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第24話

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「……あ」
 やらかした。しかも最も配慮しなければならない一点で。
「『異種族は人間の奴隷ではない、隣人である』……私でも知っている言葉です」
「アイちゃん、落ち着いて?私は気にしてないからさっ?」
 僕たちが魔法世界を発見し異種族と接触した当初、数々の議論が噴出する中で最も大きな問題と見なされたうちのひとつ。
 『自分たちの世界の不始末を異世界への侵略で解決していいのか』
 自分たちが生き残る為には仕方ない、歴史における人類の過ちを繰り返すべきではない、終末へのカウントダウンが迫る科学世界に突きつけられたその問いは、生存を掲げた正義と人類の矜持たる倫理の対立を発生させ、一時は社会機能を麻痺させる事態にまで発展した。
 魔法世界の側が発展した科学技術に興味を持って、科学世界との交流を望んだ事もあり、結局世論は異種族も人類の一員であるのだから彼らと相互に助け合っていけば良いという結論に落ち着きはしたが、異種族に対する差別や偏見、自分たちよりも劣った存在であると見下す風潮は今もまだ残っている。
 そうした差別的主張の中のひとつが、『家畜論』。
 かつて牛馬に畑を耕させたように、象に切り出した材木を運ばせたように、有用な道具として異種族を使役すればよいという趣旨の主張だ。
「ごめん辰子……思い付きに舞い上がってそこまで考えが及んでなかったよ……いや、それ以前の問題か。あぁもう、企画について考えるなら真っ先に考慮しないと駄目な事だっただろコレ……気ぃ悪くさせて悪かった、この案は廃棄して別の案を考え直さないと……」
「ちょっ、俊也ストップストップ!私は気にしてないって言ってるじゃん!」
「賛同竜宮、宇野代替案皆無、非難同時対案要」
「ほら、何言ってるかわかんないけど、火野ちゃんも何か言ってるから!一旦落ち着いて皆でもう一回話そう?」
 火野さんはどうやら宇野さんに何かを言っているようだ。
 ……今更だが2人の呼称がややこしい、いや人の名前に文句をつける権利などこうも酷い失態を犯した僕にあろうはずがないのだけれど。
 ともかく、辰子の呼びかけに応じて自分の不甲斐なさが恥ずかしくて俯いていた顔を上げると、覆面の女の子が単眼の美少女に迫るというなんとも言えない情景が眼前に広がっていた。
「す、鈴木さん、助けてください!私ドライアイだからこの子に密着されると眼球が乾いてしょうがなくて……!」
「求速返急!」
 珍しく余裕のない様子の宇野さんと、これまた珍しく声を荒げた火野さんが取っ組み合いをしていた。
 手のひらを合わせて押し合っているだけなので、やっている行為は微笑ましくなるぐらい可愛らしいのだが、相性のようなものの所為で宇野さんにとっては見た目より大分苦しい状況のようだ。
「うーん、早く返事をしろ、って言ってるのかな。火野さんはさっきなんて言ったの?」
「えっとたしか......私に賛同、代案がない、非難するなら対案もあげて欲しい、だったのかな?」
 火野さん語は難しい。この話し方が種族全体に共通するものなのか、それとも彼女自身の個性であるのかには興味を覚えるけれど、今は宇野さんがそれどころではない。
「わかりました代案もなしに否定した私も悪かったです謝るので離れてください!」
「理解則良、会議再開」
 宇野さんが謝罪の言葉を一息に叫ぶと、火野さんはアッサリ手を離して教室中から集まるなにをやっているんだと言わんばかりの視線を意に介す様子もなく、何事もなかったかのように元居た場所に座り直した。
 火野さんは多少口調がぶっきらぼうではあるが、普段は大人しい人なので、宇野さんは相当びっくりしたのか机に手をついてヨロヨロと歩いて行って、自分の鞄から目薬を取り出していた。
 辰子から聞いた烏の一件もそうだが、強気に見えていざ攻められると激しく動揺してしまうらしい。実際、今も顔の半分を占める目に震える手で目薬を注そうとして何度も失敗している。
「火野ちゃん、なんでそんなに怒ったのかよくわかんないけど、乱暴なことしちゃメッ!だよ」
「謝罪、興奮抑制、不可」
 ごめんなさい、でもどうしても抑えられなかった。というような意味だろうか。火野さんはなにがそうも気に障ったのだろう?僕の聞く限り宇野さんには特に落ち度などなかったように思えるが。
「あったんですよ。私があなたの意見を批判するだけだったから、人の意見を否定するなら代わりの提案をしろ、と言われたんです」
「モノローグを踏まえて解説しないで欲しいです......」
「あなたがそのアホ面に書いているのがいけないんですよ」
 どうにか点眼できたのか、宇野さんも戻って来てくれたので僕らは再度話し合いを始める。
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