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第10章 過去の真実

傷つくのを見たくない

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「復讐出来ない……しないのは、イーヴァのことがあるから?」

 リージェイクの気持ちは揺るがないんだろう……。
 
「もちろん、それもあるけど……僕が、嫌だった。どうしても」



 え!?
 自分がレイプされるよりも……!?



 僕の困惑を目にしたリージェイクが、さらに顔を歪ませる。

「震えてたからね、ずっと。自分が男たちにやらせていることに、一番苦痛を感じて嫌悪しているのはかいだった。その上ヤツらにレイプされたら、彼の精神はもたない」

「……覚悟の上なんでしょ?」

「それでも、だよ。ああいうことのダメージは精神状態によってだいぶ変わる。僕はそれ以上、凱を壊したくなかった」

 リージェイクが、細く長い溜息をついた。

「だから、ヤツらに何度OKしろと脅されても、僕はNOとしか言わなかったんだ。傷だらけになったのは、凱がやらせたわけじゃない。たぶん、凱はそれも修哉さんに言ってないだろうね」

「……修哉さんは、凱が全部悪いと思ってるよ。だって……オレがやらせたって自分で言ったんでしょ。その状況を作ったのは凱なんだから、その通りじゃん」

 段々と苛立ってきた。

「なのに、また言うつもり!? 自分の選んだ状況だ。僕はそれを受容したんだって。何でそんなに自虐的なの?」

「自虐的……なのかな」

 突然の僕の責めるような言い草に。
 驚きも気を悪くもせず、リージェイクは途方に暮れたような顔で呟いた。

「自分で自分を苦しめたいとは思ってないよ。ただ、僕は……凱が傷つくのを見たくないんだ」

「どうして……? 凱のやることにリージェイクが責任を感じることないじゃん。暴行事件の時のことを後悔してるから?」

「……あの時の後悔が消えない。かといって、凱の思い通りになって彼に復讐することは出来ない。もちろん、凱を憎むこともね」

「『僕はきみの思い通りにはならない』」

 修哉さんから聞いた、リージェイクが凱に言った言葉を口にした。

「リージェイクがそう決めたから、凱はあなたを悪にするのを諦めたんでしょ?」

「たぶんね。そして、凱は本格的に人を壊し始めた。1年前にイギリスに戻るまでに何度かやめるよう話したけど、凱は大丈夫って笑うだけで……もう、僕の言葉は届かなかった」

 煩悶する心を淋しさで覆ったような顔で言うリージェイクを見て、ふと思った。



 暴行事件は、確かに凱を悪に変えたんだろう。
 だけど。
 彼を破壊者にしたのは……自分がリージェイクをレイプさせることになったこの一件だ。

 この時、凱は……賭けていたんじゃないかな。

 リージェイクが自分に復讐すれば。自分のために悪になれば、暴行事件で狂気に堕ちた自分を再び信じることが出来る。
 レイプされる苦痛と屈辱を、自分への罰として。

 そして……。
 リージェイクが、どんな目に合おうと復讐を選ばないのなら。
 自分のいる悪の側に来ないのであれば、自力で戻るかそこに留まるか……。

 凱は、どうするつもりだったんだろう……。



「だからね。凱と同じ選択をしそうなきみを、今度こそは止めなければと思ったんだ」

 リージェイクが真剣な瞳で僕を見る。
 急に話の矛先を向けられて、無難に返す言葉が思いつかない。

「でも、それは間違いだってわかったよ」

 黙ったまま、問いと疑心を乗せて方眉を上げた。

「もし、きみが悪になることがあるなら、僕に止められる程度の覚悟じゃないと思うから」

「みんな……そうでしょ? リージェイクに凱が止められなかったみたいに、あなたが決めたことだって、きっと僕には変えられない」

「そうだね。人が本気でやると決意したことを止められるなんて、思い上がりだったよ」

 リージェイクの口元に乾いた笑みが浮かぶ。

「凱を救いたいって思うのも同じだ。彼はひとりで立てる人間だし、実際に救われているのは僕のほうかもしれない。自分にとって何が大切かを考えて、後悔しないほうを選ぶ……今、僕に出来るのはそれくらいかな」

「リージェイクは……」

 言いかけてから、躊躇する。



 今日、リージェイクは本当の自分を僕に見せた。
 彼の話した予想だにしなかった事実と真実の中で、確かめたいことがある。
 イエスだと思って聞くんだけど、ノーだからといって何が変わるわけでもない。

 ためらったのは。
 それを知れば……僕の頭と心のモヤモヤが晴れる代わりに、知ったことでマイナスになる面が出てくるから。

 だけど。
 聞いておくなら、今がいい。



「凱のことが好きなの?」


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