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54-8 何が怖い?

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「大丈夫か……?」

 涼弥の声。

將悟そうご……」

 待てよ。

 大丈夫だから。
 目開いてるだろ?
 ちゃんと眩しいもんな。
 飛んじゃってないからさ。
 今、声出すから。

「気がついたか?」

 瞬いた。

 視界に涼弥の顔。
 大丈夫。
 笑ってる。

「ん……だい、じょぶ……」

 声、掠れる……。
 めいっぱい喘いでた……から……。



 今! 羞恥心が! 俺……何度もイッて、すげーねだって……た……。



「お前、意識なかったぞ」

「え……嘘だろ……」

 だって、涼弥がイッたのわかったし。
 それで、最後もう1回イッて……。

 ふと。
 涼弥が泡を手でホワホワしてるのに気づいた。
 シャワーの水音も聞こえる。
 何よりも。

「お前……」

 俺の中にいないじゃん。
 いつ抜いたんだ、あんな……ずっとデカいペニスハメてて、出てったの気づかないとか。

「何して……?」

「ベトベトだったからよ。洗ってから起こそうと思ったんだが……」

 自分の身体に視線を落とすと、泡だらけだ……って。

 あれ?
 平らに寝てない。
 マット、傾いてる。
 緩く上体を起こしてる。

 周りを見ると、浴槽にマットごと斜めに立てかけられてるっぽい。

「お前の……中も……俺の、出さねぇと……」

 涼弥が気マズそうに言う。

「あ……そうか。中……」

 あの満たされた感を思い出して、顔が熱くなる。



 中で出されるの、すげー気持ちよかった……。



「じゃあ、俺自分で……」

 穴に指突っ込んで掻き出すのか?
 涼弥に見られながら?

「俺がやる。そのつもりだったからな」

「でも……さ」

 アナルいじられるの、今さら恥ずかしがってちゃおかしいけど。
 素の状態だと、なんか……ね。

「どこか痛いとこねぇか?」

 尋ねられ、伸びてた脚を曲げてみる。
 ちょっと強張ってるだけで、オーケー。
 マットに寄りかかってた身体を腹筋で起こし、そろそろと腰を上げてみる。

「あッ……」

「痛むのか?」

 眉を寄せて俺に手を伸ばす涼弥に首を横に振る。



 足腰ギシギシいうけど痛くはない。
 アナルも、ジーンって熱持った感じあるけど痛くはない。
 ただ。今。緩くなってるアナルの口から、ドロっとしたもんが……。



「いや……お前が入れたのが……出てきただけ」

 腰を下ろしてボソボソ言うのを、すぐに理解したらしく。涼弥の心配顔が、何故かほころぶ。

「残りも出してやる。後ろ向け」

「え、自分でやるって……」

「指入れて広げてほじくれるのか?」

 う……可能か不可能かっつったら、可能だけども。



 ガン見されながら自分で指突っ込むのと、涼弥にやってもらうのと。
 どっちが恥ずかしくないか……違うな。

 どっちがエロい気分にならないうちに終わるか、だ。



「え……と。お願いします」

 伏し目がちで頼む俺。

「照れてるのか。マジでかわいいぞ……このまま挿れたくなる」

「は!?」

 目線を上げて、涼弥の股間を見る。



 どうして。もうそんななんだ!?



 俺に挿れる前のサイズとあまり変わらない勃ち具合のペニスを携えて、涼弥が笑う。

「さすがに休憩しないとな。喉も乾いてるだろ」

「ん……カラカラだ」

 あんだけ声上げてちゃ、当然だ。

「俺、どのくらい飛んでた?」
 
「15分、20分か。意識飛んだら暫く休ませろって聞いてたから、すぐにゃ起こさなかったが……心配したぞ」

 だよね。
 俺もかいの時、パニクったもんな。

「ごめん……」

 予備知識があってよかった。

「てか、誰に聞いたんだよ」

「……上沢だ。前にいろいろ相談した時……ついでに」

 ほかに何教わってるのか。
 聞きたいけど、今はよす。

「そのままやってろとか。ひっぱたいて起こして続行って言わないのは、まともだな。よかった」

 笑みを浮かべる俺を不思議そうに見る涼弥。

「起こして続けてほしかったんじゃないのか?」

「え?」

「足りなかったろ」

 え!?

「足り過ぎたから意識飛んじゃったんじゃん! お前がイクまでがんばろうって……」

「俺にイッてほしくなさそうだったぞ」

 あー……。
 そんな感じ……だった……ね。もっともっと……って、してた……かな。

 なんか恥じ入る。
 自分はイキまくってんのに。続けてほしいから、涼弥にはまだイクなって……どうよソレ。

「まぁ、イッてもやり続ける気だったけどよ。出したあと、お前ん中グチュグチュで……掻き回したら気持ちよさそうだ」

 ウットリ瞳を遠くする涼弥を見て……。



 ヤバ……俺も勃つ……!



「次の時な。俺、意識保つからさ」

 言って、後ろを向いた。

 涼弥がギンギンにおっ勃ててるの呆れたくせに、自分のペニス硬くするとか見せられない。その気にさせちゃダメだろ。
 あ。



 中の精液出すの、お願いしたんだった。
 アナルはいじくらせるじゃん……。



「次ってのは、休憩したあとか?」

 あ……今日、まだやる……よね。
 せっかくデカいベッドあるし。
 一晩中、邪魔も入らず二人だし。

「うん……そう、かな」

「楽しみだ」

「やっぱ自分でやる。お前、先部屋行ってろ」

「ダメだ」

 振り向くと、涼弥が真後ろにいた。

「俺にやらせてくれ。これから先、飛んじまってるお前をキレイにすることあるかもしれねぇからな」

 返す言葉なく。

「ほら、膝立ちで脚広げて風呂んとこ掴まれ」

 どうあっても、やってもらうしかないっぽい。

 腰を上げ、浴槽の縁に手をついて脚を開いた。

「エロい触り方するなよ」

「ああ。休憩が先だ」

「……んッ!」

 涼弥が俺の尻たぶを割り、ツンツンとアナルの襞を試すようにつつく。

「やわらかいな」

 泡のついた指がヌルリと入ってきて。

「う……あ……」

 すぐにもう1本入れられて。
 広げられて口を開けたそこから、あったかい液体がドロドロッと垂れ落ちてく。

「っあ、んッ……」

 さらに奥へと入ってきた指が、アナルの中でグルリと動き回り。腸壁を掻くように撫でられる。

「ッふ……ん……くッ……」

 出そうになる喘ぎを堪え、早く終わってくれと願う。

 涼弥の指使いはエロくない。
 でも、いいとこを擦られれば感じるしかない。

「どうだ? 大体出せたと思うが……」

「ん……もう、いい」

「流すから、ちょっとケツこっち出せ」

 密かに安堵の息を吐き。言われた通り、上体を屈めて尻を突き出すも。
 後ろから腰を掴まれてビクッとして、逃げるように身体をひねった。

「あ……ごめん……」



 くすぐったくて、とか。
 手つきがエロくて、とか。
 なんてことないふうで笑おうとして失敗。

 きっと俺、怯えた瞳をしてる。
 マズい……。



 俺を見る涼弥の表情が険しくなる。

「何が怖い?」

「……お前が、じゃない」

「そんなこたわかってる。この前か? もっと前のか?」

 こういう時は察しがいいよな。

「思い出したんだろ。やられそうになった時の……」

 頷いた。



 自分で驚いてる。
 こんな……弱いなんてさ。
 レイプは未遂で、俺は傷ついちゃいない。
 俺は男で。
 なのに。

 しつこく残ってるらしい恐怖心に、うんざりだ。
 
 ほんと情けねーな。




「後ろからってのが……違うか。掻き出すの平気だったろ……」

 半分ひとり言みたいに涼弥が言う。

「何が引き金だ?」

「……春の時、縛りつけられる前に……背中からのしかかられて、動けなくされて……手縛られて、わけわかんなくてさ」

 うっすら笑おうとしてまた失敗した。

「腰掴まれて。持ち上げられて、服脱がされてはじめて……何されるのかわかった。遅いよな。ほんとちっとも警戒してなくて」

「信頼してた分ショックだったんだろ」

 涼弥の静かな声に頷き、息を吐いた。

「南海の時も、手足縛られたまま床に膝ついて……バックで抱いてあげる……ってさ。だから、四つん這いっぽくして後ろから腰掴まれると……身体が嫌な記憶、思い出す。それだけだ」

「將悟」

「条件反射なだけ。今はお前だってわかってるし……思い出したけど、それだけだ。何ともない」

 同じ言葉を繰り返す俺を、涼弥がジッと見つめる。

 また……読めない顔をしてる。
 何を思ってるかわからない涼弥の瞳を見つめ返す。

「そうか……なら、立って流せば大丈夫だな」

 涼弥が微笑んだ。フェイクだとしても、俺よりずっとうまく。

「ん……大丈夫」

「早く部屋戻って水分補給するぞ。デザートも食うか」

「うん……」

 ポーカーフェイスが得意な涼弥でも、心を隠せないところはある。

 俺のはもちろん萎えてるけど……涼弥のペニスも、ふた周りくらい縮んでる。



 幸せの要素は全然減ってない。小さくて些細な恐怖の、幻の影が通り過ぎただけ。
 そう思うならシッカリそう思え俺。

 で、ちゃんと……笑えよな。



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