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48-1 選挙活動
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翌日曜日は。
午後に3時間くらい沙羅とジムに行って、あとはのんびり過ごした。
街での用事がある涼弥に、一緒にって誘われたけど……やめておいた。
思ったより身体が疲労してたからさ。軽い運動と休養の日にしたほうがいいだろこれ……ってことで。
今週。学祭までの5日間は、準備に追われて忙しい。
クラスの出し物……うちはゾンビ系お化け屋敷……の飾り付けとアイテムの制作を、昼休みと放課後にやる。
金曜日に準備を終えるには、けっこう本気でやらないと間に合わない。
加えて。
選挙活動がある。
候補者全員。
アピールしたくないのに。強制的に。
それは……月水金の朝、校舎前で生徒たちを出迎えること。
初日の月曜。
始業時間の50分前。
人気のない昇降口に集まった候補者12人は、選挙実行委員である会長の江藤にタスキを渡された。
幅広で白い布地の。自分の名前が書かれたやつ……。
コレつけて人目に晒されるのが、すでに苦痛なやつ……!
手にしたタスキに目を落とし、束の間静止してから。溜息をついて顔を上げると、江藤と目が合った。
「嫌そうだね」
微笑みながら言われ。
「……これ、つけなきゃダメですか?」
一応聞いてみた俺の言葉に、タスキ装着をためらう数人が反応。
「名前見えるように手で持ってるとか……」
「投票場にも写真あるし、顔覚えてもらうくらいで十分じゃない?」
「候補者としての義務だから来てるだけで、こんなのつけてノリノリに思われたくないんだけど……」
「当選したくないから、つけなくていいですか?」
最後の。1年の発言は、まさに俺の胸の内。
ほかのコメントも。聞くかぎりでは、生徒会役員になりたくてここにいる人間は少ないっぽい。
落選への希望が……薄まるな。
「そんな人のために、もう一種類用意してあるよ」
え?って視線を浴びながら。足元に置かれた紙袋から、江藤が取り出したものは……。
タスキよりも細い、白くて長い布の束だ。
「ほら。ハチマキ。タスキが嫌ならこれ、頭に巻いて」
静まる候補者たち。
ハチマキって……。
しかも、見えてる! 名前入りじゃん……!
選挙予算でこんなもんまで用意してるのか!?
「きみたちが提出した立候補の書類に明記してあった注意事項、ちゃんと読んだ?」
江藤の問いに、顔を見合わせるも……誰も答えない。
上沢と現役員の加賀谷も。みんなに合わせる気なのか、ずっと無言だ。
「『選挙告示から投票までは、選挙実行委員の指示に従う義務を負う』って一文があるんだ」
江藤が満面の笑みを浮かべる。
「タスキかハチマキ。どっちかを必ずつけて。校舎の前で、全校生徒に選挙の宣伝をする。選挙活動だから、自分を好きにアピールしてもいいよ」
そう言って、ハチマキを全員に配り。
「もちろん、両方つけてもいいからね」
トドメのセリフを残し、江藤は先に外へと出ていった。
校門から昇降口に続く道の両側に分かれて立った俺たち候補者は、何十回も朝の挨拶をしながらアピールを続けた。
『おはようございます』
『よろしくお願いします』
基本はコレだけど。
2年の藤村と。1年の津田ともう二人は、自分の名前もプラスしてた。
『津田和橙です。どうぞよろしくお願いします』
すごいよな。やる気満々。
生徒会役員になりたくて立候補したこういうヤツに、ぜひ当選してもらいたい。
候補者の間を通る生徒たちは、他人事だからか……楽しそうに、品定めの目を向けてくる。
見世物小屋に展示された生き物の気分。軽く拷問だろ。精神的な。
もちろん、中には話しかけてくる生徒もいる。
からかうクラスメイト。
がんばれよー、がんばってくださいって応援の声。
あと、朝っぱらからナンパ系のヤツも。
そして。
南海と桝田とも顔を合わせた。
ほかの生徒にするように笑顔で挨拶をすると、二人とも笑みを返した。
自然で裏のない瞳を俺に向けて。言葉はなく。
選挙アピール終盤に、涼弥も通った。
運悪く。ちょうど。
3年の二人組に卑猥な言葉をかけられて。彼氏がいるからとそれをかわすも、しつこくされ。
後ろから来た風紀委員の坂口が、軽い調子でヤツらを追っ払ってくれて。
ありがとうございますってお辞儀した俺の頭を、大変だねー気をつけなよーと……有無を言わさず、わしわしと撫でられてるところに。
『おはようございます、先輩。手を離してください』
据わった目で挨拶しつつ、涼弥が登場。
丁寧な口調が、逆に怒りを秘めてるっぽくて不穏。
ちょっと触っただけじゃん、ヤキモチ焼きだなぁ……と。肩を竦めて、坂口は去り。
必要以上に喋る時間も場でもなかったけど。
おはようを交わしただけで、涼弥は無言のまま。
目の前に立ち止まって数秒間じっと目を合わせ、俺の頬から顎をゆっくり撫でてった。
すぐあとにやってきた1年たちに、今の彼氏ですか?って聞かれ……うん、そうだよって半分上の空で答えたら。
『応援してます! がんばってください!』
交互に手を握られて、励まされた。
応援……涼弥とのつき合いを、だよね?
あれ? やっぱり役員選挙を、か?
ダメだ……疲れてる。
挨拶して笑って、知らない生徒とも会話して。
自分にいい印象を持ってほしいとは全然思わないのに、選挙活動の義務としてにこやかに振る舞うのって……不毛でしかないよな。
午後に3時間くらい沙羅とジムに行って、あとはのんびり過ごした。
街での用事がある涼弥に、一緒にって誘われたけど……やめておいた。
思ったより身体が疲労してたからさ。軽い運動と休養の日にしたほうがいいだろこれ……ってことで。
今週。学祭までの5日間は、準備に追われて忙しい。
クラスの出し物……うちはゾンビ系お化け屋敷……の飾り付けとアイテムの制作を、昼休みと放課後にやる。
金曜日に準備を終えるには、けっこう本気でやらないと間に合わない。
加えて。
選挙活動がある。
候補者全員。
アピールしたくないのに。強制的に。
それは……月水金の朝、校舎前で生徒たちを出迎えること。
初日の月曜。
始業時間の50分前。
人気のない昇降口に集まった候補者12人は、選挙実行委員である会長の江藤にタスキを渡された。
幅広で白い布地の。自分の名前が書かれたやつ……。
コレつけて人目に晒されるのが、すでに苦痛なやつ……!
手にしたタスキに目を落とし、束の間静止してから。溜息をついて顔を上げると、江藤と目が合った。
「嫌そうだね」
微笑みながら言われ。
「……これ、つけなきゃダメですか?」
一応聞いてみた俺の言葉に、タスキ装着をためらう数人が反応。
「名前見えるように手で持ってるとか……」
「投票場にも写真あるし、顔覚えてもらうくらいで十分じゃない?」
「候補者としての義務だから来てるだけで、こんなのつけてノリノリに思われたくないんだけど……」
「当選したくないから、つけなくていいですか?」
最後の。1年の発言は、まさに俺の胸の内。
ほかのコメントも。聞くかぎりでは、生徒会役員になりたくてここにいる人間は少ないっぽい。
落選への希望が……薄まるな。
「そんな人のために、もう一種類用意してあるよ」
え?って視線を浴びながら。足元に置かれた紙袋から、江藤が取り出したものは……。
タスキよりも細い、白くて長い布の束だ。
「ほら。ハチマキ。タスキが嫌ならこれ、頭に巻いて」
静まる候補者たち。
ハチマキって……。
しかも、見えてる! 名前入りじゃん……!
選挙予算でこんなもんまで用意してるのか!?
「きみたちが提出した立候補の書類に明記してあった注意事項、ちゃんと読んだ?」
江藤の問いに、顔を見合わせるも……誰も答えない。
上沢と現役員の加賀谷も。みんなに合わせる気なのか、ずっと無言だ。
「『選挙告示から投票までは、選挙実行委員の指示に従う義務を負う』って一文があるんだ」
江藤が満面の笑みを浮かべる。
「タスキかハチマキ。どっちかを必ずつけて。校舎の前で、全校生徒に選挙の宣伝をする。選挙活動だから、自分を好きにアピールしてもいいよ」
そう言って、ハチマキを全員に配り。
「もちろん、両方つけてもいいからね」
トドメのセリフを残し、江藤は先に外へと出ていった。
校門から昇降口に続く道の両側に分かれて立った俺たち候補者は、何十回も朝の挨拶をしながらアピールを続けた。
『おはようございます』
『よろしくお願いします』
基本はコレだけど。
2年の藤村と。1年の津田ともう二人は、自分の名前もプラスしてた。
『津田和橙です。どうぞよろしくお願いします』
すごいよな。やる気満々。
生徒会役員になりたくて立候補したこういうヤツに、ぜひ当選してもらいたい。
候補者の間を通る生徒たちは、他人事だからか……楽しそうに、品定めの目を向けてくる。
見世物小屋に展示された生き物の気分。軽く拷問だろ。精神的な。
もちろん、中には話しかけてくる生徒もいる。
からかうクラスメイト。
がんばれよー、がんばってくださいって応援の声。
あと、朝っぱらからナンパ系のヤツも。
そして。
南海と桝田とも顔を合わせた。
ほかの生徒にするように笑顔で挨拶をすると、二人とも笑みを返した。
自然で裏のない瞳を俺に向けて。言葉はなく。
選挙アピール終盤に、涼弥も通った。
運悪く。ちょうど。
3年の二人組に卑猥な言葉をかけられて。彼氏がいるからとそれをかわすも、しつこくされ。
後ろから来た風紀委員の坂口が、軽い調子でヤツらを追っ払ってくれて。
ありがとうございますってお辞儀した俺の頭を、大変だねー気をつけなよーと……有無を言わさず、わしわしと撫でられてるところに。
『おはようございます、先輩。手を離してください』
据わった目で挨拶しつつ、涼弥が登場。
丁寧な口調が、逆に怒りを秘めてるっぽくて不穏。
ちょっと触っただけじゃん、ヤキモチ焼きだなぁ……と。肩を竦めて、坂口は去り。
必要以上に喋る時間も場でもなかったけど。
おはようを交わしただけで、涼弥は無言のまま。
目の前に立ち止まって数秒間じっと目を合わせ、俺の頬から顎をゆっくり撫でてった。
すぐあとにやってきた1年たちに、今の彼氏ですか?って聞かれ……うん、そうだよって半分上の空で答えたら。
『応援してます! がんばってください!』
交互に手を握られて、励まされた。
応援……涼弥とのつき合いを、だよね?
あれ? やっぱり役員選挙を、か?
ダメだ……疲れてる。
挨拶して笑って、知らない生徒とも会話して。
自分にいい印象を持ってほしいとは全然思わないのに、選挙活動の義務としてにこやかに振る舞うのって……不毛でしかないよな。
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