110 / 110
第13章 復讐第一段階
初対面
しおりを挟む
クロとハロ、チャロが、浅いボールに注いだミルクを必死に飲んでいる。
お腹が空いたから。
生きるために必要だから。
僕の中にいる負の部分……獰猛な生きモノも、お腹を空かしてる。
満たすには、チャイルドマレスターへの復讐が必要だ。
悪を壊したいと望むこの生きモノの腹を満たすために、僕は今ここにいる。
小さめのサックにつけた腕時計を見ると、午後4時を回ったところだ。
奏子がここに来るのは、だいたい4時20分から30分頃だったはず。篠田はまだ来ていない。
篠田がいつ現れてもいいように、私道からここへの小路が見える位置にいる。
ショウのお迎えで、奏子がそろそろ保育園から帰ってくる。
烈も、普段は5時前には帰ってるらしい。
凱が早い時間に帰ってきているのは見たことないけど、学校からまっすぐ帰宅することもあるだろう。
汐と同じくらいだとすると、4時半から5時?
今日はリージェイクと一緒かな?
早く帰ってくるなら、少し……問題だ。
僕が篠田と連れだって森にいるところを見られたくない。
可能性があるのは、ここから小屋Aに向かう途中。私道を横切るところ。
そこを、下から館に上がってくる二人に目撃されるのは避けたい。
僕の行動が怪しまれた場合。篠田と繋がりがあるって知られてたら、すぐにヤツと結びつけられてしまう。
結果。動きにくくなるし、最悪……計画に支障が出るかも。
凱はともかく、リージェイクは……。
悪になって復讐する僕を、肯定しないと思うから。
ミルクを飲み終えた子猫たちが、箱から出ようと飛び跳ねるのを見て笑みが浮かぶ。
子猫のことが修哉さんにバレてたのは、今思えば当然だけど。今日、彼と引っ越しについて話せてよかった。
午前中に僕と会ってなかったら。
修哉さんは子猫を移動させに今、ここに現れたかもしれない。
1時間後にここに来て。子猫が箱ごと消えたのを不審に思って、森を探し回ったかもしれない。
そして、小屋Aにいる僕と篠田を見て……状況によっては乱入してきたかもしれない。
その心配はなくなり。
プラス。
汐のおかげで。修哉さんに僕と篠田を見られる偶然の可能性も、ゼロに等しくなった。
早く来い……そう思ってほどなく。
準備万端な僕の視界に、篠田が現れた。
「こんにちは!」
篠田の姿を捉えてすぐ、子猫のおうちである切り株の陰に隠れ。ヤツが十分に近づいたところで、前に出た。
いかにも子猫を追って捕まえたかのように、チャロを抱いて。
無邪気な笑顔を作り。元気よく挨拶した僕を見て、篠田は驚きと警戒の色濃い視線を向けてきた。
この男だ。
あの日、汚らわしい欲に血走った目で走り去った……。
こみ上げる怒りを顔に出さず、笑みを維持した。
「きみは誰かな?」
奏子との秘密の場所に得体の知れない者がいる……想定外の状況でも、篠田は狼狽えることなく。高圧的な態度を取ることなく、落ち着いた口調で尋ねる。
「ここは勝手に入っちゃいけないところだよ」
僕が子どもだから。
余裕をなくす必要はない、自分が優位だと思ってる……犯罪者のくせに。
「僕、ジャルドって言います。5日前から、この上の家に住んでて……ここで奏子が子猫の世話してるところ、偶然見つけちゃったんです」
咎められたふうに早口で言う。
「奏子と約束したから、誰にも言ってません。まだ友達もいないし、家の人たちも慣れてなくて……よくひとりで森を散歩してるんです」
「今日、奏子ちゃんは?」
「カゼっぽくて、少し熱あるみたいで。今日は外出ちゃダメっておばさんが……でも、この子たちの引っ越しするから行かなきゃって。内緒で僕に……だから、奏子の代わりに来ました」
不安そうに見える瞳で、篠田を見上げる。
「あの、怒ってますか? 僕じゃ代わりになりませんか?」
奏子の代わり……この『代わり』って言葉を、篠田がどうとらえるか。
ヤツには確信がない。
奏子が僕にどこまで話しているのか。
子猫のことは、家の人には内緒だ。
この秘密を僕に知られたのは偶然。
けれども。
知られてしまったからには、すべてを話したかどうか。
自分が奏子にしたことを。
怯えた様子がなければ、話していないと思われるだろう。
もしくは、話したとしても。
それが大したこと…悪いことだとわからない、無知な子どもだと思ってくれるはず。
「きみは日本語が上手だね」
遠回しな質問に。
「はい。イギリスに家があるけど、小さい頃は日本にいました」
先回りして有益な情報を与えてあげる。
「奏子とはすごく遠い親戚で、パパの仕事の都合でここに……僕だけ、一ヶ月くらいいる予定です」
「それは淋しいね。奏子ちゃんより大きいし男の子だから平気か。9歳か10歳くらいかな?」
実際は11歳だけど、幼く見られるに越したことはない。
「はい。もうすぐ9歳です。おじさんは、奏子の友達のパパなんでしょう?」
「ああ……そうだよ」
ちょっと動揺を見せる篠田。
「奏子ちゃんに……聞いたの?」
「はい。子猫のためにいろいろしてくれる、やさしいおじさんだって。秘密を守ってくれるから、ちゃんと言うこと聞いてねって……」
9歳にしては頭が足りないと思われるかもしれない。
「子猫の引っ越し、僕が手伝います。秘密も守るし、言うこと聞きます。奏子とこの子たちが大切だから」
でも、僕の計画には……願ったりだ。
「お願いします」
「わかった。きみ……」
「ジャルドです」
篠田が微笑んだ。
「ジャルド。さっそく、引っ越しをしよう」
「はい!」
警戒を解いたらしい篠田に、満面の笑みで答えた。
お腹が空いたから。
生きるために必要だから。
僕の中にいる負の部分……獰猛な生きモノも、お腹を空かしてる。
満たすには、チャイルドマレスターへの復讐が必要だ。
悪を壊したいと望むこの生きモノの腹を満たすために、僕は今ここにいる。
小さめのサックにつけた腕時計を見ると、午後4時を回ったところだ。
奏子がここに来るのは、だいたい4時20分から30分頃だったはず。篠田はまだ来ていない。
篠田がいつ現れてもいいように、私道からここへの小路が見える位置にいる。
ショウのお迎えで、奏子がそろそろ保育園から帰ってくる。
烈も、普段は5時前には帰ってるらしい。
凱が早い時間に帰ってきているのは見たことないけど、学校からまっすぐ帰宅することもあるだろう。
汐と同じくらいだとすると、4時半から5時?
今日はリージェイクと一緒かな?
早く帰ってくるなら、少し……問題だ。
僕が篠田と連れだって森にいるところを見られたくない。
可能性があるのは、ここから小屋Aに向かう途中。私道を横切るところ。
そこを、下から館に上がってくる二人に目撃されるのは避けたい。
僕の行動が怪しまれた場合。篠田と繋がりがあるって知られてたら、すぐにヤツと結びつけられてしまう。
結果。動きにくくなるし、最悪……計画に支障が出るかも。
凱はともかく、リージェイクは……。
悪になって復讐する僕を、肯定しないと思うから。
ミルクを飲み終えた子猫たちが、箱から出ようと飛び跳ねるのを見て笑みが浮かぶ。
子猫のことが修哉さんにバレてたのは、今思えば当然だけど。今日、彼と引っ越しについて話せてよかった。
午前中に僕と会ってなかったら。
修哉さんは子猫を移動させに今、ここに現れたかもしれない。
1時間後にここに来て。子猫が箱ごと消えたのを不審に思って、森を探し回ったかもしれない。
そして、小屋Aにいる僕と篠田を見て……状況によっては乱入してきたかもしれない。
その心配はなくなり。
プラス。
汐のおかげで。修哉さんに僕と篠田を見られる偶然の可能性も、ゼロに等しくなった。
早く来い……そう思ってほどなく。
準備万端な僕の視界に、篠田が現れた。
「こんにちは!」
篠田の姿を捉えてすぐ、子猫のおうちである切り株の陰に隠れ。ヤツが十分に近づいたところで、前に出た。
いかにも子猫を追って捕まえたかのように、チャロを抱いて。
無邪気な笑顔を作り。元気よく挨拶した僕を見て、篠田は驚きと警戒の色濃い視線を向けてきた。
この男だ。
あの日、汚らわしい欲に血走った目で走り去った……。
こみ上げる怒りを顔に出さず、笑みを維持した。
「きみは誰かな?」
奏子との秘密の場所に得体の知れない者がいる……想定外の状況でも、篠田は狼狽えることなく。高圧的な態度を取ることなく、落ち着いた口調で尋ねる。
「ここは勝手に入っちゃいけないところだよ」
僕が子どもだから。
余裕をなくす必要はない、自分が優位だと思ってる……犯罪者のくせに。
「僕、ジャルドって言います。5日前から、この上の家に住んでて……ここで奏子が子猫の世話してるところ、偶然見つけちゃったんです」
咎められたふうに早口で言う。
「奏子と約束したから、誰にも言ってません。まだ友達もいないし、家の人たちも慣れてなくて……よくひとりで森を散歩してるんです」
「今日、奏子ちゃんは?」
「カゼっぽくて、少し熱あるみたいで。今日は外出ちゃダメっておばさんが……でも、この子たちの引っ越しするから行かなきゃって。内緒で僕に……だから、奏子の代わりに来ました」
不安そうに見える瞳で、篠田を見上げる。
「あの、怒ってますか? 僕じゃ代わりになりませんか?」
奏子の代わり……この『代わり』って言葉を、篠田がどうとらえるか。
ヤツには確信がない。
奏子が僕にどこまで話しているのか。
子猫のことは、家の人には内緒だ。
この秘密を僕に知られたのは偶然。
けれども。
知られてしまったからには、すべてを話したかどうか。
自分が奏子にしたことを。
怯えた様子がなければ、話していないと思われるだろう。
もしくは、話したとしても。
それが大したこと…悪いことだとわからない、無知な子どもだと思ってくれるはず。
「きみは日本語が上手だね」
遠回しな質問に。
「はい。イギリスに家があるけど、小さい頃は日本にいました」
先回りして有益な情報を与えてあげる。
「奏子とはすごく遠い親戚で、パパの仕事の都合でここに……僕だけ、一ヶ月くらいいる予定です」
「それは淋しいね。奏子ちゃんより大きいし男の子だから平気か。9歳か10歳くらいかな?」
実際は11歳だけど、幼く見られるに越したことはない。
「はい。もうすぐ9歳です。おじさんは、奏子の友達のパパなんでしょう?」
「ああ……そうだよ」
ちょっと動揺を見せる篠田。
「奏子ちゃんに……聞いたの?」
「はい。子猫のためにいろいろしてくれる、やさしいおじさんだって。秘密を守ってくれるから、ちゃんと言うこと聞いてねって……」
9歳にしては頭が足りないと思われるかもしれない。
「子猫の引っ越し、僕が手伝います。秘密も守るし、言うこと聞きます。奏子とこの子たちが大切だから」
でも、僕の計画には……願ったりだ。
「お願いします」
「わかった。きみ……」
「ジャルドです」
篠田が微笑んだ。
「ジャルド。さっそく、引っ越しをしよう」
「はい!」
警戒を解いたらしい篠田に、満面の笑みで答えた。
0
お気に入りに追加
25
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
退会済ユーザのコメントです
感想ありがとうございます!
自分で思っていたより話の進行が遅くなり……
会話も多く内容もアレなので、
読んでもらえて本当にうれしい限りです。
がんばります!
退会済ユーザのコメントです
感想ありがとうございます
敬遠されがちな題材にもかかわらず読んでくれて感謝!
エタらず最後まで書ききります(更新ゆっくりでも…)
よろしく~