上 下
4 / 14

4話。

しおりを挟む

 シュガー・ハリギスはこの日、騎士団の討伐部隊に加わった。

 シュガーは辺境の地パルクスの中で案内するだけなのかと思っていたのだが…馬車にのり、やって来たのは王都。シルハスが出発前、シュガーに話していたことがあった。

『リヤージュ殿下が魔獣使いを必要としている。今は蜥蜴の魔獣討伐に赴かれているが、専属で他の討伐にも参加してもらいたいそうだ。心してゆきなさい。』

 馬車には大きなバッグもあり、護衛の騎士が同行している。しかし、王都に入り、目的地に付き、シュガーが荷物を持って降りれば、護衛の騎士は整列をし、シュガーに敬礼をした。

「我々が共に行けるのはここまでです。ここではお守りできませんが御武運を。」

 隊長が敬礼をすれば残りの騎士たちもお辞儀し、空になった馬車を御者が引き動き始め、シュガーは手を振りそれを見送った。

 手紙によると騎士団の宿舎に行くようにと書いてあり、シュガーは宿舎の前にたどり着いた。

「ようこそ~グレース荘へ。」

 正面玄関で出迎えてくれたのは宿舎の管理人のふくよかで、包容力のある、30代の女性だった。

「は、はじめまして、シュガー・ハリギスと申します。」
「可愛いお嬢さんね、いつまでもつかしら。」

 エプロンをつけたその人は荘の通路をはたきを持って現れた。

(えっ?何を言ってるのかな?)

「あの~」
「ああ、ごめんなさい。私はグレース荘の管理人、ヨハン・リジェです。お部屋に案内するわね。」

 さっきの意味深な言葉がなかったかのように、柔らかい笑顔をシュガーに向けるヨハンはシュガーの前を歩き、階段を上がり2階の奥の部屋へとシュガーを案内した。

 部屋は広くも狭くもない。ベッドもあり、洋服をいれるための家具も備え付けてあった。

「食事は一階中央の食堂よ。服の洗濯は右の部屋。シャワーは左の部屋男性用と女性用があるから。どれも一階にあるからね。お仕事は明日からでしょ?まあ頑張ることだね。」

 シュガーは満面の笑みでスカートの裾をつまみ領主の娘らしく上品にお辞儀をした。

「じゃあね、お嬢さん。」

 ヨハンはシュガーに背を向け、てを軽く振りながらその場を去った。シュガーはまた1人になり、寂しく感じながら、自分の部屋に入り荷物を片付け始めたのだった。

     *

 シュガーはこの日、昔の思い出の詰まった夢を見た。

 辺境の地は緑が豊かで、屋敷を抜け出した10歳のシュガーは町から離れた場所にある、あまり人が来ない林に入り込み、小動物と戯れていた。

 そこへ白銀の髪と瞳の貴族を思わせる13、4歳の少年が迷いこんだ。

「君はここの子?僕はリヤージュ。君は動物が好きなんだね?」
「こんにちは。私はシュガーですぅ!動物はお友達だよ。」
「そうなんだ、僕は父の用事に同行しているんだけど…大人とばかりいるから…、僕も君の友達にしてくれる?」
「え?」

 驚いたシュガーは首をかしげ、少年は次の瞬間、シュガーの前でまだ幼さが残る獅子へと姿を変えた。白銀の毛の、真ん丸の白銀の瞳。

「はわわあ~可愛い!」
「がう!友達になってくれる?僕と友達になると…もれなくもふれるよ。」

 シュガーは獅子の子リヤージュに抱きつきもふもふを堪能し、しばらくして、リヤージュは迎えが来て、シュガーと別れた。

     *

  夢から覚めたシュガーは、暗くなった部屋、ベッドから起き上がり…記憶をたどる。

「リヤージュ…って、あのリヤージュなの?」

 シュガーは、ベッドに座り込み、両手を見つめ、もふもふの感触を思い出そうとしていた。

「私が忘れていた昔の記憶。彼は覚えているのかな?また…もふもふできるのかな?」

 また夢を思いだし、シュガーはベッドに伏せ、枕をかぶり足をばたつかせて興奮し、やがて疲れて深い眠りについたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

もふもふな義兄に溺愛されています

mios
ファンタジー
ある施設から逃げ出した子供が、獣人の家族に拾われ、家族愛を知っていく話。 お兄ちゃんは妹を、溺愛してます。 9話で完結です。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~

うみ
ファンタジー
 馬の装蹄師だった俺は火災事故から馬を救おうとして、命を落とした。  錬金術屋の息子として異世界に転生した俺は、「装蹄師」のスキルを授かる。  スキルを使えば、いつでもどこでも装蹄を作ることができたのだが……使い勝手が悪くお金も稼げないため、冒険者になった。  冒険者となった俺は、カメレオンに似たペットリザードと共に実家へ素材を納品しつつ、夢への資金をためていた。  俺の夢とは街の郊外に牧場を作り、動物や人に懐くモンスターに囲まれて暮らすこと。  ついに資金が集まる目途が立ち意気揚々と街へ向かっていた時、金髪のテイマーに蹴飛ばされ罵られた狼に似たモンスター「ワイルドウルフ」と出会う。  居ても立ってもいられなくなった俺は、金髪のテイマーからワイルドウルフを守り彼を新たな相棒に加える。  爪の欠けていたワイルドウルフのために装蹄師スキルで爪を作ったところ……途端にワイルドウルフが覚醒したんだ!  一週間の修行をするだけで、Eランクのワイルドウルフは最強のフェンリルにまで成長していたのだった。  でも、どれだけ獣魔が強くなろうが俺の夢は変わらない。  そう、モフモフたちに囲まれて暮らす牧場を作るんだ!

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

【完結】 先祖返りでオーガの血が色濃く出てしまった大女の私に、なぜか麗しの王太子さまが求婚してくるので困惑しています。

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
「僕のお嫁さんになって」と求婚してきた大国の王太子アルフォンソ(9歳)を、「大きいものが良く見えるのは、少年の間だけよ。きっと思春期になれば、小さくて可愛いケーキみたいな女の子が好きになるわ」と相手にしなかった小国のオーガ姫ヘザー(10歳)。しかし月日が流れ、青年になっても慕ってくるアルフォンソを信じてみようかな?と思い始めたヘザーの前に、アルフォンソを親し気に愛称で呼ぶ美しい幼馴染が現れて……

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

婚約破棄されて田舎に飛ばされたのでモフモフと一緒にショコラカフェを開きました

碓氷唯
恋愛
公爵令嬢のシェイラは王太子に婚約破棄され、前世の記憶を思い出す。前世では両親を亡くしていて、モフモフの猫と暮らしながらチョコレートのお菓子を作るのが好きだったが、この世界ではチョコレートはデザートの横に適当に添えられている、ただの「飾りつけ」という扱いだった。しかも板チョコがでーんと置いてあるだけ。え? ひどすぎません? どうしてチョコレートのお菓子が存在しないの? なら、私が作ってやる! モフモフ猫の獣人と共にショコラカフェを開き、不思議な力で人々と獣人を救いつつ、モフモフとチョコレートを堪能する話。この作品は小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...