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第5章 慈愛の聖女、クラリス

11,一回休み

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「おはようございます、クラリスさん。早いですね」



「だって、もう出発するんですよね?」



「さすがに日が登る前に出発することはありませんよ……」



 そう、クラリスはあまりに緊張しすぎて眠れず、なんと朝5時にスライムリフレに来てしまった!



 スラ介がそれを知りタツシを起こして、急いでタツシの部屋に招いて今に至る。



「そ、そうでしたよね、あははは……」



 緊張しているせいで、彼女は全く顔が笑っていない。



 二人は今、テーブルを挟んで向かい合ってソファに座っている。



「それで、クラリスさんが言いたいことって、なんですか?」



「は、はい! あ、あの、私――」















 部屋の中に一筋の橙黄色の光が差し込んだ。タツシの部屋の明かりをかき消して、荘厳な太陽の光線が彼らを薄く照らす。



「タツシさんが、好きなんです。」



「…………」





 タツシは唖然として彼女を見ている。クラリスは恥ずかしすぎて俯いてしまった。



 静寂を破ったのは、タツシの最も信頼する召喚獣だった。



 その魔物はタツシの背中をどっついた。



 ドスッ



(聖女が勇気をもって気持ちを伝えたんだから感謝くらい伝えろ? ああ、確かにそうだな……)



 あまりにも突然のこと過ぎて頭の回っていなかったタツシだったが、慌てて彼女に言った。



「好きと言っていただいて、ありがとうございます。でも、俺なんかより、あなたならもっといい人が……」



「いないわ。」



「え?」



「あなた以外の男なんてどうでもいいの。」



「いや、でも俺、普段大したことやってな――」



 クラリスが泣き目になりながらタツシに飛びかかってきた。



「ねえ、あなたに分かる!? 人に恋しちゃいけないって言われてたのに、人を好きになっちゃって! その後にその相手から『自由に恋してください』って言って、ありえないようなプレゼント渡されたの! そんな女の気持ち、分かる!?



 あなた以外を見ろ!? 無理よ! ねえ、私あなたのこと愛してる! 愛してるの!」



 クラリスはギュッっとタツシに抱き着いた。





「気づかなくて……ごめん。」



「いいのよ。私が勝手に好きになっただけだもの。」



「あのさ、俺からも一つ言っていい?」



「なに?」



「俺も今、君のこと好きになった。前にも言った通り、本当はこの国の王女様のことが気になってたけど、やっぱりいつも近くで笑っていた君の方がずっとずっと素敵だなって。都合がいいようでごめんな。」





 それからクラリスは号泣しだした。



 今まで張りつめていた思いが一気に爆発したかのように。



 ただ、かつて彼女の部屋の中で泣いた時とは違って、いま、彼女の心の中に悲しさというものは一つもない。



「ねえ、じゃあ、私たち、恋人同士になれるの?」



「そうだよ、俺ら、恋人だね。」

(あー、こんなすごい人を恋人にしちゃったら、絶対に振るとか無理だろうな~。うん、絶対に一生クラリスだけを見ていればいいや。)



 思ったよりかは真面目(?)なタツシであった。



 タツシは彼女を離して立ち上がると言った。



「じゃあ、俺はそろそろ魔王のところに行ってくるけど……絶対に帰ってくるから、安心して待っててな?」



「うん。分かった。あ、私からも一つ贈り物あげる。」



 クラリスは地面に跪くと、難し気な呪文を唱え始めた。



 彼女の新しい杖が光りだす。



 その光がどんどん強くなっていき、やがてその光は稲妻のように強烈な光を発した後消え去った。



「ふふ、一人の人に私の一日分の魔力を全部使ったの、初めてだったわ。」



 晴れやかな笑顔でそう話すクラリス。











「じゃあ、行ってきます。」



「無事に帰ってきてねー!!」



「約束するよ。」



 タツシは彼女を抱き寄せて、この世界に召喚されてから初めてのキスをした。



 突然のことにクラリスは頬を真っ赤に染めるが、目を開けたときにはもうタツシの姿は無かった。







「常時完全回復……4時間も続くんだもの。タツシならその間に敵を倒せるでしょ。よし、今日はもう魔力無いから仕事終わり! ああ、タツシ、早く帰ってこないかな~」



 彼女が休むこと自体に全く問題はない。一年間のうち365日が出勤日だ、というのは普段自分から宣言しているだけである。
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