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第10章 過去の真実
彼を傷つけた
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沈黙の中。
ためらいながら口を開く。
「リージェイクも、本当は……復讐したかったの?」
「あの教師は最低の人間だったから……みんなに与えた以上の苦痛を味わわせてやりたいと思ったよ。二度とあんなことをする気が起こらないくらいに……いや。自分のやったことを死ぬ瞬間まで後悔するくらいに」
嫌悪感と憎しみをありありと含んだリージェイクの声音とその言葉に、目を瞠った。
僕が復讐を望むヤツへの気持ちと同じか、それ以上の怒りの感情が……彼にもある。
「なら、凱と一緒に復讐すればよかったのに。そうしてたら……」
そうしてたら……?
リージェイクと凱は今どうなっていただろう。
彼自身が、仮定の結果を口にする。
「凱は破壊者にならず、僕たちは親友のままいられたか……二人揃って破壊者になっていたか」
「もし……自分がそこにいたら、今の凱にはならなかった……そう思ってるの? でも、それはリージェイクのせいじゃない。凱だって、前の自分じゃいられないことぐらい覚悟してやったはず。誰のせいにもしてないでしょ?」
必死に二人を弁護した。
リージェイクの責任じゃない。
凱は後悔していない。
二人とも、悪くない。
「復讐の場にいてほしい。その頼みに……僕は行けない、悪にはなりたくないんだって答えた時……凱が聞いたんだ。『自分が悪になってでも制したい悪がいる時、悪を制することを選ぶ気持ちを理解出来ないのか』って……前に話したかな」
そうだ……。
夕食会のあと、凱の話をした時に……。
「理解出来るけど、認めない。リージェイクはそう言ったんでしょ?」
頷きながら俯いたリージェイクが、大きな溜息をつき。
「言うべきじゃなかった」
自嘲の色を浮かべた顔を僕に向ける。
「すでに自信を失いかけていた凱に、追い打ちをかけたようなものだ」
「そう……なの? 認めないって言ったことが? でも、本当のことなんでしょ?」
「嘘じゃない。だけど、復讐を否定しながらもそれを望む気持ちが、あの時の僕にあった。それを打ち消したくて出た言葉だ」
悪を悪で制したい……。
許せない人間に対して湧くこの思いは、誰もが持ち得る負の部分から生じるのかもしれない。
「僕が自分の弱さから放った、凱の行動を否定する言葉に……彼は笑ったよ」
「笑った……?」
「諦めたようにね。狂気に堕ちる自分に命綱はない。それを受け入れた」
リージェイクが、凱の命綱だった……。
「僕は凱を突き放した……彼を傷つけたんだ」
リージェイクの表情は、今日話したどんな残酷な出来事を語る時よりも苦悶に満ちていた。
「部屋を出る時、凱は僕を抱きしめたよ。『来るのが怖いなら、おまえも悪になり得る。あっち側で待ってる』そう言って。教師を暴行したのは翌日だった」
あっち側。
悪の側……狂気が手をこまねく、心を保てない世界。
凱は今もそこにいるのか……。
「凱は……だから、リージェイクを悪にしたかったの? その時一緒に来てくれなかったから?」
「どうだろうね」
リージェイクは両手のひらをじっと見つめ、強く握りしめた。
「あれ以来、以前の凱には戻らない。表面上というか、普段の彼は昨夜のように素直な態度だけど……行動は破滅的だ。そして、必要な時には……心ない破壊者に一変する」
「心は、ちゃんとあると思う」
ずっと思っていたことを口にする。
「ただ、その必要な時には切り捨てて、閉じ込めてるんだ。心があると……出来ないことをするために。凱はきっと、狂気に囚われてなんかいない。逆に取り込んで操るくらいするんじゃないかな」
リージェイクが眉を寄せる。
その瞳を染めるのは、少しの驚きと多くの悲しみ。
フッと息を漏らし、リージェイクが控えめに笑った。
「何か、変なこと言った?」
「いや……ただね。きみと凱はやっぱり同じなんだなと思って」
同じ……?
「必要なら、きみも自分の心を無視出来るだろう?」
問われて、答えに詰まった。
『だって、そうしなきゃ悪になって復讐なんて出来ないから』
そう本心を晒すわけにはいかない。
ためらいながら口を開く。
「リージェイクも、本当は……復讐したかったの?」
「あの教師は最低の人間だったから……みんなに与えた以上の苦痛を味わわせてやりたいと思ったよ。二度とあんなことをする気が起こらないくらいに……いや。自分のやったことを死ぬ瞬間まで後悔するくらいに」
嫌悪感と憎しみをありありと含んだリージェイクの声音とその言葉に、目を瞠った。
僕が復讐を望むヤツへの気持ちと同じか、それ以上の怒りの感情が……彼にもある。
「なら、凱と一緒に復讐すればよかったのに。そうしてたら……」
そうしてたら……?
リージェイクと凱は今どうなっていただろう。
彼自身が、仮定の結果を口にする。
「凱は破壊者にならず、僕たちは親友のままいられたか……二人揃って破壊者になっていたか」
「もし……自分がそこにいたら、今の凱にはならなかった……そう思ってるの? でも、それはリージェイクのせいじゃない。凱だって、前の自分じゃいられないことぐらい覚悟してやったはず。誰のせいにもしてないでしょ?」
必死に二人を弁護した。
リージェイクの責任じゃない。
凱は後悔していない。
二人とも、悪くない。
「復讐の場にいてほしい。その頼みに……僕は行けない、悪にはなりたくないんだって答えた時……凱が聞いたんだ。『自分が悪になってでも制したい悪がいる時、悪を制することを選ぶ気持ちを理解出来ないのか』って……前に話したかな」
そうだ……。
夕食会のあと、凱の話をした時に……。
「理解出来るけど、認めない。リージェイクはそう言ったんでしょ?」
頷きながら俯いたリージェイクが、大きな溜息をつき。
「言うべきじゃなかった」
自嘲の色を浮かべた顔を僕に向ける。
「すでに自信を失いかけていた凱に、追い打ちをかけたようなものだ」
「そう……なの? 認めないって言ったことが? でも、本当のことなんでしょ?」
「嘘じゃない。だけど、復讐を否定しながらもそれを望む気持ちが、あの時の僕にあった。それを打ち消したくて出た言葉だ」
悪を悪で制したい……。
許せない人間に対して湧くこの思いは、誰もが持ち得る負の部分から生じるのかもしれない。
「僕が自分の弱さから放った、凱の行動を否定する言葉に……彼は笑ったよ」
「笑った……?」
「諦めたようにね。狂気に堕ちる自分に命綱はない。それを受け入れた」
リージェイクが、凱の命綱だった……。
「僕は凱を突き放した……彼を傷つけたんだ」
リージェイクの表情は、今日話したどんな残酷な出来事を語る時よりも苦悶に満ちていた。
「部屋を出る時、凱は僕を抱きしめたよ。『来るのが怖いなら、おまえも悪になり得る。あっち側で待ってる』そう言って。教師を暴行したのは翌日だった」
あっち側。
悪の側……狂気が手をこまねく、心を保てない世界。
凱は今もそこにいるのか……。
「凱は……だから、リージェイクを悪にしたかったの? その時一緒に来てくれなかったから?」
「どうだろうね」
リージェイクは両手のひらをじっと見つめ、強く握りしめた。
「あれ以来、以前の凱には戻らない。表面上というか、普段の彼は昨夜のように素直な態度だけど……行動は破滅的だ。そして、必要な時には……心ない破壊者に一変する」
「心は、ちゃんとあると思う」
ずっと思っていたことを口にする。
「ただ、その必要な時には切り捨てて、閉じ込めてるんだ。心があると……出来ないことをするために。凱はきっと、狂気に囚われてなんかいない。逆に取り込んで操るくらいするんじゃないかな」
リージェイクが眉を寄せる。
その瞳を染めるのは、少しの驚きと多くの悲しみ。
フッと息を漏らし、リージェイクが控えめに笑った。
「何か、変なこと言った?」
「いや……ただね。きみと凱はやっぱり同じなんだなと思って」
同じ……?
「必要なら、きみも自分の心を無視出来るだろう?」
問われて、答えに詰まった。
『だって、そうしなきゃ悪になって復讐なんて出来ないから』
そう本心を晒すわけにはいかない。
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