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第5章 探索と調査と忠告と
許せるか?
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「ジェイクは自分を選んだ」
無言のままの僕から視線を外し、修哉さんが空を仰ぐ。
「凱は、ジェイクがそうするって踏んでたんだろう。連れてきてたのは、男でも女でもおかまいなしの獣どもだ」
「じゃあ……リージェイクは……」
それだけ、静かに言った。
どうなったか、聞かなくてもわかった。
「凱は……それを見てたの?」
「しかも、女にも見せてな」
修哉さんの視線が僕に戻る。
「女の見てる前で、凱は4人の男にジェイクをレイプさせた。身も心も痛めつけようってわけだ。止められりゃよかったが……」
「助けに行けたの……?」
「ジェイクが必ずその場所に来るように、凱はヒントを残してた。それに気づいた烈が、オレに教えた」
「烈が……」
「オレと烈がその場に着いた時にはもう……終わっててな。散々ジェイクをいたぶったヤツらは帰るところで、ジェイクは……すでにボロボロだったよ」
修哉さんは溜息をついた。
「一目見て、ジェイクが犯されまくったのがわかった。ヤツらに殴りかかったオレに、凱が言った。『オレがやらせたんだよ。だから、その人たちは帰してやって』」
「……修哉さんは、そう聞く前から……凱が仕組んだことだって、わかってたんでしょ?」
「ふん。だからって、ヤツらへの怒りは湧くさ。4人とも二人と同じ、まだ高校生のガキだった。結局、一発ずつ殴っただけで帰したよ。本来なら立派な犯罪だが……」
僕たちは極力、警察と関わらない。
この時は被害者も加害者も身内だから、なおさらだ。
「うん……」
「それに、ジェイクがな。凱をかばいやがった」
「え……!?」
「男どもを叩き出してすぐ、オレはジェイクの具合をみた。ただ輪姦されただけじゃなく……惨く責められててな。文字通り傷だらけだ。まあ、継承者だから血は止まってるが、早く館に連れ帰って手当したほうがいい状態だった」
リシールの継承者の特徴のひとつ。
身体に損傷を受けると、治癒力が驚異的に高まる。
だから、継承者が寿命以外で死ぬことはほとんどない。
「今度は凱がこう言った。『このくらいジェイクは平気だろ。継承者の力も使おうとしなかったし、けっこう楽しんでたのかもね』ってな」
「な……にそれ。そんなわけないじゃん!」
声を荒げた。
継承者の力は、額に触れて人の意識を奪える。
リージェイクがそうしなかったのはきっと、人数が多かったからだ。
全員を制圧出来なきゃ、残りの人間がもっとひどいことをするかもしれない。
そこには、リージェイクが守りたい女もいたんだ。
「それを聞いて、オレはその場で凱をぶちのめした。何発目か、あいつがオレを避けるのに上げた腕に手刀がきれいに入っちまって、折れたんだ」
修哉さんが、両手で顔をこすって息をつく。
「凱の叫び声を聞いて、ジェイクがオレを止めたよ。『もうやめてください。このことはこれで終わりにしてほしい。僕は大丈夫だから』まだ立ち上がれもしない。憔悴しきった瞳をしてな」
『僕は大丈夫だから』
大丈夫……なわけがない。
僕自身、何度も言った。
誰のためじゃなく自分のために、そう言い聞かせてたんだ。
「それで、終わりにしたの?」
「凱が喚いた。『何でおまえはそうなんだ!? やり返せよ! オレを潰せ! オレが苦しむの見たいだろ!?』ジェイクが何て答えたかわかるか?」
凱は……自分っていう悪を制するためにリージェイクが悪になるようにしたかった。
だけど、出来なかった。
そこまでやってダメなら、何してもダメだろう。
「きみが苦しむのは見たくない……とか?」
僕の言葉に、修哉さんの口元が笑う。
「『僕はきみの思い通りにはならない』そう答えたよ。どんなに傷つけても、ジェイクは変えられない。凱は諦めるしかない。オレはジェイクの言う通り、この件はそこで終わりにした」
『僕はきみの思い通りにはならない』
この言葉で、凱はリージェイクを悪にするのをやめたんだ。
「あとは、ジェイクの身体を拭いて。服を着せて車に運んで、凱と女も乗せて館に戻った。汐たち親子とショウは、その日いなくてな。綾に凱を病院に連れていかせて、オレがジェイクの手当てをしてる間、烈は女のそばにいてもらった」
「その人は……?」
「女は無傷だが……ショックと泣き疲れでフラフラだった。落ち着くのを待って、家まで送ったんだ」
「烈は、大丈夫だった?」
「あいつがどれだけ状況を理解していたかわからないが、まあ……大丈夫だったんだろう。オレが凱をぶん殴る間に、ジェイクを縛ったベルトを外してたからな。血と精液まみれの惨状にビビりもせず……なかなか胆が据わってたよ」
烈……あの時の僕より小さかったはずなのに……すごいな。
「その後、ジェイクがラストワのところに戻るまで、オレたち4人は何事もなかったように普通に過ごした。綾に詳しいことは話してないし、ショウたちは何も知らない。ジェイクが寝込んでたことも凱の腕が折れたことも、適当な理由でごまかしてな」
修哉さんが僕を見据える。
「さて。これで全部だ」
修哉さんの瞳を見つめた。
「ジャルド。おまえはどう思う? 凱のやったことを許せるか?」
無言のままの僕から視線を外し、修哉さんが空を仰ぐ。
「凱は、ジェイクがそうするって踏んでたんだろう。連れてきてたのは、男でも女でもおかまいなしの獣どもだ」
「じゃあ……リージェイクは……」
それだけ、静かに言った。
どうなったか、聞かなくてもわかった。
「凱は……それを見てたの?」
「しかも、女にも見せてな」
修哉さんの視線が僕に戻る。
「女の見てる前で、凱は4人の男にジェイクをレイプさせた。身も心も痛めつけようってわけだ。止められりゃよかったが……」
「助けに行けたの……?」
「ジェイクが必ずその場所に来るように、凱はヒントを残してた。それに気づいた烈が、オレに教えた」
「烈が……」
「オレと烈がその場に着いた時にはもう……終わっててな。散々ジェイクをいたぶったヤツらは帰るところで、ジェイクは……すでにボロボロだったよ」
修哉さんは溜息をついた。
「一目見て、ジェイクが犯されまくったのがわかった。ヤツらに殴りかかったオレに、凱が言った。『オレがやらせたんだよ。だから、その人たちは帰してやって』」
「……修哉さんは、そう聞く前から……凱が仕組んだことだって、わかってたんでしょ?」
「ふん。だからって、ヤツらへの怒りは湧くさ。4人とも二人と同じ、まだ高校生のガキだった。結局、一発ずつ殴っただけで帰したよ。本来なら立派な犯罪だが……」
僕たちは極力、警察と関わらない。
この時は被害者も加害者も身内だから、なおさらだ。
「うん……」
「それに、ジェイクがな。凱をかばいやがった」
「え……!?」
「男どもを叩き出してすぐ、オレはジェイクの具合をみた。ただ輪姦されただけじゃなく……惨く責められててな。文字通り傷だらけだ。まあ、継承者だから血は止まってるが、早く館に連れ帰って手当したほうがいい状態だった」
リシールの継承者の特徴のひとつ。
身体に損傷を受けると、治癒力が驚異的に高まる。
だから、継承者が寿命以外で死ぬことはほとんどない。
「今度は凱がこう言った。『このくらいジェイクは平気だろ。継承者の力も使おうとしなかったし、けっこう楽しんでたのかもね』ってな」
「な……にそれ。そんなわけないじゃん!」
声を荒げた。
継承者の力は、額に触れて人の意識を奪える。
リージェイクがそうしなかったのはきっと、人数が多かったからだ。
全員を制圧出来なきゃ、残りの人間がもっとひどいことをするかもしれない。
そこには、リージェイクが守りたい女もいたんだ。
「それを聞いて、オレはその場で凱をぶちのめした。何発目か、あいつがオレを避けるのに上げた腕に手刀がきれいに入っちまって、折れたんだ」
修哉さんが、両手で顔をこすって息をつく。
「凱の叫び声を聞いて、ジェイクがオレを止めたよ。『もうやめてください。このことはこれで終わりにしてほしい。僕は大丈夫だから』まだ立ち上がれもしない。憔悴しきった瞳をしてな」
『僕は大丈夫だから』
大丈夫……なわけがない。
僕自身、何度も言った。
誰のためじゃなく自分のために、そう言い聞かせてたんだ。
「それで、終わりにしたの?」
「凱が喚いた。『何でおまえはそうなんだ!? やり返せよ! オレを潰せ! オレが苦しむの見たいだろ!?』ジェイクが何て答えたかわかるか?」
凱は……自分っていう悪を制するためにリージェイクが悪になるようにしたかった。
だけど、出来なかった。
そこまでやってダメなら、何してもダメだろう。
「きみが苦しむのは見たくない……とか?」
僕の言葉に、修哉さんの口元が笑う。
「『僕はきみの思い通りにはならない』そう答えたよ。どんなに傷つけても、ジェイクは変えられない。凱は諦めるしかない。オレはジェイクの言う通り、この件はそこで終わりにした」
『僕はきみの思い通りにはならない』
この言葉で、凱はリージェイクを悪にするのをやめたんだ。
「あとは、ジェイクの身体を拭いて。服を着せて車に運んで、凱と女も乗せて館に戻った。汐たち親子とショウは、その日いなくてな。綾に凱を病院に連れていかせて、オレがジェイクの手当てをしてる間、烈は女のそばにいてもらった」
「その人は……?」
「女は無傷だが……ショックと泣き疲れでフラフラだった。落ち着くのを待って、家まで送ったんだ」
「烈は、大丈夫だった?」
「あいつがどれだけ状況を理解していたかわからないが、まあ……大丈夫だったんだろう。オレが凱をぶん殴る間に、ジェイクを縛ったベルトを外してたからな。血と精液まみれの惨状にビビりもせず……なかなか胆が据わってたよ」
烈……あの時の僕より小さかったはずなのに……すごいな。
「その後、ジェイクがラストワのところに戻るまで、オレたち4人は何事もなかったように普通に過ごした。綾に詳しいことは話してないし、ショウたちは何も知らない。ジェイクが寝込んでたことも凱の腕が折れたことも、適当な理由でごまかしてな」
修哉さんが僕を見据える。
「さて。これで全部だ」
修哉さんの瞳を見つめた。
「ジャルド。おまえはどう思う? 凱のやったことを許せるか?」
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