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しおりを挟む白豹ガイアはリシアを先導する中、2年前に伝書鳥から受けとった手紙のことを思い出していた。
(同じ人間の匂いだ。甘くて美味そうな女の子の匂い。まさか王女だったとは…あの時陛下にシアンからの手紙の報告で、匂いのことを話したな…)
*
<2年前クラ国にリシアの手紙が届いた日>
伝書鳥がガイアのもとへ戻って来た時、伝書鳥はいつもと違う紙質の手紙を足に結びつけられていた。
シアンが侍女として潜入した際の主人リシア・マナからの手紙。何も知らないだろう彼女は親切にシアンがいなくなった報告を書いていた。
「手紙に人間の美味しそうな甘い匂いがついている。リシア・マナ、どんな女だろう。」
その場にいた…全身白に黒い模様の広がる豹の獣人国王はガイアの反応を興味深げに見つめていた。
ガイアはその日、無意識に出た言葉から、国王がリシアを人質に指名することになるのだった。
*
<話は戻りリシアを先導するガイア>
(匂いが鼻についてたまらなくなる。もっと近くであの日の手紙からした同じ匂いを嗅いでみたい。しかし、今は耐えよう…大切な人質に手を出すわけにはいかないからな…だが、なんて小さくて脆そうなんだ。)
ふと後ろを振り返るガイアがリシアに目を向ければ、リシアはガイアの太く毛に覆われた揺れる尻尾に釘付けだった。
「何だ?謁見の間はすぐそこだ、いくぞ。」
「あっ、失礼いたしました…!」
ガイアは、リシアの異変に特に気付くことなく再びリシアに背を向け歩きだす。
リシアは尻尾に伸ばしかけていた手を急いで引っ込め、ガイアの後を追い、間近に来た謁見の間へと入室したのだった。
リシアが謁見の間へと入ると、玉座に座るクラ国の王がリシアを迎えた。
「陛下、リシア・マナ王女をお連れしました。」
「本日よりお世話になりますリシア・マナと申しますよろしくお願いいたします。」
リシアはガイアに紹介されると深々と頭を下げた。
「ようこそリシア王女。私はクラ国が王、アース・クラである。あなたには人質としてここに迎えている為行動には制限がある。もしも希望があるなら、今なら聞こう。」
顔を上げたリシアは満面の笑みで答えた。
「国で1番大きな図書館で本を読みたいです。人質の身ですから、働いて生計をたてなくてはいけないのでしたら、図書館の管理のお手伝い、させてください!!」
リシアは迷いなく即答し、国王アースは王女の《働いて生計をたてる》との発言に、思わず笑いがこみあげた。
「がっはっは!一国の王女が働くと?」
「はい。他国へ来たなら養っていただくわけにはゆかないのではないかと…国民も税をそのような事に使われたら反発が起きるというものです…よね?」
リシアは言い切ったものの、最終的に言った言葉に間違いはないか不安になり、思わず最後は言葉を濁し、更に笑うアースは深呼吸を繰り返したのち、リシアに告げた。
「気に入った。城の図書館が国内で1番大きな場所だ。丁度人手が足りないと聞いているから、そこに明日から行きなさい。あと住まいだが…王女の家を用意した。離宮の隅にある屋敷一軒だ。好きに使いなさい。後で専属の護衛兼侍女のシアンをこさせる、屋敷には料理人が1人執事が1人ついている。うまく使うといい。」
「ありがとうございます。」
リシアはアースの寛大な対応に驚き目を丸くさせ再び頭を下げたのだった。
こうしてリシアの新たな生活が始まろうとしていた。
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