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5-1 先生に見つかった

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 内鍵をカチャリと解くと、内開きの扉がすぐに開かれた。

「お前らここで何やってんだ?」

 うちの教師一の長身191センチで体格もいい鷲尾わしおに見下ろされると、自分に非がなくても委縮しがちなのに。
 今は非があるからますます臆し気味に……なるな俺!

「お前、2‐Bの早瀬だな。今授業中だぞ。目赤くして、こんな人気のない教室で逢引きか? 校内でさかるのもいい加減にしろよ……ったくどいつもこいつも」

 勝手な判断でまくし立てる鷲尾。



 逢引きなんかしてません!
 俺は誰とも盛ってません!
 目が赤いのは自己解放して泣いてたからです!

 その反論を、かろうじて胸の内にとどめる。
 俺はマジメな委員長、早瀬はやせ將梧そうご
 よしっ!



「すみません。昼食後に友人が腹痛を起こして動けなくなってしまって……保健室に連れて行くべきでしたが、本人が暫く休めば大丈夫と言うので様子を見ていました」

 神妙な顔での冷静な偽の状況説明に。怒る気満々だった鷲尾の表情が半分心配顔に変わり、俺の背後に向けられる。

「おい。大丈夫か?」

 言いながら、鷲尾は大股でかいの前に移動した。

「はい……だいぶ落ち着いたので、もう大丈夫だと思います。僕の都合で早瀬くんに迷惑をかけてしまいました。彼は委員長の責任感から、僕を放って授業に行くことが出来なかっただけです」

 しおらしくうなだれた凱の丁寧な口調は、俺の目をみはらせた。

 僕? 早瀬くん? 彼!?
 何それ、別人じゃん……!
 コイツこんな演技出来るの?
 これならうまくいくかも……。

「お前も2-Bか? 見ない顔だな」

 鷲尾の言葉に、凱が弱々しい笑みを浮かべる。

「はじめまして。今日からこの学園の生徒になりました……柏葉凱です」

「柏葉? てことは……」

 沈黙は深呼吸1回分。

「お前が惺煌せいこうからの転校生か?」

 ほんの一刹那いちせつな
 空気が固まった。
 やっぱり惺煌は地雷原……。

「……はい」

 凱の返事に、鷲尾がフンと鼻を鳴らす。

「あのホモ学園から、何して追い出されて来たんだ?」

「ちょっ先生! 何言ってるんですか……!?」

 俺は思わず声を荒げ、窓際に駆け戻った。
 向かい合う鷲尾と凱の脇に立つ。

 万が一の時には俺が止めないと!
 カッとなった凱が、鷲尾に掴みかかるとか殴りかかるとか頭突きするとか。

「鷲尾先生。他校を蔑称べっしょうで呼び、生徒を誹謗ひぼうする教師のいる学園だと誤解されますよ?」

 俺が先に怒りを表すわけにはいかない。
 今出来るのは、このバカ教師の無礼な発言をサムい悪ふざけとしてスルーすること。
 願わくば、凱の地雷が爆発しませんように……。

 俺にチラリと目をくれたあと、腕を組んで凱を眺める鷲尾。
 自分の挑発に凱が乗ってくるのを待ってるのか? 嫌なヤツだなー。

「平気だよ、早瀬くん。惺煌学園は特殊な校風だし、同性愛者が多いのは事実だから。えっと……鷲尾先生?」

 凱は俺にニコッと微笑むと、控えめな声で鷲尾に話しかける。

「何だ?」

「僕が転校したのは家庭の事情からです。そして、惺煌にいましたが僕はヘテロセクシャルなので、この学園の校風とここでの対処法を早瀬くんに教えてもらっていました」

 少し前屈みになった凱は、上目遣いで鷲尾を見上げている。
 傍からじゃなく演技だってわかって見ても。嘘も後ろ暗さもない、誠実でまっすぐな眼差しで。

「その途中で少し体調が悪くなってしまったんです。これからは気をつけます。すみませんでした」

 この瞳で謝られてさらに嫌味を言ったり小言を重ねられるなら、鷲尾はよっぽど根性がひね曲がってるか……凱の上を行く切れ者か、だな。

 鷲尾が2、3度頷いた。

「まあいいだろう。今日は見逃してやる。早く教室に戻れ」

「ありがとうございます」

 立ち上がった凱がペコリと頭を下げる。

 俺たちは無言で作業台から昼食のゴミを片付け、ブレザーを羽織った。

「ここの鍵よこせ。俺が閉めて出る」

 差し出された鷲尾の手のひらに鍵を落とす。

「お願いします」

 最後に俺も頭を下げて、ドアへと向かう。



 早くこの教室から出たい。
 いつも思うけど、鷲尾に見られるのって心地悪いんだよね。
 何ていうの?
 品定めされてる感?
 全身をスキャンされてる感?
 とにかく、目つきが気に食わない。エロい目つきじゃないの。だから、よけいに。何のために生徒をジロジロ舐めるように見るのかわからなくて、気分よくない。



「柏葉!」

 ドアノブに手をかけた時、一歩後ろにいる凱を鷲尾が呼び止めた。
 凱と同時に俺も振り返る。

「わかってると思うが、ヘテロのままでいたいなら十分気をつけろよ。お前、まんま転校生総受けの印象だからな」

 総受け!?

 俺が心の中で聞き返した言葉を、凱が声に出して聞こうとするのを察した。
 素早く凱の腕を掴み、先に口を開く。

「僕が身の守り方を教えるので心配要りません。失礼します!」



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