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第4章 協力者
遭遇
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目の前の光景に、呆然としていた。
テーブルの上に押さえ込んだ女の股の間に、凱が腰を打ちつける。
凱は右手で女の両手首をテーブルに固定し、左手で女の腿をつかんで広げている。
カンテラの明かりに鈍く照らし出された四角いスポット。
白く光る女の肌が揺れている。
自分が何でここにいるのか。
何をしにここに来たのか。
ここで何を見てるのか。
頭に問いだけが浮かぶ。
「あっ……いや、やめ、て……あっ!」
女のとぎれとぎれの高い声が聞こえて、一瞬なくしていた現実感が僕に戻った。
「もう……やっ、あっ……もう、むり……」
「無理じゃねぇだろ。まだ楽しませろよ」
少し乱れた息づかいと凱の声。
凱の腰の動きがゆっくりになり、今度は小刻みに速くなる。
「やあっ! それ……だめっ……!」
女の声が掠れる。
二人が何をしているのか、わかった。
特殊な一族の中で育った僕は、普通の子どもよりいろいろな物事を教えられていたから。
動物の生殖行為。
快楽の追求。
セックス。
セックスの知識はあるのに、固まって動けなくなったのは……。
野外のこんなところで。
しかも。
知ってる人間がやっているのを、突然目の前で見ることになったからだけじゃない。
目の前で母親がレイプされるのを見た。
自分自身もレイプされた。
レイプは合意なきセックスだ。
人の尊厳を奪う、許されざる行為。
僕はまだ、自分の意思でセックスをしたことがない。
子どもだから当然だけど、身体的にその必要もないし欲求もない。
あるのは、セックスに対する嫌悪だけ。
レイプされた経験しかないから、セックスに負のイメージしかない。
だから、今、目の前でやっているセックスも、マイナス視点で見ちゃうんだ。
凱が女をレイプしているんじゃないかって。
まともなセックスのシチュエーションとか、やり方とか。相手の反応とかが、よくわからない。
誰かに見られるかもしれない場所で、雨ざらしの木の台の上でやるのがありがちなのかそうでないのか……。
女がやめてって言っているのは、凱が無理やりやっているからじゃないの……?
もし、そうなら。僕は彼女を助けるべきなんじゃ……?
それか……二人は恋人同士で合意の上でのセックスなら、今すぐここを立ち去るべきじゃないのか……?
どうしよう……。
逡巡して立ち往生している間に、何分経ったのかわからない。
「あ……おねが……いあっ……!」
女の声がひときわ大きくなった。
「静かにしろって」
凱が女の口を手で押さえた。
「う……あ、ん……んっ」
女がくぐもった声で頭を振る。
両足をくの字に曲げて開かれ、テーブルの端から落ちそうな女の股に、足をしっかりと地面につけている凱が力強く衝撃を与える。
何度も何度も何度も。
「はあっ、は、あっ! あっ……んあっ、あっ」
凱の手から逃れた女の声が、凱の動きに合わせて途切れる。
女の表情は苦し気だ。
凱が女の胸を無造作に掴み、乳首に歯を立てた。
「あっ……!」
「やめ……」
女が弱々しく叫ぶのと、僕が反射的に『やめろ!』と叫ぼうとしたのは同時だった。
一瞬遅れで動きを止めた凱が、左に……僕のほうに顔を向ける。
無意識に足を進めていたらしく、凱との距離はいつの間にか10メートル足らずになっていた。
最寄りの木の幹に重なるように突っ立って自分を凝視しているのが誰か、凱はすぐにわかったみたいだ。
僕がここにいるのに驚いた様子はなく、今の自分の状況を目撃されたことに狼狽える素振りもない。
凱は僕に向かってちょっと首を傾げ、口元に笑みを浮かべた。
「悪い。明日また来てよ」
僕に聞こえる音量で。僕の瞳を見て、凱が言った。
すぐに返事が出来ない僕の代わりに、女が答える。
「え……なん……か言った……?」
凱が無言で僕に手を振った。
バイバイ。
「凱……やめないで、もっと……あっ、んん……!」
女に応えるように、凱が腰の動きを再開した。
その視線は僕に留めたまま。
「あっ……! んあっ、いい……やっ、あ……!」
自由になった両手を凱の背中に回し、女はのけ反りながら声を上げ続ける。
「明日、な」
息を切らしつつもう一度僕にそう言って、凱は女へと向き直した。
凱が女の胸に口を寄せ舌を這わせ始めたところで、クルリと向きを変えて駆け出した。
館が目に映るまで、足を止めなかった。
何を考えながら走っていたのかわからない。
何も考えていなかったのかもしれない。
僕は大きく息をついた。
落ち着かなきゃ……。
大丈夫……。
凱のセックスを見ただけ。
故意に覗き見たわけじゃないし、僕が見たことで凱が困ったり怒ったりしたわけでもない。
はじめはわからなかったけど、凱が女をレイプしてるんじゃないこともわかった。
何も問題は起きていない。
そう、自分に言い聞かせる。
この時は、何も問題は起きていなかった。
テーブルの上に押さえ込んだ女の股の間に、凱が腰を打ちつける。
凱は右手で女の両手首をテーブルに固定し、左手で女の腿をつかんで広げている。
カンテラの明かりに鈍く照らし出された四角いスポット。
白く光る女の肌が揺れている。
自分が何でここにいるのか。
何をしにここに来たのか。
ここで何を見てるのか。
頭に問いだけが浮かぶ。
「あっ……いや、やめ、て……あっ!」
女のとぎれとぎれの高い声が聞こえて、一瞬なくしていた現実感が僕に戻った。
「もう……やっ、あっ……もう、むり……」
「無理じゃねぇだろ。まだ楽しませろよ」
少し乱れた息づかいと凱の声。
凱の腰の動きがゆっくりになり、今度は小刻みに速くなる。
「やあっ! それ……だめっ……!」
女の声が掠れる。
二人が何をしているのか、わかった。
特殊な一族の中で育った僕は、普通の子どもよりいろいろな物事を教えられていたから。
動物の生殖行為。
快楽の追求。
セックス。
セックスの知識はあるのに、固まって動けなくなったのは……。
野外のこんなところで。
しかも。
知ってる人間がやっているのを、突然目の前で見ることになったからだけじゃない。
目の前で母親がレイプされるのを見た。
自分自身もレイプされた。
レイプは合意なきセックスだ。
人の尊厳を奪う、許されざる行為。
僕はまだ、自分の意思でセックスをしたことがない。
子どもだから当然だけど、身体的にその必要もないし欲求もない。
あるのは、セックスに対する嫌悪だけ。
レイプされた経験しかないから、セックスに負のイメージしかない。
だから、今、目の前でやっているセックスも、マイナス視点で見ちゃうんだ。
凱が女をレイプしているんじゃないかって。
まともなセックスのシチュエーションとか、やり方とか。相手の反応とかが、よくわからない。
誰かに見られるかもしれない場所で、雨ざらしの木の台の上でやるのがありがちなのかそうでないのか……。
女がやめてって言っているのは、凱が無理やりやっているからじゃないの……?
もし、そうなら。僕は彼女を助けるべきなんじゃ……?
それか……二人は恋人同士で合意の上でのセックスなら、今すぐここを立ち去るべきじゃないのか……?
どうしよう……。
逡巡して立ち往生している間に、何分経ったのかわからない。
「あ……おねが……いあっ……!」
女の声がひときわ大きくなった。
「静かにしろって」
凱が女の口を手で押さえた。
「う……あ、ん……んっ」
女がくぐもった声で頭を振る。
両足をくの字に曲げて開かれ、テーブルの端から落ちそうな女の股に、足をしっかりと地面につけている凱が力強く衝撃を与える。
何度も何度も何度も。
「はあっ、は、あっ! あっ……んあっ、あっ」
凱の手から逃れた女の声が、凱の動きに合わせて途切れる。
女の表情は苦し気だ。
凱が女の胸を無造作に掴み、乳首に歯を立てた。
「あっ……!」
「やめ……」
女が弱々しく叫ぶのと、僕が反射的に『やめろ!』と叫ぼうとしたのは同時だった。
一瞬遅れで動きを止めた凱が、左に……僕のほうに顔を向ける。
無意識に足を進めていたらしく、凱との距離はいつの間にか10メートル足らずになっていた。
最寄りの木の幹に重なるように突っ立って自分を凝視しているのが誰か、凱はすぐにわかったみたいだ。
僕がここにいるのに驚いた様子はなく、今の自分の状況を目撃されたことに狼狽える素振りもない。
凱は僕に向かってちょっと首を傾げ、口元に笑みを浮かべた。
「悪い。明日また来てよ」
僕に聞こえる音量で。僕の瞳を見て、凱が言った。
すぐに返事が出来ない僕の代わりに、女が答える。
「え……なん……か言った……?」
凱が無言で僕に手を振った。
バイバイ。
「凱……やめないで、もっと……あっ、んん……!」
女に応えるように、凱が腰の動きを再開した。
その視線は僕に留めたまま。
「あっ……! んあっ、いい……やっ、あ……!」
自由になった両手を凱の背中に回し、女はのけ反りながら声を上げ続ける。
「明日、な」
息を切らしつつもう一度僕にそう言って、凱は女へと向き直した。
凱が女の胸に口を寄せ舌を這わせ始めたところで、クルリと向きを変えて駆け出した。
館が目に映るまで、足を止めなかった。
何を考えながら走っていたのかわからない。
何も考えていなかったのかもしれない。
僕は大きく息をついた。
落ち着かなきゃ……。
大丈夫……。
凱のセックスを見ただけ。
故意に覗き見たわけじゃないし、僕が見たことで凱が困ったり怒ったりしたわけでもない。
はじめはわからなかったけど、凱が女をレイプしてるんじゃないこともわかった。
何も問題は起きていない。
そう、自分に言い聞かせる。
この時は、何も問題は起きていなかった。
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