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50-1 いざ登校

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 学祭当日。
 期待と興奮に疲労が勝り。熟睡して目覚め、支度を済ませた朝。
 家を出る直前に、涼弥からの電話が鳴った。

「悪い。寝過ごした」

「ゆっくり歩いてるから、急いで来いよ」

「お前は7時9分のに乗らなけりゃなんだろ。先に行ってくれ」

 今日。うちのクラスの集合時間は、7時30分だ。

 うちから10分弱の駅まで、涼弥の家から12、3分。
 余裕持って合流地点の公園に6時55分頃の予定だったから、今はまだ6時45分くらい。
 顔洗って服着てすぐ出れば、間に合うんじゃって思ったけど。

「ん。わかった。じゃあ、学校で」

 朝の支度、時間かかることあるのかもしれないし。
 急かすのも何だし。

「気をつけてな」

 通話を切って家を出た。



 俺同様。涼弥が寝坊するのって、あんまりないんだよね。
 夜遅くまで帰らない日も多いのに、何故か寝起きはいいらしく。
 その分、授業中に足りない睡眠補給してるんだろうけどさ。

 始業時間ギリになるのが苦手な俺と、全くそんなことない涼弥とは。ごくたまにこっちの駅で一緒になるくらいで。
 つき合うようになっても、普段は特に待ち合わせて通学したりはしてない。

 でも、今日は。
 時間合わせて、公園でってことになってた。
 昨夜、明日……今日が、待ち遠しかったからか。

 こうやって。本人たちは気づかず、傍から見たらバカップルぽくなってくのか……と、思わなくもない。
 そのくらい。俺と涼弥は今、熱く恋愛中だ。



 学園の駅に到着。
 当日準備の必要な出し物をするクラスが多いのか、この早い時間に学園に向かう生徒がけっこういる。

 駅のホームで、結都ゆうとと一緒になった。

將悟そうごは学祭、楽しみにしてる?」

「うん。うちのお化け屋敷、かなりいい出来になったし。繁盛するといいな」

 そう答えてから、溜息をひとつ。

「選挙結果出るの以外は、楽しみ」

「そうだね。結果……3時に全校放送されるんだっけ?」

「あー……それ、やめてほしいマジで……」

 学祭終盤に。
 客がいる間に、学園中に知らせなくてもいいじゃん?

「5時の終了時間過ぎてから、昇降口の掲示板で発表じゃダメなのかって思うよ」

「当事者以外にはエンタメだから。そのほうが、盛り上がるって感じなんじゃない?」

 結都が、窺うように俺を見る。

「もう諦めてる?」

「いや……」

 小さく首を横に振った。

「落選する可能性はまだあるだろ。ただ……当選したら、前向きに受け入れなきゃって思うようにした」

「なら、安心。さすが委員長」

 笑みを浮かべた結都の言葉に、俺も薄く微笑む。

「將悟も午後フリーでしょ。発表、杉原と一緒に聞けるね」

「ん……それが救いだな」

 ほんとそう。
 あとは……どっか人目のないとこで聞ければ、なおよし。

「お前は? 斉木と?」

「一応は……」

 わかりやすく不満げな顔をした結都を促すように、少し首を傾げた。

「店番、僕は午前中だけなのに……斉木さんは午前と午後、2時間ずつあるから。一緒にゆっくり見て回れないなぁって」

「そっか……そういうシフトだと大変だよな」

 学祭は9時から5時の8時間で、1時に交替の2シフト制のクラスが多い。

「斉木のとこ、何やるんだ?」

「3-Bはカジノだって」

「カジノ!? 賭けゴトの店やるのか?」

「なんちゃってカジノだよ。売るのは、ドリンクとお菓子セット。で、そこで遊べるコインがついてて。好きなゲームが出来る店」

「へぇ……考えたな」

「勝ったらコインが増えて、同じゲームで5回まで遊べるって……お客さん、居着いちゃうよね」

「おもしろうそうじゃん」

「斉木さんは、カードゲームのディーラー係。得意なんだ」

「カード以外のゲームもあるのか?」

 スロット……は無理か。
 ルーレットとか、サイコロとか?
 行ったことないから、イメージだけ。

「何種類かあるみたい。あと……」

 ほかの生徒たちにまぎれて挨拶しながら、生徒会役員たちが学祭の飾りつけを始めてる校門をくぐった。

「あと。生徒会役員の当選者ベットがあるって」

「は……!?」

 結都の言葉に、思わず声を上げる。

「選挙当選者を予想して賭けるの。まぁ、当たった人に景品あげるだけらしいけど」



 どうして。
 何で……。

 選挙で遊ぶんだよ……!?

 当然、うちの生徒以外の客も参加オーケーか?
 はぁ……。
 エンタメだな。まさしく。



「結果出る時間が一番盛り上がるぞって……斉木さんがね。僕もカジノで聞いてるから」

「……誰だよ。そんな賭けやることにしたの……」

「江藤さん。もっと、生徒会に関心持ってほしいって」

 役員選挙使ってベットゲーム、生徒会としてオーケーなのか?

 その疑問は解決。
 会長が主導じゃ、文句言うとこ……ないよな。

「選挙終わってんじゃん……」

「ね……でも。学園のためにいろいろ奉仕する役員たちの存在、アピールするにはいいのかも」

 深い溜息をつき。
 下駄箱で靴を履き替え、昇降口を入ってすぐの掲示板を見ると……さらなる溜息が出るモノが。

「カンベンしてくれ……」



 昨日の帰りには撤去されてた、選挙の告示。候補者12人の写真と情報を載せたやつ。
 それが、リニューアルして再お目見え。
 告示の見出しだけ変えてある。
 コレだ。



『本日3時発表! 来季生徒会役員は誰になる!? 当選者予想ベット開催』
『景品の詳細は、カジノBLUEブルー FALCONファルコンにて』



 派手な装飾を枠に施した掲示板の下部に、デカい『←』。赤で。
 しかも、矢印の上に『すぐそこ』って書いてある。

 きっと。ここから一番近い第1多目教室が、3-Bのカジノなんだろう。

「宣伝もバッチリだね」

 結都の言葉通り。入ってすぐのこの場所に貼ってある広告は、かなり目を引く。



 江藤のクラスだからか?
 会長の役得か?

 掲示板使うなんて、ズルいだろ!


 
「でも。おもしろそうな出し物、ほかにもたくさんあるし。昇降口前の出店スペースに置くでしょ、学祭マップ。あれのほうが目立つから」

「そうだな……」



 校門から昇降口までの道……今週の朝3日、選挙活動で生徒たちの出迎えをしたところの横に。小ぶりな広場っぽいスペースがある。
 そこをコの字型に、軽食系の出店が立ち並ぶ。

 その真ん中に。
 ベニアに貼られた学祭マップが、デカデカと設置される。
 カラフルな写真入りで、各出し物を紹介したマップだ。



「もう、コレは気にしない。興味持つ客が少ないことを願うよ」

 気にしない気にしない。
 せっかくの学祭だ!

「うん。楽しもうね」



 結都と笑みを交わし。
 ぞくぞくと登校してくるクラスメイトと挨拶を交わしつつ。

 意識を前に、ゾンビ屋敷に向けて。
 第二校舎2階にある、第3多目教室へと向かった。



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