上 下
31 / 246

13-2 ドキドキは自然現象で

しおりを挟む
將梧そうご

 落胆しつつ足を速める俺の腕を掴み、御坂が自分の口に指をあてる。
 頷いて、足音を忍ばせてドアの前まで近づいた。



「何度も言ってるでしょう。僕はあなたとつき合う気はありません」

「俺のどこが気に入らないのか、何が不満で何が足りないのか教えてくれ」

「興味がないんです。あなたが素晴らしい人間かどうかは関係ない」

「だから、俺を知ってほしいんだよ。試しに1ヶ月間つき合ってみて、興味が湧かないなら諦める。友達以上のことはしない」

「下心のある男のそばにいるほど、僕がバカに見えますか」



 目を合わせた御坂と、ドアの前からそっと離れる。

「アタリでよかったな」

 リラックスした表情で御坂が息をついた。

「痴話ゲンカっていうか、鈴屋が斉木をフッてるだけだね。安心した」

「このまま終わればいいけど……ほかの二人とかいも中にいるかな? 涼弥はいないし」

「もう少し聞くか、ドアんとこから覗いてみるか……」

 部室のドアは、美術室と同じように上部にガラス面がある。

「中見てみるよ。かいもここにいれば、とりあえず様子見でいこう」

 ドアの下に戻り、横から少しずつ室内が見えるところまで顔を出す。



 天文部の部室は思ったよりゴチャゴチャしてなくて、スッキリと片づいてる。
 中ほどに6つくっつけて置かれた業務机みたいなテーブルがあって、その周りにパイプイスが並んでて。そこに向き合う格好で鈴屋と斉木が座り、はじっこで水本がケータイをいじってるのが見えた。

 凱と江藤は……いた。
 ドアから斜め向こう側の窓の近くで、二人並んで立ち話をしてる。何やら楽し気に笑いながら。
 そして。
 窓の端に俺と同じように僅かに覗かせる顔がある……涼弥だ。



「凱もいる。江藤と水本も。あと、窓の外に涼弥がいた」

 ドアから離れて御坂に伝える。

「何かあったら援護するとして。凱は江藤と普通に笑って話してるから、とりあえずは大丈夫そうだな」

「そうか。昼休み中ここにいるわけないし、あいつら出てくるまで一応待っとく?」

「お前はここで様子見てて。俺、涼弥のとこ行ってくる。もし中がマズいことになったら、その時は……」

「わかった。臨機応変で」

 御坂を残し、廊下のすぐ先にある非常口に向かった。



 ドアの鍵が開いてるってことは、涼弥もここから外に出たんだろう。万一の時は、窓からのほうがアクションを起こしやすいと思ったのか。

 校舎を回ると、部室の窓の横に張りつくように立つ人影がひとつ。
 静かに近づいて肩を叩くか迷う前に、涼弥が振り返る。

「將梧。何しに来た?」

 窓から少し離れ、涼弥が俺を見下ろして言った。

「鈴屋と凱が心配で。お前は?」

「俺も……水本の野郎が一緒だって聞いたしな」

「中の様子は? ドアの前で、斉木がしつこく鈴屋に言い寄ってるの聞いたけど」

「ああ。鈴屋はいい度胸してる。これ以上つきまとわれないように、ここでキッパリ断るつもりだ」

 さっきまで涼弥がいた場所から中をうかがう。
 5人の位置は変わってない。
 そして、ここからは凱と江藤の声も聞こえた。やけにハッキリと聞こえると思ったら、目の前の窓が少し開けられてる。



 やった!
 これなら、助けが要る状況になったらすぐ加勢出来るじゃん……!



 ホッとしたところで、背後に涼弥が来た。

「江藤が凱にちょっかい出してるぞ。マズいヤツに気に入られたな」

 頭のすぐ上で涼弥が囁く。



 近い!



 久々なこの近さに、不本意にも動揺する。
 いや。だってさ。

 恋愛感情あるの自覚しちゃったもんだから、どうしても意識するじゃん?

 恋心なんてものにまだ慣れてなくて。好きなヤツが触れられる距離にいるんだよ? 体温ていうか、出してる波動っていうか……身体の周りにある見えないこの何かも、好きな人間の要素だろ。
 だから、それに反応しちゃうのも道理で。ドキドキしてくるのは自然現象で……。 



 あー落ち着け俺!


 
 平常心平常心。涼弥にとって俺は親友で幼馴染み。それ以上になる可能性があるなら、それ以下もあり得るからな。
 覚悟が決まるまでは、気持ちを悟られないようにすべし。



 涼弥が俺をどう思ってるとしても。今以上に遠い存在になるのは耐えられない。
 失くしたくないんだ。

 だから今は、気づかれたくない……それが、俺の恋の状況をこんがらせることになっても。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いろいろ疲れちゃった高校生の話

こじらせた処女
BL
父親が逮捕されて親が居なくなった高校生がとあるゲイカップルの養子に入るけれど、複雑な感情が渦巻いて、うまくできない話

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い

papporopueeee
BL
契約社員として働いている川崎 翠(かわさき あきら)。 派遣先の上司からミドリと呼ばれている彼は、ある日オカマバーへと連れていかれる。 そこで出会ったのは可憐な容姿を持つ少年ツキ。 無垢な少女然としたツキに惹かれるミドリであったが、 女性との性経験の無いままにツキに入れ込んでいいものか苦悩する。 一方、ツキは性欲の赴くままにアキラへとアプローチをかけるのだった。

【R18】息子とすることになりました♡

みんくす
BL
【完結】イケメン息子×ガタイのいい父親が、オナニーをきっかけにセックスして恋人同士になる話。 近親相姦(息子×父)・ハート喘ぎ・濁点喘ぎあり。 章ごとに話を区切っている、短編シリーズとなっています。 最初から読んでいただけると、分かりやすいかと思います。 攻め:優人(ゆうと) 19歳 父親より小柄なものの、整った顔立ちをしているイケメンで周囲からの人気も高い。 だが父である和志に対して恋心と劣情を抱いているため、そんな周囲のことには興味がない。 受け:和志(かずし) 43歳 学生時代から筋トレが趣味で、ガタイがよく体毛も濃い。 元妻とは15年ほど前に離婚し、それ以来息子の優人と2人暮らし。 pixivにも投稿しています。

少年売買契約

眠りん
BL
 殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。  闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。  性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。 表紙:右京 梓様 ※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。

処理中です...