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第11章 解放する者

ひとりじゃ淋しくて心細いの

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 かいの誘い……というか提案に、揺れた。

 破壊のボタンなんて現実にはない。
 あるのは……。

 すべてを犠牲に出来る破壊者に変わるボタン、だ。

 いや、違う。
 凱は昨夜言っていた。



『目的のためなら、オレは何を犠牲にしてもいーの』
『オレがどうにか出来るもんなら』



 自分が差し出せるものを犠牲にするなら、僕にも出来る。
 凱のいう『悪モノ退治』に不要な心を捨てられる人間……に、なりたいと思った。

 だけど。
 あと少し、猶予がほしい。



「じゃあ、なりたくなったら凱に教えてもらうことにするよ」

 僕の言葉に、近い距離にある凱の瞳が問うように傾く。

「へー……思ったより切羽詰まってねぇんだな」

「そんなふうに見える?」

「見えねぇよーにしてるよーに見える」

 笑った。
 すでに何か企んでる……悪になるつもりがあるのはバレている。
 だから、ここで否定しても意味がない。

「つまり、見えるんだ」

「だから、こっちに引きずり込めんじゃねぇかって」

 こっちって……悪の側に?

 真意を尋ねるように、凱の瞳から視線をずらさずに目を細めた。

「まだ早いの何の言っても、ほんとはおまえに堕ちてほしいから」

「僕に……何させたいの?」

「特に何もねぇよ」

「じゃあ何で……」

「ひとりじゃ淋しくて心細いの」

「そんなわけないじゃん」

 大きく息を吐く。

「少なくとも。ひとりが心細いって思う人間に、ひとりで悪になるなんて出来ないでしょ」

「物理的に人手が要る時はあるぜ」

「そのため? おとりがほしいの?」

 笑いを堪えながら、凱が首を横に振る。

「そんなら、とっくにれつのこと使ってんだろ。だとしても、ヤバい目にあわせる気はねぇよ」

「ボタンは押せるのに?」

「一緒に道連れとは違うじゃん。絶対仕留められんなら全滅もありだけどさー。賭けに使えんのは自分の身体と心だけ」



 凱のマイルールにはきっと矛盾もあるんだろう。
 だけど。
 賭けの段階で犠牲にしていいのは自分だけっていうのは、すごく納得がいく。

 自分が納得出来て拠り所にするルールが、僕にも必要だと思った。



 そして。
 せっかく話に出た烈のことを、凱にも聞いてみる。

「急かさなくても、僕はそっちに行く予定だけど……ねぇ、凱から見て烈は? 同類?」

 前屈みになっていた上体を戻した凱が、微かに眉をひそめる。

「烈は……あ。そういえば昨夜、おまえが連れて来たんだよな? 烈とジェイク」

 僕の問いに答える前に、凱は昨夜のことを聞き返した。

「うん……修哉さんを呼びに戻ったんだけど、烈にいないって言われて。凱を助けに行きたいって話してるところにリージェイクが来て、それで3人で。何で?」

「二人とも、オレがやられてても助けるって発想にはなんねぇはずだから」

「凱が血だらけで、縛られてるって言ったんだ。烈は最初……凱は男ともするから大丈夫って取り合ってくれなくて」

「あーあいつ、セックス関係嫌ってんの。オレのせいで、よけいなもん見過ぎたからかもしんねぇけど。まぁ……そのうちいいもんだってわかんだろ」



 確かに。烈はセックスを否定していた。
 凱のせいとは限らないし、烈も僕と同じまだ子どもだけど……セックスがいいものだって思える日が来るかどうかはわからない。

 自分が思える気がしないから。



「でも、烈もリージェイクも本気で心配してたよ」

「うん。ほんと、ありがとね」

 素直な笑顔で言ったあと、凱が短い溜息をつく。

「烈はさー、オレやおまえみたいな人間じゃねぇと思ってたんだけど……もしかしたら、同じかもな。温度がなくてわかりにくいの」

「温度? 何の?」

「んー……精神つーか気持ち? あいつ、何にでも冷静で何にも熱くなんねぇからさ。何かあってもオレにさえ隠すし。つらいのか怒ってんのかも、あんまわかんねぇんだよ」

「隠してるのはわかる?」

「なんとなく。かわいい弟だからねー」

 大切なものはないと言った凱が、やさしげに微笑む。
 弟の烈を思うその気持ちは、心を捨てる時は一緒になくなるんだろうか。

「知られたくねぇこともあんだろ」

「もし、烈が……悪になるとしたら?」

「そうなる前に、オレがその元凶ぶっ潰す」

 凱は一瞬だけ鋭い瞳をしてそう言って、表情を緩めた。

「つってもさー、たぶん……烈はオレに言わねぇよ」

「どうして?」

「オレがおかしくなんの見てるから。こんなの関わらせてやり過ぎるリスクは負わねぇんじゃねぇの」

 その通りだ。



 でも、僕は。おかしくなっても戻れる……というか、負の部分をコントロールする凱の強さを信じられる。
 そして、自分にもその強さがほしい。
 だから、必要なら凱の手を借りたいと思ってる。



「まぁ、絶対やるって決めれんなら……そんだけの理由があんだろーし、止めねぇかな」

「そっか……」

 ちょっとホッとした。
 凱に止めるつもりがないなら、烈の復讐に協力することに罪悪感を持たなくて済む。

「ジャルド。おまえ、烈と仲良くなったの?」

「え……うん。日曜に本借りに行って、少し話したら気が合ったんだ」

 僕をジッと見つめる凱に、リージェイクと話した時と同じことを言う。

「学校も、烈がいるから心強いよ」

「ふうん。じゃあ、何かあったら聞いてやって。おまえになら話しそーじゃん。いろいろ中に溜め込んで爆発する前に、外に出したほうがいーからさ」

「うん」

「サンキュ。頼むねー」

 微笑み、凱はテーブル上の薬のシートを片づけ始めた。

 なんとなく一段落ついた感じで、部屋を見回して時計を探す。
 何枚かの絵が張られた壁にはなく、デスクの上に見つけた時計が示すのは10時25分。



 昨夜遅かったし。
 今日は午前中に綾さんのカウンセリング、午後にはリージェイクと話して夜は凱と……。
 いろんな情報で頭がいっぱいだ。

 そして、眠い。



「凱。そろそろ部屋に戻るよ。また今度……話したい」

「おー、家にいる時ならいつでもいーよ」

「ねぇ……淋しいなら、リージェイクと話したら? 前みたいに仲良くなれるんじゃない?」

「だといーけどね。あー……ならさ、伝言。ジェイクまだケータイねぇから」

「伝言って今?」

「うん。『淋しいから来て』って」

 冗談……じゃないんだよね?

 すぐに了解しない僕に、凱が笑う。

「大丈夫。来てもケンカはしねぇよ」

「そんな心配はしてないけど……」

「何だよ。襲ったりもしねぇって」

「そ……れは考えもしなかったけど……」

「おまえが何かするつもりだってのも、言わねぇよ。ほんとに淋しいだけ。仲良くなれなくてもいーの。ちょっと人恋しくてさー」

 僕のことを言わないでくれるなら安心だ。
 リージェイクも凱とちゃんと話したいと思うし。

「わかった」



 やっぱり。僕も、二人の仲が回復することを願おう。

『頼るならオレにして』
『ジェイクに気づかれんな』

 リージェイクを気遣う凱の言葉は、嘘じゃない。
 彼に、自分から僕のことをばらすことはないはず。



 部屋を出る前に、凱から動画撮影用のカメラを受け取った。
 それは、昨夜あの小屋にあった小さめの紙袋だった。


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