誇りと傷痕

六田の誘い ３

　私は約束のお店の前につくと、店内から現れた六田さんに呼び止められた。

「来た来た～坂梨さんってお酒大丈夫だった？」
「いや…私19歳なんで…」
「あれ？坂梨さんって19歳だった？歳が近いと聞いていたからてっきり20歳かと思ってたよ…」

　福菜食堂はその名のとうり食堂で、和食のお店。夜はお酒に合うお惣菜も豊富で、居酒屋みたいな装いに変わる。なんとなく、六田さんは私より歳上だとは思っていました。だけど、私は何歳に見られていたのかな…まあ、周りの子たちより落ち着いてるとか言われてるから、成人してると思ったのかもしれない。

「六田さんは何歳なんですか？」
「僕は21歳。高校が製菓専攻していたから、卒業と同時に今の洋菓子屋に就職したんだよ。」
「だから…毎年来てるって皆が話してるんですね。」
「えっ？僕噂されてるの？」
「そうですね、六田さんは人気者ですから。」
「えっ？そう？そんな～照れるなぁ。」

　そうこうしていると、奥から六田さんを呼ぶ、スイーツフェアの催事に来ている洋菓子屋の店員さんの一人、六田さんより年上の男性が現れた。

「六田何してるんだよ、注文決めるから早く来いよ。」
「坂梨さん、行こうか。」
「はい。」

　私は六田さんに手招きされて店内へと足を踏み入れ店内奥、お座敷にゆくと、広いテーブルを囲み男女が向かいあって座り、その列の隅、男性陣が座る側の席に見覚えのある男の人が座っていた。

「六田先輩なんで僕を呼んだんですか…」
「「あっ」」

　私とその人、サトちゃんのお兄さんは思わず息ぴったりに叫んでいた。

「坂梨さん、健太は中学の部活の後輩で最近また連絡とり合うようになって、男性陣の数合わせで来てもらったんだ。」

　私は六田さんの話を聞きながら女性陣に目を向ければ、お店の先輩やスイーツフェアーの若い女性店員さんが楽しげに話をしている所。知らない女性もいるから、こちらも数合わせで呼ばれた人もいるのかもしれないと思った。

「六田さん…女性陣もですか？」
「そうだね、フェアーに来てる女の子の友達もいるんじゃないかな？」
「なるほど。」
「健太、よかったな。」

　六田さんは佐藤兄に何故か頑張れと声をかけて遠く離れた席に座り、皆に食事の注文を聞き始めた。

　私は自然と佐藤兄の前に座る事になり、ふと佐藤兄が六田さんに呼ばれた名前が頭をよぎる。

(あっ、まてよ？六田さん、サトちゃん兄を健太と呼んだ？)