいことばっかりだ。晴の隣にいられて、嘘臭くない本当の笑顔に俺がしてやれる。可愛い子供まで付いてきて、最高じゃねぇ。」

「はははっ。本当、あんたバカだ。」

「お前の前だけだ。バカやってお前を笑わせられたら嬉しいんだ。」

何を言ってるんだ!すごい照れるんだけど。
照れくさくて慶喜の顔を見ていられない。

その時、

どお~ん!!

大きな音が響いて、窓の外が光った。

「「あっ!花火!」」

すっかり忘れていた。
その部屋は羽目殺しの窓が一面に張られていて暗い海が見えた。

「窓から花火見えるから一緒に見よう。」

慶喜が手を貸してくれてベッドから降りて窓際に行った。夜空に花火が打ち上げられる度に海面に花火が映って真っ暗な海を彩る。

「綺麗」

「うん。見れて良かった。」

「連れて来てくれてありがとう。」

笑っている慶喜に素直にありがとうが言えた。

「どういたしまして。晴と一緒に見られて嬉しい。」

しばらく、無言で花火を見る。

なんとなく触れていたくて、隣に立つ慶喜の手を握った。不思議そうにこちらを見てすぐ目元が柔いで、手が握り返された。その顔を見ていたら愛おしさが募って、握ったままの手を引いて背伸びをして慶喜の唇に自分の唇を押し付けた。
触れるだけの下手くそなキスだ。目の前の慶喜が目を見開いてこっちを見てる。
でもしょうがなくない、俺のファーストキスなんだから。





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