豹*獣人騎士の寵愛

yu-kie

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 謁見の間での会話のあと、シアンがリシアを迎えにやって来て、リシアはシアンと仲良く手を繋いで部屋をあとにした。

 リシアが去った謁見の間には、国王アースとガイアのふたりきりとなり、アースはリシアの匂いに興奮を抑えているガイアに呆れたように話しかけた。

「冷静になりなさいガイア。」
「ではなぜ…彼女を人質に、別のものでも良かったんじゃないですか…」

 ガイアは未だリシアの匂いのする部屋に興奮しながらアースを恨むように睨んでいた。

「お前は最強の騎士、私の懐刀だ。お前は昔から獣の血が騒ぐのか…人間に過剰に反応していたが…2年前に届いたあの手紙の反応は実に興味深いものがあったぞ。」
「悪趣味な!」
「かっかっか!どうとでも言いなさい。二人きりの今だけは許そう。そういえば…ガイアよ、もうすぐ誕生日だな、」
「はい、25歳になります。」
「リシア王女は17歳になったばかりだそうだ。彼女は城の屈強な獣人たちに物怖じしない娘のようだ。」
「それが何か?お話がそれだけなら私は訓練所に向かいます。部下に指導をつける約束なので、失礼いたします!」

 ガイアはアースを残し、謁見の間を後にした。

「父上は何を言ってるんだ!」

 ガイアは城から出たところで一旦足を止めた。

「匂いが消えた…」

 謁見の間を出て、リシアの匂いが薄れ、次第に思考は冷静さを取り戻していった。

(あの匂い…手紙の時には美味そうな匂いだと思うだけで済んだのに…実物がここへ来ただけで私はこんなにも貪欲になるものなのか…もっと匂いを嗅いで私に何が起きているのか確かめたい。)

「明日から、図書館か…合間に少し行ってみるか。」

 訓練所へと再び歩き始めたガイアの尻尾は僅かに揺れ足取りは僅かに軽やかだった。

     *

 この頃、離宮の敷地内に建てられた立派な屋敷にリシアとシアンは到着し、家のドアの前には料理人と執事がリシアの到着を歓迎した。

 料理人はもふもふした毛皮とくるんと丸まった黒い角を生やした羊の獣人、人間と同じようにコック服を身に着け胸のあたりの大きな膨らみから女性だと判別されるその料理人は、『メェー』と鳴いて出迎えた。

 執事は黒い狼の半獣人、姿は人間で尖った獣耳の黒く長い髪を後ろに束ねた燕尾服の似合う成人した女性。中性的で男装の麗人を思わせる執事は、もふもふとした毛の長い尻尾をくるくると振りながらも、クールな表情の、まま『おかえりなさいませお嬢様』と、一礼して出迎えた。

 リシアは、シアンとの再会にテンションを上げていたのだが個性的な面々を前に興奮を抑えるようにドレスの裾をつまみ膝をおるようにお辞儀した。

「リシア・マナと申します。今日よりよろしくお願いします。」

 侍女のシアンはリシアをよく知るため大丈夫なのだが、料理人と執事の2名はこの国では珍しい人間に戸惑い、我儘だったらどうしようかと不安でいたが、可愛らしい容姿とその仕草に安堵し、思わず胸をきゅんきゅんさせた。

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