3 / 14
1話<オーナーと息子>
2
しおりを挟む食事を終わらせた春樹は伸びをしてそのあとなにかを思い出したように前のめりになり鮎川武蔵の顔色をうかがうように話はじめた。
「親父、確か、この店に2階あったよな?俺が子供の頃、探険した気がする。ここの爺さんに昔貸してたっけ?」
「ああ。そうだったなあ~、美奈ちゃん、今2階どうなってる?」
テーブルにある空いた皿を片付けていた美奈は突然の問いに身をただして、答えた。
「お爺さんがお掃除していたと思いますよ?たぶん今は何も置いてないかと…。」
「俺見てくる。」
「おい春樹!美奈ちゃんの店に住む気か?」
「部屋見て決めるよ。」
「美奈ちゃん、ごめんね。」
「いえ、珈琲、おかわりします?」
「うん。春樹が戻るまでまだいさせてもらおうかな?」
「はい、かしこまりました。」
美奈は空のカップも片付け厨房へと向かい、テーブルは何もない状態になり、武蔵は腕を組んで目を閉じた。まるで精神を統一しているように。
*
「親父、決めた。ここに住む!ちっこい店長の料理も食えるし。」
「ちっこいじゃない、美奈ちゃんだ。」
こうして春樹は新しい住みかを決め、二人は席をたち、お会計を済まして帰っていった。
「ありがとうございました。」
美奈は二人を見送りながら、またあの頬張る姿が見れるのかと思えば嬉しくて口角は勝手に上がり、美奈は口もとを両手で覆いにやけそうになるのを耐えたのだった。
◆ ◆
翌日の夜。閉店直後、今日は会計事務所に務める叔父が私の売り上げの集計を手伝ってくれました。
なれるまではと、叔父が仕事が早く上がれた日にこうして来てくれているわけで、私は報酬としてパンケーキにベーコンと目玉焼きをサンドして叔父の胃袋に納めてもらっている。
するとお店の入り口に営業終了の札がかけているのにも関わらず、鍵をまだ閉めていなかったため、1人の男性が入ってきた。
「すいません。今日の営業は終わりです。」
「終わるの早くね?俺だよ、オーナーの息子の鮎川春樹!」
「あ…」
私が入り口でワタワタと手ばたつかせていると叔父が席をたち、私の前に割って入った。
「姪がお世話になってます。美奈の父の弟で会計事務所をしています、栗田誠二といいます。どんなご用でしたか?」
「あ~どうも。実は…住むところを追い出されて店の空き部屋に住まわせてもらおうかと…」
「そうでしたか、お仕事は何をされて?」
「セキュリティ会社の1社員です。」
「美奈は知ってるの?」
私は叔父の問いに深く頷いた。
「昨日オーナーさんといらしてて、そんな話をされていたかも。」
「春樹さん、姪はこのとうりまだ子供ですが、爺ちゃんこでして、店を引き受けてしまって、まだ危なっかしいんです。夜も遅いと酔っぱらいでも来ると大変ですから時間は夜7時までと決めているんですよ。強そうな春樹さんがいてくださるなら私も安心です。私は姪が経営になれるまではこうして合間に教えているので、気になさらないでくださいね。」
「はあ、突然すみませんでした。でも、本当に住むところがないので今日からいいかな?」
最初意気揚々と入って来た春樹さんでしたが、真面目な叔父を前にして少しだけ遠慮がちに私をみました。大型犬が耳を下げていいかな~って聞いてるみたいで一瞬私は可愛いと錯覚してしまった。
「大丈夫ですよ。よろしくお願いします。」
私は春樹さんに頭を下げ、春樹さんもペコリと私と叔父に頭を下げると足早に厨房奥の階段から2階に上がっていったのでした。
しばらくして、叔父も帰り、私は階段下から春樹さんに挨拶をして裏口から帰ることにした。
さっき叔父に作ったパンケーキサンドと同じものを作って厨房の台に『良かったら食べてください。』とメモを残して帰宅した。
*
朝が来て出勤して入った厨房には、パンケーキを置いていた皿が空の状態であり、私の残したメモの端には『ごちそうさまでした。』とかかれてあって、思わずにやけてしまった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
もしもしお時間いいですか?
ベアりんぐ
ライト文芸
日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。
2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。
※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
良心的AI搭載 人生ナビゲーションシステム
まんまるムーン
ライト文芸
人生の岐路に立たされた時、どん詰まり時、正しい方向へナビゲーションしてもらいたいと思ったことはありませんか? このナビゲーションは最新式AIシステムで、間違った選択をし続けているあなたを本来の道へと軌道修正してくれる夢のような商品となっております。多少手荒な指示もあろうかと思いますが、全てはあなたの未来の為、ご理解とご協力をお願い申し上げます。では、あなたの人生が素晴らしいドライブになりますように!
※本作はオムニバスとなっており、一章ごとに話が独立していて完結しています。どの章から読んでも大丈夫です!
※この作品は、小説家になろうでも連載しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
東野君の特別
藤谷 郁
恋愛
大学受験のため名古屋の叔母宅を訪れた佐奈(さな)は、ご近所の喫茶店『東野珈琲店』で、爽やかで優しい東野(あずまの)君に出会う。
「春になったらまたおいで。キャンパスを案内する」
約束してくれた彼は、佐奈の志望するA大の学生だった。初めてづくしの大学生活に戸惑いながらも、少しずつ成長していく佐奈。
大好きな東野君に導かれて……
※過去作を全年齢向けに改稿済
※エブリスタさまにも投稿します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる