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第3章 タツシの夏休み

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「ここは……」

「城の裏庭だ。君は近衛騎士なら来たことあるだろう。」

「ああ、あそこか」

 広大な敷地は全部把握するのは相当難しい。

「では、さっそく始めるとしよう。」

「はい♡」

 クレナは着ているスカートをたくし上げ始めた。

「ん? 何をしているんだ? 早く剣を抜きなさい。」

「?」

「君は拳で戦うつもりか?」

「あ……いえ……」

(はい、お決まりのパターンでした~。あはは、クレナちゃん、めっちゃ残念そうな顔しているじゃん!)

「では、王都流決闘で。時間制限はなしということでいいかな。」

「うっ……わかりました。あれ? 勇者様、剣を持てるようになったのですか!?」

(ゲッ!? トラウマで剣をもてないっていう設定忘れてた!?)

「ふむ。実は魔物相手だとダメなのだが、こういう風に命のやり取りのない決闘程度なら問題はない。」

「なるほど! そうだったの…ですね!」

「スタートはこの辺と……あの辺で。」

 広い芝生でやるから多少の誤差は全く問題ない。


「準備ができたらこの魔道具を地面におくんだ。二人が置けば数秒後に音が鳴る。」

「わかった。」

 クレナは自身の持っている銀色の剣をすらりと鞘から引き抜き、構える。


 ゴーーン。

 鈍い鐘の音が鳴る。

「うおりゃあああああああ!」

 クレナは甲高い声で叫び、走りこんできた。

(あんなに体が感じちゃっているのに、それでもここまで鋭い切込みができるのってやっぱり実力かなぁ)

 と言いつつも余裕なタツシ。

 なんだかんだ言って200レベルを超えており、剣に関するスキルも多く持っているタツシは、剣を真横に持った後――


 消えた。

「え?」


「どうした? 反対に走っていないではやく切りかかって来なさい。」

 正しくは、クレナの後ろに転移した。

「あはは、まさか走って移動しているのが見えなかったというわけではないだろうね……?」

 だんだん性格がタツシに戻る勇者。実際転移しているだけだから質が悪い。

「うっ……ちょっと調子が悪かっただけだ! 今度こそ行くぞ!」

 クレナは再び切りかかる。

 だが――


 しかし、次の瞬間クレナの持つ剣は吹き飛んだ。と同時にクレナの体も後ろに吹き飛ぶ。

「ぐぁっ!!」

 体の底から鈍い声を出して、宙に舞うクレナ。

 タツシはジャンプしてクレナを抱え、地面に降りた。

「まったく、ただカウンターをしただけで吹き飛ばないで欲しかった。やっぱり、女性は軽いですねえ……」

「くっ……」

(ああ♡ 幸せ……勇者様にお姫様抱っこされているなんて……)

 クレナにとっては勝敗なんてどうでもいいのだ。今タツシは金属製ではない、薄めの貴族服を身に着け顔だけマスクで隠している状態だから、タツシのぬくもりを感じられるのだ。


「おや? なんかあなたの足、濡れているようだな。水たまりとかあったか?」

 そういいながら勇者は周囲を見渡す。しかしそもそも質のいい土壌の芝生が広がるばかりで当然水たまりなどない。

「あ、いやっ、これはそのですね……汗をたくさんかいてしまって……」

「ああ、なるほど。そうだったか。」


 そういいながらタツシはクレナを地面に下す。

 手を足から離すときになるべく愛液の多くついている内股に一瞬触れる。

 それを離すと、一瞬透明に輝く一本の橋ができる。


(まずい! ばれる!……)

 しかし、タツシはクレナの反応を見て満足したのかそのまま何も言わずに終わった。

「ところで、君はあんなにしょぼくれた剣を使っているのか?」

「え、ええまあ……」

(あれ一週間前位に新調した奴なのだが……)

「ふうむ。なんだその、『勇者だって同じような剣を使っていただろ』という目は。私は模擬戦でなければこちらを使うんだぞ」

 そういってタツシは亜空間から大きな剣を取り出す。

 鞘にも小さな宝石が無数にあしらわれていて綺麗だが、中から出てくる剣は異様なほどに美しかった。

 先端が金色になっており、そこからグラデーションを描いて徐々に白銀色に変わっていく。

「魔剣……」

「ん? まあ、そう呼ばれているものだな。私は使いやすいから普段これを使っているが、せっかくだから持っているものの中で要らないものを君に差し上げよう。なにか好きな色はあるかね?」

「いやっそんなっ……私なんかに恐縮です! お気持ちだけで十分……」

「いやいや、私も君ほど美しい女性と話すのは久しぶりでね。なにかプレゼントしたくなってしまうのだよ。」

(さっき聖女様とお話しされていたような……?)

 クレナも鋭いしかしまさかこの勇者が何も考えずに喋っている変態マッサージ師だとは思っていない。

「そ、そんなっ……で、でもあの、勇者様から頂けるものなら何色のものでも……」

「では、君は服が美しい黒色だから、これなんかどうだ。」

 タツシはクレナに黒を基調とした剣を渡す。

 つばのところにに青い飾り模様が入っている、非常に上品なもの。握りの形も手にフィットするように工夫され、柄頭が少し膨らんでいる。

「これって……闇の魔剣!?!? こんな貴重なもの……」

「まあ、受け取っておきなさい。もし気後れするなら、いづれ君が目標とやらを達成したときにでも返してもらおう。」

「はい! ではその時に必ずや……」

「では、戻るとしよう。君もまだ任務中だろう。しっかり任務をやり遂げ給え。」

「はい、分かりました。 ああ♡」

 タツシに抱き着かれ、思わず声を上げるクレナ。


 二人は部屋に戻った。

「久しぶりに決闘をして、楽しかった。またいつか会うことがあったら、その時にはもっと強くなっていることを願うよ。」

「はい! 頑張ります!」

「さあ、君はもうここを出なさい。」

「………」

 まだ別れたくないと思っているクレナ。

「どうしたのかね。何か言いたいことでもあるのか?」

「勇者様……こんなに美しい剣まで頂いていながら申し訳ないのですが……また次に会う約束をしていただけないでしょうか!?」

「残念ながら、それは出来ない。私はほかにやることも多いのだ。」

「そうですか………」

「さあ、出なさい。」

「い、いや、あと、その……」

「こうしてやれば、満足か……?」



 そういって、勇者はクレナを後ろから抱きしめた。

「あああ♡ はいっ……あっ……」

 クレナはかなり昂っていたせいか、腰をギュッとされただけでイってしまった。

「なんだか体が震えているが……?」

「い、いえ、なんでもありません!! それじゃあ、失礼しました!!!」

 急にそそくさと部屋を出ていくクレナ。


「ふぅーー。いやあ意外とバレないもんだね。まあ、スラ助がずっとヘリウムを使っていてくれたおかげか。」

 スライムはタツシの鼻の中に極小サイズで潜んでいた。

「さあて、勇者ごっこは終わりにして、店に戻ろっと。」

 タツシはマスクを外してスライムリフレの控室に転移した
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