上 下
35 / 246

14-2 厄介な気持ち

しおりを挟む
「気になったか?」

 問われて、前に向けてた視線を涼弥に移す。

「藤宮が、俺に何の用があったのかって」

 それは……正直気になった。
 あの時点ではまだ、自分の気持ちをシッカリと自覚してなかったけども。

「まぁ……な。和沙のことカッコイイ女だって思ったし。涼弥に一目惚れして告るのかもって。お前と……お似合いだと思ったりもしたよ」

「お似合い、か。お前がそう思うなら、つき合ってみるかな」

「は……!? え? マジで和沙と……!?」

 驚きとショックで、動揺を隠す余裕なんかなく。

「和沙からそんな話出たのか? お前のほうから?」

 ちょっとためらいを見せたあと、涼弥が口を開く。

「藤宮に頼まれた。彼氏のフリしてほしい場面があるから、少しの間形だけつき合ってほしいってな。惚れたとかじゃない。便宜上そうしたいってだけだ」

 形だけって、便宜上って……俺と深音みおの偽装交際とは違うよな?
 ハッキリ言うと、気持ちがないだけじゃなく実践もしないってこと……だよな?
 でも……。

「一緒にいたら、お互い本気になるかもしれないじゃん?」

 多大な努力で微笑む俺に、涼弥が真剣な眼差しを向ける。

將梧そうごは……そうなってほしいか?」



 ほしくねーよ!



 なんて、今の俺には言えない。
 かといって、ほしいなんて……もっと言えない。
 自分は彼女がいるくせに、何自己中な考えしてんだ俺。



 僅かに眉を寄せながらも、頑張って口元に笑みを残した。

「お前の恋愛、俺が口出すことじゃないだろ。涼弥が好きな相手とつき合うなら……よかったなって思うけどさ」

「俺の好きな相手……か。それが出来れば一番だな」

 溜息まじりの涼弥の言葉に、俺はつい口にしそうになった。



『お前、好きな人いるの?』って。



 聞いちゃダメだ……まだ。今は。
 涼弥の答えがイエスだと、自分の挙動がおかしくなる1分先の未来が見えるからな。

 だってさ。
 いるって言われたら、誰だよって聞くじゃん?
 それが自分じゃなかったら、単純にへこむ。もしかしたら俺かもって期待し始めちゃってた分、よけいに落ち込むね。
 で、俺の気持ちが涼弥にバレたら……気マズさマックスでいたたまれない。たぶん、猛ダッシュでこの場から逃げる。



 そして、自分だった場合。
 きっと言っちゃうよ、俺もお前が好きだ……って。
 その先に自信がないのに、その先をどうしたって考えちゃって。ギクシャクして変な生き物になるね。

 一番の不安は。
 自分が、御坂みたいに男は無理な可能性がゼロじゃないこと。
 好き同士でつき合って、でも性的に受けつけなくて別れたら……きっと、友達としての仲も終わる。
 そう思うとゾッとする。



 涼弥を完全に失くすなんて嫌だよ。絶対にごめんだ。友達のままのほうがマシ。



 だから、グッと堪えて足を動かし続けた。
 期待と不安が共存する思いを、悟られないように。



「將梧。今度、うち来いよ」

 購買に向かう俺との別れ際、階段下で涼弥が言った。

「時間が合う時に、たまには……遊ぼう。勉強でもいいが」

「う……ん。そうだな。また、前みたいに一緒に……」

 だくしはしたけど言葉に詰まる。



 何……で今それ?

 俺をさり気なく避けてたの、お前のほうじゃん!?
 春のあの時……レイプされそうになった俺を間一髪で助けてくれた時から。
 お互いに気マズいのはわかるけど、俺は普通にしてたつもりなのに。

 で、どうして急にそうなる?
 わだかまりっていうか……俺たちの間に出来た溝埋める要素、この3、40分の間にあったか? 俺は見当たらなかったけど?

 前みたいには……自分で言っといてアレだけど、無理だな。もう普通の感覚なんかわからない。
 涼弥は出来るのか。普通に俺と友達づき合い。遊んだり勉強したり。

 あ。ちょっぴりへこんだ。



「じゃあ、またな。気が向いたら連絡してくれ」

「うん。じゃ、また……」

 階段を駆け上がる涼弥を見送ってから、大きく溜息をついた。



 誰かを好きって気持ち、自覚しちゃうと……厄介なもんなんだな。
 だからって、キャンセル出来ないし。

 あー!

 心の中で大声を出し、せめて足取りは軽くいこうと先を急いだ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三限目の国語

理科準備室
BL
昭和の4年生の男の子の「ぼく」は学校で授業中にうんこしたくなります。学校の授業中にこれまで入学以来これまで無事に家までガマンできたのですが、今回ばかりはまだ4限目の国語の授業で、給食もあるのでもう家までガマンできそうもなく、「ぼく」は授業をこっそり抜け出して初めての学校のトイレでうんこすることを決意します。でも初めての学校でのうんこは不安がいっぱい・・・それを一つ一つ乗り越えていてうんこするまでの姿を描いていきます。「けしごむ」さんからいただいたイラスト入り。

いろいろ疲れちゃった高校生の話

こじらせた処女
BL
父親が逮捕されて親が居なくなった高校生がとあるゲイカップルの養子に入るけれど、複雑な感情が渦巻いて、うまくできない話

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い

papporopueeee
BL
契約社員として働いている川崎 翠(かわさき あきら)。 派遣先の上司からミドリと呼ばれている彼は、ある日オカマバーへと連れていかれる。 そこで出会ったのは可憐な容姿を持つ少年ツキ。 無垢な少女然としたツキに惹かれるミドリであったが、 女性との性経験の無いままにツキに入れ込んでいいものか苦悩する。 一方、ツキは性欲の赴くままにアキラへとアプローチをかけるのだった。

処理中です...