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Chapter7(防砂編)
Chapter7-⑨【め組のひと】後編
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開かれたドアから西陽が差し込む。
そこにシルエットが浮かぶ。
直ぐに誰だか分かった。
「態々、悪かったな。
だが、ここの生活が気に入ってんだ。
コウスケを連れて、帰ってくれ。」
タクヤは影に向かって言う。
もう後戻り出来ない事は自分自身が一番分かっていた。
「なっ、何なんだ!
あの野郎、死ぬ気か!」
帰り道、コウスケの怒気は止まらない。
「そうカッカするな。
あんだけの性欲の持ち主だ。
早かれ遅かれこうなるさ。」
ナツキは哲学者じみた事を言う。
前からコンビニの袋を持った茶髪の男が歩いてきた。
携帯に視線を向けたままだ。
ジャージの下からラバーのスパッツが覗いていた。
ナツキは態と肩を当てる。
「おう、痛ぇな!
どこ見て歩いてんだ!」
凄味を利かす。
「あっ、いや、ちょっと携帯を見ていただけで。
けっ、決して態とではないんです。
すみません!」
突然、スキンヘッドの男に絡まれ、男はしどろもどろだ。
下げた頭を掌で更に下へ押す。
「こっちは組の者がいなくなって、苛立ってんだ。
拉致されたと、連絡入ってな。
まさか、お前じゃねぇだろうな?
その怪しい格好、臭いな。」
「めっ、滅相もありません。
そんな大それた事等、する訳もなく…。
組の者と言いますと、貴方様の組の方ですか?」
掌に頭の震えを感じる。
「おう、大事な弟分だ。
拉致った奴を見付けたら、即座にコンクリ詰めだ。
この辺にいるのは確かなんだがな。
何か知らねぇか?」
茶髪の頭を離す。
マコトは犬の様に顔を左右に振った。
「まあ、もう直ぐ組の者が場所を突き止める筈だ。
悪かったな。」
ナツキは手を上げると、震える男を後にする。
「そうだ。」
一度行き掛けて、唐突に振り返る。
男がピクッとするのが分かった。
「良いもん、穿いてるな。
それ寄越せ。」
「こっ、ここでですか?
下、何も穿いてないんです。
勘弁して下さい…。」
男は泣き出しそうだ。
「知るか!早くしろ。
苛立ってると、言っただろっ!
何度も言わせるな!」
怒声が閑静な住宅街に響き渡った。
駅前の喫茶店から外を眺める。
放心状態のタクヤがふらふらと歩いてくるのが見えた。
「よっ、居心地のいい別荘はどうした?」
背後から声を掛ける。
「ああ…、ナツキか…。」
間延びした返事を蝉が掻き消した。
暗くなっても余生の短い蝉は鳴き止まない。
「突然、帰ってくれと頼まれてな…。」
「お前の底なしの性欲に愛想尽きたって訳か。
それじゃ、仕方ねぇな。」
蝉の鳴き声に負けない馬鹿笑いに、タクヤが目線を上げた。
「まさか…、お前が…。」
「腹減ったな。
何か食いに行こうぜ。
お前の奢りでな。」
ナツキはタクヤの肩に腕を廻す。
饐えた臭いにムラムラする。
「おい、何にする?」
「別に、何でもいい。」
蟠りの残るコウスケは素っ気ない。
「なら中華にするか。
食ったら、前に言ってた流行りの店に連れていけ。」
ナツキはそう言うと、大きく息を吸い込んだ。
(完)
そこにシルエットが浮かぶ。
直ぐに誰だか分かった。
「態々、悪かったな。
だが、ここの生活が気に入ってんだ。
コウスケを連れて、帰ってくれ。」
タクヤは影に向かって言う。
もう後戻り出来ない事は自分自身が一番分かっていた。
「なっ、何なんだ!
あの野郎、死ぬ気か!」
帰り道、コウスケの怒気は止まらない。
「そうカッカするな。
あんだけの性欲の持ち主だ。
早かれ遅かれこうなるさ。」
ナツキは哲学者じみた事を言う。
前からコンビニの袋を持った茶髪の男が歩いてきた。
携帯に視線を向けたままだ。
ジャージの下からラバーのスパッツが覗いていた。
ナツキは態と肩を当てる。
「おう、痛ぇな!
どこ見て歩いてんだ!」
凄味を利かす。
「あっ、いや、ちょっと携帯を見ていただけで。
けっ、決して態とではないんです。
すみません!」
突然、スキンヘッドの男に絡まれ、男はしどろもどろだ。
下げた頭を掌で更に下へ押す。
「こっちは組の者がいなくなって、苛立ってんだ。
拉致されたと、連絡入ってな。
まさか、お前じゃねぇだろうな?
その怪しい格好、臭いな。」
「めっ、滅相もありません。
そんな大それた事等、する訳もなく…。
組の者と言いますと、貴方様の組の方ですか?」
掌に頭の震えを感じる。
「おう、大事な弟分だ。
拉致った奴を見付けたら、即座にコンクリ詰めだ。
この辺にいるのは確かなんだがな。
何か知らねぇか?」
茶髪の頭を離す。
マコトは犬の様に顔を左右に振った。
「まあ、もう直ぐ組の者が場所を突き止める筈だ。
悪かったな。」
ナツキは手を上げると、震える男を後にする。
「そうだ。」
一度行き掛けて、唐突に振り返る。
男がピクッとするのが分かった。
「良いもん、穿いてるな。
それ寄越せ。」
「こっ、ここでですか?
下、何も穿いてないんです。
勘弁して下さい…。」
男は泣き出しそうだ。
「知るか!早くしろ。
苛立ってると、言っただろっ!
何度も言わせるな!」
怒声が閑静な住宅街に響き渡った。
駅前の喫茶店から外を眺める。
放心状態のタクヤがふらふらと歩いてくるのが見えた。
「よっ、居心地のいい別荘はどうした?」
背後から声を掛ける。
「ああ…、ナツキか…。」
間延びした返事を蝉が掻き消した。
暗くなっても余生の短い蝉は鳴き止まない。
「突然、帰ってくれと頼まれてな…。」
「お前の底なしの性欲に愛想尽きたって訳か。
それじゃ、仕方ねぇな。」
蝉の鳴き声に負けない馬鹿笑いに、タクヤが目線を上げた。
「まさか…、お前が…。」
「腹減ったな。
何か食いに行こうぜ。
お前の奢りでな。」
ナツキはタクヤの肩に腕を廻す。
饐えた臭いにムラムラする。
「おい、何にする?」
「別に、何でもいい。」
蟠りの残るコウスケは素っ気ない。
「なら中華にするか。
食ったら、前に言ってた流行りの店に連れていけ。」
ナツキはそう言うと、大きく息を吸い込んだ。
(完)
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