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53-7 終わった……!

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 客が去った蒼隼そうしゅん学園では、ハイペースで学祭の後片付けが行われてる。
 早く帰りたいから、みんながんばってやるんだよね。

 全クラス、躊躇せず自分たちの作ったモノを破壊してく。ビリビリバキバキ……けっこう楽しいんだコレが。
 何日もかけた装飾も、壊すのは容赦なく一瞬でゴミになる。
 もちろん、学祭用品として再利用出来るものは取っておく。衣装とか小物、布など。ゾンビになってたマネキンも。

 お化け屋敷を形成してた物品を捨てないものとゴミに分け、ひと所にまとめる。ここまでが、今日中にすべきこと。
 学祭用品その他をあるべき場所に片付けるのとゴミ出しは、来週月曜日の決められた時間にやる。全クラスが一斉に動き回ると、混雑して効率悪いからだ。



 バタバタと片付けの真っ最中に、佐野が俺にデカい封筒を寄越した。

「写真部の3年が、これお前にって持ってきたんだ。当選の祝いだってよ」

 写真部……桝田か?

「何だろう……って。写真だよな当然」

「悪い。中見ちまった」

「何の写真だった?」

 流れで聞いたけど。佐野が答える前に、取り出した画を見た。



 それは俺と涼弥で。
 中庭のベンチに座って。
 向かい合って。
 見つめ合って……笑ってる。



「いい写真だよな。わざとモノクロで。あーセピアだっけ? さすが写真部」

 佐野の言う通り、セピア色でいい写真だった。
 撮られる意識がない被写体は自然で、作り込み感がなくて。
 何より。



 幸せそうだな……って。
 幸せじゃん、実際!



 これを……気づかれずに撮ったのか。桝田が。
 で、お祝いって名目でくれたのか。



「サンキュ……」

「写真部のヤツら数人、校内撮って回ってたぞ。来週販売すんだろ」

「それ見るのも楽しみだ」

「お前と杉原の写真は非公開でくれるっての、粋なはからいだな」

「ん……嬉しいよ」

 俺と桝田の間にあったあの件を知らない佐野の言葉に、素直に頷く。

 ありがたく、もらっておこう。
 純粋な祝の品でも、詫びとしての品だとしても。

 写真をバックヤードに置いてあるカバンにしまい、お化け屋敷の解体作業に戻った。



 岸岡が言った目標時刻の6時5分前。
 お化け屋敷はガランとした教室になり。ボロ服を剥ぎ取られ、メイクも落としたゾンビだったマネキンたちは床に雑魚寝……このほうが気味悪いな、こいつら。

「オッケー。これで最後だ」

 ゴミ袋の口を縛り、佐野が言った。

「今年の学祭、無事終了。うちのゾンビ屋敷は大成功だったな。みんな、お疲れ」

 実行委員の言葉に『お疲れ』を返し。達成感漂う中、帰るモードにシフトする2-Bの面々。

「解散の前にひとつ」

 もうひとりの実行委員、岸岡が声を上げた。

「発表聞いたろ。次の生徒会長に決まった早瀬に、拍手!」

 クラスメイトみんながこっちを見て、パチパチと手を叩く。



 要らんことを……!



「つっても、出たくて出た選挙じゃねぇのに当選して役員だからよ。祝うより慰めが必要……ってことで」

 それわかってるなら、そっとしといてくれ……。

「ジャン!」

 手に持った紙袋から取り出して見せたのは、あの猫耳だ。

「早瀬にコイツをやろう。文句はねぇな?」

「ある。要らない……ってか、もらっても困る」

 周りから聞こえる脱力した笑いに負けず、主張した。

「学祭用倉庫行きか、ほしいヤツにやれよ」

「いいのか? 暗いとこで光るぞ?」

 知ってる。
 だから何?

 また要らん答えが返ってきそうだから、聞かないけどさ。

「俺はいい。衣装と一緒に倉庫で……」

「僕、ほしい!」

 手を上げたのは新庄……まぁ、メイド服とコラボで似合ってたし。彼氏が喜ぶのかもしれない……。

「俺もいっこくれ」
「僕もちょうだい!」
「俺にも!」
「余ってるならほしい」
「俺ももらっとこうかな」

 すぐに希望者が続々と。



 マジ……!?
 何に使うんだ?
 ノンケが……彼女につけさせるのか?

 つけてくれるの!?



 目の前で、飛ぶように猫耳カチューシャが捌けてく様を見て思う。

 恋愛初心者の俺にはまだ知らない世界があるらしい。
 小道具って……大事なんだな。



「ラスト、鈴屋どうだ? お前も似合うだろ」

「いい。そういう趣味ないから」

 結都ゆうとが断ると。

「じゃあ、僕がもらうよ」

 玲史が猫耳を受け取った。

 使うのソレ?
 SMプレイに合わなそう。
 紫道しのみちにも合わなそう……。

「よし!」

 岸岡が空の紙袋を丸めた。

「 これで終わりだ。帰れるぞ」

「お疲れ……ってことで、解散!」

 佐野の号令で、今日の学校が終了。
 大量のダンボール箱とゴミ袋を残し、教室を出る。



 終わった……!



 6時ちょい過ぎ。
 見渡す廊下に涼弥はいない。

 まだ片付け中か?
 メール入れて下で待つか、第5多目に行くか……。



「じゃあな」
「お疲れ」
「またねー」

 海咲ちゃんが友達の彼氏のお笑い目的でライブを見に行ったことを俺から聞いて、これからデートの佐野はウキウキしてる。
 沙羅と飯食うって言ってた樹生も、ライブ場に駆けつけたのがうまくいってご機嫌モード。
 かいも、何でか知らないけど楽しげだ。

「お疲れ。またな」

 3人と、ほかのクラスメイトたちと挨拶を交わし。

將悟そうご。今夜がんばってね。杉原によろしくー」

「うん、お疲れ。あー……玲史」

 学祭終えた今、朝より元気そうな玲史に。

「控えめにしろよ。ほんとに」

 ムダな気もしつつ、忠告する。

「お前も、嫌なことはオーケーしちゃダメだぞ」

 紫道にも。

「心配要らない。また来週な」

 清々しく笑顔の紫道。

「大丈夫だって。將悟は自分の心配すれば?」

 玲史が目を細める。

「好きだから、で流されそう。無理って思っても杉原の要望なら聞くでしょ? きみ、甘いもん」

「そんな甘くない。つーか、涼弥はお前みたいにサドじゃないから……俺が無理なことさせない」

 よな?
 信じよう。

「そう? 將悟が慣れてきたら、いろいろやってみたいんじゃない? アレもコレも。今日は時間もあるしね」

「……だとしても、嫌っつったらしないよ。お前も、ノーって言われたらやらない理性は保て。な?」

 玲史が溜息をついた。

「全然わかってないね。Sは理性あるの。なくすのはMのほう。なくさせて支配するの……そこが楽しいんだから。こっちが冷静でいなきゃ、ギリギリのライン攻められないでしょ」

 玲史の眼光のあやしさに、思わず目を合わせる俺と紫道。



 ホンモノじゃん……!



 紫道の瞳に、僅かな怯えの影。

「俺がノーって言ったらノーだ、玲史。約束したろ?」

「わかってるってば」

 紫道が凄んでも、玲史は微笑みを浮かべるだけ。

「じゃ、もう行くから。將悟も、がんばってノーって言えるといいね」

「大丈夫。またな」

 手を振る玲史と、口角を上げて頷いた紫道が背を向けた。



 友達の身を案じながら、我が身の安全を……好きな男を信じる俺。

 信じていいに決まってるよな?



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