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 この世界には二種類の人族がいる。普通の人間と、魔族と人間の血が混じった種族だ。後者は継いでいる魔族の種類によって異なるがそれぞれ特殊な能力を持っている。
 俺は茶色の髪と目を持つ何の変哲もない一般的な人間の男だ。


「お前、またかよ」
 俺はそばに座る男に語りかける。ダリルは俺と共に冒険者をしている男だ。俺達は十五の時に冒険者ギルドで出会い、お互い身寄りが無く同じ年ということもあって馬が合い、そのまま組むことになったのだ。もう二十年の付き合いになる。
「彼も望んだことだ」
 そう言って青灰色の目を静かに焚き火に向けている。夜の闇の中、灰色の短髪が少し火の色で染まって見えた。

 ダリルは背が高く筋肉質で、俺より少し背が高い。その腹筋のついた右腹辺りには膨らみがあり、マントが盛り上がっていた。
 そこに何があるか、俺は想像がついている。これで俺が知っている限りで三人目だ。

「よくもまあ同じような性質の人間を嗅ぎ分けるもんだ。三人ともだぞ? それとも他にもいるのか? 無理にしているわけじゃないのはわかっているが……」
「たまたまだよ。俺は望んだ者しか受け入れていない。お前の言う通り三人だな」

 その膨らんだ腹、そこにはついこの間までこいつのそばにまとい付いていた恋人の頭がある。体はすでに吸収されている。きっと穏やかな顔をしているだろう……前の二人と同じように。


 ダリルは魔族と人間の血を引く側の種族だ。生物を体に吸収する能力を持っている。生きているものでないと吸収はできないそうだ。無生物や死体を取り込むと引っ張られて自分が死んでしまうことがあるらしい。
 俺はちらりとその腹を見る。今はまだ残っている青年の頭も、そのうちこいつの体に吸収され何も残らないだろう。

「愛しているからひとつになりたいなんて、俺には理解できないな。話すのも、セックスするのも、お互いがあってこそだと思うがな」
「ひとつになれば、相手の全てを手に入れられる。永久に離れることはない。それを望む奴だっているんだよ」
「それがわからん」
 俺は頭をかいた。
「吸収されたほうは意識は無くなるんだろ? ひとつも何もないんじゃねえかと思うんだが」
「人はいずれ死ぬ。そうなればもう関わることはできない。だが愛し愛される者を取り入れればそいつの肉体も心も俺のものだ」
 青灰の目が俺を見つめる。

「そうかよ……」
 こいつはわざと素質のある人間を選んで恋人にしているんじゃないのかと疑ってしまう。それとも、そんな人間のほうから寄ってくるのか……

 俺はダリルの腹にいる、この間まで俺に噛みついてキャンキャン言っていた青年を思い出す。何かにつけて俺を目の敵にしていた。俺がこいつのそばにいるのが気に食わなかったらしい。
 自分のほうが彼を知っている、彼の全ては自分のもので、自分の全ては彼のもの、お前にはできないだろう、彼の孤独を埋める方法を自分は知っている、と言っていた。
 ダリルが孤独なのはお前ら恋人がことごとく彼に吸収されることを望むからじゃないのかと思うが、お互いが望んでのことなら俺は口を出すべきではないのだろう。だが……。

「お前はそれでいいのか?そんなんじゃいつまでも一人だぞ」
「ジェドがいるじゃないか」
「俺だっていつかは死ぬんだぞ。冒険者なんていつ何が起こっても不思議じゃないんだ。そうなってそばに誰もいなくなったらどうするんだ」
「……」


 ダリルの母親が事故死した後、父親はその体を取り込んだらしい。そして死んだ。
 こいつはその時、自分は捨てられた、置いていかれたと感じたのかもしれない。孤独を埋めるように、身寄りのない寂しがりで依存癖のある恋人を作る。俺は女のほうが好きだが、ダリルは両刀らしく、今までの恋人は一人目は女、後二人は男だった。

「はあ……今日はもう寝る」
 ため息をつき、俺は横になった。
「明日は早いんだ。お前ももう寝ろ」
 目を閉じながらそう伝えた。
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