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136 大丈夫だ:S

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「これでまだやるなら、マジ救いようねーな」

 坂口の言葉に。

「迎えに行こう。もうすぐ終わる」

 幸汰こうたが言った。

「やっぱり? リュウさんと友井が博己ひろきを止めて終わり……」

「いや」

 坂口を遮り、幸汰が首を横に振る。

「博己が清崇きよたかを犯して終わりだ」

「え?」

「こんなことを計画して実行したんだ。目的は博己のための復讐……なら、やらせるだろ」

「けど、あんたが言ったじゃん? 傷ついて壊れるのは博己だけ……って」

「そう聞けば、止めようとする。でも、どうしても清崇をやる気の博己を止められないと思う」

「何で……?」

「底まで堕ちたいっていうのは、すでに傷ついてるから。一緒に堕ちるくらい好きなら、友井は博己の望むようにするはず」

「それで壊れちまったら?」

「博己がどうなろうと知ったことじゃない」

 幸汰が険しい瞳で口角を上げる。

「清崇と玲史くんを犯すヤツは苦しめばいい。まぁ……博己がレイプだと認めたおかげで、神野たちのやる気も失せただろ」

「……だから終わる、か」

「悪い。遅くなった」

 たまきが現れた。

「八代が店のバイトとくっちゃべっててよ。やっと話せたらムカつくヤツで……殴りたいの堪えんの、苦労したぜ」

「ありがとう」

「メッセ見たか? 博己っての、いるぞ」

「ちょうど本人と電話で話したところだ」

「で? どうなった?」

 俺たちを見回して尋ねるたまきに。

「何とか終わりになりそうっつうか……」

「今から906号室に行く」

 坂口と幸汰が答え。

「俺は行けないから、学園に戻ります」

 沢渡さわたりが答え、無言の俺を見つめる。

「川北さん。大丈夫ですよね?」

「……ああ」



 何についての大丈夫か、わからない。
 俺のメンタルか。
 玲史に冷たくしないかどうか、か。
 つき合ってるのを神野にバレる素振りをしないかどう、か。
 沢渡の真意が何だろうと。

 大丈夫だ。
 俺が大丈夫じゃなけりゃ、ダメだろ。大丈夫でいなけりゃ、玲史のとこに行けないだろ。



「大丈夫じゃなくても大丈夫なフリ、してください。高畑さんのために」

 見透かすような瞳で、沢渡が言う。

「あなたが大丈夫だと、高畑さんがラクになるから」

「……わかった」

「沢渡お前、何で自信たっぷりなの。そんなキャラじゃなかったじゃん?」

 坂口のコメントに、沢渡が笑みを浮かべる。

西住にしずみが……俺みたいなのでも生きてていいって、思わせてくれたんです」

「はぁ? どうやって?」

「……自分から……キスしてくれた。俺に。世界がまた、変わりました」

 半分開けた口を閉じて開けて、坂口が息を吐き。

「よかったな。その世界と西住を大事にして自信持って生きろ。お前も……」

 俺を見る。

「自信持てよ。高畑が好きで守りたいなら、お前は大丈夫。それとも、ここで待ってるか?」

 待つ……のはもう、ごめんだ。

「玲史を迎えに行く」

「やっと会えるな」

「しけたツラしてねーで、シャンとしろよ」

 立ち上がる俺に、幸汰と坂口が倣う。

「沢渡」

 ひとつ。聞いておきたい。

「最初に……お前なら何て言う? 玲史が西住だったら」

「俺は西住をこんな目にあわせない」

「……お前が玲史なら、何て言ってほしい?」

「おつかれ」

「は?」

「『おつかれ』って言ってほしいです」

 沢渡の瞳は真剣で。

「好きな人にわかってもらえれば、疲れも吹っ飛びます」

「そう、か……ありがとう」

 頷いて。
 沢渡を除く俺たち4人は、カフェを後にした。



「考えたんだけどさ」

 ホテルのエレベーターホールで、坂口が口を開く。

「部屋に入れたとして。2人の状況によっては即退散って、難しいかもじゃん?」

「一刻も早く連れ出したいけど……裸でベタベタのままじゃ、身支度も要るし」

 幸汰が続ける。

「これで終わりなのか、しっかり話もつけないとね」

「そう……で、さ。あんたと川北、リュウさんたちの前で2人に会わないほうがいいんじゃねーの?」

「心配しなくても、友達の立場は忘れない。神野を殴ったり清崇を抱きしめたりはしないよ。もちろん、紫道しのみちくんもわかってる」

「……大丈夫だ。バカな真似はしない」

 幸汰の視線を受け、断言した。



 自分への自信はまだ満タンじゃないが、玲史への思いは十分。強く。揺るがない。
 やっと終わるって時に邪魔はしない。
 折れない。

 守る。
 玲史のしたことを。しなかったことを。気持ちを。心を。



「心配はあっち、高畑と清崇さん……100パー正気でいるか? 納得して合意の上でも、マワされた直後だぜ。さすがにメンタル削られてんだろ。だから……」

 言いにくそうに眉間に皺を寄せる坂口。

「川北と幸汰さん見てホッとしてっつうか、気ぃ緩んでっつうか……うっかり恋人のフリ忘れて素になっちゃわねーかって」

「あり得るな。現場にお前ら来んのが想定外なら」

 たまきが同意する。

「部屋から連れ出すのは俺と坂口だけのほうがいい。一発見舞うわけにゃいかねぇのに自分の男やったヤツらと顔合わすのも、キツいだろ」

「俺は……」

 真っ先に会いたい。
 玲史をほかのヤツに任せたくない。
 弱ってるなら、なおさら。
 けど。もし。玲史が……。

「それも心配ない」

 口ごもる俺に代わり、幸汰がキッパリ。

「清崇も玲史くんも大丈夫だ。俺は清崇を信じてるよ」

「俺も……」

 ここまで来て、ほかに何が出来る?

「玲史を信じる」



 エレベーターに乗り込んで。目を閉じ息を深く吸って吐く。
 開けた目の前で、扉が開いた。



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