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33 新たなる戦いの序曲
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アンデットの騎兵部隊と距離がとれたとあって、御者台の珠緒も落ち着きを取り戻し、馬の心配を口にする。
「相手が距離を取っている間に、この子たちを少し休ませたいのだけど」
「そうだな、手綱を緩めてやれ。距離もとれたし大丈夫だと思うが、一応油断はするなよ。ここぞとばかりに襲撃を仕掛けてくるかもしれない」
「城下町には入れば、道が狭くなってるから後ろに集中できるわ。それまでは、緊張感を保っていきましょう」
珠緒の警告を受けて、カタリンはお嬢様風に態度を改める。
「カタクラ、わらわは貴族であると同時に武人ですよ。油断などするわけがありません。余計なお世話というものです。ムーナ、水筒と弁当を寄こしなさい」
「早速、油断してるじゃねーか。帯電の法術は使い続けろよ」
「ちゃんと帯電術で馬車の周囲を覆っています。カタクラは心配性ですね。わらわの可愛く美しい顔に傷がついたらと思うと、気が気でないでしょうし。家臣から愛され過ぎるというのも、困りものですね」
「誰が誰を愛し過ぎだって? 馬鹿を言うなよ。そもそも戦闘でつく傷は、勲章みたいなもんだぞ。いくらお前の顔が綺麗だからって、心配なんてするか」
発言してから政信は失策を悟った。
慌てて三人の顔を見る。カタリンは顔を赤らめながら勝者の笑み浮かべ、ムーナは恐れを抱くような顔をして、両手に口を当てている。珠緒は、逮捕された家族を見る親のような顔をしていた。
「ようやく認めましたね。わらわの顔が、世界一美しいと」
「やはりハイレベルなペドフェリアなのですね」
「胸が好きだっていうのは、カモフラージュだったのね。すっかりだまされたわ」
「待て待て待て。勝ち誇るな。怯えるな。優しく頷くな。今は戦闘中だ。集中しろ」
話題を変えようとする政信に、勝ち誇った軍隊のような放胆さで、追撃が行われる。カタリンが悪ガキ風に口調を改めて、口火を切る。
「キレイって、いったすよねぇ」
「言ってましたね。ロリ、じゃない。若々しい外見のカタリンさんに向かって、世界一綺麗で麗しく、高貴であると」
「確かに言ってたっすね。なんなら結婚もしたいとか」
カタリンとムーナが即席でコンビを組んでいた。
二人は、政信の社会的な意味での生命と名誉を奪おうと、多数の嘘と微小な真実の混合物を武器にして、襲い掛かってきた。
ガイコツ兵と落ち武者たちと違い、連携の取れた見事な攻撃だった。
「マサ! 貴方たちそこまでいっていたの? ああ、森の大神よ、お許しください。仲間が若すぎる芽を摘む愚かで醜い存在になってしまいました。彼の穢れた魂を清め給え救い給え」
「タマ待て。森の大神に祈るな。目の前に言われたあからさまな嘘を、疑いもせず信じるんじゃない」
虚ろな目をして、エルフの守り神に祈りを捧げ始めた珠緒を、政信はかつてなく必死に止めた。
「嘘、なの?」
「当然だ。俺は熱心かつ急進的な巨乳派だ。改宗の意思はないし、危険中毒になった登山家でもないのに、そそり立つ壁なんぞに興味を持たない」
「誰がそそり立つ壁っすか。失礼っす」
薄すぎる胸を指刺されたカタリンが、馬車の荷台を叩いて激昂した。
よし、狙い通り。政信は内心ほくそ笑む。これで言い合いに持ち込んで時間を稼げば、後方で土煙をあげる悪霊の騎兵たちが追い付いてくる。戦いに突入すれば有耶無耶だ。
政信が攻撃を受け流したと確信しかけたその瞬間、横槍が入る。
「でも、綺麗と言いましたよね。褒めていましたよね。それは確かでしたよね」
ムーナだった。
「相手が距離を取っている間に、この子たちを少し休ませたいのだけど」
「そうだな、手綱を緩めてやれ。距離もとれたし大丈夫だと思うが、一応油断はするなよ。ここぞとばかりに襲撃を仕掛けてくるかもしれない」
「城下町には入れば、道が狭くなってるから後ろに集中できるわ。それまでは、緊張感を保っていきましょう」
珠緒の警告を受けて、カタリンはお嬢様風に態度を改める。
「カタクラ、わらわは貴族であると同時に武人ですよ。油断などするわけがありません。余計なお世話というものです。ムーナ、水筒と弁当を寄こしなさい」
「早速、油断してるじゃねーか。帯電の法術は使い続けろよ」
「ちゃんと帯電術で馬車の周囲を覆っています。カタクラは心配性ですね。わらわの可愛く美しい顔に傷がついたらと思うと、気が気でないでしょうし。家臣から愛され過ぎるというのも、困りものですね」
「誰が誰を愛し過ぎだって? 馬鹿を言うなよ。そもそも戦闘でつく傷は、勲章みたいなもんだぞ。いくらお前の顔が綺麗だからって、心配なんてするか」
発言してから政信は失策を悟った。
慌てて三人の顔を見る。カタリンは顔を赤らめながら勝者の笑み浮かべ、ムーナは恐れを抱くような顔をして、両手に口を当てている。珠緒は、逮捕された家族を見る親のような顔をしていた。
「ようやく認めましたね。わらわの顔が、世界一美しいと」
「やはりハイレベルなペドフェリアなのですね」
「胸が好きだっていうのは、カモフラージュだったのね。すっかりだまされたわ」
「待て待て待て。勝ち誇るな。怯えるな。優しく頷くな。今は戦闘中だ。集中しろ」
話題を変えようとする政信に、勝ち誇った軍隊のような放胆さで、追撃が行われる。カタリンが悪ガキ風に口調を改めて、口火を切る。
「キレイって、いったすよねぇ」
「言ってましたね。ロリ、じゃない。若々しい外見のカタリンさんに向かって、世界一綺麗で麗しく、高貴であると」
「確かに言ってたっすね。なんなら結婚もしたいとか」
カタリンとムーナが即席でコンビを組んでいた。
二人は、政信の社会的な意味での生命と名誉を奪おうと、多数の嘘と微小な真実の混合物を武器にして、襲い掛かってきた。
ガイコツ兵と落ち武者たちと違い、連携の取れた見事な攻撃だった。
「マサ! 貴方たちそこまでいっていたの? ああ、森の大神よ、お許しください。仲間が若すぎる芽を摘む愚かで醜い存在になってしまいました。彼の穢れた魂を清め給え救い給え」
「タマ待て。森の大神に祈るな。目の前に言われたあからさまな嘘を、疑いもせず信じるんじゃない」
虚ろな目をして、エルフの守り神に祈りを捧げ始めた珠緒を、政信はかつてなく必死に止めた。
「嘘、なの?」
「当然だ。俺は熱心かつ急進的な巨乳派だ。改宗の意思はないし、危険中毒になった登山家でもないのに、そそり立つ壁なんぞに興味を持たない」
「誰がそそり立つ壁っすか。失礼っす」
薄すぎる胸を指刺されたカタリンが、馬車の荷台を叩いて激昂した。
よし、狙い通り。政信は内心ほくそ笑む。これで言い合いに持ち込んで時間を稼げば、後方で土煙をあげる悪霊の騎兵たちが追い付いてくる。戦いに突入すれば有耶無耶だ。
政信が攻撃を受け流したと確信しかけたその瞬間、横槍が入る。
「でも、綺麗と言いましたよね。褒めていましたよね。それは確かでしたよね」
ムーナだった。
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