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51-1 学祭、開始

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 壮観……!

 衣装を身に着けて、血糊化粧をキメたゾンビがひと所に並ぶと……10人だけでも、禍々しさ倍増の眺めだ。

 なんての?
 未知のウィルスで人類が滅びるパンデミック映画みたいな。
 日常にある非日常感って、インパクトあるよな。

 ほかのグループの初見のゾンビはともかく。
 玲史と紫道のゾンビメイクは俺も一緒に手伝ったから、目新しいものでなく。グロい傷痕は糊と絵の具で出来てるって知ってるのに。

 教室の中より明るい廊下で見ると……あらためて、おおーってなる。

 うん。ゾンビ系お化け屋敷にして正解。



「8時50分……よし!」

 クラス全員が狭い廊下で身を寄せる中。
 佐野が声を上げた。

「準備オッケー。うちらのコレ、バッチリだ。繁盛間違いなし!」

「前シフトは持ち場で待機。後シフトは、バックヤードで1時までに衣装メイク完了な。様子見ながら、前のヤツと交替」

 岸岡が続ける。

「入場ペースは、客の入り見てエスコート役の判断で」

「何かあったらすぐ戻るから連絡してくれ。午後は俺も受付に待機しにくるからよ」

 佐野が言い、岸岡がパンと手を叩く。

「じゃ、今日1日。がんばろうぜ!」



 解散となり。
 前シフトのゾンビたちは、定位置でスタンバイするために中へ。
 エスコート役は開場待ちだ。

「いいのか? 午後、ここ来るって」

 そばに来た佐野に尋ねと。

「ずっといるわけじゃねぇけど、やっぱ少しはな」

「お前と岸岡、もう十分やったじゃん」

「だとしてもよ。それに、ちょうど……海咲が、沙羅ちゃんやほかのコたちと午後のライブ見に行きたいっつうんだ。邪魔したらカッコ悪いだろ」

 あ、土壇場で海咲ちゃんとダメになったんじゃなくて……よかった。

「うちのゾンビ屋敷に来るのは、樹生のシフト中がいいみたいだし。それに……」

 ニヤリと笑い、瞳を輝かせる佐野。

「終わってから、二人で飯に行くことになった」

「そうか。うまくいくといいな」

「でよ……お前に頼みがある」

「え?」

「ライブ、海咲が誰目あてなのか知りたい。沙羅ちゃんに会ったら、さりげなく聞いといてくれ。出来れば学祭終わるまでに」

「……それ、直接聞けないのか」

「内緒だって」

 変なとこで、遠慮がちっていうか……踏み込めないヤツだな。

「会ったらだぞ。わざわざケータイで聞くなよ。俺が探ってるって思われたくねぇんだ」

「わかった」

 佐野のこだわるとこはイマイチわからないけど。
 応援してるし、断る理由もない。

「サンキュー。じゃあ、よろしくな」



 佐野と後シフトのヤツらが去ってく中。

「お前いる間に、客でくるからさ。エスコートしてねー」

 凱に言われ、笑った。

「仕掛け全部知ってるだろ。それに俺、女の案内役だから……女装して来たらな」

れつがゾンビ見たがってんの」

「あ、来るの? 元気?」

 凱の家で弟の烈に会った日……ものすごく遠く感じるけど、たったひと月前なのか。

「うん。あと、ちゃんと女も一緒にいればいーんじゃねぇの?」

「女……って。あのカウンセラーの?」

「綾さんが烈たち連れて来るけど、お化け屋敷には来ねぇよ。一緒に住んでる家族の子。来年、女子部に入るみたい」

「へー……中3か」

「俺の彼女」

「え!?」

「そー見えればラッキー。なんかしつこい1年いて、女いるっつっても信じねぇからさ。D組の誰だかもうるさいしねー」

「誘ってくるヤツ、多いのか」

 仕方ない。
 良くも悪くも……コイツ、目立つもんな。

「困ったら言えよ、ほんとに。出来ること何でもする。俺も、涼弥も」

「うん。頼りにしてる。んじゃ、あとで」

 無邪気な笑顔で手を振って、凱も階段へと消えた。



 開場まであと2分。
 エスコート役は、受付にひとりは残るとして。客を案内する以外は、待機か呼び込みか中でアイテム操作。必要なら見回りも。
 あと、出口前の謎解き答え合わせの仕掛けも担当してる。20~30分交替で、俺の順番は8番目だ。
 それぞれが臨機応変に動いて、お化け屋敷をスムーズに運営するべし。



 朝一緒じゃなかった涼弥は、8時10分頃ここに来て。顔見てちょっと喋って、すぐ戻ってった。

 ひと目会いに、俺も開場前にチラッと顔出すつもりでいたんだけど。
 どうせなら、8時半過ぎに。
 涼弥がメイド服姿になってる頃に行ければって思ってたとこ……先に来られちゃったんだよな。

 見たいじゃん?

 客で行く時間はないから、涼弥のシフト中……絶対見に行かねば。
 晴れ姿……レアものだ。



 9時。
 明るい有名な曲が校内に流れ、アナウンスが入る。
 蒼隼学園祭の始まりだ。



「エスコートの使いみちはご自由に。ひとりじゃ怖い時のお供に。脱出のヒントを聞くもよし。ゾンビをよける盾に使うもよし」

 開始3分足らずで入口に集まった十数人のお客さんに、岸岡がノリ良く説明する。
 
「もちろん。エスコートなんぞ不要だっていうカップルさんは、お二人だけでどうぞ!」

 このエスコートの役割と、脱出に必要なアイテムの入手方法書いたやつ。壁に貼ってはあるんだけど。
 ちゃんと読まない人もいるし、口で説明したほうがいいな。
 てことで。
 岸岡がいなくなったら、案内で中に入ってないエスコート役がその任を担うことになった。



 校門からより校内から来るほうが早いため、今いる客はうちの生徒のみ。
 女担当のエスコート役の俺は、とりあえず……手が空いてるヤツがやることになってるアイテム操作係に。



 ひとつ目と2つ目の仕掛けの間に、うつ伏せに倒れたゾンビが3体。ボロボロの制服を着たマネキンで、うっすらとライトで照らされてる。
 その後ろの隠れスペースに入り、人が通るタイミングで……。

「ううう゛あ゛あ゛あ゛あ……ああ、あ゛……っがッ……!」

 設置してあるスピーカーからの呻き声に合わせて、繋いだ棒でゾンビをピクピクと動かす。

「うおッ……!」
「こいつ生きてっぞ!」
「……人形だよ」
「化けてんだろ!」
「足、変な曲がり方してんじゃん」
「さっきのヤツ生きてたろ!」
「進めよ……ここ心臓にわりい……」
「まだ入ったばっかなのに。お前ら怖がり過ぎ」
「うるせぇ!」
「じゃあ先歩けよ」



 エスコートなしの3人組が、通り過ぎた。
 冷静な人間がひとりいれば、サクサク進めそうで何より。
 てか。作り物のゾンビでも、ビビるんだ。

 まぁ確かに、暗闇に青系の灯り多く使ってるし。
 内装凝ってるし。
 中身全部知ってれば驚かないけど、知らなきゃビビるか。

 偽物とわかりつつ。
 来るぞ来るぞって期待して恐怖心マックスで怖がるのが、お化け屋敷の正しい楽しみ方だよね。



 そんな感じで、6組の客が楽しむのを影から見て……楽しんだ。
 人が驚くのって、見てておもしろい。

 あーずっと中にいたいなー……って。
 思うと、そうはいかないもんだ。

 ポケットでケータイが震え。
 見ると、エスコートの呼び出しだった。



『早瀬、戻れ。客来てるぞ。ご指名で』


 指名? 凱か?
 いや。
 それなら、そう言うだろ。

 沙羅と海咲ちゃんは、樹生と佐野がいるはず。
 ほかにあては……。

 薄闇にまぎれながら、入口に戻る。



 考えられるあては、ほかにいないけどさ。

「来たよー將悟そうご! エスコートして」

 ゴキゲンな笑顔を俺に向ける深音みおと、隣で不敵な笑みを浮かべる和沙がいた。



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