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第12章 準備

あと1日の時間

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「いつから知ってたの? クロたちのこと」

 子猫のおうちに戻りながら、一緒に歩く修哉さんに尋ねた。ベニヤと切り株で出来た子猫のおうちが視界に入ったところで、僕は尋ねた。

「クロってのは黒いヤツの名前か。あとの2匹は?」

「茶色のこがチャロで、灰色のこがハロ。奏子がつけたんだ」

「いい名前だ」

 笑いながら、修哉さんが頷く。

「たぶん、あいつらがここに来た日から知ってるさ。2週間前くらいか? この森はオレが面倒見てるんだからな」

 そうだ。
 2週間も子猫がここにいて、修哉さんが気づかないほうがおかしい。
 そのことに思い至らなかった僕がマヌケだ。

「奏子が毎日世話してる。何故か内緒でだ。しばらく様子みようと思ってな。ショウにはまだ話してない。まぁ、そろそろ潮時だろうが」

「じゃあ……僕が奏子といつもここに来てるのも、もちろん知ってたんだね」

「そりゃあ、お前が奏子と二人でいつも森に入ってればな。仲良くなったのは、こいつらがきっかけか?」



 僕と奏子を繋いだのは……生きる価値のない、チャイルドマレスターの篠田だ。
 子猫たちは、あの犯罪者と奏子の接点のきっかけになった。
 それは、僕たちの秘密。

 クロたちの存在がバレていたとしても、この秘密だけは知られるわけにはいかない。



「うん。せきとの顔合わせの日の午後に、森を散歩してたら奏子に会って。子猫たちに紹介してもらった。それから、ここに一緒に来てたんだけど……」

 子猫のおうちに着いた僕と修哉さんは、今さっき切り株の穴から引き出した箱の中を覗き込む。
 元気な声で鳴いたチャロが、箱の縁に向かってジャンプした。あとほんの1、2cmで届きそうだ。

「もうだいぶ育ってきたから……早くちゃんとした場所に移さなきゃねって、奏子と話してたところなんだ。あなたもそう思ってたんでしょ?」

 先に、自分から言う。

「犬猫はすぐデカくなるからな。こいつらもじきに飛び出しちまうだろう。本気で飼うなら、準備してやるぞ。ショウにもうまく話そう」

「そのことだけど」



 子猫を然るべき場所に移動する意思があること。
 そして、そのために自分たちで動きたいということ。

 あと1日の時間を稼ぐのに、今思いつくのはこれだけ。
 不自然じゃなく、修哉さんを納得させなきゃ……。



「一度、奏子がショウに飼いたいって頼んだら、ダメって言われたって。館のお客さんで猫アレルギーの人がいるみたい。だから、家の中じゃなくて前庭に小屋を作るとか、勝手口の脇の倉庫のひとつを使わせてもらうとか考えてた」

「まぁ、そんなところか。雨風しのげる簡単な小屋ならすぐ作れるが」

 修哉さんが箱に手を伸ばして、ハロを抱き上げる。

「真冬は、暖房もいるな」

「うん」

「とりあえず、庭仕事の道具や肥料なんかの倉庫にこの箱ごと置いておくか」

「修哉さん……子猫の移動、明日でもいい?」

 振り向いて僕を見る修哉さんに。邪気のない、真剣な眼差しを向ける。

「奏子と今、プランを練ってるんだ。子猫のおうちをどこにするか、ショウに何て言おうか。奏子はまだ小さいけど、自分の力でクロたちを守ってあげたいって思ってる」



 そのために払った犠牲は大きくて……胸が痛む。

 まともな世の中なら不要な犠牲。
 卑劣な大人の、汚い欲望が奪った……理不尽な犠牲だ。



「だから、修哉さんの好意はすごくありがたいし嬉しいけど、奏子に頼まれてから手を貸してほしい。形だけでも」

 僕をジッと見つめる修哉さんから、目を逸らさずに続ける。

「今日、奏子と話すから。明日には、子猫の引っ越し出来ると思う。お願いします」

「ああ。もちろん、いいさ」

 よかった……!

「ありがとう! クロたちを黙って見守ってくれてたことも」

「ジャルド。おまえはやさしいな」

 夕方の計画がダメにならずに済んでホッとした僕は、心底嬉しそうな声と顔をしていたみたいだ。
 修哉さんには、それが純粋に奏子のために喜んでいるように見えるんだろう。

「加えて、他人に深く共感出来るなら、人望でみんなを纏めるリーダーになれるぞ。冷静な頭脳と力で統率するラストワと違ってな。楽しみだ」

「そんなこと……ないよ」

「だが、危うい」

「え……?」


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