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第13話

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「ふわぁぁ......」
「どうしたの俊也、そんなに大きな欠伸して。もしかして寝不足?」
 5月14日、火曜日の朝。HR前の教室で大きな欠伸をする僕を、寝不足の元凶が窓の外から眺めている。
 文化祭をどれだけ楽しみにしているとか、宇野さんと放課後何をしたとか、駅前に新しい喫茶店ができてたとか......昨晩、とにかく色んな事を辰子は話してくれた。
 おかげで電話越しに話を聞いていた僕の勉強は予習までしっかり終わらせることができた。
 流石に日付が変わる前には通話は終わったけれど、また寝坊しないようにと目覚まし時計を30分早く設定したこともあって本日はバッチリ寝不足である。
「うん、ちょっとね……あの後ラジオの深夜番組聞いててさ。聞きながら寝落ちしたみたいで何時に寝たのかもわかんないんだけどとにかく眠くって......」
 勿論そんな事はしてないんだけれど、辰子は何かあるとすぐに自分を責める傾向があるのでこうした嘘を使って僕の自滅であると印象付けておく。
「お前も懲りないなぁ……また寝坊したらどうするつもりだったんだ?」
「いいじゃないか別に。今日は遅刻してないだろう?」
「いつか痛い目を見ることになるぞ」
 呆れた顔で注意を口にする優等生の倉田くんに詭弁を返す。寝不足なのは本当だけれど、別にしたくて夜更かしをしたのではない。
 夜中に辰子に電話をかけた理由を考えるとお前のせいだぞと逆恨みを口にしたくなるが、辰子の前なので堪える。
「おはよう、倉田くん。そのプリントなぁに?」
「文化祭のアンケートだ、と言っても昨日軽く調べて貰ったお菓子について書いてくれればいい」
 倉田くんからそのアンケートを一枚ずつ受け取る。どうやら手製のようだ。
 周りを見てみると他のクラスメイトもアンケート用紙に何事か記入していて、中にはもう書き終わっている人もいる。
「それなんだけどさ……父さんに聞いてはみたんだけど、特にめぼしい物がなかったんだよね。珍しくなかったり、企画に適さなかったりして......」
「私の所も似たような感じだったんだよねー。ドラゴン族の食文化にお菓子と呼べるものはなかったって」
「別にいいさ、ひとまずはなんでもいいから案がでればいいからな」
 そう言って肩を竦めた倉田くんの手の中には回答済みの用紙が何枚かあり、どうやらそこに僕らのものと似た回答が既にあったらしい。
 最終的に企画案の詳細を決めなければならない立場としては余り歓迎できない事態だろうが、倉田くんの表情には焦りのようなものは見えない。
「鈴木、母親の方はどうだったんだ。確か異種族だろう?」
「それを覚えているならサキュバス族だってことも覚えてて欲しかったかな」
 ちなみに母さんについては新聞部が号外と銘打って校内の掲示板に記事を張り出していた。今朝の時点で母さんは学校中で知られる有名人だチクショウ。
「それが?確かにちょっとズレた人だったが、それは文化の違いだろう。薄着で外出する種族なんて珍しくも......」
「うーん、説明しにくいんだけど......学生が扱って良い代物ではない類のお菓子を提供したいって言うなら母さんに聞いてこようか?」
「サキュバス族の伝統料理って軒並み、その......生殖機能に働きかける効能のある......」
 僕の言いたい事が伝わらなかったのか、おかしなことでもあるのかと首を傾げた倉田くんに辰子が頬を赤らめながら注釈を入れてくれた。
 しかし、何故そんな事を辰子が知っているのか......深く追及するのはやめておこう。
「な、成る程。それは確かにまずいな」
 なんだか気まずい空気になってしまった、どうにか話を変えなければ。
「そ、それでさ、メニューはどうやって決めるつもりなんだい?選択肢はだいぶ多いと思うんだけど」
「あぁ、それか。この中からできるできないで分けてからクラスで話し合いの場を設けて決めるつもりだ。それで何を作るかを決めたら週末火野と材料を買いに行く予定になってる」
「火野さんと?」
 倉田くんがうまいこと僕が出した話題に乗っかってくれた。火野さんというのは僕のクラスのもう一人の学級委員の名前だ。
「ということは......週末火野ちゃんとデートだね!」
「竜宮、そうゆう事を言うのは止めてくれ、火野にも失礼だ」
 倉田くんが珍しく気分を害したように眉を顰めて辰子を窘める。
「ヘーェ、珍しいね。もしかして好きなの?」
「鈴木、死にたいか?それにアイツは優しすぎる、俺の好みじゃない」
 冗談混じりに混ぜっ返した僕をドスの利いた声で脅す倉田くん。おぉこわいこわい。
「おーい、お前ら着席しろー。点呼始めるぞー」
 そんなコントみたいなやり取りをしていると、守屋先生が教室にはいってきた事で会話が終わった。今日は平和な1日を送れるといいのだけれど。そう思いながら僕は自分の席についた。
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