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第13章 復讐第一段階

初対面

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 クロとハロ、チャロが、浅いボールに注いだミルクを必死に飲んでいる。

 お腹が空いたから。
 生きるために必要だから。

 僕の中にいる負の部分……獰猛な生きモノも、お腹を空かしてる。
 満たすには、チャイルドマレスターへの復讐が必要だ。

 悪を壊したいと望むこの生きモノの腹を満たすために、僕は今ここにいる。



 小さめのサックにつけた腕時計を見ると、午後4時を回ったところだ。
 奏子がここに来るのは、だいたい4時20分から30分頃だったはず。篠田はまだ来ていない。

 篠田がいつ現れてもいいように、私道からここへの小路が見える位置にいる。



 ショウのお迎えで、奏子がそろそろ保育園から帰ってくる。
 れつも、普段は5時前には帰ってるらしい。

 かいが早い時間に帰ってきているのは見たことないけど、学校からまっすぐ帰宅することもあるだろう。
 せきと同じくらいだとすると、4時半から5時?
 今日はリージェイクと一緒かな?

 早く帰ってくるなら、少し……問題だ。



 僕が篠田と連れだって森にいるところを見られたくない。



 可能性があるのは、ここから小屋Aに向かう途中。私道を横切るところ。
 そこを、下から館に上がってくる二人に目撃されるのは避けたい。

 僕の行動が怪しまれた場合。篠田と繋がりがあるって知られてたら、すぐにヤツと結びつけられてしまう。
 結果。動きにくくなるし、最悪……計画に支障が出るかも。

 凱はともかく、リージェイクは……。



 悪になって復讐する僕を、肯定しないと思うから。



 ミルクを飲み終えた子猫たちが、箱から出ようと飛び跳ねるのを見て笑みが浮かぶ。
 子猫のことが修哉さんにバレてたのは、今思えば当然だけど。今日、彼と引っ越しについて話せてよかった。

 午前中に僕と会ってなかったら。
 修哉さんは子猫を移動させに今、ここに現れたかもしれない。
 1時間後にここに来て。子猫が箱ごと消えたのを不審に思って、森を探し回ったかもしれない。
 そして、小屋Aにいる僕と篠田を見て……状況によっては乱入してきたかもしれない。

 その心配はなくなり。
 プラス。
 汐のおかげで。修哉さんに僕と篠田を見られる偶然の可能性も、ゼロに等しくなった。

 早く来い……そう思ってほどなく。
 準備万端な僕の視界に、篠田が現れた。
 


「こんにちは!」

 篠田の姿を捉えてすぐ、子猫のおうちである切り株の陰に隠れ。ヤツが十分に近づいたところで、前に出た。
 いかにも子猫を追って捕まえたかのように、チャロを抱いて。

 無邪気な笑顔を作り。元気よく挨拶した僕を見て、篠田は驚きと警戒の色濃い視線を向けてきた。
 この男だ。
 あの日、汚らわしい欲に血走った目で走り去った……。

 こみ上げる怒りを顔に出さず、笑みを維持した。

「きみは誰かな?」

 奏子との秘密の場所に得体の知れない者がいる……想定外の状況でも、篠田は狼狽えることなく。高圧的な態度を取ることなく、落ち着いた口調で尋ねる。

「ここは勝手に入っちゃいけないところだよ」

 僕が子どもだから。
 余裕をなくす必要はない、自分が優位だと思ってる……犯罪者のくせに。

「僕、ジャルドって言います。5日前から、この上の家に住んでて……ここで奏子が子猫の世話してるところ、偶然見つけちゃったんです」

 咎められたふうに早口で言う。

「奏子と約束したから、誰にも言ってません。まだ友達もいないし、家の人たちも慣れてなくて……よくひとりで森を散歩してるんです」

「今日、奏子ちゃんは?」

「カゼっぽくて、少し熱あるみたいで。今日は外出ちゃダメっておばさんが……でも、この子たちの引っ越しするから行かなきゃって。内緒で僕に……だから、奏子の代わりに来ました」

 不安そうに見える瞳で、篠田を見上げる。

「あの、怒ってますか? 僕じゃ代わりになりませんか?」

 奏子の代わり……この『代わり』って言葉を、篠田がどうとらえるか。



 ヤツには確信がない。

 奏子が僕にどこまで話しているのか。
 子猫のことは、家の人には内緒だ。
 この秘密を僕に知られたのは偶然。
 けれども。
 知られてしまったからには、すべてを話したかどうか。

 自分が奏子にしたことを。

 怯えた様子がなければ、話していないと思われるだろう。
 もしくは、話したとしても。
 それが大したこと…悪いことだとわからない、無知な子どもだと思ってくれるはず。



「きみは日本語が上手だね」

 遠回しな質問に。

「はい。イギリスに家があるけど、小さい頃は日本にいました」

 先回りして有益な情報を与えてあげる。

「奏子とはすごく遠い親戚で、パパの仕事の都合でここに……僕だけ、一ヶ月くらいいる予定です」

「それは淋しいね。奏子ちゃんより大きいし男の子だから平気か。9歳か10歳くらいかな?」

 実際は11歳だけど、幼く見られるに越したことはない。

「はい。もうすぐ9歳です。おじさんは、奏子の友達のパパなんでしょう?」

「ああ……そうだよ」

 ちょっと動揺を見せる篠田。

「奏子ちゃんに……聞いたの?」

「はい。子猫のためにいろいろしてくれる、やさしいおじさんだって。秘密を守ってくれるから、ちゃんと言うこと聞いてねって……」

 9歳にしては頭が足りないと思われるかもしれない。

「子猫の引っ越し、僕が手伝います。秘密も守るし、言うこと聞きます。奏子とこの子たちが大切だから」

 でも、僕の計画には……願ったりだ。

「お願いします」

「わかった。きみ……」

「ジャルドです」

 篠田が微笑んだ。

「ジャルド。さっそく、引っ越しをしよう」

「はい!」

 警戒を解いたらしい篠田に、満面の笑みで答えた。



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みんなの感想(2件)

2019.04.02 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

Kinon
2019.04.02 Kinon

感想ありがとうございます!
自分で思っていたより話の進行が遅くなり……
会話も多く内容もアレなので、
読んでもらえて本当にうれしい限りです。
がんばります!

解除
2019.03.07 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

Kinon
2019.03.07 Kinon

感想ありがとうございます
敬遠されがちな題材にもかかわらず読んでくれて感謝!
エタらず最後まで書ききります(更新ゆっくりでも…)
よろしく~

解除

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