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第12章 準備

カメラを設置

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 今日。いよいよ篠田と対面する。

 奏子が保育園から帰ってくるのが4時過ぎ。
 その頃に、僕が子猫のおうちに行ってヤツを待つ。あるいは、奏子を待ってるヤツの前に現れる。
 奏子じゃなく僕がいることに、篠田は困惑するかもしれないけど……館の誰か、大人じゃないことにホッともするはず。

 篠田は、普通に社会生活を送っている。家庭内はどうかわからないけど、職場や保育園では問題なく社会人として父親として振る舞っているんだろう。



 でも、本性はペドファイルだ。
 そして、実際に子どもに手を出すチャイルドマレスターでもある。



 悪いことをしている自覚がある時って、慎重になるよね。慎重になると、うまくいくことばかりじゃなく……悪いほうにも考える。
 悪く転んだ場合を想定しておくんだ。

 だから、自分のした悪事がバラされて、大人があの場で自分を待ち受けていたらって可能性も考えていると思う。
 それに比べたら、子どもの僕がいても焦る必要はない。



 奏子の代わりに僕が子猫たちの引っ越しをしに来た理由を納得させたら……ヤツの小屋に行く。
 準備のひとつとして。今日の舞台となる場所に。あらかじめ、動画を撮れるカメラを設置しておかないと。
 かいに借りた、小型の監視カメラみたいなやつだ。



『基本はオンとオフだけ。音はしねぇから、あってもおかしくねぇとこに置くかくっつけとけばオッケー。バッテリーなしで90分くらい、あれば10時間は撮れるカードが入ってるから』



 凱に渡された小ぶりの紙袋には、弁当箱が入っていた。

 自分の部屋で開けてみると、一見普通の弁当箱……もちろん、食べ残しはなく、使われた形跡もない。
 だけど……。
 
 2段式になった容器の下段には、レンズのついた3センチ四方の機械が貼りつけられていた。一緒に、コードに繋がれたカメラの2倍強の大きさのバッテリーも。
 容器の側面とその外側にあたる紙袋に、レンズと同じサイズの穴。

 ここから、あの悪夢のような情景を録画して……凱は望むものを手に入れた。

 そして、今。
 僕も、望むものを手に入れるためにこれを使う。

 今日は手始めとして、カメラが狙い通りの働きをしてくれるかの検証だ。
 


 館に戻って昼食を取った。
 ランチの席にいたのは、僕と修哉さん、ショウ、綾さんの4人。来週、僕が小学校に通い始めるまで、平日の昼間に館にいるのは大体このメンバーだ。

 午後、綾さんは街に出かけて帰りは夕食時になるとのこと。
 修哉さんは、前庭の西側の柵の補修に行った。ショウは館の中で家事をこなす。

 森に出た。



 小屋Aの中で、辺りを見回す。
 手には、小型の盗撮用カメラと専用のバッテリーを入れた袋。録画したメモリカードから動画を確認するための小型端末と、カメラ固定用の粘着テープも入ってる。

 このカメラは僕の手のひらで包めるサイズだけど、見るからにメカだとわかるこれがその辺に置いてあったら不自然だ。
 かといって、何かに仕込んで置くにしても。もともとここにある篠田の私物以外のものがあれば、気づかれるだろう。
 とすると。

 すでにある小屋の備品に仕込むしかない。

 今日、篠田が手に取る可能性が低いもので……何かないかな。
 棚にある植物採取用のトレーや器具、瓶は無理そう。



 あ! これ……ちょうどいいんじゃない?



 入って左側の棚のちょうど中断に、蓋のない小さめの段ボール箱が二つ並んでいる。中身は、ひとつがキレイに纏められたロープや縄類。もうひとつは、折りたたまれたタオルや手ぬぐい。

 この箱なら簡単にレンズの穴が開けられるし、底のほうに設置すれば気づかれないはず。
 そんなに新しい箱じゃないから、破れた感じで小さな穴があってもおかしくは見えない。



 凱の弁当箱への仕込みはよく出来ていた。
 隙間ないくらいピッタリな紙袋に入れて、レンズの穴がズレないようになってたし。その穴も、絶妙に紙袋の模様に紛れ込ませてあったし。
 弁当箱って外側見てわかるから、開けられることもなさそうだしね。

 とにかく。
 この段ボール箱でやってみよう。

 腰の高さの棚から、タオルが入ったほうの箱をテーブルに移動した。



 1時間ほど、段ボール箱の底にカメラを設置する作業に没頭した結果。
 うまい具合に自然な穴を作り、レンズの視界は確保出来た。
 棚のあるほうを向いてテーブルの向こうに立てばカメラに映るように、角度を決めるのに手こずったけど。

 僕の膝から頭まで。
 そして、その横に立つ大人の頭まで入るアングルで固定して、試し撮りをしてみると……狙い通りの画が撮れた。



 これでバッチリ……あとは、フレーム内に篠田を誘導すればオーケー。



 段ボール箱は、思いのほか勝手がよかった。上にタオルを戻すから、バッテリーに繋いで使えるのはラッキーだ。
 10時間も撮れるなら、今からRECボタンをオンにしておける。

 約束の時間は、奏子が保育園から帰ってきてからだけど……早く来た篠田がここにいないとも限らないから。

 

 撮影を開始した小屋の中を見やり、息をつく。

 2時間後くらいに、篠田とともにここに来る。
 そして、計画通り。
 今日はヤツを油断させて……僕をヤツのターゲットとして認識させる。



 大丈夫。うまくやれる……うまくいく。



 5日前、この小屋の前で出会った奏子を思い出す。
 僕の内に棲む獰猛なモノの存在を意識しながら、復讐のためになるべき自分を思い描いた。


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