村の籤屋さん

呉万層

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3:信じる心

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 小銭を握りしめた健太郎が、田舎道を歩きながら、周囲に視線をやる。梅と松の木以外には、畑と雑草ばかりの見慣れた風景が広がっていた。



 面白味などかけらも存在しない景色の中、飽きに心を蝕まれながら、健太郎は家路に就く。その間、頭の中では、百円という成人からすると細やか過ぎる儲けを何に買おうかと、考えを巡らせていた。



 雑貨屋で駄菓子でも買おうか、それとも、帰り道の電灯の下にある自動販売機で、サイダーでも買おうか。



 駄菓子なら、百円以内で済むから黒字かトントン、サイダーなら、五十円の赤字だ。



 ちょっと贅沢をして港へ足を伸ばしてみるのもいいかもしれない。網元が道楽兼漁師の福利厚生として経営している飲み屋兼定食屋で、久しぶりに刺身定食でもたべようか。



 成人した社会人とは思えない、幼稚で下らない発想ばかりが、健太郎の脳名を支配していた。



 しかし、健太郎に羞恥はない。小銭の下らない使い道を思案する試みは、健太郎の密かな楽しみだった。



 更にあれこれと、儲けた小銭の使い道を考えながら、田舎道を、健太郎の人生並みに軽い調子でブラつく。人気のなさを利用して、笑顔を振り撒きながらスキップしたくなるくらいには、健太郎にとって楽しい時間だった。



 健太郎は、ふと呟く。



「いや、趣味の〝つもり貯金〟だ」



 悩んだ末、健太郎は〝つもり貯金〟のために、百円を貯金箱へ投入すると決めた。



 最後に頼れる物は、結局のところ金だ。



 イザという時に備えて、コツコツと貯めておくとしよう。きっと、いずれは使う時が来るはずだ。



 そう、例えば、東京に出るとかに、だ。



 一度も島から出た経験のない健太郎は、外の世界に憧れを持っていた。



 きっと馴染めまいと思っていても、いずれ島を出てみたいと、願っていた。



 そうして初めて、自分にとっての人生が、本当に始まるのだ。



 半ば以上、健太郎は信じていたし、なにより信じたかった。
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