136 / 167
136 大丈夫だ:S
しおりを挟む
「これでまだやるなら、マジ救いようねーな」
坂口の言葉に。
「迎えに行こう。もうすぐ終わる」
幸汰が言った。
「やっぱり? リュウさんと友井が博己を止めて終わり……」
「いや」
坂口を遮り、幸汰が首を横に振る。
「博己が清崇を犯して終わりだ」
「え?」
「こんなことを計画して実行したんだ。目的は博己のための復讐……なら、やらせるだろ」
「けど、あんたが言ったじゃん? 傷ついて壊れるのは博己だけ……って」
「そう聞けば、止めようとする。でも、どうしても清崇をやる気の博己を止められないと思う」
「何で……?」
「底まで堕ちたいっていうのは、すでに傷ついてるから。一緒に堕ちるくらい好きなら、友井は博己の望むようにするはず」
「それで壊れちまったら?」
「博己がどうなろうと知ったことじゃない」
幸汰が険しい瞳で口角を上げる。
「清崇と玲史くんを犯すヤツは苦しめばいい。まぁ……博己がレイプだと認めたおかげで、神野たちのやる気も失せただろ」
「……だから終わる、か」
「悪い。遅くなった」
たまきが現れた。
「八代が店のバイトとくっちゃべっててよ。やっと話せたらムカつくヤツで……殴りたいの堪えんの、苦労したぜ」
「ありがとう」
「メッセ見たか? 博己っての、いるぞ」
「ちょうど本人と電話で話したところだ」
「で? どうなった?」
俺たちを見回して尋ねるたまきに。
「何とか終わりになりそうっつうか……」
「今から906号室に行く」
坂口と幸汰が答え。
「俺は行けないから、学園に戻ります」
沢渡が答え、無言の俺を見つめる。
「川北さん。大丈夫ですよね?」
「……ああ」
何についての大丈夫か、わからない。
俺のメンタルか。
玲史に冷たくしないかどうか、か。
つき合ってるのを神野にバレる素振りをしないかどう、か。
沢渡の真意が何だろうと。
大丈夫だ。
俺が大丈夫じゃなけりゃ、ダメだろ。大丈夫でいなけりゃ、玲史のとこに行けないだろ。
「大丈夫じゃなくても大丈夫なフリ、してください。高畑さんのために」
見透かすような瞳で、沢渡が言う。
「あなたが大丈夫だと、高畑さんがラクになるから」
「……わかった」
「沢渡お前、何で自信たっぷりなの。そんなキャラじゃなかったじゃん?」
坂口のコメントに、沢渡が笑みを浮かべる。
「西住が……俺みたいなのでも生きてていいって、思わせてくれたんです」
「はぁ? どうやって?」
「……自分から……キスしてくれた。俺に。世界がまた、変わりました」
半分開けた口を閉じて開けて、坂口が息を吐き。
「よかったな。その世界と西住を大事にして自信持って生きろ。お前も……」
俺を見る。
「自信持てよ。高畑が好きで守りたいなら、お前は大丈夫。それとも、ここで待ってるか?」
待つ……のはもう、ごめんだ。
「玲史を迎えに行く」
「やっと会えるな」
「しけたツラしてねーで、シャンとしろよ」
立ち上がる俺に、幸汰と坂口が倣う。
「沢渡」
ひとつ。聞いておきたい。
「最初に……お前なら何て言う? 玲史が西住だったら」
「俺は西住をこんな目にあわせない」
「……お前が玲史なら、何て言ってほしい?」
「おつかれ」
「は?」
「『おつかれ』って言ってほしいです」
沢渡の瞳は真剣で。
「好きな人にわかってもらえれば、疲れも吹っ飛びます」
「そう、か……ありがとう」
頷いて。
沢渡を除く俺たち4人は、カフェを後にした。
「考えたんだけどさ」
ホテルのエレベーターホールで、坂口が口を開く。
「部屋に入れたとして。2人の状況によっては即退散って、難しいかもじゃん?」
「一刻も早く連れ出したいけど……裸でベタベタのままじゃ、身支度も要るし」
幸汰が続ける。
「これで終わりなのか、しっかり話もつけないとね」
「そう……で、さ。あんたと川北、リュウさんたちの前で2人に会わないほうがいいんじゃねーの?」
「心配しなくても、友達の立場は忘れない。神野を殴ったり清崇を抱きしめたりはしないよ。もちろん、紫道くんもわかってる」
「……大丈夫だ。バカな真似はしない」
幸汰の視線を受け、断言した。
自分への自信はまだ満タンじゃないが、玲史への思いは十分。強く。揺るがない。
やっと終わるって時に邪魔はしない。
折れない。
守る。
玲史のしたことを。しなかったことを。気持ちを。心を。
「心配はあっち、高畑と清崇さん……100パー正気でいるか? 納得して合意の上でも、マワされた直後だぜ。さすがにメンタル削られてんだろ。だから……」
言いにくそうに眉間に皺を寄せる坂口。
「川北と幸汰さん見てホッとしてっつうか、気ぃ緩んでっつうか……うっかり恋人のフリ忘れて素になっちゃわねーかって」
「あり得るな。現場にお前ら来んのが想定外なら」
たまきが同意する。
「部屋から連れ出すのは俺と坂口だけのほうがいい。一発見舞うわけにゃいかねぇのに自分の男やったヤツらと顔合わすのも、キツいだろ」
「俺は……」
真っ先に会いたい。
玲史をほかのヤツに任せたくない。
弱ってるなら、なおさら。
けど。もし。玲史が……。
「それも心配ない」
口ごもる俺に代わり、幸汰がキッパリ。
「清崇も玲史くんも大丈夫だ。俺は清崇を信じてるよ」
「俺も……」
ここまで来て、ほかに何が出来る?
「玲史を信じる」
エレベーターに乗り込んで。目を閉じ息を深く吸って吐く。
開けた目の前で、扉が開いた。
坂口の言葉に。
「迎えに行こう。もうすぐ終わる」
幸汰が言った。
「やっぱり? リュウさんと友井が博己を止めて終わり……」
「いや」
坂口を遮り、幸汰が首を横に振る。
「博己が清崇を犯して終わりだ」
「え?」
「こんなことを計画して実行したんだ。目的は博己のための復讐……なら、やらせるだろ」
「けど、あんたが言ったじゃん? 傷ついて壊れるのは博己だけ……って」
「そう聞けば、止めようとする。でも、どうしても清崇をやる気の博己を止められないと思う」
「何で……?」
「底まで堕ちたいっていうのは、すでに傷ついてるから。一緒に堕ちるくらい好きなら、友井は博己の望むようにするはず」
「それで壊れちまったら?」
「博己がどうなろうと知ったことじゃない」
幸汰が険しい瞳で口角を上げる。
「清崇と玲史くんを犯すヤツは苦しめばいい。まぁ……博己がレイプだと認めたおかげで、神野たちのやる気も失せただろ」
「……だから終わる、か」
「悪い。遅くなった」
たまきが現れた。
「八代が店のバイトとくっちゃべっててよ。やっと話せたらムカつくヤツで……殴りたいの堪えんの、苦労したぜ」
「ありがとう」
「メッセ見たか? 博己っての、いるぞ」
「ちょうど本人と電話で話したところだ」
「で? どうなった?」
俺たちを見回して尋ねるたまきに。
「何とか終わりになりそうっつうか……」
「今から906号室に行く」
坂口と幸汰が答え。
「俺は行けないから、学園に戻ります」
沢渡が答え、無言の俺を見つめる。
「川北さん。大丈夫ですよね?」
「……ああ」
何についての大丈夫か、わからない。
俺のメンタルか。
玲史に冷たくしないかどうか、か。
つき合ってるのを神野にバレる素振りをしないかどう、か。
沢渡の真意が何だろうと。
大丈夫だ。
俺が大丈夫じゃなけりゃ、ダメだろ。大丈夫でいなけりゃ、玲史のとこに行けないだろ。
「大丈夫じゃなくても大丈夫なフリ、してください。高畑さんのために」
見透かすような瞳で、沢渡が言う。
「あなたが大丈夫だと、高畑さんがラクになるから」
「……わかった」
「沢渡お前、何で自信たっぷりなの。そんなキャラじゃなかったじゃん?」
坂口のコメントに、沢渡が笑みを浮かべる。
「西住が……俺みたいなのでも生きてていいって、思わせてくれたんです」
「はぁ? どうやって?」
「……自分から……キスしてくれた。俺に。世界がまた、変わりました」
半分開けた口を閉じて開けて、坂口が息を吐き。
「よかったな。その世界と西住を大事にして自信持って生きろ。お前も……」
俺を見る。
「自信持てよ。高畑が好きで守りたいなら、お前は大丈夫。それとも、ここで待ってるか?」
待つ……のはもう、ごめんだ。
「玲史を迎えに行く」
「やっと会えるな」
「しけたツラしてねーで、シャンとしろよ」
立ち上がる俺に、幸汰と坂口が倣う。
「沢渡」
ひとつ。聞いておきたい。
「最初に……お前なら何て言う? 玲史が西住だったら」
「俺は西住をこんな目にあわせない」
「……お前が玲史なら、何て言ってほしい?」
「おつかれ」
「は?」
「『おつかれ』って言ってほしいです」
沢渡の瞳は真剣で。
「好きな人にわかってもらえれば、疲れも吹っ飛びます」
「そう、か……ありがとう」
頷いて。
沢渡を除く俺たち4人は、カフェを後にした。
「考えたんだけどさ」
ホテルのエレベーターホールで、坂口が口を開く。
「部屋に入れたとして。2人の状況によっては即退散って、難しいかもじゃん?」
「一刻も早く連れ出したいけど……裸でベタベタのままじゃ、身支度も要るし」
幸汰が続ける。
「これで終わりなのか、しっかり話もつけないとね」
「そう……で、さ。あんたと川北、リュウさんたちの前で2人に会わないほうがいいんじゃねーの?」
「心配しなくても、友達の立場は忘れない。神野を殴ったり清崇を抱きしめたりはしないよ。もちろん、紫道くんもわかってる」
「……大丈夫だ。バカな真似はしない」
幸汰の視線を受け、断言した。
自分への自信はまだ満タンじゃないが、玲史への思いは十分。強く。揺るがない。
やっと終わるって時に邪魔はしない。
折れない。
守る。
玲史のしたことを。しなかったことを。気持ちを。心を。
「心配はあっち、高畑と清崇さん……100パー正気でいるか? 納得して合意の上でも、マワされた直後だぜ。さすがにメンタル削られてんだろ。だから……」
言いにくそうに眉間に皺を寄せる坂口。
「川北と幸汰さん見てホッとしてっつうか、気ぃ緩んでっつうか……うっかり恋人のフリ忘れて素になっちゃわねーかって」
「あり得るな。現場にお前ら来んのが想定外なら」
たまきが同意する。
「部屋から連れ出すのは俺と坂口だけのほうがいい。一発見舞うわけにゃいかねぇのに自分の男やったヤツらと顔合わすのも、キツいだろ」
「俺は……」
真っ先に会いたい。
玲史をほかのヤツに任せたくない。
弱ってるなら、なおさら。
けど。もし。玲史が……。
「それも心配ない」
口ごもる俺に代わり、幸汰がキッパリ。
「清崇も玲史くんも大丈夫だ。俺は清崇を信じてるよ」
「俺も……」
ここまで来て、ほかに何が出来る?
「玲史を信じる」
エレベーターに乗り込んで。目を閉じ息を深く吸って吐く。
開けた目の前で、扉が開いた。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾り契約でしたが、契約更新には至らないようです
BBやっこ
恋愛
「分かれてくれ!」土下座せんばかりの勢いの旦那様。
その横には、メイドとして支えていた女性がいいます。お手をつけたという事ですか。
残念ながら、契約違反ですね。所定の手続きにより金銭の要求。
あ、早急に引っ越しますので。あとはご依頼主様からお聞きください。
婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?
初瀬 叶
恋愛
私の名前はエリン・ストーン。良くいる伯爵令嬢だ。婚約者であるハロルド・パトリック伯爵令息との結婚を約一年後に控えたある日、父が病に倒れてしまった。
今、頼れるのは婚約者であるハロルドの筈なのに、彼は優雅に微笑むだけ。
優しい彼が大好きだけど、何だか……徐々に雲行きが怪しくなって……。
※ 私の頭の中の異世界のお話です
※ 相変わらずのゆるふわ設定です。R15は保険です
※ 史実等には則っておりません。ご了承下さい
※レナードの兄の名をハリソンへと変更いたしました。既に読んで下さった皆様、申し訳ありません
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
月読-つくよみ-
風見鶏ーKazamidoriー
BL
月読を継いだアキラには九郎という共に生きるものがいた。しかし、成長するにつれて複雑になっていく人間関係と周囲の環境。アキラは翻弄され、周囲の男達もまた翻弄される。アキラと九郎の2人はどのように乗りこえて行くのか!?
御山へすむ神と妖と人が織りなす物語。
登場人物があらかた体格の良い男ばかりです。妖とバトルあり、修行あり、エロありの物語。
怪我や血の表現もありますので、苦手な方は注意して下さい。爽やかではないギャグ要素も出てきます。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
レイプなどモラルに反した描写もありますが、決して推奨しておりません。
ムーンライトノベルズにも掲載してます。
ⓒ2023 kazamidori 盗用・無断転載は禁止しています。
コブ付き女サヨナラと婚約破棄された占い聖女ですが、唐突に現れた一途王子に溺愛されて結果オーライです!
松ノ木るな
恋愛
ある城下町で、聖女リィナは占い師を生業としながら、捨て子だった娘ルゥと穏やかに暮らしていた。
ある時、傲慢な国の第ニ王子に、聖女の物珍しさから妻になれと召し上げられ、その半年後、子持ちを理由に婚約破棄、王宮から追放される。
追放? いや、解放だ。やったー! といった頃。
自室で見知らぬ男がルゥと積み木遊びをしている……。
変質者!? 泥棒!? でもよく見ると、その男、とっても上質な衣裳に身を包む、とってもステキな青年だったのです。そんな男性が口をひらけば「結婚しよう!」??
……私はあなたが分かりません!
【読み切り版】婚約破棄された先で助けたお爺さんが、実はエルフの国の王子様で死ぬほど溺愛される
卯月 三日
恋愛
公爵家に生まれたアンフェリカは、政略結婚で王太子との婚約者となる。しかし、アンフェリカの持っているスキルは、「種(たね)の保護」という訳の分からないものだった。
それに不満を持っていた王太子は、彼女に婚約破棄を告げる。
王太子に捨てられた主人公は、辺境に飛ばされ、傷心のまま一人街をさまよっていた。そこで出会ったのは、一人の老人。
老人を励ました主人公だったが、実はその老人は人間の世界にやってきたエルフの国の王子だった。彼は、彼女の心の美しさに感動し恋に落ちる。
そして、エルフの国に二人で向かったのだが、彼女の持つスキルの真の力に気付き、エルフの国が救われることになる物語。
読み切り作品です。
いくつかあげている中から、反応のよかったものを連載します!
どうか、感想、評価をよろしくお願いします!
【18禁版】この世の果て
409号室
BL
昼メロチックな読み出したら止まらないジェットコースター18禁BL作品。
その復讐は行われるーー美しくも凄惨に。
日本有数の大企業・雪花コーポレーションの若き青年社長・雪花海杜は、元々はピアニストを目指しながらも、父の意向で後継者になった過去を持ち、自らの生き方に微かな疑問を抱き始めていた。
まだ学生時代、父の秘書としてある小さな町工場を訪れた海杜は、そこで信じられない光景を目にする。
融資を願い出る夫婦を冷酷にあしらう父の姿にショックを受けながら、そこを後にする瞬間、感じた視線。
それは、その夫婦の幼い息子の瞳だった。
彼はそれ以来、毎晩、その時、自分を刺すような目で見つめてた少年の夢でうなされていた。
そんな彼の右腕としてサポートする美貌の秘書・咲沼英葵。
実は彼こそ、海杜をはじめとした、雪花一族に復讐を誓うあの少年の成長した姿であった。
英葵は亡き両親の無念を晴らす為、雪花コーポレーションに入り込んでいた。
何も知らずに友情を深め合う、同級生の英葵の妹・美麻と海杜の妹・菊珂。
海杜に許されぬ愛を抱く、若く美しい義母・里香。
年の離れた海杜の弟で、里香の息子・夕貴。
海杜の従兄弟で、副社長を務め、形勢逆転を狙う野心的な更科恭兵。
飽和状態にまで張り詰めた彼らに突然降りかかる災厄。
それを期に、運命の歯車は静かに回り出す。
美しく、そして凄惨に。
イラスト:聖る様
ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。
濃子
BL
異世界に召喚され、世界に起こる災害、魔蝕(ましょく)を浄化することになった聖女ルート(男)と、その護衛の王子アレクセイとの恋物語です。
基本はギャグファンタジーなBLです。
ルートと一緒に異世界に転移したクラスメイト(双子の葛城姉弟、剣道部の東堂、不思議女子町子、クラス1の美人花蓮)達の、葛藤や成長の物語でもあります。
最初は勢いで、結婚することをオッケーをしてしまったルートですが、アレクセイの優しさにふれ、少しだったり突然だったり、困難を乗り越えながら二人の距離が縮まっていきます。
第一部の終わりに結婚した二人ですが、第二部では仲間の環境、国外の問題に向き合いながら、結婚生活を楽しんでいます。
タイトルの後ろに♡があるときは、ラブな展開があります。☆があるときは、ちょっとエッチな展開があります。
よろしければお目をとめてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる