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第5章 探索と調査と忠告と

小屋と東屋

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 ヤツの小屋を『小屋A』にして、東屋あずまやの近くにあるこの小屋を『小屋B』って呼ぶことにした。
 小屋Bは、かいの使っている小屋に違いない。
 よく見ると、昨夜のカンテラも棚にある。

 この小屋は、僕の求める条件に合う。
 ヤツの使っている小屋じゃなくて、館から離れていて。私道からも適度に離れている。
 特定の人間が常時使用している小屋なら、誰かが急に使うことにもなりにくいはず。

 つくりはけっこう頑丈。
 幅の広いベンチもあるし、しっかりした梁も柱もある。
 東西に窓がひとつずつ。
 今は施錠されてないけど、ドアの内外両側にそれぞれ鍵をつける掛金がある。
 広さもまあまあ。



 ただし……小屋Bは凱の拠点。
 これは、致命的なマイナス点だ。

 いつ何時、凱が来るかわからない。
 彼の友だちも。

 つまり。たった1日2日でも、勝手に使うのはリスクが高い。


 僕が小屋を使用中に人が来ることは、絶対に避けなきゃならないから。



 かといって。
 ここを何日か使わせてほしいって凱に頼んで了解を得るのも、さらにハイリスクだ。

 理由を聞かれるかもしれないし、聞かないで突然様子を見に来るかもしれない。
 そして、僕が何のために小屋を使うのかを知ったら……どういう反応をするかわからない。

 思案の溜息とともに小屋を出て、東屋へ向かった。



 東屋に昨夜の痕跡はなく。半分ほど残った屋根が真昼前の白い日差しを遮り、その影をテーブルに落としている。

 ベンチに腰掛けた。



 今朝の朝食に、凱はいなかった。
 2階の自室……凱の部屋はリージェイクの部屋から左に2つ目……にも気配なし。

 月曜の今日は朝食のあと、みんなバタバタして出て行った。
 奏子は保育園。
 烈は小学校。
 汐は高校。

 たぶん、凱も高校に行ったんだろう。

 僕とリージェイクは来週からだから、今週はのんびり好きにしていられる。
 僕は森に探索に出たけど、リージェイクは自室に戻ったみたいだ。



 金曜の夕食会のあとで凱のことを聞いてから、リージェイクと二人きりで話していなかった。
 避けているってほどじゃないけど、なんとなく気まずくて。

 気まずいのは、金曜の夜に僕が凱に賛同するみたいなことを言っちゃったから。
 そのせいで、なおさら……リージェイクは僕が凱と接触するのをよく思わないだろうって考えると、これ以上話してまたボロが出るのは防ぎたい。
 リージェイクはもうすでに、僕が凱から悪い影響を受けることを心配していると思う。

 それに。今度リージェイクと二人きりの時間があったら、報復とか破壊者とか……悪についてコンコンと諭されそうだ。

 リージェイクの言っていることは、理解できる。
 ただ、賛同出来ないだけ。



 リージェイクはとても正しい人間だと思う。
 全ての人間が彼みたいだったら、世界はもっと穏やかでやさしいだろう……少なくとも表面上は。
 そう思うからよけいに、今は彼の正しさに触れたくない。



 悪になる覚悟をしている僕を、リージェイクに感づかれたくないんだ。



 逆に、凱に近づきたく思う理由も知っている。

 凱に、悪になることを肯定されたい。
 時にそれは、必要なことだって。

 破壊者の凱には……それが出来ると思うから。



 昨夜。凱に会いに、ここへ来た。
 話したいと思った。

 まだ、凱のことをほとんど知らない。

 リージェイクと烈、ショウ、奏子に聞いたこと……他人からの情報だけじゃ、人の本当の姿はわからない。
 何年も一緒にいたからってわかるものでもないけど。本人と向き合わないかぎり、その人間の欠片も見えてこないと思う。



 リージェイクは『凱はきみに自分と同じ匂いを感じたんだ。お互いにわかり合えるかもしれないって』って言った。

 凱が僕に自分と同じ匂いを感じる何かを、僕が初対面の時の会話で示した自覚はない。
 わかり合えるか微妙だって思ったのも本当。
 そもそも、自分以外の人間とわかり合えるってこと自体、幻みたいなものだし。
 でも……。

 凱がそう思っているなら、僕がわかろうとすれば、通じ合う何かがあるかもしれない。
 そして、それは……僕にとってプラス要素だ。

 ヤツへの復讐が、今の僕の最優先事項。



 二人めの協力者として……凱がほしい。



 ひとりめの協力者……烈と僕は、同じ思い、同じ目的を共有することで同志になり。急速に親しさを増した。
 凱と僕にも共有する何かがあって、わかり合える奇跡が起こる可能性はある。



 心ない破壊者の封印された心を知りたい。

 そう願うのは、僕自身の封印した心が、闇の中で仲間をほしがっているからかもしれない。



『悪い。明日また来てよ』



 凱の言葉が頭の中で繰り返される。
 今度のは、明らかな誘い。

 僕は今夜、ここに来る。

 その時は、凱がひとりだといいけど……。

 そう思いながら、東屋を後にした。


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