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031 甘い、毒みたいだ:S

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「座って。じゃないと届かない」

 言われた通り、壁を背に腰を下ろすと。脚の間に玲史が膝立ちで入ってきた。

「これでちょうどいい高さ」

 笑みを浮かべる玲史の瞳は、もう透明じゃない。陽も落ちかけて、建物の陰にいるせいか。しっとり光ってる。

「いいの? 逃げるなら今だよ」

「逃げる必要ないだろ。たかが……キスくらいで」

 実際、今ここで犯されるわけじゃない。唇をくっつけて舌を入れられるだけ、だ……皮膚がゾワッとした。

 あの時の嫌悪感が蘇る。



 落ち着け……!
 玲史だ……康志じゃない……俺の、意思だ……。



「康志の呪縛、解いてあげる……」

 さっきの言葉をもう一度、耳元で玲史が囁く。

「きみは動かさないで。手も脚も、顔も目も。口も舌も」

 目の前に、玲史の瞳。
 唇をペロリと舐められ、身体がビクつく。

「大丈夫。目、つぶんないで。僕だってわかるまで」

 何言ってる。お前だろ、玲史……ほかの誰かと間違えやしない。ほかのヤツなんか、いない……。

「っ……、ま……ッ……」

 いきなり、熱い舌が唇の隙間に入ってきた。唇の内側を舐め、出ていく。

「歯、食いしばんないで。開けて……そう」

 玲史の舌が俺のに触れて、生き物みたいに動く。
 思わず頭を後ろに引いたが、すぐ壁だった。

「動かないの。嫌なことしないから」

 唇も舌も俺から離し、玲史が笑う。

「れい……」

 再び、舌を入れられた。さっきより深く。俺の舌をゆっくり舐め回し、試すように上顎をつつく。ねっとりと頬の内側を這う玲史の舌の感触に、身体が震える。
 閉じない視界いっぱいに、俺を射る玲史の瞳の欲に……あてられる。

「ちゃんと息して、紫道しのみち。失神したら、僕じゃ運べないでしょ」

「あ……れい、じ……」

「嫌じゃない?」

「ない……」

 そう言ったと同時に、唇をまた塞がれた。
 遠慮なく差し込まれた舌が、口内を舐る。さっきより性急に。俺の舌を捕えて強く吸い、上顎をさらに奥へと這う玲史の舌の動きに頭が痺れてく。



 康志とした時と違う……あたりまえだが、こんなに違う……ことに、とまどう。
 ゾクゾクするコレは気持ち、いいのか……口の中も、こんなに……。



 熱くてやわらかい舌がいなくなり。無意識に閉じてた目を開けた。

「は……ぁ……玲史、俺……」

「感じた? 瞳がとろんてしてる」

 顔が赤くなる、と思った……けど。
 きっとすでに赤い。玲史の熱で、口の中も顔も手も全身が……熱い。

「おいしいよ」

 玲史が俺の頭を撫でる。

「きみも、もう動いていいから。僕のことも食べて……キスはね、お互いを食い合うの」

 ガシッとうなじを掴まれ、下唇に噛みつかれた。

「いッつ……!」

 痛みに声を上げる俺を見る玲史の瞳が甘い。

「舌出して。舐めて、絡めて……来てよ、紫道……ほら」

 両端を上げた唇から、赤く濡れた舌を突き出し。俺のうなじを掴む手に力を入れる玲史。
 言われるまま、目の前の舌を舐める。
 先っちょを。横を。裏を。舐めて、チロチロと舌を這わす。

「はぁ……ッ、ん……」

 玲史の息づかいが切なげで。
 舌を合わせてるだけなのに。たかがキス、なのに……興奮しちまってる。

 垂れそうになった唾液ごと、玲史の舌を口に入れて啜る。絡め合う舌を追い、玲史の口内を舐める。
 やわらかい頬の粘膜も硬い歯列も、上顎もどこもかしこも舐めまくった。その間、玲史の舌も俺を舐り。酔うような快感が、下半身まで行き渡る。



「ッん……は……れ、いじ……んッ……」

 やめねぇと……。
 勃ってんの、バレちまう……。

「ん……ふ……はぁっ……よかっ、た……」

 俺の舌をジュッと吸って、玲史がほんのちょっと唇を離す。

「気持ちよくなった? キスするの、気に入った?」

 聞かなくてもわかってるだろうに、聞かれ。

「うん……お前とするのは、気持ちいい……」

 正直に答え。

「今日はもう……また今度、な……」

 いつの間にか鷲掴んでた玲史のブレザーを引き、自分から唇を重ねた。
 もう1回。玲史の舌を捕えて吸って、舐め返されてから離す。



 名残惜しい……。
 最悪なイメージしかなかったキスを、自分から求める日が来るとは……思わなかった。



 荒く息をつく俺を見て目を細める玲史が……。

「そうだね。ここじゃこの先、出来ないし」

「う、あッ……! れい、やめろ……!」

 俺の股間に手をやった。

「おっきいね……あ、けっこう硬い」

 ズボンの上からちんぽをキュッと握られ、否応なしに反応しちまう。

「く……放せ……ッ」

 掴んで引き剥がそうとした玲史の手が離れる。

「こうなるように、したんだもん。でも……」

 言いながら後ろに下がり、俺の隣に座り直した玲史が微笑む。

「お預けだね」

「……部屋がすぐそこで助かった」

 本音が出た。
 もう、早く抜きたくてたまらない。

「僕も寄らせてって言いたいとこだけど、帰るね」

 その言葉にホッとする。
 このままじゃ。



 ここでオナっってもいいか、くらい……頭がおかしくなっちまってる。
 玲史に見られて。
 また、あの熱い舌を舐めて吸われながらイキたい……なんて、マジでどうかしてきた。

 玲史とのキスは、最悪じゃない。理性を蝕む……甘い、毒みたいだ。



「安心されるとさみしいなぁ。期待されたら揺れるけど。紫道を抱くのは、時間たっぷりある時がいいから。ちゃんと予定してやるの」

「ど……うして」

「時間かけてトロトロにして、何回もイカせて楽しむからに決まってるじゃん。その時は……覚悟してね」

 かわいらしい顔で、舌舐めずりするような眼差しで瞳をギラつかせる玲史に息を飲んだ。



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