上 下
230 / 246

54-2 待つのは終わり

しおりを挟む
 ラブホテルに入るのは初めてだ。
 無人ロビーの部屋写真のパネルに感心して。
 何十人もの人間が今、セックスしに来てるところに自分もいる……って事実に妙な連帯感を抱いたり。
 エレベーターでほかの人と一緒になったらお互い気マズそう、ノンケカップルだと特に……なんて思ったり。
 で、部屋に入った。



 うっわ、すっげ……広い! なんかシャレてる!



 ベッド以外、ビジホくらい狭くてもかまわなそうなのに。オシャレなリゾート地のホテルみたいだ。行ったことないけど。

 エロさはあんまりない。
 いや、あるんだろうけど……もっとロコツなイメージ持ってたからさ。
 天井に鏡とか。ガラス張りの浴室が見えるとか。そういうホテルもあるっていうし。

 キレイでまともで鏡じゃなくてエロ100パーじゃなくて、よかった……。

將悟そうご

 カバンを下ろして部屋をキョロキョロ見回してた俺を、涼弥が呼んだ。
 振り向くより一瞬早く、背後から抱きすくめられる。

「やっと……二人だ」

 涼弥の熱い息が首筋にかかる。

「ん。禁欲解除だな。りょうっん……ッ」

 顔を見ようと首を回した途端、唇を塞がれた。
 間髪入れずに差し込まれた涼弥の舌が、俺の口内を舐る。



 やっと。
 心置きなく。
 快楽に続く深いキスが許された状況で。
 舌を吸い合って。
 口の中の粘膜を舐められて舐め返して。

 このまま快感を追いたくてたまらない……けど。



「ん……っはぁ……いっかい、とめて……」

 理性を総動員して、涼弥から唇を離す。

「今、ガッツリしたら……火つく……」

「とっくについてる、將悟……」

「ッあ、や……!」

 髪を掴まれ、耳に濡れた舌の這う感触が……。

「ひっそれっ、やめ……ん、あ……」



 足の力抜ける……!



 耳は弱い。
 脳に直に響く音の怖さが減った分、ゾクゾクする快感がダイレクトに神経を刺激するみたいだ。

 カクッと膝を折ったおかげで。俺を支えるために涼弥が髪を離し、耳も解放した。

「ここまで来て焦らすな」

 俺をほしがる瞳で見つめられ、揺れる理性をグッと保つ。

「先に準備しないと……」

「今日はいい……」

「ダメだ。平気かもしんなくても……集中出来ない。集中っていうか……思いきりやりたいじゃん?」

 涼弥を納得させるように言う。
 本心だけど…。



 欲望全開でいこう!



 て宣言するのは、ちょい勇気が要った。

「ああ……思いきり……今日は時間もたっぷりある……やりたいこともあるし……な」

 呟きながら、涼弥が俺を掴む力を緩める。

「風呂場で待ってる。早く来い」

 急に聞き分けよくなった涼弥にホッとしつつ、少し謎。
 でも、これが今は最適解のはず。

「うん。あ……待たせて悪いけど、自分で抜くなよ。俺がやる」

「それも我慢か……」

 涼弥が深い息をつく。

「努力するが絶対じゃねぇぞ」

「前も言ったけどさ。俺がいるのに、妄想して自分でやることないだろ」

「頭ん中で犯すのはお前だ。ほかのネタじゃねぇ」

「……よけいに。生身の俺でいいじゃん」

 ほのかに恨めしげな涼弥に微笑む。

「急ぐから。先にシャワーしてて」

「ああ。俺も部屋で準備してから入る。行っていいぞ」

「ん。一応ローション持って来たやつ置いとく」

 今日はカバン、プラス着替え入れたバッグもある。そこからローションを出して、ソファセットのテーブルへ。
 出来るだけ早く涼弥を我慢から解放すべく、買ってきた飲み物やなんかは任せることにして。自分の準備に要るモノを持って洗面所に向かった。



 身体の準備……直腸をキレイにして、あとはシャワーで流して洗うだけにして。
 いざ、浴室のドアを開けると。



 バカみたいに広い! ここ部屋じゃん……!



 樹生がオススメポイントに推した通り。
 教室の半分くらいあるだろ。広い。不自然過ぎるほどに。

 広い風呂場に、シャワーは2つ。
 風呂用イスが4つ。
 海水浴とかで使うエアマットの頑丈版みたいなのと、体操マットみたいなのがある。なんか、円柱の物体も。
 普通の家サイズの3倍ほどの浴槽は、風呂場全体の広さにしては小ぶりに見える。この浴槽に今、ドボドボとお湯が溜められてる最中だ。

 そして。
 畳3枚分はありそうな、何もないムダスペースがあって……涼弥が腕立てしてる。



「お待たせ……」

 風呂汲む水音でドア開けたの気づかなかったのか。涼弥がバッと身を起こし、驚いた顔をこっちに向けた。

「早かったな」

「ん。あと、シャワーで仕上げ」

「手伝うぞ」

「いや、自分でする。お前、お湯浸かってろよ」

 そうだ。

「胸、肋骨はもう平気か?」

「ああ。来週もう1回医者行くが、すっかり治った」

「3週間経ったな」

 あれから……あのキスと告白の日から、もう3週間。
 いや。まだ3週間、か?

「ほんとは学祭終わった今日、はじめてセックスするつもりだったじゃん? 予定通り今日初で、ホテル来てたら……気分盛り上がったのと緊張で大変だったんじゃ……」

 立ち上がった涼弥の股間に視線を向ける。

 裸で。そんなギンギンにペニス勃てたまま腕立てする人、いないよ?
 床につかなくて、ちょうどいいかもしれないけどさ。

「いきなりソレ、挿れるのキツいだろ」

 今日の……前よりデカく見える。
 気のせいか。期待か。怖じ気か。

「はじめてじゃなくてよかったな」

 笑いながら、涼弥が俺に手を伸ばしかけてやめた。

「シャワーしろ」

「ん。でも……お前の、先にしゃぶるか?」

「大丈夫だ。待ってる」

 そう言って、湯船に入って背を向ける涼弥。

 俺見てるのもつらいのに。待っててくれるのか……と。
 最速で全身を洗い流し。アナルも素早くキレイに洗い流し。

 シャワーを止めるとすぐに振り返った涼弥にガン見されながら、浴槽へ。



「待つのは終わり」

 正面から涼弥の膝をまたぎ、首に手を回す。

「俺はお前の、お前は俺のだ」

「將悟……」

 引き寄せられて涼弥の腿に腰を落とし、濡れて熱い身体を抱きしめ合った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。

kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。 前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。 やばい!やばい!やばい! 確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。 だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。 前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね! うんうん! 要らない!要らない! さっさと婚約解消して2人を応援するよ! だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。 ※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

聖女な義妹に恋する婚約者の為に身を引いたら大賢者の花嫁になりました。今更婚約破棄を破棄にはできません!

ユウ
恋愛
伯爵令嬢のソフィアの婚約者、ヘリオスの義妹テレサは聖女だった。 美しく可憐な面立ちで、国一番の美女と謡われて誰からも愛される存在だった。 聖女であることで後ろ盾が必要なため、ヘリオスの義妹となった。 しかしヘリオスは無垢で美しい義妹を愛するようになり、社交界でも噂になり。 ソフィアは身を引くことを選ぶ。 元より政略結婚でヘリオスに思いはなかったのだが… ヘリオスとその家族は絶句する。 あまりにもあっさりしたソフィアは貴族籍を除籍しようとしたのだが、隣国との同盟の為に嫁いでほしいと国王に懇願されるのだった。 そのおかげでソフィアの矜持は守られたのだ。 しかしその相手は隣国の英雄と呼ばれる人物でソフィアと縁のある人物だった。 しかもヘリオスはとんでもない勘違いをしていたのだが…

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました

鹿乃目めのか
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。 ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。 失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。 主人公が本当の愛を手に入れる話。 独自設定のファンタジーです。 さくっと読める短編です。 ※完結しました。ありがとうございました。 閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。 ご感想へのお返事は、執筆優先・ネタバレ防止のため控えさせていただきますが、大切に拝見しております。 本当にありがとうございます。

処理中です...