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18-3 心構えが出来るまで、見守ってて
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「りょ……っ」
昼休みと同様に。
発する声を防ぐための手が、俺の口を塞いだ。その手の主と俺が呼ぼうとした名前が、今回は逆で。
そして、俺の心拍数は平常値のまま。
「送ってくれてありがとう。寄ってく? 將梧もいると思うし」
「いや。今日はやめておく」
「さっきも言ったけど……ほんとに將梧に聞かなくていいの?」
「ああ」
「私だったら嫌だな。自分のこと勝手にこうだって思われて、勝手に自己完結されてたら。涼弥はかまわないんだ」
「誤解されたくなけりゃ、どうしても伝えたいことは伝える。今じゃなくてもな。將梧も……そうしてくれるはずだ」
「だといいけど……そうね。わかった」
「じゃあ、また」
「うん。今度遊びに来て」
沙羅と涼弥の話し声が止んでほどなくして。入り口に沙羅が現れ、玄関に向かってくる。
俺の口を塞いだ凱の手は、息を詰めて二人の会話を聞いてる間に外されて。今は自由に声が出せる。
ちょっと迷ってから声をかけようとしたら、先に沙羅が俺たちに気づいた。
一瞬見開いた目を細めて、こっちに来て足を止めた沙羅の第一声は。
「こんな暗がりで、いけないことでもしてるの?」
これだ。
「何でわざわざ外でするんだよ。誰もいない家の中に部屋あるのに。ていうか、しないだろ普通。友達と」
嘘じゃない。これはほんとだよね?
現時点では。
「沙羅ちゃんは、外でやんのが好きなの?」
凱の軽口に、沙羅が口元だけをほころばせる。
「いいえ。星空の下もロマンチックだけど。完全防音仕様で、SMプレイ設備のある部屋のほうが好き」
「いーねー楽しそう。けど俺、SMは好きじゃねぇな」
「私も嫌い」
「声出す女は好きだぜ。外は近所迷惑になるから抑えろよ?」
「凱くんこそ。男とやる時は、あんあん喘ぎまくってるんでしょ? 聞けなくて残念」
「おい」
堪らず、制止の声をかける。
何故、コイツらはエロい嫌味の応酬を始めるのか。
ろくに知らない同士なのに、息合ってるし。
「二人ともやめろ」
沙羅の視線が俺に移る。
「ほんとは何してたの?」
「俺の恋愛相談だよ。それより、沙羅。何で涼弥と?」
「駅でバッタリ。暗くて危ないから家まで送るって言われて、何か話あるのかなって思ったから一緒に来たの」
ベンチの横にあったプラスチック製のイスを俺たちの向かい側に持ってきて、沙羅が腰を下ろした。
「涼弥、何だって?」
「將梧には内緒にしてほしいって、頼まれてるから」
フフンってあやしく光る瞳で見つめてくる沙羅。
「昨夜の、將梧の気持ちもちゃんと黙ってたわ。すっごく言いたくなったけど。グッと堪えたのよ」
「あーそれは、ありがとな。お前のこと信用してる」
「涼弥にも信用されてるから言わない」
う。それは正しい……けどさ。
俺のことも、信用してくれてるよね?
沙羅が俺に話したって涼弥に言わないから!
なんて。
秘密って、こうやって縛り口緩んで漏れてくんだろうな。
「わかった」
とりあえず、今は諦めとこう。
「でも、俺の話してたんだろ? 言いたいの堪えたって……何話しててバラしたくなったんだよ」
沙羅が凱を見やる。
「凱は俺の気持ち知ってるから。涼弥のもな。勘と洞察力で」
「何それ」
「將梧のこと好きなんだろ、あいつ」
唇の端を片側だけ上げる凱の笑み。
「もう知ってるから内緒じゃねぇな」
「なんでわかったの?」
「そうしか見えねぇじゃん?」
「そっか。凱くんは鋭いな。昨夜、そう思うって言ったのに……將梧は全然信じなくて」
「やっと信じたとこ。どっちも相手のことに鈍いからねー」
「そうなの! しかも二人とも恋愛にオクテだから、きっかけがないと進まなそうだし」
「沙羅ちゃんは進んでほしいの?」
「せっかく両想いなんだから、早くハッピーになってほしい。見てるこっちがじれったくなっちゃう」
俺をチラリと見て、沙羅が溜息をつく。
「つき合う自信ないとか言っちゃって。何にでも『はじめて』はあるし、不安なのは当然でしょ? 時間かけて考えても、未知の世界は未知のまま」
「知りたいなら行くしかねぇよな」
「そう。いいこと言うじゃない、凱くん」
惜しみない微笑みを浮かべる沙羅。
凱に絡みたい気分は、もうどこかいったのね。
「特に涼弥は、將梧がハッキリ言わない限り絶対気づかないわ。教えてあげる人がいないと……」
「言うなよ。ほんとにそれだけは、頼むから」
かなり本気で懇願する。
「今じゃなくても、どうしても伝えたいことは伝えるって……あいつ、言ってたじゃん。俺もそうするはずって。その通りだから」
沙羅の眉間に微かな皺が寄る。
「聞いてたの?」
「すぐそこで話されたら聞こえるだろ。とにかく、自分のタイミングで言うからさ。急かさないで」
「いつ来るのよ、そのタイミング。つき合ってみなきゃわからないのに」
「もう少し……」
男が平気か試してからね、とは言えない。
「心構えが出来た時。それまで見守ってて。あたたかく」
俺を見る沙羅の表情はやさし気で。俺のハッピーを願ってくれてるのは本当だ。
だけども。
そのために俺が凱と……ってのは、沙羅の理解の範疇か?
御坂の女癖の悪さに傷ついて。
恋愛関係において、浮気しないことがかなり重要な沙羅の価値観で。
涼弥が好きなのに凱とアレコレするって知ったら、反対されそうだよな。
深音の時と同じ。二人とも何考えてるの?ってさ。
涼弥とはまだつき合ってないから浮気じゃないし。
何度もする予定はないし。
理由を話せばわかってくれるかもしれない……けど。
沙羅も涼弥と友達で、会えば話す間柄。
セックスを試すことが内緒なのはもちろん、俺と凱があやしい……なんて思われないようにしないと。
「心構え……ね。それを相談してたの? わざわざうちに来て?」
あー沙羅の瞳がイキイキ輝いてる。
やっぱりあやしんでるのか……!?
昼休みと同様に。
発する声を防ぐための手が、俺の口を塞いだ。その手の主と俺が呼ぼうとした名前が、今回は逆で。
そして、俺の心拍数は平常値のまま。
「送ってくれてありがとう。寄ってく? 將梧もいると思うし」
「いや。今日はやめておく」
「さっきも言ったけど……ほんとに將梧に聞かなくていいの?」
「ああ」
「私だったら嫌だな。自分のこと勝手にこうだって思われて、勝手に自己完結されてたら。涼弥はかまわないんだ」
「誤解されたくなけりゃ、どうしても伝えたいことは伝える。今じゃなくてもな。將梧も……そうしてくれるはずだ」
「だといいけど……そうね。わかった」
「じゃあ、また」
「うん。今度遊びに来て」
沙羅と涼弥の話し声が止んでほどなくして。入り口に沙羅が現れ、玄関に向かってくる。
俺の口を塞いだ凱の手は、息を詰めて二人の会話を聞いてる間に外されて。今は自由に声が出せる。
ちょっと迷ってから声をかけようとしたら、先に沙羅が俺たちに気づいた。
一瞬見開いた目を細めて、こっちに来て足を止めた沙羅の第一声は。
「こんな暗がりで、いけないことでもしてるの?」
これだ。
「何でわざわざ外でするんだよ。誰もいない家の中に部屋あるのに。ていうか、しないだろ普通。友達と」
嘘じゃない。これはほんとだよね?
現時点では。
「沙羅ちゃんは、外でやんのが好きなの?」
凱の軽口に、沙羅が口元だけをほころばせる。
「いいえ。星空の下もロマンチックだけど。完全防音仕様で、SMプレイ設備のある部屋のほうが好き」
「いーねー楽しそう。けど俺、SMは好きじゃねぇな」
「私も嫌い」
「声出す女は好きだぜ。外は近所迷惑になるから抑えろよ?」
「凱くんこそ。男とやる時は、あんあん喘ぎまくってるんでしょ? 聞けなくて残念」
「おい」
堪らず、制止の声をかける。
何故、コイツらはエロい嫌味の応酬を始めるのか。
ろくに知らない同士なのに、息合ってるし。
「二人ともやめろ」
沙羅の視線が俺に移る。
「ほんとは何してたの?」
「俺の恋愛相談だよ。それより、沙羅。何で涼弥と?」
「駅でバッタリ。暗くて危ないから家まで送るって言われて、何か話あるのかなって思ったから一緒に来たの」
ベンチの横にあったプラスチック製のイスを俺たちの向かい側に持ってきて、沙羅が腰を下ろした。
「涼弥、何だって?」
「將梧には内緒にしてほしいって、頼まれてるから」
フフンってあやしく光る瞳で見つめてくる沙羅。
「昨夜の、將梧の気持ちもちゃんと黙ってたわ。すっごく言いたくなったけど。グッと堪えたのよ」
「あーそれは、ありがとな。お前のこと信用してる」
「涼弥にも信用されてるから言わない」
う。それは正しい……けどさ。
俺のことも、信用してくれてるよね?
沙羅が俺に話したって涼弥に言わないから!
なんて。
秘密って、こうやって縛り口緩んで漏れてくんだろうな。
「わかった」
とりあえず、今は諦めとこう。
「でも、俺の話してたんだろ? 言いたいの堪えたって……何話しててバラしたくなったんだよ」
沙羅が凱を見やる。
「凱は俺の気持ち知ってるから。涼弥のもな。勘と洞察力で」
「何それ」
「將梧のこと好きなんだろ、あいつ」
唇の端を片側だけ上げる凱の笑み。
「もう知ってるから内緒じゃねぇな」
「なんでわかったの?」
「そうしか見えねぇじゃん?」
「そっか。凱くんは鋭いな。昨夜、そう思うって言ったのに……將梧は全然信じなくて」
「やっと信じたとこ。どっちも相手のことに鈍いからねー」
「そうなの! しかも二人とも恋愛にオクテだから、きっかけがないと進まなそうだし」
「沙羅ちゃんは進んでほしいの?」
「せっかく両想いなんだから、早くハッピーになってほしい。見てるこっちがじれったくなっちゃう」
俺をチラリと見て、沙羅が溜息をつく。
「つき合う自信ないとか言っちゃって。何にでも『はじめて』はあるし、不安なのは当然でしょ? 時間かけて考えても、未知の世界は未知のまま」
「知りたいなら行くしかねぇよな」
「そう。いいこと言うじゃない、凱くん」
惜しみない微笑みを浮かべる沙羅。
凱に絡みたい気分は、もうどこかいったのね。
「特に涼弥は、將梧がハッキリ言わない限り絶対気づかないわ。教えてあげる人がいないと……」
「言うなよ。ほんとにそれだけは、頼むから」
かなり本気で懇願する。
「今じゃなくても、どうしても伝えたいことは伝えるって……あいつ、言ってたじゃん。俺もそうするはずって。その通りだから」
沙羅の眉間に微かな皺が寄る。
「聞いてたの?」
「すぐそこで話されたら聞こえるだろ。とにかく、自分のタイミングで言うからさ。急かさないで」
「いつ来るのよ、そのタイミング。つき合ってみなきゃわからないのに」
「もう少し……」
男が平気か試してからね、とは言えない。
「心構えが出来た時。それまで見守ってて。あたたかく」
俺を見る沙羅の表情はやさし気で。俺のハッピーを願ってくれてるのは本当だ。
だけども。
そのために俺が凱と……ってのは、沙羅の理解の範疇か?
御坂の女癖の悪さに傷ついて。
恋愛関係において、浮気しないことがかなり重要な沙羅の価値観で。
涼弥が好きなのに凱とアレコレするって知ったら、反対されそうだよな。
深音の時と同じ。二人とも何考えてるの?ってさ。
涼弥とはまだつき合ってないから浮気じゃないし。
何度もする予定はないし。
理由を話せばわかってくれるかもしれない……けど。
沙羅も涼弥と友達で、会えば話す間柄。
セックスを試すことが内緒なのはもちろん、俺と凱があやしい……なんて思われないようにしないと。
「心構え……ね。それを相談してたの? わざわざうちに来て?」
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やっぱりあやしんでるのか……!?
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