上 下
5 / 11

5 <会食と提案>

しおりを挟む


 ラーズの母、皇太后は、夫を亡くしてしばらくすると、辺境の地にある皇太后の兄が治める領地の屋敷で余生を送っていたのだが…この度、息子である現国王のラーズの婚約が順調に進んでいることを聞き、ラーズに手紙を送った。

『国王陛下と婚約者の令嬢が順調に愛を育んでいるか確かめるため、二人に会いに王都へ行く』と。

 リアシア邸では、リアシアの父が顔を青くして帰宅した。出迎えたサリアと妻を前にし、リアシアの父は二人の前に開かれた手紙を差し出した。

「お父様?」
「あなた…あらやだ。サリア、国王陛下の会食の招待ですわね。」

 サリアの父の手にはラーズが書かれたと思われる手紙が広げられ、明日の夜の会食に宮殿に招待すると書かれていたのを目にし、サリアは驚き、興奮して思わず二人の前で子羊に変身してしまったのだった。

     *     *

 翌日、昼過ぎに迎えの馬車がリアシア邸に到着し、目一杯お洒落をしたサリアは馬車に乗り込んだ。

 馬車はお城の近くにある宮殿前に止まり、ラーズの秘書がサリアを迎えた。

「サリア様ようこそお越しくださいました。国王陛下はまだ公務の途中のため少し遅れるそうです。中をご案内いたします。今日は皇太后陛下がお見えですので、お二人でお話でもしてお待ちください。」
「ラーズ様のお母様…わかりました。」

 サリアは何度も深呼吸をし、心を落ち着かせながら、秘書のあとをついて行くと、途中、侍女長が直立して出迎えた。

「ご案内ご苦労様です。これよりわたくしがリアシア様をご案内いたします。お部屋はすぐそこです。さあ。」

 秘書は一礼するともと来た道を戻ってゆき、サリアは侍女長の案内で皇太后の待つ部屋へと入ったのだった。

     *

 サリアは案内されるまま部屋にはいるとテーブルを前に席につく女性が1人、優雅に侍女が用意したティーカップに口をつけ読書中、侍女長の挨拶で、ようやくカップをテーブルに置きこちらに振り返った。

「皇太后陛下様、国王陛下の婚約者サリア様をお連れしました。」
「サリア・リアシアです。」

 サリアが挨拶をしたのち深々と頭を下げると、皇太后が立ち上がった。

  栗色の髪の高価なドレスを着た50代の女性がサリアの前に来ると栗色の瞳を細めて微笑んだ。

「まあ、側近の皆さんが推薦されただけありますね。息子と同じ髪色だなんて…それにとっても可愛らしいわね。」

「あ、ありがとうございます!あの…皇太后様は、この国の方なのですか?」
「ええ。ですが羊の獣人の血はとっても薄いのです。人間が多くすむ辺境の地から嫁いできたのです。」
「そうなんですね。」
「まあ、一緒に座りましょ?初めてですから私の事を知って欲しいですわ。」
「はい!教えてください。」

 二人は隣り合わせで座り、気さくに話しかける皇太后は、ラーズが国王になり、仮面を被るようになった経緯を話始めたのだった。

    *

 皇太后の名はリリシア。彼女は羊の獣人の血筋としてはとても薄く、人間の血を濃く持つため、獣化できない娘だった。この国で浮かないよう、必死に勉学に励み、その努力が認められ城に使えるようになり最終的には司書を勤めるようになっていた。

 ラーズの父ビクトが王子の頃リリシアと恋に落ち回りの反対を押しきり結婚した。ビクトは羊の獣人の王の後継者だが体が弱かった。国王になる頃には病気がちになり、体の弱い国王と、羊の獣人の血の薄い、ほぼ人間の王妃に側近達を始めとするミュリ国の民は行く末を心配していた。

 生れた王子はここ100年近く見なかった乳白色の髪を持つ羊の獣人の本来の髪色を持つ男の子だった。

 しかし、人間と弱い国王の子供だと、不安がる民達を見てきた王妃は学園に通い始めた角が生えはじめた少年ラーズを強く見せるために、彼に見た目から入るようまずは仮面をつけることを勧めたのだった。

このころから見た目を邪悪化させて見せる事を覚えた。

 冷たい言葉遣いと、黒い角を生やした王の被る羊の仮面。それにより悪魔と呼ばれるようになり、恐れられ始めたのだった。

     *

 サリアは思った。
(そんな、ラーズ様のお母様は悪くない!お父様だって。二人からもらった姿をそんな風に隠さなきゃならないなんて…ラーズ様は仮面がなくても素敵で自分の羊の分身だって出せるんだから!あっ。)

「皇太后様…ラーズ様が仮面がなくても強く見せる方法あるかもしれません。勿論お強いことは知っていますが、それを国民にも伝わるように表現できればいいですよね。」
「本当に?」
「はい。実は…」

 サリアはリリシアの耳元に顔を寄せごにょごにょと話始めた。

「まあ、分身をそばにおくのね?」
「はい。ラーズ様に相談してみようかと。」
「あの子はそろそろ帰って来る頃かしら?戻ってきたら早速、聞いてみましょ?」

 ラーズは宮殿に待つサリアを思いながら会議を終え、慌ただしく帰路についた。

     *

 ラーズは母親が帰って来ていることを思いだし、宮殿に入って部屋の前で一度立ち止まり深呼吸して中へと入った。

 二人がどんな様子か…サリアが居づらくないかそんな心配をしながら入った部屋には二人は本来座る席ではない隣に並んで座り和やかにお茶をしていた。

「ラーズ様、おかえりなさいませ。あっ、皇太后様にお話しした案があるんです!」
「まあまあ、サリアさん、食事をしながらにしましょう。国王陛下もよろしいかしら?」
「…はい。」

 リリシアは席をたつとサリアと向かい合わせの席に座り直した。

テーブルには夕食の準備が整い、静かに食事が始まり、侍女達は一旦部屋をあとにし、リリシアとサリアとラーズの三人だけになり、ラーズは仮面をはずしテーブルの端に置くと、食事をしながらサリアの提案に耳を傾けたのだった。

 その日のサリアの提案に、今まで思いつかなかったことに苦笑いした。

 そうして数日後のラーズの誕生日に行われる行事でラーズは実践することになるのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

《完結》転生令嬢の甘い?異世界スローライフ ~神の遣いのもふもふを添えて~

芽生 (メイ)
ファンタジー
ガタガタと揺れる馬車の中、天海ハルは目を覚ます。 案ずるメイドに頭の中の記憶を頼りに会話を続けるハルだが 思うのはただ一つ 「これが異世界転生ならば詰んでいるのでは?」 そう、ハルが転生したエレノア・コールマンは既に断罪後だったのだ。 エレノアが向かう先は正道院、膨大な魔力があるにもかかわらず 攻撃魔法は封じられたエレノアが使えるのは生活魔法のみ。 そんなエレノアだが、正道院に来てあることに気付く。 自給自足で野菜やハーブ、畑を耕し、限られた人々と接する これは異世界におけるスローライフが出来る? 希望を抱き始めたエレノアに突然現れたのはふわふわもふもふの狐。 だが、メイドが言うにはこれは神の使い、聖女の証? もふもふと共に過ごすエレノアのお菓子作りと異世界スローライフ! ※場所が正道院で女性中心のお話です ※小説家になろう! カクヨムにも掲載中

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します

水空 葵
ファンタジー
 貧乏な伯爵家に生まれたレイラ・アルタイスは貴族の中でも珍しく、全部の魔法属性に適性があった。  けれども、嫉妬から悪女という噂を流され、婚約者からは「利用する価値が無くなった」と婚約破棄を告げられた。  おまけに、冤罪を着せられて王都からも追放されてしまう。  婚約者をモノとしか見ていない婚約者にも、自分の利益のためだけで動く令嬢達も関わりたくないわ。  そう決めたレイラは、公爵令息と形だけの結婚を結んで、全ての魔法属性を使えないと作ることが出来ない魔道具を作りながら気ままに過ごす。  けれども、どうやら魔道具は世界を恐怖に陥れる魔物の対策にもなるらしい。  その事を知ったレイラはみんなの助けにしようと魔道具を広めていって、領民達から聖女として崇められるように!?  魔法を神聖視する貴族のことなんて知りません! 私はたくさんの人を幸せにしたいのです! ☆8/27 ファンタジーの24hランキングで2位になりました。  読者の皆様、本当にありがとうございます! ☆10/31 第16回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。  投票や応援、ありがとうございました!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...