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第3話 相談

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リビングで目が覚めた。より正確にいうならリビングにあるソファーベッドの上で。
2人で無理に寝たはずなのに、ベッドにいるのは自分だけだった。少し目をずらすと、床に座り込んで頭を抱えているカズマの姿があった。
そりゃショックだよね。あれだけ言って、「役に立たなかった」んだから。
セックスしたいという感情があるのに、体が反応しないというのはどんな気分だろう。
カーテンの隙間から少しだけ明りが入り、リビングは薄闇のなか。ふと、頭の中に昔見た水槽が思い浮かんだ。手入れされてなくて、真っ黒なカビがはびこった水槽。中に生き物がいるかどうかすらわからない。このリビングはその水槽の中のようだ。
「あのさ、」
カズマがふいに言葉を発した。
「おれたち、別れようか」


「お疲れ~」
「お疲れ~忙しいのに時間ありがとう」
今日は昔からの友人と居酒屋にきた。女性に人気という評判通り店内はおしゃれな感じだ。予約していた個室は適度な大きさで居心地が良い。
友人にカズマのことで相談したいことがあると連絡したところ、すぐに時間を作ってくれた。
席についてまずは飲みものを注文し、一息つく。
「それで今日は彼氏のことで相談あるんだって?なんかひさしぶりだね、さやがカズマ君のこと相談するの。なんかあった?」
「うん、実はこの前別れようって言われちゃった」
友人は動揺したのか運ばれてきたビールをこぼしかけた。
「・・・ちょっといきなり飛ばすじゃない。」
「ごめんごめん」
「一体何があったの?いや、聞くのも無粋か。」
「ん?」
実はさやには悪いんだけど、と前置きして友人は語ってくれた
さやとカズマの関係が友人間で話題になっていることを。
みなカズマの浮気がひどいことに憤っていて、さやが可哀そうだと憐れみ、早く別れてしまえばいいのにと言い合っているらしい。
さやも何となく話題にされていることは察していたので、特に感想はなかった。ただ今日相談相手に選んだのがこの子でよかった、と思った。この友人はカズマの話をしても簡単に別れろと言わない。ゆっくり話を聞いて私の気持ちを尊重した意見をくれる。
「まぁ、そんな訳で色々聞いてはいるんだけど、さやの気持ちを聞きたいかな。」
「うん。あんま気持ちのいい話じゃないんだけど」
さやは話し始めた。生々しいところは省きつつ、彼の浮気の様子とそれに構わない自分の生活の様子を。
大体話し終えたところで、さやは友人の様子を見た。
彼女は話に聞き入っているが、どことなく安心しているようだ。
「話聞いてなんとなく思ったけど、」
「うん」
「さやにはもうカズマ君への気持ちはないの?」
「そんなことないよ」
意外だったようで友人が目を丸くした。確かに自分の普段の彼への対応を聞いたら、別れたがってると思うのも無理はないのかもしれない。
「別れる気はないんだけど、正直態度変える気にもなれないんだ。それでちょっと、どうしようかと思ってね。このままだとまた別れ話になるよね。」
「ちなみに別れようって言われた時はどうしたの?」
「うーん、とりあえず説得して・・・保留、みたいな」
「そっか。うーん」
友人は少し視線をさまよわせて迷った様子だったが、やがて意を決したように前を向いて口を開いた。
「自分の態度を変えたくないなら、カズマ君の気持ちを変えてくしかないよね。一度説得されたということはまだ考えを変える可能性はあるわけだし。
自分の態度はそのままでカズマ君の気持ちを考えた対応・・・うーん、結局譲歩しなさいってことになっちゃうかも」
「そっか・・・うん、ありがとう」
友人はあまりいいアドバイスできなくてごめんと申し訳なさそうに言った。そんなことない、とかぶりを振る。
「助かった。もっとカズマくんの気持ち考えてみるよ。」
「うん、でもさやがどうしたいかが一番だからね。無理はしないで」
そのあとは二人で料理とお酒を楽しんで店を出た。じゃあまた、と別れて帰路につく。電車に乗り、別れを切り出してきた時のカズマの様子を思い返した。

薄闇のリビング。
「おれたち、別れようか」
聞いた時、自分はショック・・・だったのだろうか。あまり覚えていない。ただ、自分の気持ちを伝えなければとだけ思った。
だから言った。
「カズマくん、すき」
カズマの肩がはねてバッとこちらを振り返った。
「すきだよ、ほんとにすき」
彼の瞳孔が開いていく。
「わたしはカズマくんのことすきだよ」
彼は信じられないというように首を振っていた。その動きが徐々に激しくなり、叫ぶ。
「やめろ!これ以上やめてくれ!」
「おまえがおれのことすきなんてそんなわけないだろ、嘘つき。嘘ばっかりだおまえは!」
あぁ。またこうなっちゃった。

電車が自宅の最寄り駅に着く。
彼はどうしているだろう。あの暗い部屋にいるのか。また、憂さ晴らしに出かけているか。
その答えが出るまであと5分。
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