96 / 246
26-5 ディスガイズにて
しおりを挟む
ドアが開けられた時。
カウンターの近くでそっちを向いてた俺の前に、涼弥が立ってて。水本たちは俺に気づかず中に入ってきた。
「おとなしく待ってたか? 嬉しいぜ。お前がそんな……」
こっちを見て言葉を止めた水本が、店内に巡らせた視線を再び俺に留める。
涼弥と俺は、中央のスペースまで来たヤツらと向かい合う形になった。
「お前のそのツラ……」
水本がニヤリとした。
「さっき見たなぁ? ホモ動画でよ」
ほかのヤツらから笑いが漏れる。
うちの学園の制服がひとり。他校の制服が3人。私服がひとり。
「コイツが痛めつけられんのわざわざ見に来たんなら、お前も楽しんでけ」
「悪いけど帰ります。涼弥も一緒に」
「帰らねぇよな? 杉原。まだ終わっちゃねぇだろ」
「動画は好きにしてかまわない。だから、もうここにいる理由はない。そう伝えるために待ってたんです」
涼弥が答える前にそう言い切った俺を、水本がおもしろそうに眺める。
「理由か。んなもん、いくらでも作れる」
水本が仲間に目で合図を送るのを見て。
「お前は水本な」
涼弥に囁いてカウンターのヘリまで下がると。すぐさま距離を詰めてきた男に、無抵抗で両手を後ろ手に取られる。
涼弥に胸ぐらを掴まれた水本が、余裕の表情で笑う。
「こっからどうすんだ? 俺とやり合ってちゃ大事なアレ、守ってるヒマねぇぞ」
「お前に、もう用はない」
「沢井はどうした? どこに隠れてる?」
「ここだ」
答えると同時に。
トイレからそっと出て背後に忍び寄った沢井が、二人の男の右手と左手をそれぞれ外側に捻って背中に回し上げる。
タンッと軽い音がして。
カウンターから跳ねた玲史が、着地とともに男の前髪をわし掴み。上を向かせ、後ろに回った。
「動くと危ないよ? 僕ねぇ、どこ刺せば血が出ても大丈夫か、動脈切らずに済むか……よく知ってるから。じっとしてれば大丈夫」
やさしい声音で言って、調理ナイフの背で男の首筋を撫でる玲史。
その横で。
玲史と一緒に跳んだ凱が、もうひとりの男の肘の関節をキメたらしく。寄り添うように凱にピッタリついて立つ男が、顔をしかめて直立不動になる。
「お前、斉木ん時の……」
「あー覚えてんの? 今日も友達助けに来ただけ。あんたとやる気はねぇよ」
凱に舌打ちして、水本が玲史を見る。
「高畑。お前も人助けか?」
「まぁね。それに、あの手の動画盾に取って暴力振るうのって、悪者だなぁって思ったから」
「気分次第で非情になれるヤツにゃ言われたくねぇな」
「とにかく。今日はこっち側。やるなら、お友達にも覚悟させてね」
玲史が、非情さを微塵も感じさせない笑みを浮かべた。
「俺、こういうこと慣れてないんだ。だから……変な動きはしないでほしい」
ほとんど耳元で御坂の声。
俺と、俺を押さえてる男が振り向くと。カウンターの上にしゃがんだ御坂が、男の襟首に手をかけてアイスピックをちらつかせる。
誰もが押し黙る中。
水本から手を離し、涼弥が静かに口を開く。
「帰らせてもらう。どうしても売りてぇなら買うぞ」
水本が仲間たちを見回した。
こっちが押さえてはいるけど、誰も傷つけてはいない。殴り倒すほうが、はるかに楽だったと思うのに……やらないでくれたことに感謝。
沈黙は短く。
「松田。呼び出したのに悪かった。コイツやんの、今度でいいか?」
水本が溜息まじりに問いかけたのは、凱が掴んでる他校の男……ガタイのいい、涼弥や沢井と近いタイプだ。
「まず、これ……放させろ!」
「いーけどさー。反撃したら、次は関節壊すぜ?」
松田って男が凱を睨みつけるも、頷いた。
「しねぇから放せ」
「んじゃ、はい」
自由になった腕をさすりながら、松田が涼弥に近づいてく。
「杉原。お前ゲイなんだって?」
「そうなるな。おかしいか?」
「ああ、おかしいね。そんなのにやられたって思うとな」
「質もエモノもなしでなら、いつでも受けてやる」
松田がチラリと俺を見やる。
「お前が男に……ってよ。何の冗談かと思ったんだが」
「……あいつに手出ししたら許さねぇぞ」
「ふん」
鼻を鳴らした松田が、予備動作なしで涼弥の顔に拳を叩き込んだ。衝撃に頭を揺らしたものの、涼弥はよろけず呻かず。
乾いた血の跡を、新たな鮮血が伝う。
「もうひでぇツラしてっからな。続きは次会った時にしてやるよ」
松田が水本の肩を叩く。
「お前の気が済んでんなら、コイツら帰して遊び行こうぜ」
「そうするか……」
この展開に、満足はしてないだろうけど。水本がゆっくりと首を縦に振ると、張り詰めてた場が弛緩した。
沢井と玲史が、押さえてた男たちを解放。
俺も掴まれてた両手を放され、安堵の息をつく。
「出来もしないことに脅しの効果はないよ」
カウンターから降りて俺の隣に立った御坂に、男が言った。
暴力沙汰にそぐわない、細身で爽やかな見た目の男だ。深緑のブレザーに、濃いグレーの細かいチェック柄のズボン……うちの学園の制服を着たその男が唇の端を上げる。
「次は、使えない武器は持たないほうがいい」
そう言って、男は水本たちのほうへ戻っていった。
「あの人、見覚えあるんだよね」
「学校で?」
「いや、街で。どこで会ったんだっけな……」
「水本の友達にしてはいいヤツかも。さっき俺のこと取り押さえた時、言ったんだ。傷つけるつもりはないから安心しろって。何でかそれ、嘘っぽくなかったから」
「そうか。気になるけど…思い出せない。まぁ今はいいや。これで終わり?」
「そうだな。ケンカにならなくてよかったよ」
「本当にいいのか? 動画」
「いい。俺も涼弥も困らないしさ」
御坂に頷いて、涼弥を見る。
帰るぞって言おうとしたところで。
「あ! そうだ!」
玲史が声を上げる。
「ねぇ水本さん。お詫びというかお礼に…いいコト教えてあげようか」
フワフワの栗色の髪に囲まれたかわいい顔で、玲史があやしく微笑んだ。
カウンターの近くでそっちを向いてた俺の前に、涼弥が立ってて。水本たちは俺に気づかず中に入ってきた。
「おとなしく待ってたか? 嬉しいぜ。お前がそんな……」
こっちを見て言葉を止めた水本が、店内に巡らせた視線を再び俺に留める。
涼弥と俺は、中央のスペースまで来たヤツらと向かい合う形になった。
「お前のそのツラ……」
水本がニヤリとした。
「さっき見たなぁ? ホモ動画でよ」
ほかのヤツらから笑いが漏れる。
うちの学園の制服がひとり。他校の制服が3人。私服がひとり。
「コイツが痛めつけられんのわざわざ見に来たんなら、お前も楽しんでけ」
「悪いけど帰ります。涼弥も一緒に」
「帰らねぇよな? 杉原。まだ終わっちゃねぇだろ」
「動画は好きにしてかまわない。だから、もうここにいる理由はない。そう伝えるために待ってたんです」
涼弥が答える前にそう言い切った俺を、水本がおもしろそうに眺める。
「理由か。んなもん、いくらでも作れる」
水本が仲間に目で合図を送るのを見て。
「お前は水本な」
涼弥に囁いてカウンターのヘリまで下がると。すぐさま距離を詰めてきた男に、無抵抗で両手を後ろ手に取られる。
涼弥に胸ぐらを掴まれた水本が、余裕の表情で笑う。
「こっからどうすんだ? 俺とやり合ってちゃ大事なアレ、守ってるヒマねぇぞ」
「お前に、もう用はない」
「沢井はどうした? どこに隠れてる?」
「ここだ」
答えると同時に。
トイレからそっと出て背後に忍び寄った沢井が、二人の男の右手と左手をそれぞれ外側に捻って背中に回し上げる。
タンッと軽い音がして。
カウンターから跳ねた玲史が、着地とともに男の前髪をわし掴み。上を向かせ、後ろに回った。
「動くと危ないよ? 僕ねぇ、どこ刺せば血が出ても大丈夫か、動脈切らずに済むか……よく知ってるから。じっとしてれば大丈夫」
やさしい声音で言って、調理ナイフの背で男の首筋を撫でる玲史。
その横で。
玲史と一緒に跳んだ凱が、もうひとりの男の肘の関節をキメたらしく。寄り添うように凱にピッタリついて立つ男が、顔をしかめて直立不動になる。
「お前、斉木ん時の……」
「あー覚えてんの? 今日も友達助けに来ただけ。あんたとやる気はねぇよ」
凱に舌打ちして、水本が玲史を見る。
「高畑。お前も人助けか?」
「まぁね。それに、あの手の動画盾に取って暴力振るうのって、悪者だなぁって思ったから」
「気分次第で非情になれるヤツにゃ言われたくねぇな」
「とにかく。今日はこっち側。やるなら、お友達にも覚悟させてね」
玲史が、非情さを微塵も感じさせない笑みを浮かべた。
「俺、こういうこと慣れてないんだ。だから……変な動きはしないでほしい」
ほとんど耳元で御坂の声。
俺と、俺を押さえてる男が振り向くと。カウンターの上にしゃがんだ御坂が、男の襟首に手をかけてアイスピックをちらつかせる。
誰もが押し黙る中。
水本から手を離し、涼弥が静かに口を開く。
「帰らせてもらう。どうしても売りてぇなら買うぞ」
水本が仲間たちを見回した。
こっちが押さえてはいるけど、誰も傷つけてはいない。殴り倒すほうが、はるかに楽だったと思うのに……やらないでくれたことに感謝。
沈黙は短く。
「松田。呼び出したのに悪かった。コイツやんの、今度でいいか?」
水本が溜息まじりに問いかけたのは、凱が掴んでる他校の男……ガタイのいい、涼弥や沢井と近いタイプだ。
「まず、これ……放させろ!」
「いーけどさー。反撃したら、次は関節壊すぜ?」
松田って男が凱を睨みつけるも、頷いた。
「しねぇから放せ」
「んじゃ、はい」
自由になった腕をさすりながら、松田が涼弥に近づいてく。
「杉原。お前ゲイなんだって?」
「そうなるな。おかしいか?」
「ああ、おかしいね。そんなのにやられたって思うとな」
「質もエモノもなしでなら、いつでも受けてやる」
松田がチラリと俺を見やる。
「お前が男に……ってよ。何の冗談かと思ったんだが」
「……あいつに手出ししたら許さねぇぞ」
「ふん」
鼻を鳴らした松田が、予備動作なしで涼弥の顔に拳を叩き込んだ。衝撃に頭を揺らしたものの、涼弥はよろけず呻かず。
乾いた血の跡を、新たな鮮血が伝う。
「もうひでぇツラしてっからな。続きは次会った時にしてやるよ」
松田が水本の肩を叩く。
「お前の気が済んでんなら、コイツら帰して遊び行こうぜ」
「そうするか……」
この展開に、満足はしてないだろうけど。水本がゆっくりと首を縦に振ると、張り詰めてた場が弛緩した。
沢井と玲史が、押さえてた男たちを解放。
俺も掴まれてた両手を放され、安堵の息をつく。
「出来もしないことに脅しの効果はないよ」
カウンターから降りて俺の隣に立った御坂に、男が言った。
暴力沙汰にそぐわない、細身で爽やかな見た目の男だ。深緑のブレザーに、濃いグレーの細かいチェック柄のズボン……うちの学園の制服を着たその男が唇の端を上げる。
「次は、使えない武器は持たないほうがいい」
そう言って、男は水本たちのほうへ戻っていった。
「あの人、見覚えあるんだよね」
「学校で?」
「いや、街で。どこで会ったんだっけな……」
「水本の友達にしてはいいヤツかも。さっき俺のこと取り押さえた時、言ったんだ。傷つけるつもりはないから安心しろって。何でかそれ、嘘っぽくなかったから」
「そうか。気になるけど…思い出せない。まぁ今はいいや。これで終わり?」
「そうだな。ケンカにならなくてよかったよ」
「本当にいいのか? 動画」
「いい。俺も涼弥も困らないしさ」
御坂に頷いて、涼弥を見る。
帰るぞって言おうとしたところで。
「あ! そうだ!」
玲史が声を上げる。
「ねぇ水本さん。お詫びというかお礼に…いいコト教えてあげようか」
フワフワの栗色の髪に囲まれたかわいい顔で、玲史があやしく微笑んだ。
0
お気に入りに追加
327
あなたにおすすめの小説
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い
papporopueeee
BL
契約社員として働いている川崎 翠(かわさき あきら)。
派遣先の上司からミドリと呼ばれている彼は、ある日オカマバーへと連れていかれる。
そこで出会ったのは可憐な容姿を持つ少年ツキ。
無垢な少女然としたツキに惹かれるミドリであったが、
女性との性経験の無いままにツキに入れ込んでいいものか苦悩する。
一方、ツキは性欲の赴くままにアキラへとアプローチをかけるのだった。
【R18】息子とすることになりました♡
みんくす
BL
【完結】イケメン息子×ガタイのいい父親が、オナニーをきっかけにセックスして恋人同士になる話。
近親相姦(息子×父)・ハート喘ぎ・濁点喘ぎあり。
章ごとに話を区切っている、短編シリーズとなっています。
最初から読んでいただけると、分かりやすいかと思います。
攻め:優人(ゆうと) 19歳
父親より小柄なものの、整った顔立ちをしているイケメンで周囲からの人気も高い。
だが父である和志に対して恋心と劣情を抱いているため、そんな周囲のことには興味がない。
受け:和志(かずし) 43歳
学生時代から筋トレが趣味で、ガタイがよく体毛も濃い。
元妻とは15年ほど前に離婚し、それ以来息子の優人と2人暮らし。
pixivにも投稿しています。
少年売買契約
眠りん
BL
殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。
闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。
性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。
表紙:右京 梓様
※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる