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11<子羊の嫁入り>③

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 翌日の昼。イリザとの再会にサリアは少し緊張したが、屋敷の外の広い場所で魔導師長直々の指導が始まった。とはいっても、魔法の指導の前の魔力を集める基礎を教える(=変身のコントロールに繋げる)のが今回のイリザの役目だった。

 屋敷の敷地内、芝生の広がる空間に向かい合って椅子が置かれ、向き合ってそれぞれの椅子に座ると、初級の精神の集中による魔力集めの訓練を開始した。

「最初は精神を集中することから初めましょう。」
「どうするんですか?」
「目を閉じて、空を飛ぶようなイメージをしてください。」
「はい。」

 サリアは、ギュッと目を閉じて唸るようにすると、イリザは、くすりと笑い席を立つとサリアの前に立ち止まり膝に置かれた手が目一杯力を込めて拳を握っていたため、イリザは視線を合わすようにしゃがみこみ、その拳を優しく両手で包み込んだ。

「はうっ。」

 サリアは驚き目を開けかけるとイリザは、「目を閉じて。」そう言われてサリアは、顔を赤くしながら言われるまま目を閉じていた。

「サリア様、深呼吸をしましょう、落ち着くまで続けてください。青空を思い描いてください。」
「はい。すぅーはぁーすぅーはぁー。」

 サリアは、言われるまま青空を思い描いた。

 幼い頃、草むらで子羊に、初めて変化した日の事を思い出す。

 (お父様に叱られて、私は初めての反抗期、腹がたって、言い返そうとして羊になってしまった。混乱して庭に飛び出して…幼い私は気がついたら草むらで人の姿に戻っていた。裸だったけど気にもしない年頃だったから、侍女に見つかるまで空の雲を眺めていたのよね。)

 体の中身が空に吸い込まれてしまうような不思議な感覚。風も吹いていて空の雲は泳いでいるようで、サリアも空に浮いているような…心はふわふわと浮いて雲を追いかける。

 サリアはそのとき見た空を脳裏に思い描き続ければ、やがで胸の奥が熱を持ち始める。力が集まるような感覚だった。

「浮かびました。」
「ではそのまま青空の空気を体内に力を吸い込むように意識を集中させてください。」

 サリアは脳内に響くイリザの声を素直に聞き入れ、深呼吸を繰り返し、集中すると…体は徐々に熱を持ち、それは心臓の奥へと集まり始めた。

「熱いです。」
「今日はここまでにしましょう。」

 パンパンパン!

 イリザの声のあと、続いて聞こえる手を叩く音に、サリアはびっくりするように目を開けた。

 目の前にはイリザが直立し、目を開けたサリアに深々と頭を下げた。

「お疲れ様ですサリア様。今日はここまで。これを次私が来るときまで続けてください。やり過ぎは体力を消耗しすぎてしまいますので気をつけてくださいね。」

 サリアはイリザを見送り、翌日から、言われたとうり、イリザからの宿題を欠かすことなく毎日行った。

 サリアはイリザが来るまでの1ヶ月の訓練のおかげか、一度も子羊に変わることがなかった。なぜなら、興奮を抑えるために、『深呼吸を繰り返し青空の空気を体内に力を吸い込むように意識を集中させて、体は徐々に熱を持つ~』習慣づいた行為が子羊にならないよう制御できるようになったからだった。

 次のイリザとの授業でその訓練した要素をもとに、子羊になったり人間に戻ったりコントロールする訓練を行い、また次会うときまでの宿題としたのだった。

 こうして一年がかりでイリザの指導のもと、サリアは見事悩みを克服させ…ようやく結婚の日取りも決まり当日を迎えたのだった。

   ※

〈当日〉

 羊の神様を信仰する教会にサリアとラーズが華々しく着飾り貴族たちの前に現れた。

「お似合いのお二人ですわね。」
「サリア様なんて素敵なの?ドレスもだけど、なんて無垢な笑顔を国王陛下にむけているの?」
「あの悪魔と言われた王が、ああも変わるものなのか。」

 人々は次々にそう呟いていた。

「「「国王陛下、王妃陛下バンザーイ!」」」

 教会からありわれた二人は、祝福を受けながら、迎えに来たり白い馬車を前に、ラーズは小柄なサリアをヒョイとお姫様抱っこして馬車に乗りこんだ。

「ひゃっラーズ様。」

 サリアはラーズの腕の中で顔を赤くした。しかし、子羊に変わることなく二人は馬車に乗り込んだ。

「サリア、頑張ったね。」
「いえ、まだまだ頑張ります!まだ日が沈むまで長いですから!」

 サリアは馬車の中でもラーズの膝に乗せられたままそう告げると、ラーズは初夜を迎えるのだと、既に気持ちは高ぶっていた。

 しかしサリアは初夜のことよりも、今日1日体をコントロールすることに必死で、ラーズの様子が普段と違うことにキスを何度もされても、気づかずに…誰もが心配していた初夜。サリアは無事体をコントロールすることをやりきったと同時に、初夜の意味を実感したのだった。

 こうして二人は『無事』結ばれ、数ヶ月後…あっとゆうまに子を身ごもった。

 臣下や父である宰相も、子羊の花嫁サリアが本当に体質改善をやりきった事を実感。ようやく国の明るい未来が見えた気がした。かつて悪魔の王と呼ばれた王は…今では強くて優しい羊の王様。民から慕われ二人はいつまでも幸せに暮らしたのでした。

〈おしまい〉

_______________________



 文章が長い中、お読み下さりありがとうございました。

   *yu-kie*
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