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54-1 ホテルへ
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階段を上ろうとしたところで、涼弥に会った。
「將悟」
「終わったか?」
「ああ、やっとだ」
「お疲れ」
「お疲れ。お前……疲れてるか?」
隣に来て、俺を観察するようにジッと見る涼弥に笑う。
「学祭だったから、それなりにな。でも、同じくらいだろ。お前が元気なら元気だ」
「俺は朝より元気だぞ」
「じゃあ、俺もそう」
ホッとした様子の涼弥が微笑ましい。
俺の体調、ちゃんと気遣ってくれてるじゃん?
「腹は減ってるけどさ」
「まず、どっかで飯食うか」
「うん。行こう」
1階に下りると。まだ片付け中のクラスもだいぶあるらしく、昇降口に人影は多くない。
もとは生徒会役員選挙の告示で。
少し前までは、3-Eのカジノの生徒会役員選挙当選者ベットの広告ポスターで。
今は。
『決定! 来期生徒会役員紹介』
という見出しの広報からのお知らせが貼ってある掲示板を横目に通り過ぎ、ごくごく小さな溜息をついた。
「しっかり慰めてやる」
涼弥に囁かれ、体温が上がった気がする。
慰めの意味するモノが、涼弥の欲望からきてるとしても……大歓迎だ。
何故か。
俺も涼弥に欲情してるから。
微妙な禁欲を経て。今日も我慢して。そろそろ爆発へのカウントダウンが始まってもおかしくないよね。
「ん。ありがとな」
熱い視線を交わしながら、俺たちは学園を後にした。
夕飯を駅前の店の牛丼にしたのは、ボリュームあってガッツリ食えて早いから。
のんびり優雅な会食をしたいわけじゃない……望むのは別のモノだ。
腹が満ちて、夜食とおやつと飲み物も買って。
制服のブレザーを私服のパーカーに着替えて。
準備万端になり。
「どこにするか……」
涼弥が言った。
どこってのは、ホテルのことで。利用した経験のない俺が知ってるのは1件だけ。
「プレジールが、樹生のオススメ。お前が……そこでいいなら」
「俺はどこがダメとか別にない。ろくに知っちゃいないしな。それ、どこにあるんだ?」
「……お前が和沙と入ったとこだよ」
聞いてはじめてわかったっぽい涼弥が苦笑する。
「名前なんて見てなかった。そこでいい」
「ん。じゃあ、裏行こう」
ホテルが数件集まってる『裏』は、駅前から10分ちょっとの場所だ。
「將悟。和沙と行ったとこってのは、気にしてねぇだろ?」
「うん。何もないってわかってるからな」
涼弥が悠とセックスしたホテルはちょびっと気にする……わざわざ言わないけど。
「悠と……行ったのは駅のほうのだぞ」
自分で言うし。
「そこはダメ」
じゃあ、言う。
「なんとなく嫌だ」
「……嫉妬か?」
「少しな。お前は俺だけだってのはわかってるよ」
ニッと笑う俺を見て、涼弥も控えめに笑みを浮かべる。
「今じゃなくもっとあとで、そこも行く。上書きしに」
「わかった」
夜になった空の下、プレジールに向かって歩き出した。
「うちの3年がいる。女連れてるぞ。あっちの男二人も見たことあるヤツらだ」
繁華街から離れ。学習塾やカルチャースクールが入ったビルが立ち並ぶ道で、涼弥がコメントする。
「学祭の夜だからな。今日はこっち来るヤツけっこういるんじゃないか? 俺たちだってそうじゃん」
「あいつら、やりに行くのか」
「……だから。俺たちもだろ。あんま見るな」
前方を歩く二人組から視線を俺に移し、涼弥が口を開く……けど、無言。
「何、忘れもんでもしたか?」
「お前……俺と、やりに……?」
え。
それだけじゃないけど、そのためのホテル……だよね?
何故聞く?
何の確認だ?
何か……あるのか?
「一緒にいたいから」
歩調を緩め、見つめ合う。
「で、一緒にいたら、やりたくなる。だから、やりに行く……ってのも目的のうちだろ。お前、やる気ないのか?」
「あるに決まってる。もう我慢出来ねぇ」
「あとちょっとだ」
「……お前もやりたいんだよな?」
「うん」
今までになく。
「満足するまで」
「うん」
これも本当。
「もし……もういい、十分ってなってよ。それでも、俺が……まだやりたいってなったら……」
聞きたかったの、それか?
「お前がやめろっつっても、俺がやめねぇでやったら……レイプか?」
微かに眉を寄せた。
やめろって言ってやめないこと、あり得るんだ?
そう思って不快になったんじゃない。不安になったんでもない。
心配になったのは、自分の言動だ。
セックスの最中、意識揺れるじゃん?
俺、本気じゃなく『やめろ』って……口走ってたかもしれない。
気持ちよ過ぎて、ちょっと待って的な意味で。
それを。
涼弥に。
俺をレイプしてるって思わせちゃダメだろ。
「お前、今までにそう思った時あるの?」
尋ねる。
「やめろって、何回か言ったことある……よな俺」
「いや。そん時だいたいお前、よさそうだったからよ。無理させた時もあるが……本気でやめろってのはなかっただろ」
「ん……ならいい」
わかってくれててよかった……じゃない。
わかってる上での。今の、涼弥の。レイプかって聞いたのは……。
俺が本気でノーなのに自分が強行する可能性、あるってことじゃん!?
「お前、自分がレイプかもって思うことしないだろ」
「俺が、じゃない。お前がそう思うかどうか……マジでやめろっていうこと、あるか?」
本当に聞きたかったのは、これか。
これ……前にも同じようなのあったな。
俺がどうしても嫌だってこと、しないよなって聞いたら……涼弥はしないって答えて。
俺がどうしてもやりたいこと、するの嫌かって聞く涼弥に……嫌じゃないって答えた。
「あるよ……けど。俺がマジでやめろって言うこと、お前はやらない」
前の会話をなぞるように答える。
「だから、大丈夫だ」
まだ何か言いたげな顔のまま頷いた涼弥が、ふと視線を動かした。
「お前のとこの猫がいるぞ」
「は……? 猫って……」
うちは飼ってない……あ。
うちのクラスのお化け屋敷の……猫耳つけたヤツ発見!
俺たちの斜め前の路地から現れたらしき、小柄な男の頭に光る耳。隣の男に腰を抱かれて歩いてる。
すでにホテルが点在するこの辺を、そんなひっついて……堂々としてるね。
私服に着替えてるけどさ。
こうして学園のヤツに見られて……。
いいのか!?
いいんだろうね。うん。
「あれ、新庄と……」
「岸岡だ」
涼弥の続きを口にする。
あいつらが?
その驚き半分。もう半分は、やっぱりっていう納得。
「つき合ってるのか」
「さぁ……今日から、かもな」
涼弥が足を止め、横道に入った二人の後ろ姿を見てる。
「案外、お似合いじゃん?」
「ああ」
「どうした。どう見ても脅してムリヤリって感じじゃないけど、心配か?」
「いや。プレジールもこっちだ。少し間開けなけりゃ、入口で会っちまう」
「そう……だな」
同じホテルで……って。それ気にしてちゃキリないだろ。
今夜はもれなく、どのホテルにも知った顔がいそうだし。当然、部屋は違うし。運が悪くなきゃ、鉢合うとかもないはず。
30メートルほど先で、新庄たちがホテルらしき建物に入るのを確認した。
「そういや、御坂があそこすすめる理由って何だ?」
「あーなんかさ。風呂が広いんだって。お前見てない?」
「見る必要もなかった。そうか……そりゃいいな」
ニヤリとする涼弥に。
「お前も風呂場でやりたいとか、思ったりする……」
「思うだろ。ヤバい……勃つ」
「おい。もうほんとちょっとだけ待て」
笑って。
ゆっくり、プレジールへと足を進めた。
「將悟」
「終わったか?」
「ああ、やっとだ」
「お疲れ」
「お疲れ。お前……疲れてるか?」
隣に来て、俺を観察するようにジッと見る涼弥に笑う。
「学祭だったから、それなりにな。でも、同じくらいだろ。お前が元気なら元気だ」
「俺は朝より元気だぞ」
「じゃあ、俺もそう」
ホッとした様子の涼弥が微笑ましい。
俺の体調、ちゃんと気遣ってくれてるじゃん?
「腹は減ってるけどさ」
「まず、どっかで飯食うか」
「うん。行こう」
1階に下りると。まだ片付け中のクラスもだいぶあるらしく、昇降口に人影は多くない。
もとは生徒会役員選挙の告示で。
少し前までは、3-Eのカジノの生徒会役員選挙当選者ベットの広告ポスターで。
今は。
『決定! 来期生徒会役員紹介』
という見出しの広報からのお知らせが貼ってある掲示板を横目に通り過ぎ、ごくごく小さな溜息をついた。
「しっかり慰めてやる」
涼弥に囁かれ、体温が上がった気がする。
慰めの意味するモノが、涼弥の欲望からきてるとしても……大歓迎だ。
何故か。
俺も涼弥に欲情してるから。
微妙な禁欲を経て。今日も我慢して。そろそろ爆発へのカウントダウンが始まってもおかしくないよね。
「ん。ありがとな」
熱い視線を交わしながら、俺たちは学園を後にした。
夕飯を駅前の店の牛丼にしたのは、ボリュームあってガッツリ食えて早いから。
のんびり優雅な会食をしたいわけじゃない……望むのは別のモノだ。
腹が満ちて、夜食とおやつと飲み物も買って。
制服のブレザーを私服のパーカーに着替えて。
準備万端になり。
「どこにするか……」
涼弥が言った。
どこってのは、ホテルのことで。利用した経験のない俺が知ってるのは1件だけ。
「プレジールが、樹生のオススメ。お前が……そこでいいなら」
「俺はどこがダメとか別にない。ろくに知っちゃいないしな。それ、どこにあるんだ?」
「……お前が和沙と入ったとこだよ」
聞いてはじめてわかったっぽい涼弥が苦笑する。
「名前なんて見てなかった。そこでいい」
「ん。じゃあ、裏行こう」
ホテルが数件集まってる『裏』は、駅前から10分ちょっとの場所だ。
「將悟。和沙と行ったとこってのは、気にしてねぇだろ?」
「うん。何もないってわかってるからな」
涼弥が悠とセックスしたホテルはちょびっと気にする……わざわざ言わないけど。
「悠と……行ったのは駅のほうのだぞ」
自分で言うし。
「そこはダメ」
じゃあ、言う。
「なんとなく嫌だ」
「……嫉妬か?」
「少しな。お前は俺だけだってのはわかってるよ」
ニッと笑う俺を見て、涼弥も控えめに笑みを浮かべる。
「今じゃなくもっとあとで、そこも行く。上書きしに」
「わかった」
夜になった空の下、プレジールに向かって歩き出した。
「うちの3年がいる。女連れてるぞ。あっちの男二人も見たことあるヤツらだ」
繁華街から離れ。学習塾やカルチャースクールが入ったビルが立ち並ぶ道で、涼弥がコメントする。
「学祭の夜だからな。今日はこっち来るヤツけっこういるんじゃないか? 俺たちだってそうじゃん」
「あいつら、やりに行くのか」
「……だから。俺たちもだろ。あんま見るな」
前方を歩く二人組から視線を俺に移し、涼弥が口を開く……けど、無言。
「何、忘れもんでもしたか?」
「お前……俺と、やりに……?」
え。
それだけじゃないけど、そのためのホテル……だよね?
何故聞く?
何の確認だ?
何か……あるのか?
「一緒にいたいから」
歩調を緩め、見つめ合う。
「で、一緒にいたら、やりたくなる。だから、やりに行く……ってのも目的のうちだろ。お前、やる気ないのか?」
「あるに決まってる。もう我慢出来ねぇ」
「あとちょっとだ」
「……お前もやりたいんだよな?」
「うん」
今までになく。
「満足するまで」
「うん」
これも本当。
「もし……もういい、十分ってなってよ。それでも、俺が……まだやりたいってなったら……」
聞きたかったの、それか?
「お前がやめろっつっても、俺がやめねぇでやったら……レイプか?」
微かに眉を寄せた。
やめろって言ってやめないこと、あり得るんだ?
そう思って不快になったんじゃない。不安になったんでもない。
心配になったのは、自分の言動だ。
セックスの最中、意識揺れるじゃん?
俺、本気じゃなく『やめろ』って……口走ってたかもしれない。
気持ちよ過ぎて、ちょっと待って的な意味で。
それを。
涼弥に。
俺をレイプしてるって思わせちゃダメだろ。
「お前、今までにそう思った時あるの?」
尋ねる。
「やめろって、何回か言ったことある……よな俺」
「いや。そん時だいたいお前、よさそうだったからよ。無理させた時もあるが……本気でやめろってのはなかっただろ」
「ん……ならいい」
わかってくれててよかった……じゃない。
わかってる上での。今の、涼弥の。レイプかって聞いたのは……。
俺が本気でノーなのに自分が強行する可能性、あるってことじゃん!?
「お前、自分がレイプかもって思うことしないだろ」
「俺が、じゃない。お前がそう思うかどうか……マジでやめろっていうこと、あるか?」
本当に聞きたかったのは、これか。
これ……前にも同じようなのあったな。
俺がどうしても嫌だってこと、しないよなって聞いたら……涼弥はしないって答えて。
俺がどうしてもやりたいこと、するの嫌かって聞く涼弥に……嫌じゃないって答えた。
「あるよ……けど。俺がマジでやめろって言うこと、お前はやらない」
前の会話をなぞるように答える。
「だから、大丈夫だ」
まだ何か言いたげな顔のまま頷いた涼弥が、ふと視線を動かした。
「お前のとこの猫がいるぞ」
「は……? 猫って……」
うちは飼ってない……あ。
うちのクラスのお化け屋敷の……猫耳つけたヤツ発見!
俺たちの斜め前の路地から現れたらしき、小柄な男の頭に光る耳。隣の男に腰を抱かれて歩いてる。
すでにホテルが点在するこの辺を、そんなひっついて……堂々としてるね。
私服に着替えてるけどさ。
こうして学園のヤツに見られて……。
いいのか!?
いいんだろうね。うん。
「あれ、新庄と……」
「岸岡だ」
涼弥の続きを口にする。
あいつらが?
その驚き半分。もう半分は、やっぱりっていう納得。
「つき合ってるのか」
「さぁ……今日から、かもな」
涼弥が足を止め、横道に入った二人の後ろ姿を見てる。
「案外、お似合いじゃん?」
「ああ」
「どうした。どう見ても脅してムリヤリって感じじゃないけど、心配か?」
「いや。プレジールもこっちだ。少し間開けなけりゃ、入口で会っちまう」
「そう……だな」
同じホテルで……って。それ気にしてちゃキリないだろ。
今夜はもれなく、どのホテルにも知った顔がいそうだし。当然、部屋は違うし。運が悪くなきゃ、鉢合うとかもないはず。
30メートルほど先で、新庄たちがホテルらしき建物に入るのを確認した。
「そういや、御坂があそこすすめる理由って何だ?」
「あーなんかさ。風呂が広いんだって。お前見てない?」
「見る必要もなかった。そうか……そりゃいいな」
ニヤリとする涼弥に。
「お前も風呂場でやりたいとか、思ったりする……」
「思うだろ。ヤバい……勃つ」
「おい。もうほんとちょっとだけ待て」
笑って。
ゆっくり、プレジールへと足を進めた。
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