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第9章 受容する者
すべてを受容したんだ
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「自分の運命に」
リージェイクが自嘲気味に笑う。
「リシールの継承者に生まれたこと。悪事で得る収入で生活していること。自分の置かれた状況すべてに反発したくて……でも、何ひとつ変えられることはない。だから、逆にすべてを受容したんだ」
「受容……?」
「うん。その時の自分の状況を受け入れて、その中で自分の持つ能力を最大限に使って生きる。それは受容だろう?」
そうなの……かな。
最大の反発としての受容……運命の言いなりじゃなく、逆に利用する……ってこと?
僕は、運命なんか信じていない。
今の自分の境遇に、感謝してはいないけど嘆いてもいない。
そもそも。
反発したくなるほど、自分に価値があると思っていないんだと思う。
「リージェイクはそれで満足してたの? お父さんと一緒に悪事に手を染めて、そこに自分の価値があるって」
「1年くらいの間は……そう、満たされてたよ。父は僕の意思を汲んで仕事に使っていたけど、何度も、やめろと言われたな。でも、ほかの仲間が僕の存在を頼りにするようになって……しぶしぶながら同行させることが多くなった。継承者の力を他言されても困るしね」
「そう……なんだ」
言いたいことはあるはずなのに、うまく言葉に出来なかった。
そんな僕の表情を見て、リージェイクが大きく息を吐く。
「その頃、僕は今のきみより少し年下なだけだったけど……きみよりも遥かに浅はかな人間だったんだよ」
無言で首を傾げた。
「自分を過信して、先を考えずに行動して……歯車の狂いに気づかなかった。すでに手遅れになるまでね」
そうだった。
これはハッピーエンドのストーリーじゃない。
リージェイクが両親を失くす……悪夢の話だ。
一族から離れ、犯罪行為を重ねていって……。
「何が起きたの?」
「もともと正しいことをしていたわけじゃなかったけど。僕を使うことは父の仕事の効率を上げると同時に、敵対する組織から買う反感と恨みもアップさせたんだ。やがて、争いが始まるのは時間の問題というところまできた」
「敵って……敵対する組織って……何でリージェイクたちと争うの?」
「同業者の潰し合い。獲物の取り合い。国同士の戦争や、動物の縄張り争いと似たようなものかな」
「やめればよかったのに……」
僕の呟きに、リージェイクが薄く微笑んだ。
「今なら、僕もそう思うよ。当時は見えなかったことも見ようとしなかったことも、今は見えるからね」
「じゃあ、リージェイクも……続けたんだ」
「いや。ある日、父は強制的に僕に手を引かせた……殴り倒して、置いて行ったんだ」
「それで……?」
「僕がいなくても、父たちは普段通りならうまくやってのける。だけど、その日は運悪く、敵と遭遇した。ひとり、やられたよ」
「やられたって……」
「捕まって次の日、自宅の前に捨てられた」
「殺された……の!?」
「命はある。精神は破壊された状態だ。身体は無事のまま廃人にする方法は、いくらでもあるからね」
廃人……壊された人間は、そうなるんだろうか。
「仲間をやられて、父はみんなを止められなかった。若いグループのうちの二人が奇襲をかけて、敵をひとり同じ目に合わせたんだ。そこからはもう、歯止めの利かない復讐合戦の始まりだ」
復讐や報復には終わりがない……対象が残っている限り続くもの。
実際に経験したから、それがわかるのか……。
「何をして何をされたか、具体的なことは省くよ。僕はそれに関われなかったし、胸の悪くなる話だから」
相槌を打てずに、開いた口を閉じた。
「結局、3ヶ月の間に……6人死んで5人が再起不能になった。当然、向こうにも同様の被害が出ている」
「そんなに……」
「ただのケガと、暴行された家族は数に入れずにだ」
「家族も……!?」
「本格的な争いになってから、父たちはそれぞれ連絡は携帯端末で取り合って。住む場所を転々として敵の目をくらましながら攻撃していたけど……全く外に出ないわけにはいかなかったからね。襲われる可能性をゼロには出来なかったんだ」
「お母さんは……リージェイクを連れてイギリスに逃げようとは思わなかったの?」
「母には、父を残して国外に逃げるなんて発想はなかったよ。僕は僕で、自分も復讐に参加することしか頭になかった」
眉間に皺を寄せて自分を凝視する僕の瞳を見て、リージェイクは軽く2、3度頷いた。
言いたいことはわかっている、というふうに。
「本当に愚かだったと思うよ。だけど、父は頑なに僕を連れて行こうとはしなかった……ある時までは」
「何が……?」
僕の声は、微かに震えていた。
次に何が起きたか……予想出来たから。
「変装した僕が買い出しに行っている間に、母がさらわれたんだ」
リージェイクが自嘲気味に笑う。
「リシールの継承者に生まれたこと。悪事で得る収入で生活していること。自分の置かれた状況すべてに反発したくて……でも、何ひとつ変えられることはない。だから、逆にすべてを受容したんだ」
「受容……?」
「うん。その時の自分の状況を受け入れて、その中で自分の持つ能力を最大限に使って生きる。それは受容だろう?」
そうなの……かな。
最大の反発としての受容……運命の言いなりじゃなく、逆に利用する……ってこと?
僕は、運命なんか信じていない。
今の自分の境遇に、感謝してはいないけど嘆いてもいない。
そもそも。
反発したくなるほど、自分に価値があると思っていないんだと思う。
「リージェイクはそれで満足してたの? お父さんと一緒に悪事に手を染めて、そこに自分の価値があるって」
「1年くらいの間は……そう、満たされてたよ。父は僕の意思を汲んで仕事に使っていたけど、何度も、やめろと言われたな。でも、ほかの仲間が僕の存在を頼りにするようになって……しぶしぶながら同行させることが多くなった。継承者の力を他言されても困るしね」
「そう……なんだ」
言いたいことはあるはずなのに、うまく言葉に出来なかった。
そんな僕の表情を見て、リージェイクが大きく息を吐く。
「その頃、僕は今のきみより少し年下なだけだったけど……きみよりも遥かに浅はかな人間だったんだよ」
無言で首を傾げた。
「自分を過信して、先を考えずに行動して……歯車の狂いに気づかなかった。すでに手遅れになるまでね」
そうだった。
これはハッピーエンドのストーリーじゃない。
リージェイクが両親を失くす……悪夢の話だ。
一族から離れ、犯罪行為を重ねていって……。
「何が起きたの?」
「もともと正しいことをしていたわけじゃなかったけど。僕を使うことは父の仕事の効率を上げると同時に、敵対する組織から買う反感と恨みもアップさせたんだ。やがて、争いが始まるのは時間の問題というところまできた」
「敵って……敵対する組織って……何でリージェイクたちと争うの?」
「同業者の潰し合い。獲物の取り合い。国同士の戦争や、動物の縄張り争いと似たようなものかな」
「やめればよかったのに……」
僕の呟きに、リージェイクが薄く微笑んだ。
「今なら、僕もそう思うよ。当時は見えなかったことも見ようとしなかったことも、今は見えるからね」
「じゃあ、リージェイクも……続けたんだ」
「いや。ある日、父は強制的に僕に手を引かせた……殴り倒して、置いて行ったんだ」
「それで……?」
「僕がいなくても、父たちは普段通りならうまくやってのける。だけど、その日は運悪く、敵と遭遇した。ひとり、やられたよ」
「やられたって……」
「捕まって次の日、自宅の前に捨てられた」
「殺された……の!?」
「命はある。精神は破壊された状態だ。身体は無事のまま廃人にする方法は、いくらでもあるからね」
廃人……壊された人間は、そうなるんだろうか。
「仲間をやられて、父はみんなを止められなかった。若いグループのうちの二人が奇襲をかけて、敵をひとり同じ目に合わせたんだ。そこからはもう、歯止めの利かない復讐合戦の始まりだ」
復讐や報復には終わりがない……対象が残っている限り続くもの。
実際に経験したから、それがわかるのか……。
「何をして何をされたか、具体的なことは省くよ。僕はそれに関われなかったし、胸の悪くなる話だから」
相槌を打てずに、開いた口を閉じた。
「結局、3ヶ月の間に……6人死んで5人が再起不能になった。当然、向こうにも同様の被害が出ている」
「そんなに……」
「ただのケガと、暴行された家族は数に入れずにだ」
「家族も……!?」
「本格的な争いになってから、父たちはそれぞれ連絡は携帯端末で取り合って。住む場所を転々として敵の目をくらましながら攻撃していたけど……全く外に出ないわけにはいかなかったからね。襲われる可能性をゼロには出来なかったんだ」
「お母さんは……リージェイクを連れてイギリスに逃げようとは思わなかったの?」
「母には、父を残して国外に逃げるなんて発想はなかったよ。僕は僕で、自分も復讐に参加することしか頭になかった」
眉間に皺を寄せて自分を凝視する僕の瞳を見て、リージェイクは軽く2、3度頷いた。
言いたいことはわかっている、というふうに。
「本当に愚かだったと思うよ。だけど、父は頑なに僕を連れて行こうとはしなかった……ある時までは」
「何が……?」
僕の声は、微かに震えていた。
次に何が起きたか……予想出来たから。
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