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4話。
しおりを挟むシュガー・ハリギスはこの日、騎士団の討伐部隊に加わった。
シュガーは辺境の地パルクスの中で案内するだけなのかと思っていたのだが…馬車にのり、やって来たのは王都。シルハスが出発前、シュガーに話していたことがあった。
『リヤージュ殿下が魔獣使いを必要としている。今は蜥蜴の魔獣討伐に赴かれているが、専属で他の討伐にも参加してもらいたいそうだ。心してゆきなさい。』
馬車には大きなバッグもあり、護衛の騎士が同行している。しかし、王都に入り、目的地に付き、シュガーが荷物を持って降りれば、護衛の騎士は整列をし、シュガーに敬礼をした。
「我々が共に行けるのはここまでです。ここではお守りできませんが御武運を。」
隊長が敬礼をすれば残りの騎士たちもお辞儀し、空になった馬車を御者が引き動き始め、シュガーは手を振りそれを見送った。
手紙によると騎士団の宿舎に行くようにと書いてあり、シュガーは宿舎の前にたどり着いた。
「ようこそ~グレース荘へ。」
正面玄関で出迎えてくれたのは宿舎の管理人のふくよかで、包容力のある、30代の女性だった。
「は、はじめまして、シュガー・ハリギスと申します。」
「可愛いお嬢さんね、いつまでもつかしら。」
エプロンをつけたその人は荘の通路をはたきを持って現れた。
(えっ?何を言ってるのかな?)
「あの~」
「ああ、ごめんなさい。私はグレース荘の管理人、ヨハン・リジェです。お部屋に案内するわね。」
さっきの意味深な言葉がなかったかのように、柔らかい笑顔をシュガーに向けるヨハンはシュガーの前を歩き、階段を上がり2階の奥の部屋へとシュガーを案内した。
部屋は広くも狭くもない。ベッドもあり、洋服をいれるための家具も備え付けてあった。
「食事は一階中央の食堂よ。服の洗濯は右の部屋。シャワーは左の部屋男性用と女性用があるから。どれも一階にあるからね。お仕事は明日からでしょ?まあ頑張ることだね。」
シュガーは満面の笑みでスカートの裾をつまみ領主の娘らしく上品にお辞儀をした。
「じゃあね、お嬢さん。」
ヨハンはシュガーに背を向け、てを軽く振りながらその場を去った。シュガーはまた1人になり、寂しく感じながら、自分の部屋に入り荷物を片付け始めたのだった。
*
シュガーはこの日、昔の思い出の詰まった夢を見た。
辺境の地は緑が豊かで、屋敷を抜け出した10歳のシュガーは町から離れた場所にある、あまり人が来ない林に入り込み、小動物と戯れていた。
そこへ白銀の髪と瞳の貴族を思わせる13、4歳の少年が迷いこんだ。
「君はここの子?僕はリヤージュ。君は動物が好きなんだね?」
「こんにちは。私はシュガーですぅ!動物はお友達だよ。」
「そうなんだ、僕は父の用事に同行しているんだけど…大人とばかりいるから…、僕も君の友達にしてくれる?」
「え?」
驚いたシュガーは首をかしげ、少年は次の瞬間、シュガーの前でまだ幼さが残る獅子へと姿を変えた。白銀の毛の、真ん丸の白銀の瞳。
「はわわあ~可愛い!」
「がう!友達になってくれる?僕と友達になると…もれなくもふれるよ。」
シュガーは獅子の子リヤージュに抱きつきもふもふを堪能し、しばらくして、リヤージュは迎えが来て、シュガーと別れた。
*
夢から覚めたシュガーは、暗くなった部屋、ベッドから起き上がり…記憶をたどる。
「リヤージュ…って、あのリヤージュなの?」
シュガーは、ベッドに座り込み、両手を見つめ、もふもふの感触を思い出そうとしていた。
「私が忘れていた昔の記憶。彼は覚えているのかな?また…もふもふできるのかな?」
また夢を思いだし、シュガーはベッドに伏せ、枕をかぶり足をばたつかせて興奮し、やがて疲れて深い眠りについたのだった。
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