魔女に惚れた冷酷将官の求愛

yu-kie

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5話【遺跡への道中】*

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 数日後、国内の発掘隊によって発見された神殿跡の地下に、生きた古書が発見され、収集に力を貸して欲しいとヨナは将官たちの会議に呼ばれて要請された。

 同行する際、従魔のルーにのって行く許可をもらい出発することになる。その間は従魔となった蝙蝠と鳩に図書室の管理を託し、その間は『図書室外への貸し出しは無し』『図書室内での利用のみ』としたのだった。

  * ・* ・ * ・ * ・* ・ * 

 ヨナは藍色のフードつきロングコートに紫色のワンピースと、旅立った時と同じ服装で、久しぶりの外出に少しだけうきうきした気分になっていた。巨体の狼、ルーの背にのり、騎士の一団に同行している。神殿跡に向かうのは中将率いる騎士のみで形成された一団。今回の捜索は重要な書物を扱うため、中将が率いる騎士団が行くことになり、騎士の一人がヨナを誘導するように並走し、目的地に向かう途中、気にかけて、時々声をかけてきた。

「あなたの従魔はこのペースで大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫だと思います。ペースも速くないですからルーもまだ余裕があります。そう言えば、兵士のかたは今日はいないんですね?」

 「ええ、戦いに行くわけではないですから。」

「そうなんですね。」

 そうして、会話が一区切りつき、騎士は前を向くと、ヨナたちから少しだけ距離を取り、一団の列に入って行く途中、一団は林の整備された広い道を抜ければ、その先には草原が広がり岩が所々に転がっている。そこで小休憩をすることになり、先を走る先導者に中将が声をかけた。

「ここでいいだろう。」

 先導者は慌てて止り後ろへ向けて声をかけた。

「この辺りで休憩にします!」

 一団の馬は足踏みをし、足が止まると皆馬から降り、中将も馬から降りた。

 ヨナは見覚えのある場所である事にきがついた。

(ここはたしか元恋人ユシークがよく商売に来ていた町。商会が近くにあったはず。立ち寄る訳じゃないから、大丈夫よね。)

 ヨナは岩場に腰かけすり寄るルーの首筋を優しく撫でながら姉たちに会うことなく早く立ち去りたいと願いながらキョロキョロと辺りを見渡せば、草を食べる馬や持参した水筒の水を飲む騎士達が目に入り折り畳みの椅子に座る中将ルイスが視界に入れば、距離があったはずのルイスは立ちあがりこちらへと向かい歩き始めた。

「ヨナ殿…何かあったか?」

 ルイスは一見無愛想だが、唯一気にかけているヨナへ声をかけ、見た目には睨むように見下ろすように見えるルイスの姿に皆息をのんだ。

「知人の商売先が近くで…」

 ヨナはユシークに会わないか心配で顔色悪く下を向くと、ルイスはヨナの前に屈み耳元へと囁いた。

「言いにくいんだが、何かを恐れているのか?」

「はい。会いたくない人が…あっ、きにしないでください。」

「男か?」

 ヨナは耳元での囁きのフレーズに思わず振り返れば、そこには少しだけ悲しそうな目をするルイス・ガーゼルの顔が間近にあった。ヨナは周りの目も気になっていたためルイスに笑顔を向けた。

「心配をお掛けしてすみません。」

 ルイスは顔を赤くし立ち上がると、もといた場所へと向かい、周りを見回し叫んだ。

「出発する準備をしろ!」

 ヨナは数秒間近にあったルイスの顔が目に焼き付いて胸がキュンと締め付けられた。

(心配をかけてしまったみたいあんな表情されたら、困っちゃう。)

 出発準備中、一団に向かい駆けてくる赤ん坊を連れた一組の夫婦にヨナは顔を青くさせた。赤ん坊を抱く…ヨナと同じ【紫色の瞳】の容姿がヨナによく似た女性と、ヨナと同じ【白銀の髪】の優しそうな男性。

「あ!ヨナよ!」
「ヨナ!」

 ヨナはそこから背を向けるようにし、フードをギュッと深くかぶり、知らないふりをして、騎士たちの出発を待っていたら、馬にまたがる中将ルイスが騎士達の間を通ろうとした夫婦の前に立ちはだかった。

「何者だ!我々は誇り高きナハース国の騎士!それを妨害するか?」

 騎士たちは馬にのり、夫婦は慌てて彼らから距離をとるなか、ヨナは間近にいる中将を見上げた。

「出発をしよう。だが、このまま去れば気まずくなるぞ?」

 ルイスはヨナに告げたあと、少し距離を取って見守る夫婦に視線を向けた。

「はい。」

 ヨナは従魔のルーにまたがり、夫婦の間近まで行くと必死で笑顔をつくり小さくひと言呟いた。

「私は居場所を見つけたから、安心して?」

 ヨナは手を降り彼らから離れた。騎士達の列へと入っていけば、中将ルイスの横を走る形になり、ルイスは右手を伸ばしてヨナのフードの上からくしゃりと頭を撫でた。まるでヨナを励ますように。

「さあ、行こうか…」
「はい。」

 フードはふわりと落ち、白銀の髪を靡かせたヨナはとても嬉しそうにルイスへ笑顔を向け、ルイスもまた、はにかみ小さく頷いた。

 騎士達は初めてみる、中将の様子に動揺しながら、目的地へ向け走り続けたのだった。

・ * ・* ・ * ・

 草原を抜け、森の奥には山の岩肌が壁のように広がり、山頂からの水が滝となって地上の池へと落ちて行く。その滝を横に、先に進めば廃虚となった柱や壁の残骸の残る神殿跡に辿り着くと、そこは草木が絡み蔦が延び放題。

 騎士たちは馬から降り、ヨナもルーから降り、ルーを連れて騎士達の後を追う。今も残る神殿の大理石の床を進めば、ぽっかり空いた穴があり、地下へと続く階段が伸びていた。
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