上 下
34 / 144

33 新たなる戦いの序曲

しおりを挟む
 アンデットの騎兵部隊と距離がとれたとあって、御者台の珠緒も落ち着きを取り戻し、馬の心配を口にする。


「相手が距離を取っている間に、この子たちを少し休ませたいのだけど」


「そうだな、手綱を緩めてやれ。距離もとれたし大丈夫だと思うが、一応油断はするなよ。ここぞとばかりに襲撃を仕掛けてくるかもしれない」


「城下町には入れば、道が狭くなってるから後ろに集中できるわ。それまでは、緊張感を保っていきましょう」


 珠緒の警告を受けて、カタリンはお嬢様風に態度を改める。


「カタクラ、わらわは貴族であると同時に武人ですよ。油断などするわけがありません。余計なお世話というものです。ムーナ、水筒と弁当を寄こしなさい」


「早速、油断してるじゃねーか。帯電の法術は使い続けろよ」


「ちゃんと帯電術で馬車の周囲を覆っています。カタクラは心配性ですね。わらわの可愛く美しい顔に傷がついたらと思うと、気が気でないでしょうし。家臣から愛され過ぎるというのも、困りものですね」


「誰が誰を愛し過ぎだって? 馬鹿を言うなよ。そもそも戦闘でつく傷は、勲章みたいなもんだぞ。いくらお前の顔が綺麗だからって、心配なんてするか」


 発言してから政信は失策を悟った。


 慌てて三人の顔を見る。カタリンは顔を赤らめながら勝者の笑み浮かべ、ムーナは恐れを抱くような顔をして、両手に口を当てている。珠緒は、逮捕された家族を見る親のような顔をしていた。


「ようやく認めましたね。わらわの顔が、世界一美しいと」


「やはりハイレベルなペドフェリアなのですね」


「胸が好きだっていうのは、カモフラージュだったのね。すっかりだまされたわ」


「待て待て待て。勝ち誇るな。怯えるな。優しく頷くな。今は戦闘中だ。集中しろ」


 話題を変えようとする政信に、勝ち誇った軍隊のような放胆さで、追撃が行われる。カタリンが悪ガキ風に口調を改めて、口火を切る。


「キレイって、いったすよねぇ」


「言ってましたね。ロリ、じゃない。若々しい外見のカタリンさんに向かって、世界一綺麗で麗しく、高貴であると」


「確かに言ってたっすね。なんなら結婚もしたいとか」


 カタリンとムーナが即席でコンビを組んでいた。
 二人は、政信の社会的な意味での生命と名誉を奪おうと、多数の嘘と微小な真実の混合物を武器にして、襲い掛かってきた。


 ガイコツ兵と落ち武者たちと違い、連携の取れた見事な攻撃だった。


「マサ! 貴方たちそこまでいっていたの? ああ、森の大神よ、お許しください。仲間が若すぎる芽を摘む愚かで醜い存在になってしまいました。彼の穢れた魂を清め給え救い給え」


「タマ待て。森の大神に祈るな。目の前に言われたあからさまな嘘を、疑いもせず信じるんじゃない」


 虚ろな目をして、エルフの守り神に祈りを捧げ始めた珠緒を、政信はかつてなく必死に止めた。


「嘘、なの?」


「当然だ。俺は熱心かつ急進的な巨乳派だ。改宗の意思はないし、危険中毒になった登山家でもないのに、そそり立つ壁なんぞに興味を持たない」


「誰がそそり立つ壁っすか。失礼っす」


 薄すぎる胸を指刺されたカタリンが、馬車の荷台を叩いて激昂した。


 よし、狙い通り。政信は内心ほくそ笑む。これで言い合いに持ち込んで時間を稼げば、後方で土煙をあげる悪霊の騎兵たちが追い付いてくる。戦いに突入すれば有耶無耶だ。


 政信が攻撃を受け流したと確信しかけたその瞬間、横槍が入る。


「でも、綺麗と言いましたよね。褒めていましたよね。それは確かでしたよね」


 ムーナだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

処理中です...