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第7章 対話

戻って来たの?

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 小屋の扉は、人ひとり分の幅で開いていた。
 人の声も物音もしない。

 リージェイクが扉に手をかけ中を覗く。
 振り返って、少し後ろにいる僕と烈に頷いた。



 かいは、入り口に顔を向けてベンチに横たわっている。
 目は開いていない。
 両手のいましめは解かれ、うつぶせの状態だ。

 右肩に二つめの咬み痕が増えている。
 左肩にも、新たに二つ。
 傷口からの血を肩から背中にまんべんなく延ばされているようで、凱の上半身は赤く染まっている。



「凱……!」

 リージェイクに続いて小屋の中に入り、凱のその姿を見て駆け寄った。

 男が終わりにして帰ったのは、凱が気を失ったから……!?

 そう思ってもう一度声をかけようとした時、凱が瞼を上げた。
 その瞳が僕を捉える。

「あれ……ジャルド……戻って来たの?」

 少し弱々しいけどはっきりした声に、胸を撫で下ろした。
 一度閉じた目を開け、凱が僕の背後を見やる。

れつ……ジェイク……? 何してんの?」

「ジャルドが凱を助けたいって言うから一緒に来たんだ」

 ちょっとイライラしたような烈の声。

「邪魔することになったら悪いと思ったけど、ケガしてるって言うし。それに、男が帰ってくの見たから」

「あー……やっとねー。終わるまで何とかもったんだけどさー、腰ガクガクで起き上がれなくて」

「傷はどう?」

 聞きながら凱の足元の空いている場所に応急セットを置いた烈が、リージェイクに手を伸ばす。
 リージェイクが無言でペットボトルを1本渡した。

「なんか、いっぱい……食われたみたい」

 答える凱の肩と背中に、烈がペットボトルの水をかける。

「うおっ! 冷てぇな……」

「タオルちょうだい」

「あ……うん」

 烈にフェイスタオルを1枚手渡した。
 水で濡らしたタオルで、烈がゴシゴシと凱の背中をこする。

「いっつっ! もっとやさしくしてよ……まだ痛ぇんだから」

 凱の抗議に、烈は動じない。
 このテキパキした感じ……ショウに似てるな。

 慣れた手つきで凱の身体の血を拭っていく烈を見て、僕も手伝おうと反対側に向かう。



 途中で、もう1枚のフェイスタオルとバスタオルを隣のベンチに置いた。
 そこには。凱の制服が一式、まるで店の商品みたいにピシッときれいに折りたたまれて置いてある。

 シャツの上に、銀のペンダントとピアス。
 その脇に、学校用のバッグと小さな紙袋。
 下には靴が揃えてある。



 ペンダントとピアスは、誰が外したんだろう?
 凱自身か……あの男か。

 あの最中に、凱がペンダントをしてなくてよかった。
 もし、してたら。男はそれで凱の首を絞めてたかも……そう思うとゾッとする。
 ピアスを外す意味はない気がするけど、外した人間にとっては意味があるのかもしれない。

 僕が見ていた時、男は床から拾い上げた服をベンチに放り投げていた。

 凱が起き上がれないってことは、これ……あの男がたたんで並べて帰ったってことだよね。
 自分が服着た後で、わざわざ?
 血だらけの凱は放っておいて……?

 さっき私道で見た風貌といい、これといい……ここであの悪夢を作り出していた男と、印象がかみ合わない。

 いや。それよりも。



「凱。あの男はきみの知り合いか?」

 僕の疑問を、リージェイクが先に口にした。

「同じクラスのヤツ」

 凱の答えに、リージェイクの表情が険しくなる。
 聞きたいことはたくさんあるけど、ここはリージェイクに任せよう。

 烈の向かい側に膝をついて、凱の身体の血を拭き取り始めた。



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