4 / 22
4
しおりを挟む謁見の間での会話のあと、シアンがリシアを迎えにやって来て、リシアはシアンと仲良く手を繋いで部屋をあとにした。
リシアが去った謁見の間には、国王アースとガイアのふたりきりとなり、アースはリシアの匂いに興奮を抑えているガイアに呆れたように話しかけた。
「冷静になりなさいガイア。」
「ではなぜ…彼女を人質に、別のものでも良かったんじゃないですか…」
ガイアは未だリシアの匂いのする部屋に興奮しながらアースを恨むように睨んでいた。
「お前は最強の騎士、私の懐刀だ。お前は昔から獣の血が騒ぐのか…人間に過剰に反応していたが…2年前に届いたあの手紙の反応は実に興味深いものがあったぞ。」
「悪趣味な!」
「かっかっか!どうとでも言いなさい。二人きりの今だけは許そう。そういえば…ガイアよ、もうすぐ誕生日だな、」
「はい、25歳になります。」
「リシア王女は17歳になったばかりだそうだ。彼女は城の屈強な獣人たちに物怖じしない娘のようだ。」
「それが何か?お話がそれだけなら私は訓練所に向かいます。部下に指導をつける約束なので、失礼いたします!」
ガイアはアースを残し、謁見の間を後にした。
「父上は何を言ってるんだ!」
ガイアは城から出たところで一旦足を止めた。
「匂いが消えた…」
謁見の間を出て、リシアの匂いが薄れ、次第に思考は冷静さを取り戻していった。
(あの匂い…手紙の時には美味そうな匂いだと思うだけで済んだのに…実物がここへ来ただけで私はこんなにも貪欲になるものなのか…もっと匂いを嗅いで私に何が起きているのか確かめたい。)
「明日から、図書館か…合間に少し行ってみるか。」
訓練所へと再び歩き始めたガイアの尻尾は僅かに揺れ足取りは僅かに軽やかだった。
*
この頃、離宮の敷地内に建てられた立派な屋敷にリシアとシアンは到着し、家のドアの前には料理人と執事がリシアの到着を歓迎した。
料理人はもふもふした毛皮とくるんと丸まった黒い角を生やした羊の獣人、人間と同じようにコック服を身に着け胸のあたりの大きな膨らみから女性だと判別されるその料理人は、『メェー』と鳴いて出迎えた。
執事は黒い狼の半獣人、姿は人間で尖った獣耳の黒く長い髪を後ろに束ねた燕尾服の似合う成人した女性。中性的で男装の麗人を思わせる執事は、もふもふとした毛の長い尻尾をくるくると振りながらも、クールな表情の、まま『おかえりなさいませお嬢様』と、一礼して出迎えた。
リシアは、シアンとの再会にテンションを上げていたのだが個性的な面々を前に興奮を抑えるようにドレスの裾をつまみ膝をおるようにお辞儀した。
「リシア・マナと申します。今日よりよろしくお願いします。」
侍女のシアンはリシアをよく知るため大丈夫なのだが、料理人と執事の2名はこの国では珍しい人間に戸惑い、我儘だったらどうしようかと不安でいたが、可愛らしい容姿とその仕草に安堵し、思わず胸をきゅんきゅんさせた。
1
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる