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第3章 危険な男

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 かいとの初対面から丸1日。
 夕食会以来、彼の姿を一度も目にしていない。

 凱のことをもっと知りたかった。



 夕食会の翌日、10月20日。
 朝食後すぐに館を発つラストワを見送ったあと。僕とリージェイク、ショウ、奏子、せきれつの6人で、駅前のショッピングモールに車で買い物に出かけた。

 急にここで生活することを決めた僕とリージェイクには、必要なものがたくさんあったから。土曜日で混み合うモール内をせわしなく買い回った。

 遅めのランチを済ませ、食料品を買って館に戻り。僕と奏子はクロたちのところに遊びに行った。
 そこで、奏子に凱のことを聞いてみた。



「カイはね、あんまりおうちにいないんだよ。いるときはね、シュウおじさんとお庭でオケイコしてる。ケンカみたいなの」

 ケンカ……やっぱり護身術かな。
 それか、空手とか合気道とか。

「あと、アヤおばさんに怒られてる」

「そっか。奏子にはやさしい?」

「うーん。わかんない。遊んでくれないもん。でも、イジワルされたことないよ」

「それならよかった」

「あ! 1回ね、ママに怒られてお庭で泣いてた時……カイがずっと一緒にいてくれたの。でね、一緒によつば探したんだよ。カイが見つけたやつ、あたしにくれたの。いいことあるようにって」

「へぇ……」



 四つ葉を探して奏子にあげた……それだと、普通のやさしいお兄ちゃんみたいに聞こえた。
 とりあえず、奏子を傷つけることはなさそうで僕は安心した。



 この日の夜。僕とリージェイクは昼間買い込んだ荷物とともに、それぞれに用意された自分の部屋へと引っ越した。
 2階に並ぶ個室のひとつで。僕の隣人は烈と、間に一部屋挟んでリージェイク。。

 荷物の片づけが終わって、寝る前にキッチンに行こうとしてドアを開けたら。ちょうど隣のドアから烈が出てきた。

 この時、僕は初めて烈とまともな会話をした。

 買い物の最中もランチ中も夕食中も、なかなか話しかけるチャンスがなくて……というより。
 僕が話しかけようとするたびに。烈は避けるように視線を逸らしたりその場からいなくなっちゃったりして、取りつく島がない状態だったから。



「今夜から隣だね。あらためてよろしく」

「……よろしく」

 挨拶は出来たから、まあいいやって歩き出したら。烈のほうから話しかけてきた。

「ジャルド……」

 振り向くと、烈は緊張した顔で続けた。

「あの……僕のところに、本ならいっぱいあるから……読みたくなったらいつでも言って。今日、本屋に行く暇なかったでしょ」

「ありがと、烈。じゃあ……今夜はもう遅いから明日、借りに行ってもいいかな?」

「いいよ」

「んーと、朝食のあとで」

「待ってる」

 そう言うと、烈は自室に戻った。



 烈は僕にタイミングを合わせて廊下に出てきたんだと思った。
 本のことを伝えるため……僕と話すきっかけを作るために。

 読書は好きだし。烈とも仲良くなりたかったから、彼のオファーは嬉しかった。
 でも、それよりも。
 烈に、凱について聞くチャンスが出来たことに喜んだ。

 なんといっても、烈は凱の弟だ。
 母親のショウとは別の見方で凱を知ってるはず。

 血が繋がってなくて。まだ1年しか一緒に暮らしていない僕とリージェイクだって、お互いのことをそれなりにわかっている。
 親のいない僕たちにとっては、一番近い関係だから。

 そう思っていた……この前日の夜までは。



 リージェイクにも。もちろん、凱のことをもっと詳しく聞いてみた。
 
 個室に移る前の夜。
 夕食会のあと、客室に戻って二人になってから。僕はリージェイクに尋ねた。



「凱と仲悪かったの? ショウが言ってた」

 リージェイクは暫くの間を置いて口を開いた。

「出会ってから1年くらいは、年も同じリシール同士……私たちはお互いにとっていい友人だった。勉強や恋愛の相談なんかもする、親しい関係を築いていたよ」

「それがどうして……?」

「私たちが一緒に過ごしたのは、ほとんどが学校とその寮だ。ここでいう中学から高校かな。凱は以前から学校や社会のルールに刃向かう傾向があったけど、それは厳しい寮生活で徐々にエスカレートして……爆発した」

「何があったの?」

「数人の仲間と、ある教師を暴行したんだ。14、5歳の彼らがやったとは信じられないほどの暴行を」

 短い沈黙。

「その教師に対して、凱やほかの生徒が怒りと憎しみを持っていることは知っていた。その理由も。そして、それは私にも納得のいくものだった」

「……悪い先生だったんだ」

「そうだね。罰せられるだけの罪が、その教師にはあった。だから、暴行した凱たちが警察に通報されることはなかった。学校側が事件を揉み消し、その教師は去った」

「じゃあ、結果としてはよかったんじゃないの?」

 僕の言葉に、リージェイクは溜息をついた。

「その教師の罪が学校側に知れて去ったのは、いい。だけど、学校側がその事実と凱たちの起こした事件を揉み消したのは問題だった。凱の中で権力への反発がより高まったことを除いても」

「でも、おかげで警察沙汰にならなかったんでしょ?」

「……それが悪い」

「え……?」

「凱はその教師を法的に罰するんじゃなく、自分の手で罰を与えることを選んだ。そのほうが自分の怒りを昇華出来るし、正当な人権も無視して苦しめることが可能だからね」

 ドキッとした。
 凱のしたことと、自分のやろうとしてるヤツへの復讐が重なった。

「それを、スキャンダルを恐れた学校側が隠蔽したことで、凱は自分たちの行為は間違っていないと認識した。悪には悪で対抗してもいいんだ、と」

「ダメなの?」

「それは、凱をその教師と同じところまで堕とす行為だ。復讐は……誰も救えない。悪い人間をひとり増やすだけなんだよ」

「違う!」

 つい、口走った。


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