105 / 110
第12章 準備
あと1日の時間
しおりを挟む
「いつから知ってたの? クロたちのこと」
子猫のおうちに戻りながら、一緒に歩く修哉さんに尋ねた。ベニヤと切り株で出来た子猫のおうちが視界に入ったところで、僕は尋ねた。
「クロってのは黒いヤツの名前か。あとの2匹は?」
「茶色のこがチャロで、灰色のこがハロ。奏子がつけたんだ」
「いい名前だ」
笑いながら、修哉さんが頷く。
「たぶん、あいつらがここに来た日から知ってるさ。2週間前くらいか? この森はオレが面倒見てるんだからな」
そうだ。
2週間も子猫がここにいて、修哉さんが気づかないほうがおかしい。
そのことに思い至らなかった僕がマヌケだ。
「奏子が毎日世話してる。何故か内緒でだ。しばらく様子みようと思ってな。ショウにはまだ話してない。まぁ、そろそろ潮時だろうが」
「じゃあ……僕が奏子といつもここに来てるのも、もちろん知ってたんだね」
「そりゃあ、お前が奏子と二人でいつも森に入ってればな。仲良くなったのは、こいつらがきっかけか?」
僕と奏子を繋いだのは……生きる価値のない、チャイルドマレスターの篠田だ。
子猫たちは、あの犯罪者と奏子の接点のきっかけになった。
それは、僕たちの秘密。
クロたちの存在がバレていたとしても、この秘密だけは知られるわけにはいかない。
「うん。汐との顔合わせの日の午後に、森を散歩してたら奏子に会って。子猫たちに紹介してもらった。それから、ここに一緒に来てたんだけど……」
子猫のおうちに着いた僕と修哉さんは、今さっき切り株の穴から引き出した箱の中を覗き込む。
元気な声で鳴いたチャロが、箱の縁に向かってジャンプした。あとほんの1、2cmで届きそうだ。
「もうだいぶ育ってきたから……早くちゃんとした場所に移さなきゃねって、奏子と話してたところなんだ。あなたもそう思ってたんでしょ?」
先に、自分から言う。
「犬猫はすぐデカくなるからな。こいつらもじきに飛び出しちまうだろう。本気で飼うなら、準備してやるぞ。ショウにもうまく話そう」
「そのことだけど」
子猫を然るべき場所に移動する意思があること。
そして、そのために自分たちで動きたいということ。
あと1日の時間を稼ぐのに、今思いつくのはこれだけ。
不自然じゃなく、修哉さんを納得させなきゃ……。
「一度、奏子がショウに飼いたいって頼んだら、ダメって言われたって。館のお客さんで猫アレルギーの人がいるみたい。だから、家の中じゃなくて前庭に小屋を作るとか、勝手口の脇の倉庫のひとつを使わせてもらうとか考えてた」
「まぁ、そんなところか。雨風しのげる簡単な小屋ならすぐ作れるが」
修哉さんが箱に手を伸ばして、ハロを抱き上げる。
「真冬は、暖房もいるな」
「うん」
「とりあえず、庭仕事の道具や肥料なんかの倉庫にこの箱ごと置いておくか」
「修哉さん……子猫の移動、明日でもいい?」
振り向いて僕を見る修哉さんに。邪気のない、真剣な眼差しを向ける。
「奏子と今、プランを練ってるんだ。子猫のおうちをどこにするか、ショウに何て言おうか。奏子はまだ小さいけど、自分の力でクロたちを守ってあげたいって思ってる」
そのために払った犠牲は大きくて……胸が痛む。
まともな世の中なら不要な犠牲。
卑劣な大人の、汚い欲望が奪った……理不尽な犠牲だ。
「だから、修哉さんの好意はすごくありがたいし嬉しいけど、奏子に頼まれてから手を貸してほしい。形だけでも」
僕をジッと見つめる修哉さんから、目を逸らさずに続ける。
「今日、奏子と話すから。明日には、子猫の引っ越し出来ると思う。お願いします」
「ああ。もちろん、いいさ」
よかった……!
「ありがとう! クロたちを黙って見守ってくれてたことも」
「ジャルド。おまえはやさしいな」
夕方の計画がダメにならずに済んでホッとした僕は、心底嬉しそうな声と顔をしていたみたいだ。
修哉さんには、それが純粋に奏子のために喜んでいるように見えるんだろう。
「加えて、他人に深く共感出来るなら、人望でみんなを纏めるリーダーになれるぞ。冷静な頭脳と力で統率するラストワと違ってな。楽しみだ」
「そんなこと……ないよ」
「だが、危うい」
「え……?」
子猫のおうちに戻りながら、一緒に歩く修哉さんに尋ねた。ベニヤと切り株で出来た子猫のおうちが視界に入ったところで、僕は尋ねた。
「クロってのは黒いヤツの名前か。あとの2匹は?」
「茶色のこがチャロで、灰色のこがハロ。奏子がつけたんだ」
「いい名前だ」
笑いながら、修哉さんが頷く。
「たぶん、あいつらがここに来た日から知ってるさ。2週間前くらいか? この森はオレが面倒見てるんだからな」
そうだ。
2週間も子猫がここにいて、修哉さんが気づかないほうがおかしい。
そのことに思い至らなかった僕がマヌケだ。
「奏子が毎日世話してる。何故か内緒でだ。しばらく様子みようと思ってな。ショウにはまだ話してない。まぁ、そろそろ潮時だろうが」
「じゃあ……僕が奏子といつもここに来てるのも、もちろん知ってたんだね」
「そりゃあ、お前が奏子と二人でいつも森に入ってればな。仲良くなったのは、こいつらがきっかけか?」
僕と奏子を繋いだのは……生きる価値のない、チャイルドマレスターの篠田だ。
子猫たちは、あの犯罪者と奏子の接点のきっかけになった。
それは、僕たちの秘密。
クロたちの存在がバレていたとしても、この秘密だけは知られるわけにはいかない。
「うん。汐との顔合わせの日の午後に、森を散歩してたら奏子に会って。子猫たちに紹介してもらった。それから、ここに一緒に来てたんだけど……」
子猫のおうちに着いた僕と修哉さんは、今さっき切り株の穴から引き出した箱の中を覗き込む。
元気な声で鳴いたチャロが、箱の縁に向かってジャンプした。あとほんの1、2cmで届きそうだ。
「もうだいぶ育ってきたから……早くちゃんとした場所に移さなきゃねって、奏子と話してたところなんだ。あなたもそう思ってたんでしょ?」
先に、自分から言う。
「犬猫はすぐデカくなるからな。こいつらもじきに飛び出しちまうだろう。本気で飼うなら、準備してやるぞ。ショウにもうまく話そう」
「そのことだけど」
子猫を然るべき場所に移動する意思があること。
そして、そのために自分たちで動きたいということ。
あと1日の時間を稼ぐのに、今思いつくのはこれだけ。
不自然じゃなく、修哉さんを納得させなきゃ……。
「一度、奏子がショウに飼いたいって頼んだら、ダメって言われたって。館のお客さんで猫アレルギーの人がいるみたい。だから、家の中じゃなくて前庭に小屋を作るとか、勝手口の脇の倉庫のひとつを使わせてもらうとか考えてた」
「まぁ、そんなところか。雨風しのげる簡単な小屋ならすぐ作れるが」
修哉さんが箱に手を伸ばして、ハロを抱き上げる。
「真冬は、暖房もいるな」
「うん」
「とりあえず、庭仕事の道具や肥料なんかの倉庫にこの箱ごと置いておくか」
「修哉さん……子猫の移動、明日でもいい?」
振り向いて僕を見る修哉さんに。邪気のない、真剣な眼差しを向ける。
「奏子と今、プランを練ってるんだ。子猫のおうちをどこにするか、ショウに何て言おうか。奏子はまだ小さいけど、自分の力でクロたちを守ってあげたいって思ってる」
そのために払った犠牲は大きくて……胸が痛む。
まともな世の中なら不要な犠牲。
卑劣な大人の、汚い欲望が奪った……理不尽な犠牲だ。
「だから、修哉さんの好意はすごくありがたいし嬉しいけど、奏子に頼まれてから手を貸してほしい。形だけでも」
僕をジッと見つめる修哉さんから、目を逸らさずに続ける。
「今日、奏子と話すから。明日には、子猫の引っ越し出来ると思う。お願いします」
「ああ。もちろん、いいさ」
よかった……!
「ありがとう! クロたちを黙って見守ってくれてたことも」
「ジャルド。おまえはやさしいな」
夕方の計画がダメにならずに済んでホッとした僕は、心底嬉しそうな声と顔をしていたみたいだ。
修哉さんには、それが純粋に奏子のために喜んでいるように見えるんだろう。
「加えて、他人に深く共感出来るなら、人望でみんなを纏めるリーダーになれるぞ。冷静な頭脳と力で統率するラストワと違ってな。楽しみだ」
「そんなこと……ないよ」
「だが、危うい」
「え……?」
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
親戚のおじさんに犯された!嫌がる私の姿を見ながら胸を揉み・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
親戚のおじさんの家に住み、大学に通うことになった。
「おじさん、卒業するまで、どうぞよろしくお願いします」
「ああ、たっぷりとかわいがってあげるよ・・・」
「・・・?は、はい」
いやらしく私の目を見ながらニヤつく・・・
その夜。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
サディストの飼主さんに飼われてるマゾの日記。
風
恋愛
サディストの飼主さんに飼われてるマゾヒストのペット日記。
飼主さんが大好きです。
グロ表現、
性的表現もあります。
行為は「鬼畜系」なので苦手な人は見ないでください。
基本的に苦痛系のみですが
飼主さんとペットの関係は甘々です。
マゾ目線Only。
フィクションです。
※ノンフィクションの方にアップしてたけど、混乱させそうなので別にしました。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
【R18】女の子にさせないで。
秋葉 幾三
恋愛
初投稿です長文は初めてなので読みにくいです。
体だけが女の子になってしまった、主人公:牧野 郁(まきの かおる)が、憧れのヒロインの:鈴木 怜香(すずき れいか)と恋人同士になれるかの物語、時代背景は遺伝子とか最適化された、チョット未来です、男心だけでHな恋人関係になれるのか?というドタバタ劇です。
12月からプロローグ章を追加中、女の子になってから女子校に通い始めるまでのお話です、
二章か三章程になる予定です、宜しくお願いします
小説家になろう(18歳以上向け)サイトでも挿絵付きで掲載中、
(https://novel18.syosetu.com/n3110gq/ 18禁サイトへ飛びます、注意)
「カクヨミ」サイトでも掲載中です、宜しくお願いします。
(https://kakuyomu.jp/works/1177354055272742317)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる